犯罪の被害にあうと、被害者には様々な問題が起こったり、心身に影響を受けます。支援者の方々に、被害者を支援する上で知っておいてほしいことは次のようなことです。
被害者の抱える様々な問題
- 犯罪の被害にあうと、被害者やそのご家族・ご遺族は、命の危険にさらされる、けがをする、性的な暴力を受ける、物を盗られる、家族の命を奪われるなどの直接的な被害だけでなく、その後も様々な困難に直面します。
- 被害にあった精神的トラウマによる心身の不調、捜査や裁判などの刑事手続の負担、仕事ができなくなったり働き手を失うことでの生活不安などが押し寄せます。また、家族間で被害の受け止めや対処の違いなどから、すれ違いが起きたりストレスが高じて関係が悪くなることもあります。
- 特に、社会的偏見や周りの人の無理解や配慮を欠いた言動、インターネット上での誹謗中傷、報道機関による過剰な取材などは、被害者にとって精神的な苦痛、身体の不調、名誉の毀損、私生活の平穏の妨げにつながります。また、「被害のことは早く忘れてがんばって」「保護者がしっかりしないとね」といった被害者を励ますつもりでかけた言葉でも被害者を傷つけてしまうことがあります。
こうしたことは、総じて「二次的被害」といわれています。
被害による心身への影響等
被害者は、被害による影響で、身体面、精神面、行動面に様々な変調を来すことがあります。
例えば、
- 「食欲がない」「吐き気」「頭痛」「過呼吸」などの身体的反応
- 「つらい記憶が頭から離れない」「感覚・感情が麻痺したり、現実感がなくなる」「自己評価の低下」「他人や社会に対する信頼感の喪失」などの精神的反応
- 「眠れない」「人ごみが怖くて外に出られず、自宅にひきこもる」「被害を思い出す物や場所などを避ける」「特定の日(事件等と関連のある日等)になると不安になる」などの行動変調による日常生活上の困難
などが挙げられます。
このように、被害にあった後は、心身の変調と生活の困難を来すことが多いのですが、これは犯罪被害という突然の出来事による精神的ショックを受けた後では、誰にでも起こることなのです。
ただし、ひとりひとりの被害者によって、その現れ方は様々であり、また同じ人であっても時間の経過や環境により変化することがあります。
周りの人や支援する人たちは、このような被害者の心身の変調と生活の困難を理解し配慮しながら接する必要があります。
被害者への接し方
○ 基本的心構え
被害にあった後は、周囲の人からの支えが大きな力となります。被害者の話をよく聴き、できるだけその意思を尊重した対応をとりましょう。また、気持ちに余裕を持つことができない被害者に代わって、必要とする様々な情報(支援制度、学校や地域の情報、報道など)を集める手伝いをすることも効果があります。
○ 被害者への接し方のポイント
- 被害者を責めたり安易に励ましたりせずに、話をよく聴くこと
無理やり話を聞き出そうとするのではなく、被害者が話を始めたら、そのまま受け止めることが大切です。安心して話ができる場、感情を出せる場を提供しましょう。被害者が何も話せない時は、そばに寄り添うだけでも、被害者にとって大きな支えとなります。 - 被害者の意向を確認して、被害者自身が選択できるように支援すること
被害者が、被害による影響で体調を崩したり落ち込んだりしていると、周りの人は、被害者に負担をかけまいとして、被害者に確認をせずに、物事を進めてしまうことがあります。被害者のためにと思い、被害者の意向を確認しないままに、なんでもやってあげようとすると、被害者は自分が「何もできない人」とみなされたように感じてしまいます。そして、被害者は、自分の知らないところで物事が決められていくことに傷つき、無力感を強めてしまいます。
大切なことは、被害者に関することを決める場合は、被害者に対し、必要な情報や選択肢を提示して、被害者が自分で判断できるように支援するということです。被害者が自分で判断して、物事を進めていくということは、被害者の自信と尊厳の回復にもつながります。 - 二次的被害を与えないよう配意すること
被害者は、対人関係や周囲の人々の共感を伴わない言動にとても敏感になっています。被害者をさらに傷つけてしまうことのないように、被害者の状況やつらい気持ちに思いを巡らせながら配慮のある言動をするよう心がけましょう。
不用意な発言で被害者を傷つけてしまったと自覚した場合は、その場で素直に謝り、改めて発言の意図を説明するなどの対応を行うことが大切です。
家族・友人などの周囲の方々が接するときの留意点
○ 被害にあって間もないときに接する場合
- そばに付き添いましょう
- 人目に付かない休める場所など安心できる状況を作りましょう
