第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

3 子供の安全を守るための取組

(1)子供を犯罪から守るための取組

① 子供が被害者となる犯罪

13歳未満の子供が被害者となった刑法犯の認知件数(以下「子供の被害件数」という。)は、図表2-22のとおりであり、減少傾向にある。同図表に掲げる罪種のうち、認知件数に占める子供の被害件数の割合が最も高い罪種は略取誘拐であり、令和元年中は38.9%(認知件数293件のうち114件)であった。

 
図表2-22 子供(13歳未満)の被害件数及び罪種別被害状況の推移(平成22~令和元年)
図表2-22 子供(13歳未満)の被害件数及び罪種別被害状況の推移(平成22~令和元年)
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② 子供の生活空間における安全対策
ア 学校や通学路の安全対策

「登下校防犯プラン」(平成30年6月登下校時の子供の安全確保に関する関係閣僚会議決定)等に基づき、警察では、子供が被害者となる犯罪を未然に防止し、子供が安心して登下校することなどができるよう、教育委員会・学校、自治体、保護者、見守りに関わる地域住民等と連携し、通学路や登下校時の集合場所等の点検を実施するとともに、こうした場所への重点的な警戒・パトロールを実施しているほか、退職した警察官等をスクールサポーターとして委嘱し学校へ派遣している。また、防犯ボランティア団体、事業者等の多様な担い手と連携した子供の見守り活動を行うなど、学校や通学路等における子供の安全確保に係る各種の取組を推進している。

イ 被害防止教育の推進

警察では、子供に犯罪被害を回避する能力等を身に付けさせるため、小学校、学習塾等において、学年や理解度に応じ、紙芝居、演劇、ロールプレイング方式等により、危険な事案への対応要領等について子供が考えながら参加・体験できる防犯教室、地域安全マップ作成会等を関係機関・団体と連携して開催している。また、教職員に対しては、不審者が学校に侵入した場合の対応要領の指導等を行っている。

ウ 情報発信活動の推進

警察では、子供が被害に遭った事案等の発生に関する情報を子供や保護者に対して迅速に提供できるよう、警察署と教育委員会、小学校等との間で情報共有体制を整備するとともに、都道府県警察のウェブサイトや電子メール等を活用した情報発信を行うなど、地域住民に対する情報提供を実施している。

エ ボランティアに対する支援

警察では、「子供110番の家」として危険に遭遇した子供の一時的な保護と警察への通報等を行うボランティアに対し、ステッカーや対応マニュアル等を配布するなどの支援を行っているほか、防犯ボランティア団体に対する見守り体制の確認・指導や合同パトロールを実施するなど、自主防犯活動を支援している。

③ 子供女性安全対策班による活動の推進

警察では、平成21年以降、都道府県警察本部に設置された子供女性安全対策班(JWAT(注))が、子供や女性を対象とする性犯罪等の前兆とみられる声掛け、つきまとい等の事案に関する情報収集、分析等により行為者を特定し、検挙又は指導・警告措置を講じている。検挙活動等に加え、これらの先制・予防的活動を積極的に推進していくことによって、子供や女性を被害者とする性犯罪等の未然防止に努めている。

注:Juvenile and Woman Aegis Teamの略

CASE

令和元年5月、下校中の女児(7)が、見知らぬ男から自宅マンション内までつきまとわれるという事案が発生した。子供女性安全対策班が、現場付近に設置されている防犯カメラ画像を収集・解析するなどして、会社員の男(44)の犯行であることを突き止め、同年6月、同男を住居侵入罪で逮捕した(兵庫)。

④ 子供対象・暴力的性犯罪出所者の再犯防止措置制度の運用

警察では、13歳未満の子供を被害者とした強制わいせつ等の暴力的性犯罪で服役して出所した者について、法務省から情報提供を受け、各都道府県警察において、その所在確認を実施しているほか、必要に応じて当該出所者の同意を得て面談を行うなど、再犯防止に向けた措置を講じている。

(2)いじめ事案への対応

近年のいじめ(注)に起因する事件数及び検挙・補導状況は図表2-23のとおりである。また、令和元年中の検挙・補導人員(266人)のうち、その約5割を中学生が占めている。

