第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

4 国民の財産を狙う事犯への対策

(1)財産犯の被害額の罪種別状況

財産犯(注)の被害額の推移は、図表2-30のとおりであり、その被害総額は平成14年以降、減少傾向にある。

平成30年の財産犯の被害額の罪種別状況は、図表2-31のとおりである。

注:強盗、恐喝、窃盗、詐欺、横領及び占有離脱物横領

 
図表2-30 財産犯の被害額の推移(平成21~30年)
図表2-30 財産犯の被害額の推移(平成21~30年)
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図表2-31 財産犯の被害額の罪種別被害状況(平成30年)
図表2-31 財産犯の被害額の罪種別被害状況(平成30年)
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(2)侵入窃盗対策

侵入窃盗の認知・検挙状況の推移は、図表2-32のとおりである。侵入窃盗の認知件数は、ピーク時である平成14年(33万8,294件)以降減少傾向にあり、同年から平成30年にかけて、27万5,549件(81.5%)減少した。

警察庁、経済産業省、国土交通省及び建物部品関連の民間団体から構成される「防犯性能の高い建物部品の開発・普及に関する官民合同会議」では、平成16年4月から、侵入までに5分以上の時間を要するなど一定の防犯性能があると評価した建物部品(CP部品)を掲載した「防犯性能の高い建物部品目録」をウェブサイトで公表するなどして、CP部品の普及に努めており、目録には平成31年3月末現在で17種類3,393品目が掲載されている。さらに、警察庁のウェブサイトに「住まいる防犯110番」(注)を開設し、侵入犯罪対策の広報を推進している。

注:https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki26/index.html

 
CPマーク CP部品だけが表示できる共通標章でCrime Prevention(防犯)の頭文字を図案化したもの
CPマーク
CP部品だけが表示できる共通標章でCrime Prevention(防犯)の頭文字を図案化したもの
 
図表2-32 侵入窃盗の認知・検挙状況の推移(平成21~30年)
図表2-32 侵入窃盗の認知・検挙状況の推移(平成21~30年)
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(3)侵入強盗対策

侵入強盗の認知・検挙状況の推移は、図表2-33のとおりである。侵入強盗の認知件数は、ピーク時である平成15年(2,865件)以降減少傾向にあり、同年から平成30年にかけて、2,289件(79.9%)減少した。

警察では、コンビニエンスストアや金融機関等を対象とした強盗対策として、防犯体制、現金管理の方法、店舗等の構造、防犯設備等について基準を定め、警察官の巡回や機会を捉えた防犯訓練等を実施している。

 
図表2-33 侵入強盗の認知・検挙状況の推移(平成21~30年)
図表2-33 侵入強盗の認知・検挙状況の推移(平成21~30年)
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(4)自動車盗対策

自動車盗の認知・検挙状況の推移は、図表2-34のとおりである。

警察庁、財務省、経済産業省、国土交通省及び民間19団体から構成される「自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチーム」では、「自動車盗難等防止行動計画」(平成14年1月策定、平成28年12月改訂)に基づき、イモビライザ(注)等の盗難防止装置やナンバープレート盗難防止ネジ等の普及促進、自動車の使用者に対する防犯指導、広報啓発等を推進している。

こうした取組もあり、ピーク時である平成15年(6万4,223件)以降、自動車盗の認知件数は減少傾向にある。

注:エンジンキーに埋め込まれた送信機から発するIDコードと、車両本体の電子制御装置にあらかじめ登録されたIDコードが一致しなければ、エンジンが始動しない電子式盗難防止装置

 
自動車盗難防止の広報ポスター
自動車盗難防止の広報ポスター
 
図表2-34 自動車盗の認知・検挙状況の推移(平成21~30年)
図表2-34 自動車盗の認知・検挙状況の推移(平成21~30年)
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(5)自転車盗対策

自転車盗の認知・検挙状況の推移は、図表2-35のとおりである。

警察庁の要請を踏まえ、平成12年以降、業界団体において、不正開錠に強い錠の普及が促進されたことなどから、平成14年以降自転車盗の認知件数は減少傾向にある。

警察では、引き続き関係機関・団体等と連携し、自転車の利用者に対して施錠の励行や防犯登録の呼び掛けを行うなど、自転車の盗難防止及び被害回復に向けた取組を推進している。

