特集 近年における犯罪情勢の推移と今後の展望

2 新たな課題への対応

人身安全関連事案は、恋愛感情や家族間の人間関係等に起因し、主として個人の私的な関係性や私的領域の中で生じる事案である。また、特殊詐欺やサイバー犯罪は、主として加害者が被害者と対面することなく敢行される非対面型犯罪である。これらの犯罪は、刑法犯認知件数が減少していく一方で、徐々にその問題が顕在化しており、最近では、SNS(注)を悪用して被害者を自宅へ誘い込み殺害するなど、SNS等のインターネット上のやり取りから凶悪犯罪に至る事例もみられるほか、情報通信技術の普及・進展に伴い、スマートフォン等が犯罪に悪用される事例も多くみられるようになっている。

これまで治安上の課題となっていた街頭犯罪及び侵入犯罪とは異なる特徴を持つこれらの犯罪については、従来の犯罪対策とは異なる対策を的確に講じていく必要がある。

本項では、こうした新たな課題への対応について、現状と対策を概観する。

注:Social Networking Serviceの略。ウェブサイト内で多数人とコミュニケーションがとれるウェブサイト等のうち、出会い系サイトを除いたものの総称

(1)人身安全関連事案

① 現状

ストーカー事案・配偶者からの暴力事案等(注1)の相談等件数の推移は図表特-38及び図表特-39のとおりである。29年中のストーカー事案の相談等件数及び配偶者からの暴力事案等の相談等件数は、いずれも、ストーカー規制法(注2)及び配偶者暴力防止法(注3)の施行以降、最多となった。

注1:平成25年6月に成立した配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴い、26年1月3日以降、生活の本拠を共にする交際(婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいないものを除く。)をする関係にある相手方からの暴力事案についても計上している。

注2:ストーカー行為等の規制等に関する法律

注3:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律

 
図表特-38 ストーカー事案の相談等件数の推移(平成14~29年)
図表特-38 ストーカー事案の相談等件数の推移(平成14~29年)
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図表特-39 配偶者からの暴力事案等の相談等件数の推移(平成14~29年)
図表特-39 配偶者からの暴力事案等の相談等件数の推移(平成14~29年)
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児童虐待事件については、29年中の検挙件数は1,138件、検挙人員は1,176人と、統計をとり始めた11年以降、過去最多となった。また、態様別検挙件数をみると、身体的虐待が全体の約8割を占めている。

また、児童虐待又はその疑いがあるとして警察から児童相談所に通告した児童数は年々増加しており、29年中は過去最多の6万5,431人となった。態様別では、特に心理的虐待の増加が著しく、29年中は4万6,439人と全体の約7割を占めている。

 
図表特-40 児童虐待事件の態様別検挙件数の推移(平成15~29年)
図表特-40 児童虐待事件の態様別検挙件数の推移(平成15~29年)
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図表特-41 警察から児童相談所に通告した児童数の推移(平成18~29年)
図表特-41 警察から児童相談所に通告した児童数の推移(平成18~29年)
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さらに、近年、個人の私的な関係性や私的領域の中で生じる犯罪について、例えば、暴行及び傷害の検挙件数を被疑者と被害者の関係別にみると、被疑者と被害者の間に面識がある場合が増加傾向にある。

暴行については、被疑者と被害者の間に面識がない場合が減少傾向にある一方、面識がある場合は増加傾向にあり、暴行の検挙件数に占める面識がある場合の割合は、14年から29年にかけて36.1%から52.6%に上昇した。

傷害については、14年から29年にかけて、被疑者と被害者の間に面識がない場合は減少傾向にある一方、面識がある場合は横ばいで推移した。その結果、同期間の傷害の検挙件数全体に占める面識がある場合の割合は53.4%から67.1%に上昇した。

 
図表特-42 暴行の被疑者と被害者の関係別検挙件数の推移(平成元~29年)
図表特-42 暴行の被疑者と被害者の関係別検挙件数の推移(平成元~29年)
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図表特-43 傷害の被疑者と被害者の関係別検挙件数の推移(平成元~29年)
図表特-43 傷害の被疑者と被害者の関係別検挙件数の推移(平成元~29年)
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② ストーカー事案・配偶者からの暴力事案等への対策

