第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

3 子供の安全を守るための取組

(1)子供を犯罪から守るための取組

① 子供が被害者となる犯罪

13歳未満の子供が被害者となった刑法犯の認知件数(以下「子供の被害件数」という。)は、図表2-22のとおりであり、減少傾向にある。同図表に掲げる罪種のうち、認知件数に占める子供の被害件数の割合が最も高い罪種は略取誘拐であり、平成30年中は36.2%(認知件数304件のうち110件)であった。

 
図表2-22 子供(13歳未満)の被害件数及び罪種別被害状況の推移(平成21~30年)
図表2-22 子供(13歳未満)の被害件数及び罪種別被害状況の推移(平成21~30年)
Excel形式のファイルはこちら
② 子供の生活空間における安全対策(注)
ア 学校や通学路の安全対策

警察では、子供が被害者となる犯罪を未然に防止し、子供が安心して登下校することなどができるよう、制服を着用した警察官による通学路や通学時間帯に重点を置いたパトロールを強化している。また、退職した警察官等をスクールサポーターとして委嘱し学校へ派遣しているほか、地方公共団体、防犯ボランティア団体、地域住民等と連携した子供の見守り活動を行うなど、学校や通学路等における子供の安全確保を推進している。

注:50、51頁(トピックスI 登下校時における子供の安全を守るための警察の取組)参照

イ 被害防止教育の推進

警察では、子供に犯罪被害を回避する能力等を身に付けさせるため、小学校、学習塾等において、学年や理解度に応じ、紙芝居、演劇、ロールプレイング方式等により、危険な事案への対応要領等について子供が考えながら参加・体験できる防犯教室、地域安全マップ作成会等を関係機関・団体と連携して開催している。また、教職員に対しては、不審者が学校に侵入した場合の対応要領の指導等を行っている。

ウ 情報発信活動の推進

警察では、子供が被害に遭った事案等の発生に関する情報を子供や保護者に対して迅速に提供できるよう、警察署と教育委員会、小学校等との間で情報共有体制を整備するとともに、都道府県警察のウェブサイトや電子メール等を活用した情報発信を行うなど、地域住民に対する情報提供を実施している。

エ ボランティアに対する支援

警察では、「子供110番の家」として危険に遭遇した子供の一時的な保護と警察への通報等を行うボランティアに対し、ステッカーや対応マニュアル等を配布するなどの支援を行っているほか、防犯ボランティア団体との合同パトロールを実施するなど、自主防犯活動を支援している。

CASE

徳島県警察では、子供の見守り活動等を強化することを目的に、青色回転灯装備車両によるパトロールを行う県内の防犯ボランティア団体に対して、ドライブレコーダー及び「ドライブレコーダー作動中」と記載されたマグネットプレートを配布した。また、配布したドライブレコーダーを搭載した車両を使用した不審者対応訓練を実施するなど、防犯ボランティアに対する支援を推進している。

 
青色回転灯装備車両に警察が配布したマグネットプレートを設置している状況
青色回転灯装備車両に警察が配布したマグネットプレートを設置している状況
③ 子供女性安全対策班による活動の推進

警察では、平成21年以降、警視庁及び道府県警察本部に設置された子供女性安全対策班(JWAT(注))が、子供や女性を対象とする性犯罪等の前兆とみられる声掛け、つきまとい等の事案に関する情報収集、分析等により行為者を特定し、検挙又は指導・警告措置を講じている。検挙活動等に加え、これらの先制・予防的活動を積極的に推進していくことによって、子供や女性を被害者とする性犯罪等の未然防止に努めている。

注:Juvenile and Woman Aegis Teamの略

④ 子供対象・暴力的性犯罪出所者の再犯防止措置制度の運用

警察では、13歳未満の子供を被害者とした強制わいせつ等の暴力的性犯罪で服役して出所した者について、法務省から情報提供を受け、各都道府県警察において、その所在確認を実施しているほか、必要に応じて当該出所者の同意を得て面談を行うなど、再犯防止に向けた措置を講じている。

(2)いじめ事案への対応

近年のいじめ(注)に起因する事件数及び検挙・補導状況は図表2-23のとおりである。また、平成30年中の検挙・補導人員(229人)のうち、その約5割を中学生が占めている。

