特集 近年における犯罪情勢の推移と今後の展望

3 犯罪情勢をめぐる社会的背景

(1)平成14年にかけての刑法犯認知件数の増加

平成14年にかけて、街頭犯罪及び侵入犯罪を中心として、刑法犯認知件数が大幅に増加した理由を明確に述べることは困難であるが、その背景には、経済情勢、社会環境の変化等の様々な要因が複雑に絡み合ったものがあったと考えられる。そこで、刑法犯認知件数の増加に影響を与えたと考えられる要因について、いくつかの調査結果等を紹介する。

例えば、世論調査(注)によれば、図表特-23のとおり、「社会全般のモラルが低下している」と感じる20歳以上の者の割合は、昭和63年は27.2%であったが、平成17年は57.8%と2倍以上に増加していた。

注:「少年非行問題に関する世論調査」(昭和63年)、「少年非行問題に関する世論調査」(平成7年)、「青少年の非行等問題行動に関する世論調査」(10年)、「少年非行問題等に関する世論調査」(13年)、「少年非行等に関する世論調査」(17年)、「少年非行に関する世論調査」(22年)及び「少年非行に関する世論調査」(27年)

 
図表特-23 「社会全般のモラルが低下している」と感じる20歳以上の者の割合の推移(昭和63~平成27年)
図表特-23 「社会全般のモラルが低下している」と感じる20歳以上の者の割合の推移(昭和63~平成27年)
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また、我が国では、従来、近隣関係を中心とする地域社会において、強固な連帯意識や帰属意識が形成されていたところ、少子高齢化の進展、地方から都市部への人口流入等に伴い、地域社会における人間関係の希薄化が進み、社会の防犯機能が低下したと考えられる。例えば、警察の捜査活動等に関する世論調査(注1)と防犯に関する調査(注2)の結果を比較すると、図表特-24のとおり、近所付き合いの範囲について「町内」と回答した者は大幅に減少し、「付き合いなし」と回答した者は増加した。また、他人のことは干渉したくないと考える者が大幅に増加するなど、地域住民間の意思疎通や共同活動が減少していたと考えられる。

注1:内閣総理大臣官房広報室(当時)の調査で、昭和44年に実施されたもの

注2:公益財団法人日工組社会安全研究財団の調査で、平成14年に実施されたもの

 
図表特-24 近所付き合いの範囲等の推移(昭和44年及び平成14年)
図表特-24 近所付き合いの範囲等の推移(昭和44年及び平成14年)
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さらに、犯罪白書(注1)によれば、窃盗は、金品の取得を直接的な目的とする利欲的な犯罪の典型であり、窃盗犯は何らかの経済的事情を動機や背景事情として抱えていることの多い犯罪類型であることなどから、雇用情勢の変化が窃盗の認知件数の推移に与える影響は少なくないとされている。

図表特-25のとおり、元年以降の完全失業率(注2)の推移については、3年以降上昇を続け、14年に最も高くなっており、その後、20年から21年にかけて再び上昇したものの、同年以降は低下している。

注1:26年版犯罪白書 (http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/61/nfm/mokuji.html)

注2:労働力人口に占める完全失業者の割合

 
図表特-25 完全失業率の推移(平成元~29年)
図表特-25 完全失業率の推移(平成元~29年)
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(2)平成14年以降の刑法犯認知件数の減少

平成14年以降、街頭犯罪及び侵入犯罪が大幅に減少した要因を明確に述べることは困難であるが、官民一体となった総合的な犯罪対策が効果を上げたほか、人口構造の変化や少年の意識の変化をはじめとした様々な社会情勢の変化も背景にあるものと考えられる。

犯罪対策については、15年以降、政府・警察の取組、生活安全条例の制定、街頭防犯カメラの設置等、社会全体で犯罪を未然に防ぐための取組が進められた。また、自動車盗対策のためのイモビライザの普及、自転車盗対策のための不正開錠に強い鍵の規格化、自動販売機ねらい対策のための自動販売機の堅牢化等、個別の犯罪手口に焦点を当てた対策も次々に講じられた。

刑法犯認知件数が減少した背景として考えられる社会的要因としては、少子高齢化の進展により、人口1万人当たりの検挙人員が相対的に多い若者の人口が継続して減少していることが挙げられる。元年以降、人口1万人当たりの検挙人員は常に14歳から19歳までが最も多く、次いで20歳から29歳までとなっており(注)、若い世代ほど多くなっているところ、年齢層別人口の推移は図表特-26のとおりであり、14歳から19歳まで及び20歳から29歳までの人口は減少している。

