第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

4 国民の財産を狙う事犯への対策

(1)財産犯の被害額の罪種別状況

財産犯(注)の被害額の推移は、図表2-29のとおりであり、その被害総額は平成14年以降、減少傾向にある。

令和元年の財産犯の被害額の罪種別状況は、図表2-30のとおりである

注:強盗、恐喝、窃盗、詐欺、横領及び占有離脱物横領

 
図表2-29 財産犯の被害額の推移(平成22~令和元年)
図表2-29 財産犯の被害額の推移(平成22~令和元年)
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図表2-30 財産犯の被害額の罪種別被害状況(令和元年)
図表2-30 財産犯の被害額の罪種別被害状況(令和元年)
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(2)侵入窃盗対策

侵入窃盗の認知・検挙状況の推移は、図表2-31のとおりである。侵入窃盗の認知件数は、ピーク時である平成14年(33万8,294件)以降減少傾向にあり、同年から令和元年にかけて、28万486件(82.9%)減少した。

警察庁、経済産業省、国土交通省及び建物部品関連の民間団体から構成される「防犯性能の高い建物部品の開発・普及に関する官民合同会議」では、平成16年4月から、侵入までに5分以上の時間を要するなど一定の防犯性能があると評価した建物部品(CP部品)を掲載した「防犯性能の高い建物部品目録」をウェブサイトで公表するなどして、CP部品の普及に努めており、目録には令和2年3月末現在で17種類3,416品目が掲載されている。また、警察庁のウェブサイトに「住まいる防犯110番」(注)を開設し、侵入犯罪対策の広報啓発を推進している。

注:http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki26/index.html

 
CPマーク CP部品だけが表示できる共通標章でCrime Prevention(防犯)の頭文字を図案化したもの
CPマーク
CP部品だけが表示できる共通標章でCrime Prevention(防犯)の頭文字を図案化したもの
 
図表2-31 侵入窃盗の認知・検挙状況の推移(平成22~令和元年)
図表2-31 侵入窃盗の認知・検挙状況の推移(平成22~令和元年)
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(3)侵入強盗対策

侵入強盗の認知・検挙状況の推移は、図表2-32のとおりである。侵入強盗の認知件数は、ピーク時である平成15年(2,865件)以降減少傾向にあり、同年から令和元年にかけて、2,404件(83.9%)減少した。

警察では、コンビニエンスストアや金融機関等を対象とした強盗対策として、防犯体制、現金管理の方法、店舗等の構造、防犯設備等について基準を定め、警察官の巡回や機会を捉えた防犯訓練等を実施している。

 
図表2-32 侵入強盗の認知・検挙状況の推移(平成22~令和元年)
図表2-32 侵入強盗の認知・検挙状況の推移(平成22~令和元年)
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(4)自動車盗対策

自動車盗の認知・検挙状況の推移は、図表2-33のとおりである。

警察庁、財務省、経済産業省、国土交通省及び民間19団体から構成される「自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチーム」では、「自動車盗難等防止行動計画」(平成14年1月策定、令和元年12月改定)に基づき、イモビライザ(注)等の盗難防止装置やナンバープレート盗難防止ネジ等の普及促進、自動車の使用者に対する防犯指導、広報啓発等を推進している。

こうした取組もあり、ピーク時である平成15年(6万4,223件)以降、自動車盗の認知件数は減少傾向にある。

注:エンジンキーに埋め込まれた送信機から発するIDコードと、車両本体の電子制御装置にあらかじめ登録されたIDコードが一致しなければ、エンジンが始動しない電子式盗難防止装置

 
自動車盗難防止の広報ポスター
自動車盗難防止の広報ポスター
 
図表2-33 自動車盗の認知・検挙状況の推移(平成22~令和元年)
図表2-33 自動車盗の認知・検挙状況の推移(平成22~令和元年)
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(5)自転車盗対策

自転車盗の認知・検挙状況の推移は、図表2-34のとおりである。

警察庁の要請を踏まえ、平成12年以降、業界団体において、不正開錠に強い錠の普及が促進されたことなどから、平成14年以降自転車盗の認知件数は減少傾向にある。

警察では、引き続き関係機関・団体等と連携し、自転車の利用者に対して施錠の励行や防犯登録の呼び掛けを行うなど、自転車の盗難防止及び被害回復に向けた取組を推進している。

 
図表2-34 自転車盗の認知・検挙状況の推移(平成22~令和元年)
図表2-34 自転車盗の認知・検挙状況の推移(平成22~令和元年)
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(6)万引き対策