- 着替えや宿泊場所など身の回りのことに気を配りましょう
- 被害者の気持ちや反応が自然なものであることを伝えましょう
- 被害者が被害時の自分の行動を責めたり、ご家族が被害時に被害者の近くにいなかったことなどで自分を責めていたら、罪悪感を持つ必要がないことを伝えましょう
- 被害者の話を無理に聞き出さないようにしましょう
- 被害者が話したいときには、その話に耳を傾けましょう
- 気分の落ち込みがひどかったり、食事や睡眠がとれない状況が続く時には、医師や専門機関への相談を勧めましょう
○ 被害後しばらく経ってから接する場合
- 被害者の気持ちを理解するように努めましょう
- 様々な相談相手になりましょう
- 家事や育児、介護などの生活の手伝いをしましょう
- 警察や病院などへの付き添いをしましょう
- 仕事や学校の問題に対処する手助けをしましょう
- お酒やカフェインの飲み過ぎに注意するよう伝えましょう
相談機関等で被害者支援に携わっている方が接するときの留意点
上記の基本的心構えと被害者への接し方のポイントを踏まえながら、
- 被害者の話に真摯に耳を傾ける
「こうした方がよい」など指示を出したり自分の考えを伝えるのではなく、被害者の言うことを否定せずに聴き、被害者の気持ちに共感するようにしましょう。 - 安全・安心感を確立する
再び被害にあう可能性はないか、けがをしている場合は医療機関で必要な治療は受けているかなどを確認して安全を確保し、ご本人にも安全・安心を実感してもらえるようにしましょう。 - 被害による心身への影響について分かりやすく説明する
被害による心身への影響を分かりやすく説明し、自身に起こっている心身の変化を自覚してもらうことが大切です。その上で、被害者の状態や症状が異常なことではないことを伝えて安心してもらいましょう。 - 被害者のニーズを把握する
被害後間もない被害者は、混乱していて自分にどのような支援が必要なのかわからない場合もあります。そのような時には、被害者の話を丁寧に伺いながら、被害者にとって、今、何が必要なのか一緒に考えましょう。 - 必要な制度・サービスを提供する機関・団体につなぐ
日頃から被害者が利用できる制度や機関についての情報収集を行っておくことが大切です。また、実際に他機関につなぐ際には、被害者の具体的な要望などを確認して伝えるなどして、丁寧につなぐようにしましょう。
○ 犯罪被害者等支援に関するオンデマンド教材のご案内
支援に関わる人が被害者やそのご家族・ご遺族と接するときに配慮すべきポイントなどについて紹介している警察庁が作成したオンデマンド教材がありますので、そちらもご覧ください。
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関連用語
○ PTSD
日本語では「心的外傷後ストレス症」と言います。
トラウマ体験によって強いストレスを受け、1か月以上経過しても以下の症状があって生活に支障が出ている状態のことです(ここで言うトラウマとは、実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事を直接体験する、または、直に目撃することで生じる心的外傷のことです。)。
- 事件の記憶が生々しくよみがえってきたり、事件の夢をみる(再体験(侵入)症状)
- 事件に関連するものや場所を避ける(回避症状)
- 不眠、過剰に警戒する、集中困難、イライラする、強い怒り(過覚醒症状)
- 否定的な感情や考え方(認知や気分の陰性変化)
回復が進まず、つらい状態が長く続いている場合には、医療機関、相談機関又はカウンセラーに相談することが勧められます。
≪再体験(侵入)症状(フラッシュバック)が起こったときの対処方法≫
再体験(侵入)症状とは、トラウマ体験に関するきっかけがあると、自分の意思とは関係なく事件の記憶が生々しくよみがえることで、フラッシュバックとも言います。
再体験症状により強い感情がこみ上げてきたり、事件のことが頭から離れなくなった場合は、
- 呼吸をゆっくりとはく(少し息を吸った後、ゆっくりと長くはく)
- 座ってゆっくり足踏みをして、地面に足がついていることを確認する
- 体にぎゅっと力を入れたあと、一気に緩める
- 冷たいペットボトルを持つ、冷たい水を飲む
などの方法が有効です。
再体験症状はとても苦しい症状であるため、日常生活に支障が出ることがあります。
再体験症状が続く場合には、医療機関、相談機関又はカウンセラーに相談することが勧められます。
○ 死別反応(悲嘆反応)
