特集 近年における犯罪情勢の推移と今後の展望

2 地方公共団体及び民間事業者の取組(注)

(1)生活安全条例の制定

深刻な犯罪情勢を受けて、自ら犯罪対策に取り組む地方公共団体も急速に増加していった。

都道府県においては、犯罪防止の基本理念や地方公共団体、地域住民等の責務を明らかにするとともに、安全で安心なまちづくりに関する施策、推進体制等について規定する、いわゆる生活安全条例の制定がみられ始め、平成14年4月、都道府県としては初めて、大阪府において、犯罪防止を主たる目的とした「大阪府安全なまちづくり条例」が施行された。その後、15年1月には広島県で、同年4月には滋賀県及び茨城県で、同年10月には東京都で同様の生活安全条例が施行されるなど、全国において制定の動きが広がり、現在、46都道府県において生活安全条例が制定されている。また、全国の市区町村の大半においても生活安全条例が制定されている。

多くの地方公共団体においては、生活安全条例に基づき、犯罪対策のための体制が強化されたほか、条例に基づく推進計画や指針を策定したり、各種取組を推進・評価するため、地方公共団体のほか、警察、民間事業者、地域住民等から構成される会議を設置したりするなど、各地方公共団体の実情に応じて様々な取組が推進されている。

注:防犯ボランティア団体の活動等の地域住民による取組については、101頁参照

CASE

大阪府では、特にひったくり、強盗及び強制わいせつの発生が増加し、13年には刑法犯認知件数が全国で最多の約32万7,000件となるなど急激に犯罪情勢が悪化していた。このような情勢を踏まえ、14年、「大阪府安全なまちづくり条例」が制定され、同条例の目的を実現するため、大阪府知事部局、大阪府警察、民間団体等で構成される「大阪府安全なまちづくり推進会議」が設置された。毎年1回開催される同会議の総会では、その時々の犯罪情勢に応じた目標を設定し、大阪府全体の安全なまちづくりに向けた取組が推進されている。同会議を中心とした各種取組を推進した結果、29年中の大阪府の刑法犯認知件数は、ピーク時である13年の3分の1以下となるなど、犯罪情勢が改善している。

 
図表特-14 条例に基づく取組の概要
図表特-14 条例に基づく取組の概要

(2)街頭防犯カメラの設置

街頭防犯カメラは、被害の未然防止や犯罪発生時の的確な対応に有効であることから、地域の安全安心を確保するための手段として、多くの地方公共団体において、犯罪の発生状況等に応じて街頭防犯カメラの設置を推進しているほか、自治会、商店街等による街頭防犯カメラの設置について、機器の購入、設置工事等に要する費用を支援する取組を行っている。

例えば、東京都では、地域の防犯意識の向上のため、自治会、商店街等が防犯カメラを設置する際、区市町村と共に、その経費の一部の補助を行っているほか、区市町村に対し、通学路や区市町村立公園に防犯カメラを設置する際の経費について補助を行っており、これらの事業により設置された防犯カメラは、平成29年度末現在、累計1万7,000台を超えている。また、一部の区市町村では、防犯カメラの維持管理に要する経費についても補助を行っている。

警察では、地方公共団体や自治会、商店街等による街頭防犯カメラの設置について、適正かつ効果的な設置・管理のために必要な情報提供、助言を行うなどの支援を行っている。

CASE

大阪府守口市では、子供や女性を狙った犯罪を防止し、市民の安全を確保することを目的として、通学路等を中心に、同市内全域に無線通信式防犯カメラ1,000台を設置し、28年10月から運用を開始した。29年中の大阪府内の刑法犯認知件数は前年比で12.4%減少した一方、同市内の刑法犯認知件数は前年比で21.7%減少しており、街頭防犯カメラの設置が一定の効果を上げていると考えられる。

 
防犯カメラの設置状況
防犯カメラの設置状況
 
大阪府守口市内の刑法犯認知件数の変化の状況
大阪府守口市内の刑法犯認知件数の変化の状況

(3)個別の犯罪手口に対応した対策の推進

① 侵入窃盗対策

警察庁、経済産業省、国土交通省及び建物部品関連の民間団体から構成される「防犯性能の高い建物部品の開発・普及に関する官民合同会議」では、平成16年4月から、侵入までに5分以上の時間を要するなど一定の防犯性能があると評価した建物部品(CP部品)を掲載した「防犯性能の高い建物部品目録」をウェブサイトで公表するなどして、CP部品の普及に努めており、目録には30年3月末現在で17種類3,377品目が掲載されている。

こうした部品の開発及び普及もあって、14年以降、侵入窃盗、中でも空き巣の認知件数は大きく減少しており、空き巣の侵入手段別では、16年と比較して、特殊開錠用具の利用は98.4%、ガラス破りは83.9%減少と、70.9%減少した無締りと比べて大きく減少している。

 
図表特-15 侵入窃盗の手口別認知件数の推移(平成14~29年)
図表特-15 侵入窃盗の手口別認知件数の推移(平成14~29年)
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図表特-16 空き巣の侵入手段別認知件数の推移(平成16~29年)
図表特-16 空き巣の侵入手段別認知件数の推移(平成16~29年)
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② 乗り物盗対策

