2.支援に携わる際の留意事項

2-2 被害類型別特徴と対応上の注意点

【虐待された子どもへの対応】

(特徴)

子ども虐待とは、「児童虐待の防止等に関する法律」により保護者による子ども(18歳未満)に対する身体的虐待、性的虐待、養育の放棄又は怠慢(ネグレクト)、心理的虐待を行うこととされています。子ども虐待は、長期的に適切な養育環境を提供されなかったことから、子どもの心と体に深刻な影響を与えます。具体的には、発育・発達が遅れたり、対人関係がうまくとれなかったり、PTSDが生じることなどが挙げられます。さらに、それらの影響は子どもの人格形成に著しい影響を与え、適応的な振る舞いが難しくなることもあります。また、落ち着きがなくなったり、非行などにつながる場合もあります。被害を受けた子どもに適切な対処がなされない場合などには、本人が親となった時に自分の子どもに虐待をしてしまうこともあります。
子ども虐待は何より子どもの命と安全を守るためにあらゆる機関・団体が有効なネットワークを構築し、早期発見、早期対応をすることが重要になります。

(対応上の注意点)

子ども虐待を発見した場合、または、子ども虐待を受けたと思われる子どもを発見した場合は速やかに市町村、福祉事務所、児童相談所に通告しなればなりません(児童虐待の防止等に関する法律第6条)。

たとえ、子どもや親が通告を拒む場合であっても、子どもの安全を守るためには通告が必要です。虐待を知った機関・団体が安易に判断せず、速やかに児童相談所等に通告し、子ども、家族にどのような関わりをしたら良いか、子どもや親の訴え、態度を含めて通告先機関とよく相談をし、対応することが大切です。なお、通告を受けた機関は通告した者を特定させるものを漏らしてはならないとされています (児童虐待の防止等に関する法律第7条)。

ア)子ども自身から告白、相談があった場合

できる限り児童にとってくつろげる場所を選び、「話しやすいところから話していいよ」と子どものペースで話を聞きます。子どもの訴えに意見したり、評価したりせずに聞いてください。無理に聞き出す必要はありません。性的虐待などについては子ども自身の負担が大きいことや、事実確認が難しいことから、とりわけ専門的な聞き取りが必要です。被害を打ち明けられた場合は通告に必要な最低限度の情報の確認を行い、児童相談所等に通告し対応を協議してください。

イ)虐待を行っている親からの相談により虐待が発見される場合

親からの自発的な相談の場合には、加害者である本人の話を傾聴しながらも、子どもの置かれているリスクを冷静かつ客観的に判断し、速やかに児童相談所に通告して下さい。

(連絡先)

市町村(4. 各機関・団体における支援業務 (2) ○○市町村)、福祉事務所(4. 各機関・団体における支援業務 (23) 福祉事務所)、児童相談所(4. 各機関・団体における支援業務 (43) 児童相談所

コラム ―守秘義務について―

 守秘義務とは正当な理由なく外部に情報を漏らしてはならないことをいいます。守秘義務は、公務員や医師などに厳重に課せられています。しかし、虐待が疑われる状況がありながら、守秘義務を理由に通告が躊躇されるのでは、子どもを守ることにはなりません。守秘義務と通告義務との関係については、児童虐待防止法第6条第3項は、「刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。」と規定し、通告が守秘義務違反には当たらないことを明記しています。

生命・身体に重大な危害が及んでいる場合には、早急に警察や消防に通報しなければなりません。

子どもが大けがをしているなど、児童相談所に通告していては生命・身体への重大な危害が回避できない場合には、110番通報又は119番通報により、速やかに警察又は消防へ通報してください。

(連絡先)

警察署(4. 各機関・団体における支援業務 (3) 警察)、消防署

通告後は、通告先機関等において以下のような対応がされます。

ア)調査

通告先機関は通告受理後、速やかに子どもや家族についての調査を行います。
子どもの置かれているリスクが高く親子分離を図りながら調査をする必要がある場合は、児童相談所によって一時保護が実施されます。必要な場合は保護者に対し子どもへの通信・面会が制限されます。

イ)在宅支援の場合

通告先機関等への通所面接、通告先機関等による家庭訪問、保健師、児童委員などによる支援、見守り等が実施されます。

ウ)親子分離が必要な場合

児童相談所による児童養護施設等への入所や里親への委託等の措置が行われ、可能な事例については再び親子がともに生活できるよう、支援が行われます。ただし、親権を行う者等が措置に同意しない場合は、家庭裁判所への申立てにより措置の承認を求めます。
※これらの取組は市町村が中心となって設置・運営する要保護児童対策地域協議会 等を通じた緊密な連携に基づき関係機関のもつ機能・権限、社会資源を有効に動員して行われます。

通告後は、通告者には以下のような役割が求められています。

通告された事例の多くはその後、様々な機関の支援により在宅で生活を続けます。地域にあって子どもと家族が安心して暮らせるための支援を通告先機関、要保護児童対策地域協議会等から引き続き協力を依頼されることもあります。

コラム ―親権者の懲戒権と子ども虐待の関係―

親権の中の1つとして民法第822条第1項には「懲戒権」が規定されており、しばしば「子どもをしつけるのに、他人が口を出すな」「俺は親権者なんだから子どもを叱るのに殴って当たり前だろう」などと虐待を「しつけ」と主張する親は未だに少なくありません。
 しかし、児童虐待防止法第14条第1項は「児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、その適切な行使に配慮しなければならない」と規定し、第2項には「児童の親権を行う者は、児童虐待に係る暴行罪、傷害罪その他の犯罪について、当該児童の親権を行う者であることを理由として、その責めを免れることはない」と規定されており、しつけの範囲を逸脱した子ども虐待については、法律上犯罪となることが示されています。

*6 児童福祉法第25条の2において、地方公共団体は「要保護児童対策地域協議会を置くように努めなければならない」とされています。「協議会」の目的は「要保護児童及びその保護者に関する情報その他要保護児童の適切な保護を図るために必要な情報の交換を行うとともに、要保護児童等に対する支援の内容に関する協議を行うもの」とされています。