警察では、いじめ防止対策推進法の趣旨に基づき、少年相談活動やスクールサポーターの学校への訪問活動等により、いじめ事案の早期把握に努めるとともに、把握したいじめ事案の重大性及び緊急性、被害少年及びその保護者等の意向、学校等の対応状況等を踏まえ、学校等と緊密に連携しながら、必要な対応を推進している。

注:いじめの定義は、平成25年6月に制定されたいじめ防止対策推進法第2条に定める「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」としている。

 
図表2-23 いじめに起因する事件数と検挙・補導状況の推移(平成26~30年)
図表2-23 いじめに起因する事件数と検挙・補導状況の推移(平成26~30年)
Excel形式のファイルはこちら
 
図表2-24 警察によるいじめ事案への対応
図表2-24 警察によるいじめ事案への対応

(3)少年(注1)の福祉を害する犯罪への対策と有害環境対策

警察では、福祉犯(注2)の取締り、被害少年の発見・保護、インターネット上の違法情報・有害情報の取締り等少年を取り巻く有害環境対策を推進している。このうち、児童買春、児童ポルノの製造等の子供の性被害(注3)に係る対策については、国家公安委員会が政府内における同対策の企画・立案及び関係機関との総合調整の業務を行っており、平成29年4月に犯罪対策閣僚会議において策定された「子供の性被害防止プラン」(児童の性的搾取等に係る対策の基本計画)に基づき、政府全体の取組を推進している。

注1:20歳未満の者

注2:少年の心身に有害な影響を与え、少年の福祉を害する犯罪をいう。例えば、児童買春・児童ポルノ禁止法違反、児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為等)、労働基準法違反(年少者の危険有害業務等)等が挙げられる。

注3:児童に対する性的搾取(児童に対し、自己の性的好奇心を満たす目的又は自己若しくは第三者の利益を図る目的で、児童買春、児童ポルノの製造その他の児童に性的な被害を与える犯罪行為をすること及び児童の性に着目した形態の営業を行うことにより児童福祉法第60条に該当する行為をすること並びにこれらに類する行為をすることをいう。)及びその助長行為(児童買春の周旋、児童買春等目的の人身売買、児童の性に着目した形態の営業のための場所の提供及び児童ポルノの提供を目的としたウェブサイトの開設等をいう。)をいう。

① 少年の福祉を害する犯罪への対策

福祉犯の被害少年数は図表2-25のとおりであり、平成23年以降は減少している。一方、検挙件数は平成28年以降増加傾向にある。

被害少年を早期に発見・保護するとともに、新たな被害を発生させないため、警察では、積極的な取締りと被害少年に対する支援のほか、援助交際を求めるなどのインターネット上の不適切な書き込みを行った児童に対し指導を行うなどの取組を推進している。さらに、国民からの情報提供、インターネット・ホットラインセンター(IHC)(注)からの通報、街頭補導活動、サイバーパトロール等による端緒情報の把握に努めるとともに、情報の分析、積極的な取締り等を推進している。

注:149頁参照

 
図表2-25 福祉犯の検挙件数等の推移(平成26~30年)
図表2-25 福祉犯の検挙件数等の推移(平成26~30年)
Excel形式のファイルはこちら
ア 児童ポルノ

児童ポルノ事犯は近年増加傾向にあり、平成30年中の検挙件数は3,097件、検挙人員は2,315人と、いずれも過去最多となった。被害児童数(注)は近年の増加傾向が平成29年に減少に転じたものの、平成30年は前年比で増加した。被害態様別でみると、児童が自らを撮影した画像に伴う被害が約4割を占め、被害児童数は平成24年以降6年連続で増加している。

警察では、このような情勢を踏まえ、関係機関・団体と緊密な連携を図りながら、低年齢児童を狙ったグループや児童ポルノ販売グループによる悪質な事犯等に対する取締りの強化、国内サイト管理者等に対する児童ポルノ画像の削除依頼、被害児童に対する支援等を推進している。

また、警察庁では、平成30年12月、国内外の関係機関・団体が参加する子供の性被害対策に関するセミナーを開催し、政府の取組を紹介するとともに、関係機関・団体との情報交換を行うなどの連携強化に努めている。さらに、プロバイダによる閲覧防止措置(ブロッキング)について、アドレスリスト作成管理団体に情報提供や助言を行うなどの流通・閲覧防止対策を推進している。