ストーカー事案・配偶者からの暴力事案等は、恋愛感情のもつれ等の私的な人間関係に起因する事案であり、情報技術の進展等を背景としたコミュニケーション手段の変化や対人関係の多様化等により、被害の実態がつかみづらく、潜在化しやすい事案である一方で、加害者の被害者に対する執着心や支配意識が非常に強いものが多く、加害者が、被害者等に対して強い危害意思を有している場合には、検挙されることを顧みず大胆な犯行に及ぶこともあるなど、事態が急展開して重大事件に発展するおそれが大きいものである。

警察では、26年4月までに、警視庁及び道府県警察本部において、事案の認知の段階から対処に至るまで、警察署への指導・助言・支援を一元的に行う生活安全部門と刑事部門を総合した体制を構築し、被害者等の安全の確保を最優先に、ストーカー規制法等の関係法令を駆使した加害者の検挙等による加害行為の防止、被害者等の保護措置等、組織的な対応を推進している。また、25年から順次、被害者等からの相談に適切に対応できるよう被害者の意思決定支援手続及び危険性判断チェック票を導入している。

さらに、実効性のある対策を行うためには、社会全体での取組が必要であることから、警察庁では、27年3月にストーカー総合対策関係省庁会議が策定したストーカー総合対策、同年12月に閣議決定された「第4次男女共同参画基本計画」等に基づき、関係機関・団体と連携して、被害防止のための広報啓発、加害者に関する取組等を推進している。警察においては、27年度から、緊急・一時的に被害者等を避難させる必要がある場合に、ホテル等の宿泊施設を利用するための費用について公費で負担することとしている(注)ほか、28年度から、警察が加害者への対応方法やカウンセリング・治療の必要性について地域精神科医等の助言を受け、加害者に受診を勧めるなど、地域精神科医療機関等との連携を推進している。

注:216頁参照

 
図表特-44 ストーカー事案・配偶者からの暴力事案等の対策の経緯
図表特-44 ストーカー事案・配偶者からの暴力事案等の対策の経緯

CASE

29年6月、女性から、元交際相手の男(26)からつきまとわれているとの相談を受理したことから、同年7月、同男に対してストーカー規制法に基づく警告を実施した。同年9月、同男の母親から同男が行方不明になったという旨の届出を受理したことから、同女性を一時避難させ、同女性の自宅付近の警戒及び捜索を行った。その後、同男を発見し、職務質問を実施したところ、同男が包丁を所持していたことから銃刀法(注1)違反(刃物の携帯)で現行犯逮捕した(徳島)。

 
男が所持していた包丁
男が所持していた包丁
③ 児童虐待事案への対策

児童虐待は、主に家庭内で発生し、潜在化しやすい事案であることから、警察では、児童の安全確保を最優先とした対応を行っており、児童虐待が疑われる事案を認知した際には、現場臨場等を行い、警察職員が児童の安全を直接確認するように努めているほか、必要な捜査を積極的に行い、児童の死亡等事態が深刻化する前に児童を救出及び保護することができるようにしている。

また、児童を迅速かつ適切に保護するためには、関係機関がそれぞれの専門性を発揮しつつ、連携して対処することが重要となることから、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した際の児童相談所への確実な通告の実施、通告に際しての事前照会の徹底等、児童相談所等との情報共有を図るとともに、必要に応じて地域の要保護児童対策地域協議会(注2)に参加するなど、関係機関との緊密な連携を保ちながら、児童の生命・身体の保護のための措置を積極的に講じている。

さらに、事情聴取に伴う児童の負担軽減及び供述の信用性の担保に配慮する必要があることから、児童相談所、検察等の関係機関との更なる連携強化を図り、情報共有を促進するとともに、代表者による聴取を含めた事情聴取方法についての検討・協議等を推進している。

注1:銃砲刀剣類所持等取締法

注2:児童福祉法第25条の2において、地方公共団体は、単独で又は共同して、要保護児童の適切な保護又は要支援児童若しくは特定妊婦への適切な支援を図るため、関係機関、関係団体及び児童の福祉に関連する職務に従事する者その他の関係者により構成される要保護児童対策地域協議会を置くように努めなければならないとされている。

