特集 近年における犯罪情勢の推移と今後の展望

3 犯罪情勢分析の高度化と効果的な情報発信

(1)犯罪情勢分析の高度化

第2節において述べてきたように、街頭犯罪及び侵入犯罪への対策は、犯罪の減少に一定の効果を上げてきたと考えられるが、今後とも効果的かつ効率的な犯罪対策を講ずるためには、絶えず変化する犯罪情勢の分析を高度化し、その分析に基づいた取組を推進する必要がある。例えば、各地域で減少していない犯罪、他の地域に比べて発生する割合が高い犯罪等を抽出し、被疑者や被害者の属性及び行動傾向、犯罪発生場所の状況等を調査して、犯罪に至る原因や問題点を詳細に分析した結果に基づき、警察、民間事業者、地域住民等が対策を実施するとともに、その実施状況や効果を確認及び検証して更なる問題点を抽出し、その解決を図っていくことにより、犯罪対策を一層効果的かつ効率的に推進していくことが可能となると考えられる。

現在、こうした取組の一環として、防犯に配慮したまちづくり等の専門家と協働して、防犯に関する調査研究を行う取組や、犯罪防止及び先制的な検挙活動のため、過去の犯罪発生情報を踏まえた独自のアルゴリズムを開発することにより、犯罪の発生が予測される地域等を地図上に表示し、警察官のパトロール等に活用している例もみられる。こうした犯罪情勢分析の取組は、海外においても実践されており、今後は、海外の事例も参考にしながら、専門家や民間事業者の知見、人工知能等の技術を一層活用し、より効果的かつ効率的な警察活動の在り方を検討する必要がある。

また、社会情勢、人口動態等の変化が犯罪情勢に与える影響についての分析も必要であることから、今後は、こうした視点を取り入れた犯罪情勢分析の高度化を進めていく必要がある。

CASE

福岡県警察では、防犯に配慮した環境整備を推進するため、平成27年から29年にかけて、都市計画や建築等について専門的な知識を有する研究者を「福岡県警察犯罪予防研究アドバイザー」として委嘱し、犯罪の傾向や地理的要因等について調査研究を行った。同年12月には、過去2年間の研究成果として、「集合住宅における侵入窃盗の時空間的近接」、「防犯のための住宅地デザインとコミュニティ活動」、「繁華街に設置された街頭防犯カメラの効果検証」、「女性を守るまちのデザインと防犯対策」、「福岡県における性犯罪の現状とこれからの啓発活動について」及び「コンビニ強盗における犯罪発生状況と防犯施策に関する検討及び提案」という6つの報告を取りまとめ、県警察のウェブサイト(注)に公開している。

これらの調査研究の結果、例えば、過去に侵入窃盗の被害に遭った建物が再び被害に遭う傾向があることなどが確認された。

 
研究成果報告書
研究成果報告書

CASE

米国のサンタクルーズ市警察、ロサンゼルス市警察等では、平成23年(2011年)から、警察が保有する罪種、犯罪発生場所等の犯罪統計を、犯罪の再発可能性や環境的な要素等を考慮したアルゴリズムで処理し、地図上に時間帯別の犯罪発生予測場所を表示するシステムを導入した。同システムの導入により、一定の犯罪が減少した、警察官によるパトロールが効果的に行われるようになったなどの評価がある。

CASE

京都府警察では、28年10月、犯罪発生情報等を集約し、より高度な分析による迅速な事件検挙や、犯罪発生予測に基づく犯罪防止活動を行うことを目的として、「犯罪防御システム」の運用を開始した。同システムでは、独自のアルゴリズムに基づく犯罪発生予測場所の表示やパトロールルートの作成等が可能であり、検挙活動やパトロール等に活用している。

 
「犯罪防御システム」のイメージ
「犯罪防御システム」のイメージ

(2)効果的な情報発信

個別の犯罪事象が複雑化・多様化する中で、実効性のある犯罪対策を講ずるためには、これまで以上に地方公共団体、民間事業者、地域住民等と協働した取組が必要不可欠である。それぞれの自主的な犯罪対策や警察との連携を更に促進するためには、警察の保有する情報を分かりやすく、かつ、民間事業者、研究者、地域住民等が利用しやすい形で積極的に発信し、効果的に活用できるようにすることが重要である。