 
図表2-35 自転車盗の認知・検挙状況の推移(平成21~30年)
図表2-35 自転車盗の認知・検挙状況の推移(平成21~30年)
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(6)万引き対策

万引きの認知・検挙状況の推移は、図表2-36のとおりである。万引きの認知件数は平成22年以降減少傾向にあるものの、刑法犯認知件数に占める万引きの認知件数の割合は上昇傾向にあり、平成30年中は12.2%に達している。また、万引きの検挙人員全体に占める65歳以上の高齢者の割合は上昇傾向にあり、平成30年中は39.9%であった。

警察では、万引きを許さない社会気運の醸成や規範意識の向上を図るため、関係機関・団体等と連携した広報啓発活動を行うなど、社会を挙げた万引き防止に向けた取組を推進している。

 
図表2-36 万引きの認知・検挙状況の推移(平成21~30年)
図表2-36 万引きの認知・検挙状況の推移(平成21~30年)
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(7)ひったくり対策

ひったくりの認知・検挙状況の推移は、図表2-37のとおりである。

ひったくりの認知件数は、平成14年(5万2,919件)をピークに16年連続で減少しており、平成30年中は1,920件と、ピーク時の27分の1以下にまで減少した。

また、平成14年中ひったくりの検挙人員全体の69.3%を占めていた14歳から19歳までの検挙人員の割合は、その後大きく減少しており、平成30年中は34.2%であった(ひったくりの検挙人員全体の減少数への寄与率(注1)は、74.3%)。

一方で、身近な場所で発生する犯罪であるひったくりは、依然として国民に不安を与えている(注2)ことから、警察では、ひったくり事件の発生状況や手口を分析して、ひったくりの被害防止に効果のあるかばんの携行方法や通行方法等について広報・啓発を行っているほか、関係機関・団体等と協力し、自転車用のひったくり防止カバー等の普及を促進するなどしている。

注1:データ全体の変化を100とした場合に、構成要素となるデータの変化の割合を示す指標

注2:内閣府が平成29年に実施した「治安に関する世論調査」(82頁参照)によれば、「あなたが、自分や身近な人が被害に遭うかもしれないと不安になる犯罪は何ですか」との問い(複数回答)に対して、「すり、ひったくりなどの携行品を盗む犯罪」と答えた者は45.4%であり、ひったくりに不安を覚えている国民が少なくないことが分かる。

 
図表2-37 ひったくりの認知・検挙状況の推移(平成21~30年)
図表2-37 ひったくりの認知・検挙状況の推移(平成21~30年)
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(8)通貨偽造犯罪対策

① 発見状況

偽造日本銀行券の発見枚数(注)の推移は図表2-38のとおりであり、平成30年中は、前年より増加した。

注:届出等により警察が押収した枚数

 
図表2-38 偽造日本銀行券の発見枚数の推移(平成21~30年)
図表2-38 偽造日本銀行券の発見枚数の推移(平成21~30年)
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② 特徴的傾向と対策

近年は、高性能のプリンタ等で印刷された偽造日本銀行券が多数発見されているほか、精巧に偽造された日本銀行券が海外から日本国内へ大量に持ち込まれる事案が発生している。

警察庁では、財務省、日本銀行等と連携して、ポスターやウェブサイトで偽造日本銀行券が行使された事例や偽造通貨を見破る方法を紹介するなどして、国民の注意を喚起している。

CASE

派遣社員の男(41)は、平成30年3月から同年4月にかけて、福岡県内に所在する同男の実家等において、カラープリンタを使用して一万円券を偽造した上、同年4月に、同県内の複数の神社において、授与品購入代金の支払として偽造一万円券を手渡し、行使した。同年5月に、同男を通貨偽造・同行使罪で逮捕した(福岡)。