CASE

29年4月、病院から「骨折により搬送された児童が虐待を受けているおそれがある」との通告を受けた児童相談所が児童を一時保護したところ、同児童が母親から暴行を受けた旨を説明したため、児童相談所から警察署に通報があった。児童相談所及び検察庁と協議して、三者の代表者により同児童らから事情聴取を行い、同年7月、同児童の母親(28)を傷害罪で逮捕した(佐賀)。

(2)非対面型犯罪

① 特殊詐欺の現状と対策

平成元年から29年にかけての財産犯(注)の被害額の推移は、図表特-45のとおりであり、そのうち窃盗が占める割合は、12年の86.4%をピークに、10年から17年にかけて7割以上を占めていたものの、26年には5割を下回り、詐欺による被害額が窃盗を上回った。その後も財産犯の被害額に占める詐欺の割合は、窃盗と同程度で推移している。

財産犯のうち現金被害に限ると、15年まではほぼ毎年窃盗が、16年以降は毎年詐欺が最多となっている。特に24年以降は、財産犯の現金被害額の7割以上を詐欺が占めているが、これは特殊詐欺被害の増加によるものと考えられる。

注:強盗、恐喝、窃盗、詐欺、横領及び占有離脱物横領

 
図表特-45 財産犯の被害額の推移(平成元~29年)
図表特-45 財産犯の被害額の推移(平成元~29年)
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ア 現状

特殊詐欺は、振り込め詐欺(オレオレ詐欺(注1)、架空請求詐欺(注2)、融資保証金詐欺(注3)及び還付金等詐欺(注4))及び振り込め詐欺以外の特殊詐欺(注5)に分類され、被害者に対面することなく現金等をだまし取ることが多い犯罪であり、犯行の関係箇所が広域に及ぶ上、犯行の役割が細分化されるなど巧妙に組織化され、犯行グループが短期間で離合集散を繰り返すなど、犯行の全容の解明が困難となっている。また、犯行の手口を巧妙化・多様化させているため、最新の手口等に合わせた捜査手法や被害防止の取組を推進する必要があるほか、被害者の多数を占める高齢者の被害防止対策が課題となっている。

特殊詐欺は、15年頃からその発生が目立ち始め、16年に認知件数が約2万5,700件、被害総額が約284億円に達するなど社会問題化したことから、警察では、体制の整備により取締活動を強化したほか、金融機関に対するATM利用限度額の引下げの促進、金融機関職員等と連携した声掛け等の予防活動を推進し、21年には16年の約3分の1まで認知件数が減少した。

しかし、22年以降、認知件数及び被害総額は共に悪化し、26年には被害総額が過去最高の約566億円となった。警察では、取締りの更なる強化、金融機関、郵便・宅配事業者、コンビニエンスストア等の民間事業者と連携した予防活動、犯罪インフラ対策等を行い、被害総額については26年以降減少を続けているものの、認知件数については増加し続けている。

29年中の特殊詐欺の情勢は、28年に大幅に増加した還付金等詐欺の認知件数が3,129件(前年比553件(15.0%)減少)、被害総額が約35.9億円(前年比約6.7億円(15.8%)減少)と、いずれも減少傾向にあるのに対し、オレオレ詐欺の認知件数が8,496件(前年比2,743件(47.7%)増加)、架空請求詐欺の認知件数が5,753件(前年比2,011件(53.7%)増加)と、いずれも大幅に増加した。

注1:親族を装うなどして電話をかけ、会社における横領金の補填金等の様々な名目で現金が至急必要であるかのように信じ込ませ、動転した被害者に指定した預貯金口座に現金を振り込ませるなどの手口による詐欺

注2:架空の事実を口実に金品を請求する文書を送付して、指定した預貯金口座に現金を振り込ませるなどの手口による詐欺

注3:融資を受けるための保証金の名目で、指定した預貯金口座に現金を振り込ませるなどの手口による詐欺

注4:市区町村の職員等を装い、医療費の還付等に必要な手続を装って現金自動預払機(ATM)を操作させて口座間送金により振り込ませる手口による電子計算機使用詐欺

注5:例えば、金融商品等取引名目、ギャンブル必勝法情報提供名目、異性との交際あっせん名目等の詐欺がある。

 
図表特-46 特殊詐欺の認知件数及び被害総額の推移(平成16~29年)
図表特-46 特殊詐欺の認知件数及び被害総額の推移(平成16~29年)
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また、犯行グループは、被害者にとって身近で興味を示しやすい話題を名目としたり、複数の人物が入れ替わり電話をかけて、特殊詐欺と察知されにくい演出を行うなど、だまし方を巧妙化させている。