万引きの認知・検挙状況の推移は、図表2-35のとおりである。万引きの認知件数は平成22年以降減少傾向にあるものの、刑法犯認知件数に占める万引きの認知件数の割合は上昇傾向にあり、令和元年中は12.5%に達している。また、万引きの検挙人員全体に占める65歳以上の高齢者の割合は上昇傾向にあり、令和元年中は40.2%であった(注)

警察では、万引きを許さない社会気運の醸成や規範意識の向上を図るため、関係機関・団体等と連携した広報啓発を行うなど、社会を挙げた万引き防止に向けた取組を推進している。

注:12頁参照

 
図表2-35 万引きの認知・検挙状況の推移(平成22~令和元年)
図表2-35 万引きの認知・検挙状況の推移(平成22~令和元年)
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(7)ひったくり対策

ひったくりの認知・検挙状況の推移は、図表2-36のとおりである。

ひったくりの認知件数は、平成14年(5万2,919件)をピークに17年連続で減少しており、令和元年中は1,553件と、ピーク時の34分の1以下にまで減少した。

また、平成14年中ひったくりの検挙人員全体の69.3%を占めていた14歳から19歳までの検挙人員の割合は、その後大きく減少しており、令和元年中は27.0%であった(ひったくりの検挙人員全体の減少数への寄与率(注1)は、74.9%)。

一方で、身近な場所で発生する犯罪であるひったくりは、依然として国民に不安を与えている(注2)ことから、警察では、ひったくり事件の発生状況や手口を分析して、ひったくりの被害防止に効果のあるかばんの携行方法や通行方法等について広報啓発を行っているほか、関係機関・団体等と協力し、自転車用のひったくり防止カバー等の普及を促進するなどしている。

注1:データ全体の変化を100とした場合に、構成要素となるデータの変化の割合を示す指標

注2:内閣府が平成29年に実施した「治安に関する世論調査」(https://survey.gov-online.go.jp/tokubetu/h29/h29-chian.pdf)によれば、「あなたが、自分や身近な人が被害に遭うかもしれないと不安になる犯罪は何ですか」との問い(複数回答)に対して、「すり、ひったくりなどの携行品を盗む犯罪」と答えた者は45.4%であり、ひったくりに不安を覚えている国民が少なくないことが分かる。

 
図表2-36 ひったくりの認知・検挙状況の推移(平成22~令和元年)
図表2-36 ひったくりの認知・検挙状況の推移(平成22~令和元年)
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(8)通貨偽造犯罪対策

① 発見状況

偽造日本銀行券の発見枚数(注)の推移は図表2-37のとおりであり、令和元年中は、前年より増加した。

注:届出等により警察が押収した枚数

 
図表2-37 偽造日本銀行券の発見枚数の推移(平成22~令和元年)
図表2-37 偽造日本銀行券の発見枚数の推移(平成22~令和元年)
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② 特徴的傾向と対策

近年は、高性能のプリンタ等で印刷された偽造日本銀行券が多数発見されているほか、精巧に偽造された日本銀行券が海外から日本国内へ大量に持ち込まれる事案が発生している。

警察庁では、財務省、日本銀行等と連携して、ポスターやウェブサイトで偽造日本銀行券が行使された事例や偽造通貨を見破る方法を紹介するなどして、国民の注意を喚起している。

CASE

会社員の女(36)は、平成31年3月、徳島県内に所在する同女の自宅において、カラープリンタを使用して一万円券を偽造した上、同年5月、同県内のスーパー等において、商品購入代金の支払として偽造一万円券を手渡し、行使した。同年6月、同女を偽造通貨行使罪で逮捕(同年8月、通貨偽造・同行使罪に訴因変更)した(徳島)。

(9)カード犯罪(注)対策

カード犯罪の認知・検挙状況の推移は図表2-38のとおりである。

警察では、早期検挙のため捜査を徹底するほか、口座名義人からキャッシュカード等の盗難・紛失等の届出があった場合にカードの利用停止を促すなど、被害の拡大防止に努めている。

注:クレジットカード、キャッシュカード、プリペイドカード及び消費者金融カードを悪用した犯罪

 
図表2-38 カード犯罪の認知・検挙状況の推移(平成22~令和元年)
図表2-38 カード犯罪の認知・検挙状況の推移(平成22~令和元年)
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(10)ヤミ金融事犯対策

ヤミ金融事犯の検挙状況の推移は、図表2-39のとおりであり、無登録・高金利事犯(注1)の検挙事件数及び検挙人員は減少傾向にある。また、貸金業に関連した犯罪収益移転防止法、詐欺、携帯電話不正利用防止法(注2)違反等に係る事犯(ヤミ金融関連事犯)についても前年より減少している。