(9)カード犯罪(注)対策

カード犯罪の認知・検挙状況の推移は図表2-39のとおりである。

警察では、早期検挙のため捜査を徹底するほか、口座名義人からキャッシュカード等の盗難・紛失等の届出があった場合にカードの利用停止を促すなど、被害の拡大防止に努めている。

注:クレジットカード、キャッシュカード、プリペイドカード及び消費者金融カードを悪用した犯罪

 
図表2-39 カード犯罪の認知・検挙状況の推移(平成21~30年)
図表2-39 カード犯罪の認知・検挙状況の推移(平成21~30年)
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(10)悪質商法事犯対策

① 利殖勧誘事犯(注1)

利殖勧誘事犯の検挙状況の推移は、図表2-40のとおりである。平成30年中は、集団投資スキーム(ファンド)に関連した事犯(注2)の検挙が目立った。

利殖勧誘事犯では、被害者が被害に遭ってから気付くまでに時間を要する場合が多いことから、警察では、同事犯の被害拡大防止のため、早期の事件化を図るとともに、犯罪に利用された預貯金口座の金融機関への情報提供等を推進しており、平成30年中は同事犯に関する情報提供件数が135件あった。

注1:出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)、金融商品取引法、無限連鎖講の防止に関する法律等の違反に係る事犯

注2:出資者から集めた資金を有価証券や事業への投資等で運用し、生じる利益を配分する仕組みを商材とする事犯

 
図表2-40 利殖勧誘事犯の検挙状況の推移(平成21~30年)
図表2-40 利殖勧誘事犯の検挙状況の推移(平成21~30年)
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図表2-41 利殖勧誘事犯の類型別検挙状況(平成30年)
図表2-41 利殖勧誘事犯の類型別検挙状況(平成30年)
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CASE

会社役員の男(55)は、平成22年3月から28年8月にかけて、実際は、出資金を外国為替証拠金取引等の事業により運用し、その収益を出資者に配当する意思もないのに、出資者に対し、「出資金を日本や海外の事業に投資して運用している。月2%の配当を出す」などと虚偽の事実を告げ、匿名組合契約による出資の名目で、16都府県の約200人から約37億円をだまし取るなどした。平成30年4月までに、同男及び1法人を詐欺罪等で検挙した(岐阜)。

② 特定商取引等事犯(注)

特定商取引等事犯の検挙状況の推移は、図表2-42のとおりである。平成30年中の検挙事件を類型別にみると、訪問販売に関連した事犯の検挙が目立った。

特定商取引等事犯では、被害者が被害に遭っていることに気付いても、被害者自身で解決しようとして警察への届出までに時間を要する場合もみられることから、警察では、ウェブサイト等を通じて早期の相談を呼び掛けている。

注:訪問販売、電話勧誘販売等で事実と異なることを告げるなどして商品の販売や役務の提供を行う悪質商法。具体的には、訪問販売等の特定商取引を規制する特定商取引に関する法律違反及び特定商取引に関連する詐欺、恐喝等に係る事犯

 
図表2-42 特定商取引等事犯の検挙状況の推移(平成21~30年)
図表2-42 特定商取引等事犯の検挙状況の推移(平成21~30年)
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図表2-43 特定商取引等事犯の類型別検挙状況(平成30年)
図表2-43 特定商取引等事犯の類型別検挙状況(平成30年)
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CASE

住吉会傘下組織の組長の男(51)らは、平成26年7月から29年7月にかけて、高齢者を対象に、実際は健康食品の注文を受けていないのに、電話で、「注文を受けていた商品が出来上がりましたので送ります」などと虚偽の事実を告げた上で、健康食品を代金引換サービスで送り付け、健康食品購入代金の名目で、全国の延べ約1万7,000人から約4億8,000万円をだまし取った。平成30年6月までに、同組長ら24人を詐欺罪で逮捕した(埼玉、千葉)。

(11)ヤミ金融事犯対策

ヤミ金融事犯の検挙状況の推移は、図表2-44のとおりであり、ヤミ金融事犯全体の検挙事件数及び検挙人員は近年増加傾向にある。そのうち、無登録・高金利事犯(注1)については検挙事件数及び検挙人員が減少傾向にあるが、貸金業に関連した犯罪収益移転防止法、詐欺、携帯電話不正利用防止法(注2)違反等に係る事犯(ヤミ金融関連事犯)についてはいずれも増加傾向にある。