交付形態別では、キャッシュカードを自宅等に受け取りにきた犯人に被害者が直接手渡すなどの「キャッシュカード手交型」が大幅に増加した。

イ 取締り等の推進

警察では、だまされた振り作戦(注1)の実施等により、被害者の自宅等に現金等を受け取りに行く「受け子」等を検挙するとともに、「受け子」等から得られた供述等を端緒とする上位者への突き上げ捜査を行っている。また、犯行拠点が多く所在する都市部の警察とそれ以外の警察が連携し、効果的な捜査を行うことにより、犯行拠点の摘発や中枢被疑者の検挙等による犯行グループの壊滅に向けた取締りを推進している。

さらに、犯罪インフラを無力化することは、犯行グループの活動の弱体化につながるとともに、被害防止を図る上で極めて重要であることから、悪質な携帯電話事業者の検挙、犯行使用電話の無力化対策等も推進している。具体的には、携帯電話不正利用防止法(注2)に基づく役務提供拒否がなされるよう携帯電話事業者に情報提供を行う(注3)とともに、特殊詐欺に使用された電話番号に対し、繰り返し架電して警告メッセージを流し、当該電話番号を事実上使用できない状態にする「警告電話事業」(注4)を29年度から開始するなど、犯行使用電話の実態に応じた無力化対策を実施している。

注1:特殊詐欺の電話等を受け、特殊詐欺であると見破った場合に、だまされた振りをしつつ、犯人に現金等を手渡しする約束をした上で警察へ通報してもらい、自宅等の約束した場所に現れた犯人を検挙する、国民の積極的かつ自発的な協力に基づく検挙手法

注2:携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律

注3:110頁参照

注4:警告電話事業では、20日間連続して架電することとしており、29年度中、同事業の対象となった5,539番号のうち、20日間で再度犯行に使用されなかったのは4,421番号(79.8%)であった。

 
図表特-47 特殊詐欺の検挙状況の推移(平成16~29年)
図表特-47 特殊詐欺の検挙状況の推移(平成16~29年)
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ウ 官民一体となった予防活動の推進

特殊詐欺被害の防止のためには、広報啓発を一層推進するとともに、関係機関や民間事業者等と協働した取組を推進し、社会全体で特殊詐欺の被害を防止する気運の醸成を図る必要がある。そこで、警察では、各種メディアを通じた広報活動、民間のコールセンター職員による注意喚起、郵便・宅配事業者やコンビニエンスストアに対する協力依頼、金融機関との連携等を推進している。

具体的には、犯行の手口や被害に遭わないための注意点、自宅の固定電話の留守番電話設定及び防犯機能を備えた電話機設置の推奨等を積極的に発信しているほか、安易に携帯電話や預貯金口座を譲渡したり、「受け子」を引き受けないよう注意喚起するポスターを作成するなど広報啓発活動を実施している。また、特殊詐欺の被害者になりやすい高齢者やその子供・孫等に対し、巡回連絡のほか、電話による呼び掛け、地方公共団体職員や防犯ボランティア団体等による個別訪問等により、より直接的・個別的な被害防止を働き掛けている。さらに、郵便・宅配事業者やコンビニエンスストアに対して、被害金が入っていると疑われる荷物の発見・通報を依頼しているほか、金融機関と連携し、特殊詐欺の被害金が出金又は送金されることを防止するため、顧客への声掛けを推進している。このほか、近年多発している還付金等詐欺への対策として、金融機関と連携し、一定年数以上にわたってATMでの振込実績のない高齢者のATM振込限度額をゼロ円又は極めて少額とした上、窓口に誘導して声掛け等を行う取組を推進している。

 
ATM画面の例
ATM画面の例
 
図表特-48 声掛け等による特殊詐欺の阻止率(注)の推移(平成20~29年)
図表特-48 声掛け等による特殊詐欺の阻止率(注)の推移(平成20~29年)
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CASE