なお、無登録・高金利事犯のうち、携帯電話や預貯金口座を利用して非面接で敢行される090金融事犯については、令和元年中は、検挙事件数の16.9%、検挙人員の27.7%を占めている。また、令和元年中に検挙した無登録・高金利事犯に占める暴力団が関与した事犯の割合は、28.0%であった。

警察では、ヤミ金融に利用された預貯金口座の金融機関への情報提供、レンタル携帯電話等の解約に関する事業者への要請等の総合的な対策を行っており、令和元年中の金融機関への情報提供件数は1万1,390件、レンタル携帯電話事業者への解約要請件数は1,039件であった。

注1:貸金業法違反(無登録営業)及び出資法違反(高金利等)に係る事犯

注2:携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律

 
図表2-39 ヤミ金融事犯の検挙状況の推移(平成22~令和元年)
図表2-39 ヤミ金融事犯の検挙状況の推移(平成22~令和元年)
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CASE

無登録で貸金業を営む男(39)らは、平成30年1月から同年7月にかけて、インターネット広告により顧客を勧誘し、融資を申し込んできた顧客約2,000人に対し、法定金利の約15倍から約292倍で金銭を貸し付け、約3億円の元利金を他人名義の口座に振込送金させて受領した。平成31年2月までに、同男ら12人を貸金業法違反(無登録営業)等で検挙した。
 また、令和元年7月までに、虚偽の免許申請書を東京都に提出し、不正に東京都知事から宅地建物取引業の免許の更新を受けた上、同男らに事務所等の仲介をしていた不動産業者(34)ら1法人2人を宅地建物取引法違反(免許の不正取得)で検挙するとともに、携帯電話不正利用防止法によって義務付けられた本人確認をしないまま、同男らにSIMカードを交付したレンタル携帯電話事業者役員の男(45)を同法違反(貸与時本人確認義務違反)で検挙した(神奈川、岐阜)。

CASE

無登録で貸金業を営む男(50)らは、平成29年1月頃から31年4月頃にかけて、ファックス等で全国の中小企業を勧誘して、「ファクタリング」と称して顧客が保有する売掛債権の売買契約を装い、顧客約680社に対し、法定金利の約14倍から約50倍で金銭を貸し付け、約37億円の元利金を他人名義の口座に振込送金させて受領した。令和元年10月までに、同男ら11人を貸金業法違反(無登録営業)等で検挙した(千葉、岩手)。

(11)知的財産権侵害事犯対策

① 商標権侵害事犯(注1)及び著作権侵害事犯(注2)

知的財産権侵害事犯の検挙状況の推移は、図表2-40のとおりである。偽ブランド事犯等の商標権侵害事犯、海賊版事犯等の著作権侵害事犯においては、インターネットを利用して侵害行為が行われる場合が多いことから、警察では、サイバーパトロール等による端緒情報の把握に努めている。

また、不正商品対策協議会(注3)の活動への参加をはじめ、権利者等と連携した知的財産権の保護及び不正商品の排除に向けた広報啓発活動を推進している。

注1:商標法違反に係る事犯

注2:著作権法違反に係る事犯

注3:不正商品の排除及び知的財産権の保護を目的として、知的財産権侵害に悩む各種業界団体により設立された任意団体。警察庁等の関係機関と連携し、シンポジウムの主催や各種催物への参加を通じて、広報啓発活動、海外における不正商品販売の実態調査、海外の捜査機関や税関等に対する働き掛け等を行っている。

 
図表2-40 知的財産権侵害事犯の検挙状況の推移(平成27~令和元年)
図表2-40 知的財産権侵害事犯の検挙状況の推移(平成27~令和元年)
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図表2-41 押収した偽ブランド品のうち、仕出国・地域が判明したものの国・地域別押収状況の推移(平成22~令和元年)
図表2-41 押収した偽ブランド品のうち、仕出国・地域が判明したものの国・地域別押収状況の推移(平成22~令和元年)
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② 営業秘密侵害事犯(注)

営業秘密侵害事犯については、令和元年中、21事件27人を検挙した。

警察では、各都道府県警察で指定された営業秘密保護対策官が、警察署における営業秘密侵害事犯の相談対応について指導を行うなどにより捜査能力の一層の向上を図っているほか、被害の早期届出の必要性についての企業に対する啓発等を推進している。

注:不正競争防止法第21条第1項及び第3項に係る事犯

CASE

超硬工具製造販売等会社の従業員の男(31)は、不正の利益を得る目的で、平成31年1月、同社の営業秘密である設計に関する情報を自己所有のUSBメモリに複製して領得した。同年2月、同男を不正競争防止法違反(営業秘密の領得)で逮捕した(愛知)。



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