なお、無登録・高金利事犯のうち、携帯電話や預貯金口座を利用して非面接で敢行される090金融事犯については、平成30年中は、検挙事件数の20.8%、検挙人員の38.6%を占めている。また、平成30年中に検挙した無登録・高金利事犯に占める暴力団が関与した事犯の割合は、23.1%であった。

警察では、ヤミ金融事犯の取締りを推進するとともに、ヤミ金融に利用された預貯金口座の金融機関への情報提供、レンタル携帯電話等の解約に関する事業者への要請等の総合的な対策を行っており、平成30年中の金融機関への情報提供件数は1万5,289件、レンタル携帯電話事業者への解約要請件数は1,085件であった。

注1:貸金業法違反(無登録営業)及び出資法違反(高金利等)に係る事犯

注2:携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律

 
図表2-44 ヤミ金融事犯の検挙状況の推移(平成21~30年)
図表2-44 ヤミ金融事犯の検挙状況の推移(平成21~30年)
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CASE

宗教法人の代表役員の男(77)らは、平成23年7月から29年10月にかけて、電話やファックスで顧客を勧誘し、融資を申し込んできた顧客約500人に対し、寄付や物品売買を装い、法定利息の約8倍から約18倍で金銭を貸し付け、元利金合計約18億4,000万円を受領するなどした。平成30年2月までに、同男ら3法人8人を出資法違反(超高金利)等で検挙した(兵庫、新潟、佐賀)。

(12)知的財産権侵害事犯対策

① 商標権侵害事犯(注1)及び著作権侵害事犯(注2)

知的財産権侵害事犯の検挙状況の推移は、図表2-45のとおりである。偽ブランド事犯等の商標権侵害事犯、海賊版事犯等の著作権侵害事犯においては、インターネットを利用して侵害行為が行われる場合が多いことから、警察では、サイバーパトロール等による端緒情報の把握に努めている。

また、不正商品対策協議会(注3)の活動への参加をはじめ、権利者等と連携した知的財産権の保護及び不正商品の排除に向けた広報啓発活動を推進している。

注1:商標法違反に係る事犯

注2:著作権法違反に係る事犯

注3:不正商品の排除及び知的財産権の保護を目的として、知的財産権侵害に悩む各種業界団体により設立された任意団体。警察庁等の関係機関と連携し、シンポジウムの主催や各種催物への参加を通じて、広報啓発活動、海外における不正商品販売の実態調査、海外の捜査機関や税関等に対する働き掛け等を行っている。

 
図表2-45 知的財産権侵害事犯の検挙状況の推移(平成26~30年)
図表2-45 知的財産権侵害事犯の検挙状況の推移(平成26~30年)
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図表2-46 押収した偽ブランド品のうち、仕出国・地域が判明したものの国・地域別押収状況の推移(平成21~30年)
図表2-46 押収した偽ブランド品のうち、仕出国・地域が判明したものの国・地域別押収状況の推移(平成21~30年)
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② 営業秘密侵害事犯(注)

営業秘密侵害事犯については、平成30年中、18事件23人を検挙した。

警察では、各都道府県警察で指定された営業秘密保護対策官が、警察署における営業秘密侵害事犯の相談対応について指導を行うなどにより捜査能力の一層の向上を図っているほか、被害の早期届出の必要性についての企業に対する啓発等を推進している。

注:不正競争防止法第21条第1項及び第3項に係る事犯

CASE

産業用機械の設計及び製造等を目的とする会社の元従業員の男(50)らは、同社に在職中の平成29年7月から同年8月にかけて、不正の利益を得る目的で、同社の営業秘密である産業用機械設計図データを、同男らが所有するハードディスク等に記録させて複製を作成し、同社の営業秘密を領得した。平成30年5月、同男ら2人を不正競争防止法違反(営業秘密の領得)で逮捕した(静岡)。



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