第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

5 構造的な不正事案への対策

(1)政治・行政をめぐる不正事案

国又は地方公共団体の幹部職員等による贈収賄事件、入札談合等関与行為防止法(注)違反事件、公契約関係競売等妨害事件、買収等の公職選挙法違反事件等の政治・行政をめぐる不正は依然として後を絶たない。

しかし、このような事案は、直接の被害者がおらず、金品の受渡し等は密室で行われることが多いことから、被害申告や目撃者の証言等が通常は期待できず、端緒情報の把握や犯罪事実の立証は容易ではない。

警察では、このような事案に対し、端緒情報の把握に努めるとともに、不正の実態に応じて様々な刑罰法令を適用するなどして、事案の解明を進めている。

注:入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律

 
図表2-47 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数(注1)の推移(平成21~30年)
図表2-47 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(平成21~30年)
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CASE

元国土交通省北海道開発局釧路開発建設部根室農業事務所第一工事課長(56)は、平成27年9月から同年10月にかけて、太陽光発電システム機器の設計、製造、販売等を業とする会社の代表取締役及び営業担当社員から、同部が発注した太陽光発電設備の設計業務等に関して同社を下請業者として推奨するなど、有利かつ便宜な取り計らいをしたことに対する謝礼として、現金(10万円)及び旅行代金等の財産上の利益(合計約51万円相当)の供与を受けた。平成30年6月、同元課長を収賄罪で逮捕した(北海道)。

CASE

元静岡県伊東市長(71)は、在職中の平成27年8月から同年9月にかけて、不動産会社の代表取締役から、同市が同社所有の不動産を購入したことに関し、有利かつ便宜な取り計らいをしたことに対する謝礼として、現金合計1,300万円を収受した。平成30年6月、同元市長を収賄罪で逮捕した(警視庁・静岡)。

(2)経済をめぐる不正事案

企業の役職員らが組織の内部統制を逸脱したことによる背任、詐欺、横領等の違法事犯のほか、金融機関からの各種融資をめぐる詐欺事犯、国及び地方公共団体の補助金の不正受給事犯が後を絶たない状況にある。また、司法書士、弁護士といった社会的地位を有する者による詐欺、横領等の犯罪も発生している。

警察では、これらの金融・不良債権関連事犯、企業の経営等に係る違法事犯、証券取引事犯、財政侵害事犯及びその他国民の経済活動の健全性又は信頼性に重大な影響を及ぼすおそれのある犯罪の取締りを推進している。また、様々な投資名目で消費者等が被害に遭う詐欺事件等においては、被害者が多数・広域に及ぶ場合があることから、関係する都道府県警察が連携を図っている。

このような事案に対しては、対象となる企業等の財務実態の解明が不可欠であることから、都道府県警察においては、公認会計士や税理士等の専門的な知識を有する者を財務捜査官として採用し、その高度な技能を活用して事案の早期解明を図っている。

 
図表2-48 経済をめぐる不正事犯の検挙事件数の推移(平成26~30年)
図表2-48 経済をめぐる不正事犯の検挙事件数の推移(平成26~30年)
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CASE

社会福祉法人の理事長(71)は、平成27年8月、自己の利益を図り、同法人に損害を加える目的で、同法人のため誠実に職務を遂行すべき任務に背き、金融機関から1億円を借り入れ、同法人に同額の返済債務を負わせ、財産上の損害を与えた。平成30年1月、同理事長を背任罪で逮捕した(大阪)。

CASE

成人式等のための衣装、装飾小物の販売、レンタル等を事業目的とする会社の代表取締役(55)は、融資金名目で金銭をだまし取ろうと考え、同社が債務超過に陥るなどし、資金繰りに窮している状況であり、融資金を返済する意思も能力もないにもかかわらず、内容虚偽の決算報告書等を金融機関に提出して融資申し込みを行い、平成28年9月、2つの金融機関から合計約6,500万円をだまし取った。平成30年6月、同代表取締役を詐欺罪で逮捕した(神奈川)。

CASE

東京弁護士会に所属する弁護士(51)は、平成26年12月から27年12月にかけて、同弁護士が受任していた遺産分割、不動産共有持分売買、交通事故損害賠償請求等に係る交渉の相手方から不動産売買代金や損害賠償金として弁護士法人の預り口口座に入金された現金から合計約1億5,600万円を横領した。平成30年4月、同弁護士を業務上横領罪で逮捕した(警視庁)。



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