注:6、7頁参照

 
図表特-26 年齢層別人口の推移(平成元年、14年及び29年)
図表特-26 年齢層別人口の推移(平成元年、14年及び29年)
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また、近年の若者の意識や行動の変化について、例えば、全国学力・学習状況調査(注1)によれば、図表特-27のとおり、近年の若者には規範意識の向上がみられる。さらに、消費者白書(注2)によれば、図表特-28のとおり、近年の若者は、消費支出が減少傾向にあるほか、全国都市交通特性調査(注3)によれば、図表特-29のとおり、若者の外出率が低下し、1日当たりの移動回数が高齢者を下回るなど、以前より外出しなくなっている傾向がみられる。

注1:国立教育政策研究所の調査で、毎年度実施されているもの(https://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.html

注2:29年版消費者白書(http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/#white_paper_2017

注3:国土交通省の調査(https://www.mlit.go.jp/toshi/tosiko/toshi_tosiko_tk_000033.html

 
図表特-27 中学校3年生の規範意識の推移(平成19年度、24年度及び29年度)
図表特-27 中学校3年生の規範意識の推移(平成19年度、24年度及び29年度)
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図表特-28 30歳未満(単身世帯)の者の1か月当たりの消費支出の推移(平成11~26年)
図表特-28 30歳未満(単身世帯)の者の1か月当たりの消費支出の推移(平成11~26年)
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図表特-29 20歳代の外出率(昭和62~平成27年)及び1日当たりの移動回数(平成4年、17年及び27年)の推移
図表特-29 20歳代の外出率(昭和62~平成27年)及び1日当たりの移動回数(平成4年、17年及び27年)の推移
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さらに、犯罪白書(注1)における若年犯罪者(注2)に対する意識調査の結果をみると、図表特-30のとおり、社会に対する満足度に関して肯定的な回答をした者の割合は、一般青少年(注3)に比べ、若年犯罪者は低い。同様に、家庭生活に対する満足度に関して肯定的な回答をした者の割合も、一般青少年に比べ、若年犯罪者は低い。

また、若年犯罪者のうち約7割の者が、法律で禁じられているような「悪い」ことをしようと思ったとき、家族が心のブレーキになると回答している。

注1:23年版犯罪白書(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/58/nfm/mokuji.html

注2:23年3月中に全国の刑事施設において刑執行開始時の処遇調査を終了し、又は刑執行開始時の指導に編入された30歳未満の受刑者439人のうち、調査協力に同意した者372人(回答者の平均年齢24.7歳)

注3:調査結果は、内閣府「第8回世界青年意識調査報告書」(21年3月)による。

 
図表特-30 一般青少年及び若年犯罪者による社会に対する満足度及び家庭生活に対する満足度
図表特-30 一般青少年及び若年犯罪者による社会に対する満足度及び家庭生活に対する満足度
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一方、国民生活に関する世論調査(注1)によれば、図表特-31のとおり、現在の生活に対する満足度について、以前よりも満足している20歳から29歳までの割合は高くなっている。

また、他の調査(注2)では、図表特-32のとおり、父母に対し、「よくわかってくれる」、「いろいろなことを話す」、「やさしくあたたかい」といった肯定的な評価を行う中学生及び高校生が増加傾向にあるほか、図表特-33のとおり、「とても幸せだ」と思っている中学生及び高校生も増加傾向にある。

注1:内閣府の調査で、毎年実施されているもの(https://survey.gov-online.go.jp/index-ko.html

注2:「NHK中学生・高校生の生活と意識調査2012」

 
図表特-31 現在の生活に対する満足度の推移(20~29歳)(平成14年及び29年)
図表特-31 現在の生活に対する満足度の推移(20~29歳)(平成14年及び29年)
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図表特-32 中学生及び高校生の父母に対する評価の推移(平成14年及び24年)
図表特-32 中学生及び高校生の父母に対する評価の推移(平成14年及び24年)
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図表特-33 「とても幸せだ」と思っている中学生及び高校生の割合の推移(昭和57~平成24年)
図表特-33 「とても幸せだ」と思っている中学生及び高校生の割合の推移(昭和57~平成24年)
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以上のとおり、近年の若者については、規範意識が高まり、消費支出のほか、外出率や移動回数が減少傾向にあることがうかがわれる。また、若年犯罪者については、家族が心のブレーキになると認識している者が多い一方で、一般青少年と比較して社会や家庭生活に対する満足度が低い傾向がみられるところ、近年の若者のうち、現在の生活に満足している、父母を肯定的に評価している、あるいは、「とても幸せだ」と思っている者が増加し、社会や家庭生活に不満を抱く若者が減少していることがうかがわれる。若者の人口自体が減少していることに加え、近年の若者の意識や行動の変化が、若者による犯罪の減少に影響していることは否定できず、刑法犯認知件数の減少の要因の一つとなっていると考えられる。

このように、街頭犯罪及び侵入犯罪が大幅に減少し、14年以降の15年間に刑法犯認知件数が約194万件減少した背景には、官民一体となった総合的な犯罪対策のほか、人口構造の変化その他の様々な社会的要因も背景にあるものと考えられる。



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