80歳代の女性は、市役所職員を名のる被疑者から「医療費の還付金がある」旨の電話を受けたことから、被疑者の指示により、最寄りの金融機関でATMの操作を試みた。しかし、同女性は、同金融機関において実施されているATM振込限度額制限の対象であったことから、被疑者の指示どおりにATMの操作を行うことができなかった。その後、同金融機関の窓口の職員が同女性から説明を聴取し、還付金等詐欺の被害を未然に防止した(富山)。

② サイバー犯罪の現状と対策

サイバー犯罪は、地理的・時間的制約を受けることが少なく、短期間のうちに不特定多数の者に被害を及ぼしやすいため、被害拡大の防止、被害の未然防止を図ることが困難である場合がある。また、「Tor」(注1)等の匿名化ツールが使用されるほか、いわゆるダークウェブ(注2)が各種犯罪の温床となっていると指摘されているなど、一般に匿名性が高く、犯行の痕跡が残りにくい犯罪である。こうしたことから、サイバー犯罪をめぐる情勢は厳しい状況にある。

サイバー犯罪に的確に対処するためには、例えば、不正プログラムの解析能力の向上、デジタル・フォレンジック(注3)の活用等、警察の対処能力を向上させる必要がある。また、国境を越えて行われるサイバー犯罪に対処するため、国際捜査共助の枠組みの活用、外国捜査機関等との連携の推進(注4)等も重要である。

さらに、サイバー犯罪の被害を防止するためには、これらに加えて、民間事業者等の知見を活用した取組が必要であることから、一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター(JC3)(注5)と連携し、産業界、学術機関、法執行機関等それぞれが持つサイバー犯罪に関する事例、対処方法等の集約・分析を推進している。このほか、警察をはじめとする関係省庁、地方公共団体、大学、民間事業者等が連携して、サイバー空間における自主的な防犯活動を行うボランティアを育成・支援している。このように、社会全体でサイバー犯罪の被害防止対策を一層推進する必要がある。

注1:The Onion Routerの略。匿名接続を実現するためのソフトウェア・規格の一つ

注2:匿名接続を実現するためのソフトウェア等を使用しなければ接続できないウェブサイト

注3:112頁参照

注4:48頁(トピックスI サイバー犯罪・サイバー攻撃対策に関する国際連携の推進)参照

注5:129頁参照

ア サイバー犯罪の現状

通信利用動向調査(注1)によれば、29年9月末現在のインターネット利用者の割合(注2)は80.9%となっている。このように、インターネットが国民生活や社会経済活動に不可欠な社会基盤として定着し、サイバー空間が国民の日常生活の一部となっている中、図表特-50のとおり、サイバー犯罪等に関する相談取扱件数は、近年高い水準にある。また、インターネットバンキングに係る不正送金事犯(注3)をはじめとするサイバー犯罪も多発しており、図表特-51のとおり、29年中のサイバー犯罪の検挙件数は9,014件と、過去最多となっている。

さらに、最近では、インターネットバンキングに不正アクセスを行い、電子決済サービスを利用して仮想通貨交換業者へ不正送金を行う事犯や、仮想通貨交換業者等への不正アクセスによる仮想通貨の不正送信事犯等、仮想通貨に関連するものもみられる。

注1:総務省の調査で、29年11月から同年12月にかけて実施されたもの(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/180525_1.pdf

注2:調査対象年の1年間にインターネットを利用したことのある6歳以上の者の比率

注3:122頁参照

 
図表特-49 インターネット利用者の割合の推移(平成14~29年)
図表特-49 インターネット利用者の割合の推移(平成14~29年)
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図表特-50 サイバー犯罪等に関する相談取扱件数の推移(平成14~29年)
図表特-50 サイバー犯罪等に関する相談取扱件数の推移(平成14~29年)
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図表特-51 サイバー犯罪の検挙件数の推移(平成14~29年)
図表特-51 サイバー犯罪の検挙件数の推移(平成14~29年)
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イ サイバー犯罪への対策

警察では、デジタル・フォレンジックを活用し、被疑者の特定等を行っているほか、関係機関や民間事業者と連携し、サイバー空間の脅威への対処に係る人材の育成による解析能力の向上や不正プログラムに関する情報共有、分析等を通じて、サイバー犯罪の被害防止対策を推進している。