愛する対象であった家族や身近な人との死別を体験すると、感情や行動、身体、物の考え方に大きな影響を受け、様々な反応や症状が現れます。遺族にとっては非常につらい体験となりますが、これらの反応や症状の多くは、誰にでも起こる通常の反応で、時間の経過とともに軽減していくことが期待できるものです。このような反応を「死別反応」あるいは「悲嘆(グリーフ)反応」と言い、多くは治療の必要はありません。
悲嘆反応としては次のようなものがあります。
- 故人に対する強い思慕や憧れ
- 故人に対する考えや記憶へのとらわれ
- その死が信じられない
- 故人が亡くなっていることを思い出させるものを回避
- 怒り・恨み・悲しみなどの強い情動的苦痛
- 人生が無意味であるという感覚
- 死別後の対人関係や活動の再開の困難
- 強い孤独感
≪遷延性悲嘆症≫
一方で、犯罪被害によって突然大切な人を亡くすことは深刻なトラウマ体験となり、遺族に通常の範囲を超えるような長期間の悲嘆反応が見られ、回復が困難となることがあります。こういった状態を「遷延性悲嘆症」と呼びます。
遷延性悲嘆症からの回復は、まず、自分自身にどのような変化が生じているか自覚することから始まります。その上で、喪失の現実を受け入れること、避けていた悲嘆の痛みを消化していくことなどの課題を徐々に乗り越え、最終的には、故人との絆を感じながら自分の人生を取り戻していきます。
これらの回復に向けての課題は、遺族のみで抱え込むにはあまりにもつらいことですが、一方で身近な人や周囲の人への相談も難しいこともしばしばあります。そのような場合には、医療機関、相談機関又はカウンセラーへの相談や遺族同士の会に参加することなども考えてみてください。
○ 記念日反応
事件と関連のある日や亡くなった人の命日や誕生日、結婚記念日などの特定の日になると不安になったり、気持ちが落ち込むことを言います。
記念日反応への対処方法としては、まず記念日反応について理解した上で、下記のようなことを試してみてください。
- 関連する日は前もって予定を入れておく
- 信頼できる人と一緒に過ごせるように計画を立てる
- 信頼できる人に気持ちを聞いてもらう
- 自分がリラックスできると思うことをしてみる
○ 二次的被害
事件後に、周囲の言動によって、被害者がさらに傷つくことを「二次的被害」と言います。社会的偏見や周りの人の無理解や配慮を欠いた言動、インターネット上での誹謗中傷、報道機関による過剰な取材などが当たります。
例えば、
- 近所の人に、無理をして明るく振る舞っていたら「元気そう」「強いね。私なら耐えられない」などと言われた
- 知人から、被害後間もない時期に「頑張って」「早く忘れて前向きに生きて」と言われた
- 知人に「家にこもってばかりはだめ」と言われ、無理矢理、外出させられた
- 友人に「時間も経ったし、これからは普通に接するね」と言われた
などです。
被害者との関係性にもよりますが、良かれと思って言ったこと、行動したことが逆に被害者を傷つけてしまうこともあります。二次的被害は、被害者の回復の妨げになると言われています。また、被害者と接する人は誰でも二次的被害を与えてしまう可能性があるので、被害者の周囲の方々や支援を行う方は、自分も被害者に二次的被害を与える可能性があることを自覚した上で、被害者の気持ちに配慮した言動を心がける必要があります。
その一方で、二次的被害を恐れるあまり被害者への支援を行わないこともまた二次的被害となってしまいます。被害者への支援は誰にとっても難しいことです。大切なことは、被害者の気持ちをこまめに確認して支援を行うことです。この姿勢を大切にすることで、被害者との信頼関係を築いていきましょう。
被害者から伺った、周囲の対応で良かったと感じたことはこのようなことです。
- 友人が代わりに買い物をしてくれた。外出にも付き合ってくれた
- 友人が夕飯を差し入れてくれた
- 職場で、休暇や勤務配置を考慮してくれた
- 友人に被害を打ち明けたら、直ぐに駆けつけてくれた
- 学校で、先生や友人がいつもどおり接してくれた
- 「つらい気持ちになったときは話を聞くよ」と言って、話を聞いてくれた
○ 代理受傷
被害者を支援(サポート)する方が、被害者のつらい状況を目の当たりにしたり、熱心に話を聴くうちに、被害者と同じような心身の反応が起こることがあります。
これを支援者の「代理受傷」や「二次受傷」「共感疲労」などと呼びます。被害者に対して安定したサポートを継続的に行うため、こういったことが支援者側にも起こり得ることを支援者自身が認識しておくことが大切です。
支援者のストレスチェックリスト、予防・対応策については、「支援者自身のケア」のページを参照してください。
支援者自身のケア
被害者等の声