注:児童ポルノ事犯の検挙を通じて、新たに特定された被害児童数

 
図表2-26 児童ポルノ事犯の検挙状況等の推移(平成26~30年)
図表2-26 児童ポルノ事犯の検挙状況等の推移(平成26~30年)
Excel形式のファイルはこちら

CASE

無職の男(29)は、平成29年1月から同年4月にかけて、SNSで知り合った10代の少女らに、ホテル等においてみだらな行為を行い、その状況を撮影して児童ポルノを製造した。さらに、同男は、同年1月から同年7月にかけて、不特定多数の者に対し、SNSを利用して、児童ポルノ画像を送るなどした。平成30年5月までに、同男を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造・提供)等で逮捕した(島根)。

CASE

保育士の男(25)は、自身が勤務する保育園の園児(2)に対してわいせつな行為を行い、その様子をスマートフォンで撮影し、児童ポルノを製造した。平成30年5月、同男を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ製造)等で逮捕した(宮城)。

イ SNSに起因する事犯

SNSは、インターネットの匿名性や不特定多数の者に対して瞬時に連絡を取ることができる特性から、児童買春等の違法行為の「場」となっている状況がうかがえる。また、平成30年中、SNSに起因して犯罪被害に遭った児童の数は、前年より減少したが、1,811人と引き続き高い水準にある。フィルタリング(注)の利用の有無が判明した被害児童のうち約9割が被害時にフィルタリングを利用していなかったことも明らかになった。

このような状況を踏まえ、警察では、関係機関・団体等と連携し、保護者に対する啓発活動、児童に対する情報モラル教育、スマートフォンを中心としたフィルタリングの普及促進等の取組を推進している。また、SNSに起因する事犯の児童の被害防止に取り組む「青少年ネット利用環境整備協議会」に参画し、事業者に対し検挙事例等に関する情報を提供するなど、事業者による自発的な被害防止対策の実施についても促進している。

注:インターネット上のウェブサイト等を一定の基準に基づき選別し、青少年に有害な情報を閲覧できなくするプログラムやサービス

 
図表2-27 SNSに起因する事犯の被害児童数の推移(平成20~30年)
図表2-27 SNSに起因する事犯の被害児童数の推移(平成20~30年)
Excel形式のファイルはこちら
② 少年を取り巻く有害環境への対策

近年、繁華街等において児童の性に着目した新たな形態の営業が出現しているなど、少年を取り巻く社会環境は変容している。警察では、少年の保護と健全育成の観点から、あらゆる警察活動を通じて、各地域の実態の把握に努めるとともに、これらの営業において稼働している女子高校生等に対する補導、立ち直り支援等の取組を推進している。

また、少年に有害な商品等を取り扱う店等に対して、少年の健全育成のための自主的措置が促進されるよう指導・要請を行うなど、有害環境対策を推進している。

MEMO JKビジネスと呼ばれる営業実態の把握と取締り

平成30年12月末現在、警察が把握しているJKビジネスと呼ばれる営業(以下単に「JKビジネス」という。)の店舗数(無店舗型を含む。)は137店と、前年比で横ばいであり、東京都及び大阪府に全体の約9割が集中している。

警察では、JKビジネスの実態の把握を一層推進するとともに、JKビジネスに関する違法行為に対して厳正な取締りを行っている。

 
図表2-28 JKビジネスの店舗数の推移(平成29年12月末現在及び30年12月末現在)
図表2-28 JKビジネスの店舗数の推移(平成29年12月末現在及び30年12月末現在)
Excel形式のファイルはこちら

(4)少年の犯罪被害への対応

警察では、犯罪の被害に遭った少年に対し、警察本部に設置された少年サポートセンター等に所属する少年補導職員(注)を中心としてカウンセリング等の継続的な支援を行うとともに、大学の研究者、精神科医、臨床心理士等の専門家を被害少年カウンセリングアドバイザーとして委嘱し、支援を担当する職員が専門的な助言を受けることができるようにしている。

注:特に専門的な知識及び技能を必要とする活動を行わせるため、その活動に必要な知識と技能を有する警察職員(警察官を除く。)のうちから警視総監又は道府県警察本部長が命じた者で、少年の非行防止や立ち直り支援等の活動において、重要な役割を果たしている。平成31年4月1日現在、全国に約920人の少年補導職員が配置されている。

 
図表2-29 被害少年の支援
図表2-29 被害少年の支援


前の項目に戻る     次の項目に進む