また、警察庁では、インターネット上の違法情報等への対策として、一般のインターネット利用者等から、違法情報等に関する通報を受理し、警察への通報やサイト管理者への削除依頼等を行うインターネット・ホットラインセンター(IHC)(注1)を運用している。さらに、警察では、サイバーパトロール等により違法情報・有害情報の把握に努めるとともに、IHCからの通報に対して全国協働捜査方式(注2)を活用し、取締りを推進している。

注1:124頁参照

注2:IHCから警察庁に通報された違法情報について効率的な捜査を進めるため、違法情報の発信元を割り出すための初期捜査を警視庁が一元的に行い、捜査すべき都道府県警察を警察庁が調整する捜査方式。23年7月から本格実施している。

CASE

インターネットショッピングを利用した詐欺を目的とするウェブサイト(以下「詐欺サイト」という。)による犯罪被害を防止するため、29年5月以降、JC3は、愛知県警察と共同で開発したツール等により発見した詐欺サイトに関する情報のAPWG(注)等に対する提供を開始したほか、詐欺サイトに転送するよう改ざんされた正規のウェブサイトの管理者等に対し、ウェブサイトの修復依頼及び被害の再発防止に関する注意喚起を実施した。また、JC3からの情報提供に基づき、神奈川県警察を中心に20都道府県警察が詐欺サイトにおいて代金の振込先となっていた口座名義人等に対する取締りを実施した。

注:Anti-Phishing Working Groupの略。平成15年(2003年)に米国で設立された、国際的なフィッシング対策の非営利団体

このほか、サイバーパトロールにより発見した違法情報・有害情報をIHCやサイト管理者等に通報する取組やインターネット利用者に対する講演活動等を行うサイバー防犯ボランティアは、全国で221団体、8,294人(29年末現在)となっており、警察では、研修会を開催するなどして、こうした活動を行う団体の拡大と取組の活性化を図っている。

 
図表特-52 サイバー防犯ボランティア団体数及び団体構成員数の推移(平成24~29年)
図表特-52 サイバー防犯ボランティア団体数及び団体構成員数の推移(平成24~29年)
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CASE

兵庫県警察では、大学生のサイバー防犯ボランティア団体が、SNSの事業者からサイバーパトロール用のアカウントを付与され、SNS上の不適切な投稿を一時凍結し、同事業者に通報する取組等を支援している。また、同団体が県内の児童等に対して講演を実施する前に模擬訓練を実施するなど、同団体の活動に対して必要な指導・助言を行っている。

 
図表特-53 サイバー防犯ボランティア団体等によるSNS上の不適切な投稿に対する取組の概要
図表特-53 サイバー防犯ボランティア団体等によるSNS上の不適切な投稿に対する取組の概要
 

サイバー防犯ボランティア団体による児童を対象とした講演活動
サイバー防犯ボランティア団体による児童を対象とした講演活動
③ その他情報通信技術の普及・進展に伴う犯罪の現状と対策

少子化や核家族化が進展していることに加え、インターネットやスマートフォンの普及・進展により、SNS等を通じた地理的条件等に制約されない交友関係が構築されやすくなっていることに伴い、心身共に未熟であり、環境からの影響を受けやすい児童が性犯罪等の被害に遭いやすくなっている。

通信利用動向調査(注1)によれば、29年9月末現在、13歳から19歳までの79.5%、20歳から29歳までの94.5%がスマートフォンを所有し、また、情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査(注2)によれば、その使用時間も年々増加傾向にあるなど、特に若い世代を中心にスマートフォンが普及している。さらに、消費者意識基本調査(注3)によれば、「携帯電話やスマートフォンは自分の生活になくてはならないと思う」者の割合は64.8%であり、年代別では、15歳から19歳までで82.4%、20歳から24歳までで83.2%、25歳から29歳まででは85.6%と、特に若者で高くなっている。スマートフォンは、情報検索、各種サービスの契約、SNSの利用、写真や動画の撮影等の様々な場面で使用され、生活の一部となっていると同時に、SNS等に起因する子供の性被害(注4)、リベンジポルノ事案等、様々な犯罪の中で使用されており、近年、これらの犯罪被害が深刻な状況になっている。