警察では、いじめ防止対策推進法の趣旨に基づき、少年相談活動やスクールサポーターの学校への訪問活動等により、いじめ事案の早期把握に努めるとともに、把握したいじめ事案の重大性及び緊急性、いじめを受けた児童生徒(以下「被害児童等」という。)及びその保護者の意向、学校等の対応状況等を踏まえ、学校等と緊密に連携しながら、必要な対応を推進している。

注:いじめの定義は、平成25年6月に制定されたいじめ防止対策推進法第2条に定める「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」としている。

 
図表2-23 いじめに起因する事件数と検挙・補導状況の推移(平成27~令和元年)
図表2-23 いじめに起因する事件数と検挙・補導状況の推移(平成27~令和元年)
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図表2-24 警察によるいじめ事案への対応
図表2-24 警察によるいじめ事案への対応

(3)少年(注1)の福祉を害する犯罪への対策と有害環境対策

警察では、福祉犯(注2)の取締り、被害少年の発見・保護、インターネット上の違法情報・有害情報の取締り等少年を取り巻く有害環境対策を推進している。このうち、児童買春、児童ポルノの製造等の子供の性被害(注3)に係る対策については、国家公安委員会が政府内における同対策の企画・立案及び関係機関との総合調整の業務を行っており、平成29年4月に犯罪対策閣僚会議において策定された「子供の性被害防止プラン」(児童の性的搾取等に係る対策の基本計画)に基づき、政府全体の取組を推進している。

注1:20歳未満の者

注2:少年の心身に有害な影響を与え、少年の福祉を害する犯罪をいう。例えば、児童買春・児童ポルノ禁止法違反、児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為等)、労働基準法違反(年少者の危険有害業務等)等が挙げられる。

注3:児童に対する性的搾取(児童に対し、自己の性的好奇心を満たす目的又は自己若しくは第三者の利益を図る目的で、児童買春、児童ポルノの製造その他の児童に性的な被害を与える犯罪行為をすること及び児童の性に着目した形態の営業を行うことにより児童福祉法第60条に該当する行為をすること並びにこれらに類する行為をすることをいう。)及びその助長行為(児童買春の周旋、児童買春等目的の人身売買、児童の性に着目した形態の営業のための場所の提供及び児童ポルノの提供を目的としたウェブサイトの開設等をいう。)をいう。

① 少年の福祉を害する犯罪への対策

福祉犯の被害少年数は図表2-25のとおりであり、令和元年中は前年より増加した。検挙件数は平成28年以降増加傾向にあったが、令和元年は前年より減少した。

被害少年を早期に発見・保護するとともに、新たな被害を発生させないため、警察では、積極的な取締り等の取組を推進している。また、国民からの情報提供、インターネット・ホットラインセンター(IHC)(注)からの通報、街頭補導活動、サイバーパトロール等による端緒情報の把握に努めるとともに、情報の分析、積極的な取締り等を推進している。

注:111頁参照

 
図表2-25 福祉犯の検挙件数等の推移(平成27~令和元年)
図表2-25 福祉犯の検挙件数等の推移(平成27~令和元年)
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CASE

児童養護施設の元児童指導員の男(43)は、平成31年3月、自らの立場を利用し、施設に入所する男子中学生(13)に対し、ホテルにおいてわいせつな行為を行った。同年6月、同男を児童福祉法違反(児童に淫行させる行為)で逮捕した(福岡)。

ア 児童ポルノ

児童ポルノ事犯は近年増加傾向にあり、令和元年中の検挙件数は3,059件、検挙人員は2,116人と、前年より減少したが、引き続き高い水準にある。令和元年中の被害児童数(注)は過去最多の1,559人となった。被害態様別でみると、児童が自らを撮影した画像に伴う被害が約4割を占め、被害児童数は平成24年以降7年連続で増加している。

警察では、このような情勢を踏まえ、関係機関・団体と緊密な連携を図りながら、低年齢児童を狙ったグループや児童ポルノ販売グループによる悪質な事犯等に対する取締りの強化、国内サイト管理者等に対する児童ポルノ画像の削除依頼、被害児童に対する支援等を推進している。

注:児童ポルノ事犯の検挙を通じて、新たに特定された被害児童数

 
図表2-26 児童ポルノ事犯の検挙状況等の推移(平成27~令和元年)
図表2-26 児童ポルノ事犯の検挙状況等の推移(平成27~令和元年)
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CASE