自動車盗の認知状況の推移は、図表特-17のとおりである。

警察庁、財務省、経済産業省、国土交通省及び民間19団体から構成される「自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチーム」では、「自動車盗難等防止行動計画」(14年1月策定、28年12月改定)に基づき、例えば、イモビライザ(注)の装着を促進しており、自動車の生産台数に占めるイモビライザ装着車の割合は増加傾向にある。

こうした取組もあり、自動車保有台数1万台当たりの自動車盗の認知件数は、15年をピークにほぼ一貫して減少している。

注:エンジンキーに埋め込まれた送信機から発するIDコードと、車両本体の電子制御装置にあらかじめ登録されたIDコードが一致しなければ、エンジンが始動しない電子式盗難防止装置

 
図表特-17 自動車盗の認知件数及び自動車保有台数1万台当たりの自動車盗の認知件数の推移(平成14~29年)
図表特-17 自動車盗の認知件数及び自動車保有台数1万台当たりの自動車盗の認知件数の推移(平成14~29年)
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図表特-18 自動車のイモビライザ装着別生産台数の推移(平成14~28年)
図表特-18 自動車のイモビライザ装着別生産台数の推移(平成14~28年)
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オートバイ盗の認知状況の推移は、図表特-19のとおりである。オートバイ盗の認知件数は、元年以降25万件前後で推移していたが、警察庁の要請を踏まえ、12年以降、業界団体がハンドルロックとイグニッションスイッチを一体化したコンビロックや、鍵を抜いた状態でも鍵穴が露出しないようにするキーシャッタの採用等の盗難防止対策を推進したことなどにより、14年以降大幅に減少している。

 
キーシャッタ
キーシャッタ
 
図表特-19 オートバイ盗の認知件数及びオートバイ保有台数1,000台当たりのオートバイ盗の認知件数の推移(平成14~29年)
図表特-19 オートバイ盗の認知件数及びオートバイ保有台数1,000台当たりのオートバイ盗の認知件数の推移(平成14~29年)
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自転車盗の認知件数の推移は、図表特-20のとおりである。14年の自転車盗の認知件数は51万件を超えており、刑法犯認知件数の2割近くを占め、その減少は大きな課題であったことから、警察庁の要請を踏まえ、12年以降、業界団体において、馬てい錠の鍵について、プレス型から不正開錠に強いシリンダー型への日本工業規格(JIS)の改正や同型の普及が促進された。こうした取組の結果、14年以降、自転車盗の認知件数は減少傾向にあり、施錠していなかった自転車の盗難被害の減少率(40.6%)に比べ、施錠していた自転車の盗難被害の減少率(72.7%)は高くなっており、対策の効果を裏付けている。

 
馬てい錠
馬てい錠
 
プレス型 シリンダー型
プレス型 シリンダー型
 
図表特-20 自転車盗の施錠状態別認知件数の推移(平成14~29年)
図表特-20 自転車盗の施錠状態別認知件数の推移(平成14~29年)
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③ 自動販売機ねらい対策

自動販売機ねらいの認知件数及び「堅牢(ろう)化自動販売機」(飲料・たばこ)の台数の推移は、図表特-21のとおりである。自動販売機は、一般社団法人日本自動販売システム機械工業会により、これまで段階的に堅牢化が進められており、非電動工具による盗難対策としてVer.1が8年に、電動工具による盗難対策としてVer.2が12年に、Ver.2の構造を更に強化したVer.3が15年に導入された。これに伴い、自動販売機ねらいの被害は著しく減少している。

 
図表特-21 自動販売機ねらいの認知件数及び「堅牢化自動販売機」(飲料・たばこ)の台数の推移(平成14~29年)
図表特-21 自動販売機ねらいの認知件数及び「堅牢化自動販売機」(飲料・たばこ)の台数の推移(平成14~29年)
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④ 侵入強盗対策

侵入強盗の認知件数の推移は、図表特-22のとおりである。21年にコンビニ強盗の認知件数が前年比で大きく増加したことなどから、同年には侵入強盗の認知件数が増加に転じたものの、ピーク時である15年(2,865件)以降減少傾向にあり、29年中は588件であった。

警察では、コンビニエンスストアや金融機関等を対象とした強盗対策として、防犯体制、現金管理の方法、店舗等の構造、防犯設備等について基準を定め、警察官の巡回や機会を捉えた防犯訓練等を実施している。

 
図表特-22 侵入強盗の認知件数の推移(平成14~29年)
図表特-22 侵入強盗の認知件数の推移(平成14~29年)
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CASE

埼玉県警察では、29年8月、埼玉県コンビニエンス・ストア防犯協議会及び一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会と協力し、コンビニエンスストア8社と合同でコンビニ強盗の対処訓練を実施して、コンビニ強盗発生時の適切な110番通報の要領等について研修を行った。また、同年11月には、防犯対策連絡会議を開催し、コンビニエンスストア各社の代表者等に対して防犯対策の講話を行うなど、コンビニエンスストア業界全体の防犯意識の高揚を図っている。

 
コンビニ強盗の対処訓練の状況
コンビニ強盗の対処訓練の状況


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