注1:総務省の調査で、2年から毎年実施されている。

注2:総務省と東京大学大学院等との共同研究により、24年から毎年実施されている。

注3:消費者庁の調査で、28年11月4日から同月30日にかけて実施されたもの(http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/research_report/survey_002/

注4:児童に対する性的搾取(児童に対し、自己の性的好奇心を満たす目的又は自己若しくは第三者の利益を図る目的で、児童買春、児童ポルノの製造その他の児童に性的な被害を与える犯罪行為をすること及び児童の性に着目した形態の営業を行うことにより児童福祉法第60条に該当する行為をすること並びにこれらに類する行為をすることをいう。)及びその助長行為(児童買春の周旋、児童買春等目的の人身売買、児童の性に着目した形態の営業のための場所の提供及び児童ポルノの提供を目的としたウェブサイトの開設等をいう。)をいう。

 
図表特-54 若者のスマートフォンの普及率(平成25~29年)及びスマートフォンの使用時間(平成25~28年)の推移
図表特-54 若者のスマートフォンの普及率(平成25~29年)及びスマートフォンの使用時間(平成25~28年)の推移
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ア SNS等に起因する事犯

近年、面識のない利用者同士が不特定多数の者とチャット等により交流することができるウェブサイトや同時に複数の友人等と交流することができるウェブサイト等が登場し、これらに起因する犯罪被害が急増している。

SNSに起因して犯罪被害に遭った児童の数は、24年以降増加傾向にあり、29年中の被害児童数は1,813人で、過去最多となった。被害児童のSNSへのアクセス手段については、スマートフォンの占める割合が年々増加しており、29年中は87.7%がスマートフォンを利用していた。また、29年中、被害児童の最も多い罪種は、青少年保護育成条例違反702人(38.7%)であり、フィルタリング(注)の利用の有無が判明した被害児童のうち9割以上がフィルタリングを利用していなかった。

注:インターネット上のウェブサイト等を一定の基準に基づき選別し、青少年に有害な情報を閲覧できなくするプログラムやサービス

 
図表特-55 SNS等に起因する事犯の被害児童数の推移(平成15~29年)
図表特-55 SNS等に起因する事犯の被害児童数の推移(平成15~29年)
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図表特-56 被害児童のSNSへのアクセス手段の割合の推移(平成24~29年)
図表特-56 被害児童のSNSへのアクセス手段の割合の推移(平成24~29年)
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SNSは、インターネットの匿名性や不特定多数の者に対して瞬時に連絡を取ることができる特性から、児童買春等の違法行為の「場」となっている状況がうかがえ、出会い系サイト規制法(注1)の改正以降、出会い系サイト(注2)に起因する事犯が減少する一方で、SNSに起因する事犯が増加している。

警察では、SNS等におけるサイバー補導(注3)に加え、SNS等の事業者の規模や提供しているサービスの態様に応じて、投稿内容の確認をはじめとするサイト内監視の強化や実効性あるゾーニング(注4)の導入に向けた働き掛けを推進しているほか、関係機関・団体等と連携し、スマートフォンを中心としたフィルタリングの普及促進等の取組を推進している。また、SNSに起因する事犯の児童の被害防止に取り組む「青少年ネット利用環境整備協議会」に参画し、事業者による被害防止対策に資するため、検挙事例等に関する情報を提供するなど、同協議会の活動を支援している。SNS等に起因する事犯に関する取組の事業者間格差を是正し、児童の犯罪被害を防止するためにも、事業者、関係機関等と更に連携を図っていく必要がある。

注1:インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律

注2:面識のない異性との交際(以下「異性交際」という。)を希望する者(以下「異性交際希望者」という。)の求めに応じ、その異性交際に関する情報をインターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれを伝達し、かつ、当該情報の伝達を受けた異性交際希望者が電子メールその他の電気通信を利用して当該情報に係る異性交際希望者と相互に連絡することができるようにする役務を提供するウェブサイト等