無職の男(40)は、平成29年12月から30年2月までの間、自身が立ち上げていた低年齢児童を性的好奇心の対象とする者らから成るグループの会員らに児童ポルノ画像を販売した。平成31年1月、同男を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ提供)等で検挙した(大阪)。

イ SNSに起因する事犯

SNSは、インターネットの匿名性や不特定多数の者に対して瞬時に連絡を取ることができる特性から、児童買春等の違法行為の「場」となっている状況がうかがえる。また、令和元年中、SNSに起因して犯罪被害に遭った児童の数は、2,082人と増加傾向にある。フィルタリング(注)の利用の有無が判明した被害児童のうち約9割が被害時にフィルタリングを利用していなかったことも明らかになった。

このような状況を踏まえ、警察では、関係機関・団体等と連携し、保護者に対する啓発活動、児童に対する情報モラル教育、スマートフォンを中心としたフィルタリングの普及促進等の取組を推進している。また、SNS事業者に対し検挙事例等に関する情報を提供するなど、事業者による自発的な被害防止対策の実施を促進している。

注:インターネット上のウェブサイト等を一定の基準に基づき選別し、青少年に有害な情報を閲覧できなくするプログラムやサービス

 
図表2-27 SNSに起因する事犯の被害児童数の推移(平成22~令和元年)
図表2-27 SNSに起因する事犯の被害児童数の推移(平成22~令和元年)
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MEMO 児童が自らを撮影した画像に伴う被害の実態と対策

「児童が自らを撮影した画像に伴う被害」とは、だまされたり、脅されたりして児童が自分の裸体を撮影させられた上、メール等で送らされる被害をいう。

令和元年は、児童ポルノ事犯全体の約4割を占める584人がこの被害に遭っており、被害児童数は平成24年(207人)から毎年増加している。

警察では、児童ポルノ事犯に対する取締りを推進するとともに、学生による性被害防止啓発活動を支援し、子供たち自らが性被害について考える取組を行うなど、広報啓発を推進している。

 
高校生の演劇による性被害防止活動の状況
高校生の演劇による性被害防止活動の状況

MEMO SNSに起因する子供の性被害防止のための広報啓発活動

警察では、SNSに起因する子供の性被害を防止するため、子供の性被害につながるおそれのある不適切な書き込みをサイバーパトロールにより発見し、注意喚起のためのメッセージを投稿する取組を推進している。

 
児童と思料される者に向けたメッセージ(イメージ)
児童と思料される者に向けたメッセージ(イメージ)
 
児童の性被害を誘引していると思料される者に向けたメッセージ(イメージ)
児童の性被害を誘引していると思料される者に向けたメッセージ(イメージ)
② 少年を取り巻く有害環境への対策

近年、繁華街等において児童の性に着目した新たな形態の営業として、JKビジネスと呼ばれる営業が出現しているなど、少年を取り巻く社会環境は変容している。警察では、少年の保護と健全育成の観点から、あらゆる警察活動を通じて、各地域の実態の把握に努めるとともに、これらの営業において稼働している児童等に対する補導、立ち直り支援等の取組を推進している。

また、少年に有害な商品等を取り扱う店等に対して、少年の健全育成のための自主的措置が促進されるよう指導・要請を行うなど、有害環境対策を推進している。

(4)少年の犯罪被害への対応

警察では、犯罪の被害に遭った少年に対し、警察本部に設置された少年サポートセンター等に所属する少年補導職員(注)を中心としてカウンセリング等の継続的な支援を行うとともに、大学の研究者、精神科医、臨床心理士等の専門家を被害少年カウンセリングアドバイザーとして委嘱し、支援を担当する職員が専門的な助言を受けることができるようにしている。

注:特に専門的な知識及び技能を必要とする活動を行わせるため、その活動に必要な知識と技能を有する警察職員(警察官を除く。)のうちから警視総監又は道府県警察本部長が命じた者で、少年の非行防止や立ち直り支援等の活動において、重要な役割を果たしている。令和2年4月1日現在、全国に約900人の少年補導職員が配置されている。

 
図表2-28 被害少年の支援
図表2-28 被害少年の支援


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