5 構造的な不正事案への対策
(1)政治・行政をめぐる不正事案
国又は地方公共団体の幹部職員等による贈収賄事件、入札談合等関与行為防止法(注)違反事件、公契約関係競売等妨害事件、買収等の公職選挙法違反事件等の政治・行政をめぐる不正は依然として後を絶たない。
しかし、このような事案は、直接の被害者がおらず、金品の受渡し等は密室で行われることが多いことから、被害申告や目撃者の証言等が通常は期待できず、端緒情報の把握や犯罪事実の立証は容易ではない。
警察では、このような事案に対し、端緒情報の把握に努めるとともに、不正の実態に応じて様々な刑罰法令を適用するなどして、事案の解明を進めている。
第19回統一地方選挙(平成31年4月7日及び同月21日施行)における選挙期日後90日現在(令和元年7月6日及び同月20日現在)の公職選挙法違反の検挙件数は143件、検挙人員は280人(うち逮捕者47人)であった。第25回参議院議員通常選挙(令和元年7月21日施行)における選挙期日後90日現在(令和元年10月19日現在)の公職選挙法違反の検挙件数は47件、検挙人員59人(うち逮捕者13人)であった。
注:入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律

CASE
海上自衛隊横須賀地方隊横須賀造修補給所に所属する自衛官(47)は、平成28年12月から30年5月にかけて食料品の製造及び卸販売等を行う会社の代表取締役から、同社が同横須賀造修補給所に納入する生糧品に関し、品目及び数量等の確認を実施せず、規格外納品であることを黙認するなど、有利かつ便宜な取り計らいをしたことに対する謝礼等として、複数回にわたり、合計約111万円相当の飲食代金等を負担せず、同金額相当の財産上の利益の供与を受けた。令和元年9月、同自衛官を収賄罪で逮捕した(神奈川)。
CASE
青森県議会議員(61)らは、平成31年2月頃から同年4月頃にかけて、選挙運動員数人に対し、同人のための投票及び選挙運動の報酬として、現金合計45万円を供与した。令和元年6月までに、同県議会議員ら6人を公職選挙法違反(買収)で逮捕した(青森)。
CASE
不在者投票管理者を務める特別養護老人ホームの施設長(71)らは、令和元年7月、同特別養護老人ホームに入所している有権者らが投票に関する意思表示をすることができないにもかかわらず、同有権者らの投票用紙に候補者の氏名を記載するなどして選挙管理委員会に送致し、投票日当日に、同有権者らが属する投票区の投票管理者(注)をして、同投票用紙を投票箱に投入させ、投票を偽造した。同年8月、同施設長ら4人を公職選挙法違反(投票偽造)で逮捕した(鹿児島)。
注:公職選挙法第37条に基づき、選挙ごとに置かれ、投票に関する事務を担任する者
(2)経済をめぐる不正事案
企業の役職員らが組織の内部統制を逸脱したことによる背任、詐欺、横領等の違法事犯のほか、金融機関からの各種融資をめぐる詐欺事犯、国及び地方公共団体の補助金の不正受給事犯が後を絶たない状況にある。また、弁護士、税理士といった社会的地位を有する者による詐欺、横領等の犯罪も発生している。
警察では、これらの金融・不良債権関連事犯、企業の経営等に係る違法事犯、証券取引事犯、財政侵害事犯及びその他国民の経済活動の健全性又は信頼性に重大な影響を及ぼすおそれのある犯罪の取締りを推進している。また、様々な投資名目で消費者等が被害に遭う詐欺事件等においては、被害者が多数・広域に及ぶ場合があることから、関係する都道府県警察が連携を図っている。
このような事案に対しては、対象となる企業等の財務実態の解明が不可欠であることから、都道府県警察においては、公認会計士や税理士等の専門的な知識を有する者を財務捜査官として採用し、その高度な技能を活用して事案の早期解明を図っている。

CASE
保険会社の代表取締役(69)らは、株式会社整理回収機構の申立てにより預金債権の差押えを受けるおそれがあったことから、同債権を隠匿し、強制執行を妨害する目的で、平成28年12月、6回にわたり、同社の口座から合計約820万円を払い戻した。平成31年1月、同社長ら2人を強制執行妨害目的財産損壊等罪で検挙した(警視庁)。
CASE
飲食店経営者(50)らは、平成29年8月頃から30年4月頃にかけて、土地の売買代金名目で現金をだまし取ろうと考え、「土地を購入すれば賃料収入が受けられる」などと虚偽の内容の話を持ち掛け、さらに、土地についての真正な全部事項証明書を加工し、所有権が被害者らに移転したかのように偽造してこれを行使し、売買代金等を支払うことで土地の所有権を取得できるものと誤信させ、合計1億2,136万円をだまし取った。平成31年2月、同経営者ら4人を有印公文書偽造・同行使罪及び詐欺罪で逮捕した(山形)。
CASE
ケーブルテレビ放送会社の代表取締役(79)は、同人が経営する別会社の用途に費消する目的で、平成25年4月から30年1月にかけて、156回にわたり、同社のため預かり保管中の現金を別会社名義の預金口座に入金させ、合計約3億4,900万円を横領した。平成31年3月、同社長を業務上横領罪で逮捕した(山口)。