2.支援に携わる際の留意事項

2-2 被害類型別特徴と対応上の注意点

【配偶者からの暴力を受けた人への対応】

(特徴)

配偶者からの暴力には、殴る・蹴るなどの身体的暴力のほか、人格を否定するような暴言を吐く、何を言っても無視する、交友関係を細かく監視するなどといった精神的暴力、嫌がっているのに性的行為を強要する、見たくないポルノビデオ等を見せる、避妊に協力しないといった性的暴力が含まれます。暴力の影響は深刻で、目に見える傷だけでなく、目に見えない心の傷や、一見、暴力とは関係のない身体の症状が現われることもあります。被害者の多くは、加害者から「おまえが悪い」などと責められ続け、自信をなくし、「私が悪い」、「私がいたらないから・・」などと自分を責めています。
また、暴力の関係から脱け出すことは難しいことです。加害者である配偶者への経済的な依存や加害者からの報復・仕返しへの恐怖、家族・親戚など周囲の無理解などがあるためです。そのため、誰にも助けを求めることができず、周囲も気付かないうちに暴力がエスカレートし、被害が長期化・潜在化・深刻化しやすいという特徴があります。

(対応上の注意点)

相談者の困難を受け止め、評価することなく、受容する姿勢で相談を受けてください。

暴力の中で長い間、暮らしてきた困難や苦しみをまず理解し、悩みながら相談している気持ちを受け止める姿勢が求められます。
被害者の立場に立って、被害者の言葉、訴える内容をありのまま聞いてください。「夫の言い分も聞きたい」とか「殴られる理由があったのではないか」などの問いかけは適切ではありません。

緊急性(安全性)を確認します。

加害者が追跡してくる可能性があるか、被害者に対する危険が迫っていないか、被害者はけがを負っていないか、また、子どもの状況などの確認を行い、必要に応じて早急に警察や医療機関などの専門機関につなぎます。なお、直近に被害を受けた場合には、面接時に傷などの写真を撮ったり、受診の際に診断書を書いてもらうなどしておくと、保護命令申立ての証拠として使える場合があります。
配偶者からの暴力を受けている人を発見した人は、配偶者暴力相談支援センター又は警察官に通報するように努めなければなりません。医師その他の医療関係者は、被害者を発見しやすい立場にあることから、守秘義務を理由にためらうことなく、通報を行うことが必要です。通報については、被害者の意思を尊重することになっていますが、被害者の生命又は身体に対する重大な危険が差し迫っていることが明らかな場合には、そのような同意が確認できなくても積極的に通報を行うことが必要です。

(連絡先)

警察署(4. 各機関・団体における支援業務 (3) 警察)、配偶者暴力相談支援センター(4. 各機関・団体における支援業務 (37) 配偶者暴力相談支援センター)、医療機関(4. 各機関・団体における支援業務 (28) 医療機関

緊急時における安全の確保及び一時保護が必要か検討します。

「家を出たい」、「怖くて帰れない」など相談者の意思が明確である場合は、緊急時における安全の確保及び一時保護も検討しなくてはなりません。
まず、友人宅や実家、親族の家など一時的に避難する場所があるかどうかを確認し、所持金がある場合は、宿泊施設の利用も考えます。加害者が実家や知人宅を知っていて、そこに避難してもすぐに連れ戻される危険性がある場合などには、婦人相談所の一時保護についての情報提供を行います。一時保護等が必要と考えられる場合は、配偶者暴力相談支援センターなどの専門機関につなぎます。配偶者暴力相談支援センターでは、保護命令申立てや住民基本台帳等の閲覧制限、健康保険被扶養者認定等の取扱などの手続について相談できます。

(連絡先)

市町村(4. 各機関・団体における支援業務 (2) ○○市町村)、福祉事務所(4. 各機関・団体における支援業務 (23) 福祉事務所)、配偶者暴力相談支援センター(4. 各機関・団体における支援業務 (37) 配偶者暴力相談支援センター

再被害防止のためには、以下のような制度があります。

★保護命令

裁判所が加害者に対して発する保護命令には、接近禁止命令、退去命令と電話等禁止命令があります。保護命令に違反した場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます。

(連絡先)

警察署(4. 各機関・団体における支援業務 (3) 警察)、配偶者暴力相談支援センター(4. 各機関・団体における支援業務 (37) 配偶者暴力相談支援センター)、地方裁判所(4. 各機関・団体における支援業務 (9) 地方裁判所・簡易裁判所

★住民票の写しの交付等の制限

配偶者からの暴力から逃れて新しい居住地に住民票を異動させる必要がある場合、被害者は、住民票や戸籍の附票などの居所を探されるおそれがある書類を加害者が請求しても、市町村長が交付をしないように、申し出ることができます。なお、申出を受けた市町村長は、警察、配偶者暴力相談支援センター等の意見を聴くなどし、措置の必要性について確認します。

(連絡先)

市町村(4. 各機関・団体における支援業務 (2) ○○市町村

配偶者からの暴力から逃れられない理由の一つとして、経済的自立の困難が挙げられます。そのため、以下のような制度を活用し、自立を図ることも有効です。

5. ニーズに応じた解決手段 3 生活上の問題参照