注3:80頁参照

注4:サイト内において悪意ある大人を児童に近づけさせないように、利用者年齢情報を活用し、大人と児童の間のやり取りや検索を制限すること

MEMO 「青少年ネット利用環境整備協議会」の設立

平成29年7月、SNSに起因する事犯の児童の被害防止及び児童が安全で安心に利用できるインターネット環境の向上を目的として、SNSの事業者から構成される「青少年ネット利用環境整備協議会」が設立され、29年末現在、17事業者が参加している。同協議会は、定期的に会議を開催し、投稿等の内容の確認やゾーニング等の児童の被害防止対策に関するノウハウの共有を図っているほか、児童の被害防止やインターネット利用環境の向上に関する事項の調査研究等を実施することとしており、警察庁がその活動に協力している。

MEMO 神奈川県座間市における殺人事件を踏まえた取組

平成29年10月、神奈川県座間市において、SNS上に自殺願望を投稿するなどした者が、言葉巧みに誘い出された上、殺害される事件が発覚した。同事件を踏まえ、同年11月、自殺に関する不適切なウェブサイトや書き込みへの対策の強化等を検討するため、「座間市における事件の再発防止に関する関係閣僚会議」が開催された。同年12月には、同会議において「座間市における事件の再発防止策について」が取りまとめられ、政府一体となって再発防止を徹底するため、SNS等における自殺に関する不適切な書き込みへの対策、インターネットを通じて自殺願望を発信する若者の心のケアに関する対策、インターネット上の有害環境から若者を守るための対策等に取り組むこととされた。IHCでは、30年1月から、他人を自殺に誘引・勧誘する情報等についても、サイト管理者への削除依頼等を行っている。

イ いわゆるリベンジポルノ等

インターネットやスマートフォンの普及・進展に伴い、画像情報等の不特定多数の者への拡散が容易になったことから、交際中に撮影した元交際相手の性的画像等を、撮影対象者の同意なくインターネット等を通じて公表する行為(いわゆるリベンジポルノ等)により、被害者が長期にわたり回復し難い精神的苦痛を受ける事案が発生している。

29年中の私事性的画像(注1)に関する相談等の件数(注2)は1,243件であった。このうち、被害者と加害者の関係については、交際相手(元交際相手を含む。)が61.5%、インターネット上のみの関係にある知人・友人が13.2%を占めており、また、被害者の年齢については、20歳代が37.7%、19歳以下が24.7%を占めている。さらに、私事性的画像被害防止法の適用による検挙件数は57件、脅迫、児童買春・児童ポルノ禁止法(注3)違反等の他法令による検挙件数は226件であった。

注1:私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(以下「私事性的画像被害防止法」という。)第2条第1項に定める性交又は性交類似行為に係る人の姿態等が撮影された画像をいう。

注2:私事性的画像記録又は私事性的画像記録物に関する相談のうち、私事性的画像被害防止法やその他の刑罰法令に抵触しないものも含む。

注3:児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律

 
図表特-57 私事性的画像に係る相談等の状況(平成29年)
図表特-57 私事性的画像に係る相談等の状況(平成29年)
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警察では、このような事案について、被害者の要望を踏まえつつ、違法行為に対して厳正な取締りを行うとともに、プロバイダ等の事業者と連携し、公表された私事性的画像記録の流通・閲覧防止のための措置等の迅速な対応を講じている。また、広報啓発活動等を通じて、被害の未然防止を図っている。

CASE

28年12月、女性から、元交際相手の男(18)に衣服の一部を着けていない同女性の画像をSNS上に投稿されているとの相談を受理した。SNS上に同女性を特定することができる方法で同画像が投稿されているのを発見したことから、29年4月、同男を私事性的画像被害防止法違反(私事性的画像記録物公然陳列)で検挙した(福岡)。

MEMO 児童が自らを撮影した画像に伴う被害を防止するための条例改正

近年増加傾向にある児童ポルノ事犯のうち、特に、だまされたり、脅されたりして児童が自分の裸体を撮影させられた上、メール等で送らされる被害(注)の発生が深刻な状況にある。東京都においては、同被害を防止するため、平成29年12月、東京都青少年の健全な育成に関する条例が改正され、18歳未満の青少年に係る児童ポルノ等の提供を当該青少年に対し不当に求める行為を禁止する規定が新設された。同様の条例改正は兵庫県でも行われており、同被害の防止のための取組が進められている。

注:81頁参照



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