現在も、被害者をはじめとする事件関係者のプライバシー等に細心の注意を払いつつ、警察のウェブサイト、電子メール等の様々な媒体を通じて警察が保有する情報を発信しているところ、今後は、国民の権利利益、国の安全等が害されることのないように配慮しつつ、国民がインターネット等を通じてより容易に利用できるよう、既に警察において公開している情報を利用しやすい形に加工し、汎用性を高めるなど、オープンデータ化を一層進める必要がある。

CASE

警視庁では、東京都内で発生した区市町村の町丁別、罪種別及び手口別の刑法犯認知件数を加工・分析等の二次利用が容易な形式でウェブサイトに掲載している(注1)。東京都では、このデータを基に作成した犯罪情報マップを公開しており(注2)、犯罪発生情報や防犯情報等を提供している。

 
ダウンロード可能なデータのイメージ
ダウンロード可能なデータのイメージ
 
犯罪情報マップ(東京都)(平成30年1月から同年4月にかけてのもの)
犯罪情報マップ(東京都)(平成30年1月から同年4月にかけてのもの)

また、大阪府警察では、犯罪発生情報等を発信するウェブサイト「安まちアーカイブ」において、登録を行った企業、防犯ボランティア団体、地方公共団体等を対象に、街頭での主な犯罪や子供・女性の被害発生情報を加工・分析等の二次利用が容易な形式でウェブサイトに掲載しており(注)、こうした情報は自主防犯活動等に活用されている。

 
ダウンロード可能なデータのイメージ
ダウンロード可能なデータのイメージ

CASE

東京都内における刑法犯認知件数が減少傾向にある一方、子供や女性が被害者となる犯罪の認知件数は増減を繰り返しながら推移し、また、子供や女性を対象とする性犯罪等の前兆とみられる声掛け、つきまとい等も依然として後を絶たないなど、弱い立場にある子供や女性の安全が脅かされている状況を踏まえ、警視庁では、平成28年12月から学識経験者等から構成される有識者研究会を開催した。同研究会では、子供や女性が被害者となる犯罪等のうち、特に面識のない者による公共空間における犯罪等の加害・被害実態調査の結果に基づき、GIS(地理情報システム)を活用した分析や今後の効果的な対策についての検討を行い、29年9月、「警視庁子ども・女性の安全対策に関する有識者研究会提言書」として取りまとめた。同提言書では、一貫した情報収集・分析・対策、受け手を意識した効果的な情報発信、科学的な根拠に基づく防犯教育、被害の実態を踏まえた住まい・まちづくり及び安全対策の担い手の多層化と多様化を実現することが望ましいとされた。

 注1:24年から28年にかけての警視庁で認知した件数による。

 注2:26年1月から29年6月にかけての5警察署(練馬警察署、西新井警察署、小松川警察署、田無警察署及び町田警察署)で取り扱った事案による。

 
図表特-58 面識のない者による犯罪の被害実態の主な調査結果
図表特-58 面識のない者による犯罪の被害実態の主な調査結果
Excel形式のファイルはこちら

また、近年、民間事業者等が自主的に行う地域に密着した防犯活動が、防犯CSR(注)活動として注目されている。27年4月、防犯CSR活動や同活動を行う民間事業者等を支援するため、「全国防犯CSR推進会議」が設立され、28年10月には、全国初となる地域分科会として愛知部会が立ち上げられた。同推進会議は、毎年セミナーを開催し、独自に優良企業に対する表彰を行うなど、その活動を活発化させている。防犯CSR活動は、顧客、従業員、地域住民等の安全性が高まるだけでなく、社会全体の犯罪に対する抵抗力を高め、国民の安心感の醸成につながることから、警察では、民間事業者等が防犯CSR活動に取り組みやすいよう、犯罪情報の提供や活動方法についての助言等を行うなど、その活動を一層支援していく必要がある。

注:Corporate Social Responsibilityの略。企業の社会的責任と訳される。法令遵守、環境保護、地域貢献等、純粋に財務的な活動以外の分野において、企業が持続的な発展を目的として行う自主的取組

 
全国防犯CSR推進会議のウェブサイト
全国防犯CSR推進会議のウェブサイト


前の項目に戻る     次の項目に進む