特集:犯罪のグローバル化と警察の取組み 

2 犯罪のグローバル化の背景にある情勢

(1)来日外国人犯罪の情勢

〔1〕 全般的傾向
 平成21年中の来日外国人犯罪の検挙件数は2万7,836件、検挙人員は1万3,257人と、それぞれ前年より3,416件(10.9%)、628人(4.5%)減少した。しかし、来日外国人犯罪の情勢が比較的平穏に推移していた平成の初期までと比べると、件数が元年の約4.8倍、人員が元年の約2.9倍と大きく増加しており、来日外国人犯罪の検挙状況は、依然として高い水準にある。
 
図-5 来日外国人犯罪の検挙状況の推移(昭和60~平成21年)
図-5 来日外国人犯罪の検挙状況の推移(昭和60~平成21年)
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表-1 来日外国人犯罪の検挙状況の推移(平成12~21年)
表-1 来日外国人犯罪の検挙状況の推移(平成12~21年)
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〔2〕 国籍・地域・罪種別検挙状況
 21年中の来日外国人刑法犯の検挙状況を国籍・地域別にみると、中国が最も多く、検挙人員の約4割を占めている。来日外国人刑法犯の検挙人員は過去10年間で861人(13.6%)増加しており、特に、フィリピンは一貫して増え続けて約2.2倍となっているほか、ベトナムは約1.8倍となっている。
 また、刑法犯検挙件数を罪種別にみると、侵入盗では中国が77.5%、自動車盗ではブラジルが72.3%となっているなど、罪種によって高い比率を占める国が異なる。
 
図-6 来日外国人刑法犯の国籍・地域別検挙状況(平成12、21年)
図-6 来日外国人刑法犯の国籍・地域別検挙状況(平成12、21年)
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〔3〕 不法滞在者による犯罪
 21年中の来日外国人刑法犯の検挙人員に占める不法滞在者(注)の割合は8.6%と、過去10年間で、16.7ポイント減少した。しかし、罪種別にみると、侵入盗では42.2%を占めているなど、国民が身近に不安を感じる犯罪への不法滞在者の関与が依然として高い水準にある。

注:出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)第3条違反の不法入国者、入国審査官から上陸の許可を受けないで本邦に上陸した不法上陸者及び適法に入国した後在留期間を経過して残留している者等の不法残留者

 
図-7 来日外国人刑法犯の検挙人員に占める不法滞在者の割合(平成21年)
図-7 来日外国人刑法犯の検挙人員に占める不法滞在者の割合(平成21年)
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〔4〕 来日外国人刑法犯の検挙件数に占める共犯事件の割合
 21年中の来日外国人刑法犯の検挙件数に占める共犯事件の割合は61.6%と、日本人(16.3%)の約4倍に上る(注)
 来日外国人刑法犯の検挙件数は、過去10年間で2,386件(10.4%)減少しているものの、共犯事件は1,298件(11.4%)増加し、構成率では12.1ポイント上昇している。
 罪種別にみると、侵入盗で共犯事件の割合が極めて高く、46.4%は4人組以上によるものである。このように、来日外国人による犯罪は、日本人によるものと比べて多人数で行われる場合が多く、来日外国人犯罪の組織化の傾向がうかがわれる。

注:来日外国人と日本人の共犯事件については、主たる被疑者の国籍・地域により、来日外国人による共犯事件であるか、日本人による共犯事件であるかを分類して計上している。

 
図-8 来日外国人と日本人の刑法犯における共犯率の違い(平成21年)
図-8 来日外国人と日本人の刑法犯における共犯率の違い(平成21年)
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図-9 来日外国人刑法犯における共犯事件の割合(平成12、21年)
図-9 来日外国人刑法犯における共犯事件の割合(平成12、21年)
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コラム2 我が国における外国人の在留等の状況

(1)外国人登録者の状況
 外国人登録者数は、年々増加してきており、20年末現在、221万7,426人で過去最高を記録した。19年末と比べて6万4,453人(3.0%)、過去10年間で66万1,313人(42.5%)増加している。
 国籍(出身地)別にみると、中国が65万5,377人で全体の29.6%を占め、以下、韓国・朝鮮が58万9,239人(26.6%)、ブラジルが31万2,582人(14.1%)と続いている。
 
主な国籍(出身地)別外国人登録者数の推移(昭和61~平成20年)
主な国籍(出身地)別外国人登録者数の推移(昭和61~平成20年)
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(2)不法残留者等の状況
 不法残留者数については、警察を含む関係機関による総合的な施策により減少しており、22年1月1日現在、9万1,778人と、過去10年間で14万343人(60.5%)減少した。
 しかし、就労目的で来日する外国人は依然として多く、不法に就労する者も少なくない。さらに、不法に就労するよりも効率的に金銭を得ることができるとして、犯罪に手を染めるようになる者も後を絶たない状況である。このため、警察では、入管法に基づく入国警備官への被疑者の引渡しを推進しているほか、入国管理局との合同摘発を積極的に行うなど、取締りを強化している。
 
入管法違反の検挙状況の推移(平成17~21年)
入管法違反の検挙状況の推移(平成17~21年)
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(2)外国人犯罪を助長する犯罪インフラの実態
 外国人犯罪を助長する犯罪インフラとは、不法入国・不法滞在を助長し、又は来日外国人が犯罪を繰り返し行うことを容易にする基盤のことをいう。また、こうした犯罪インフラの構築に資する犯罪を犯罪インフラ事犯といい、地下銀行による不正な送金、偽装結婚、偽装認知、旅券・外国人登録証明書等偽造、不法就労助長等がある。
 犯罪のグローバル化が進む背景には、国際犯罪組織が、こうした犯罪インフラを利用して、各種犯罪を効率的に敢行している状況がある。

〔1〕 地下銀行
 地下銀行とは、銀行業を営む資格のない者が、報酬を得て国外送金を代行することなどをいい、その行為は、銀行法等に抵触する。地下銀行は、不法滞在者等が不法就労等で得た収益を海外の家族等に送金したり、国際犯罪組織が国内で得た犯罪収益等を海外に送金したりするのに利用されている。
 
図-10 地下銀行の送金システム
図-10 地下銀行の送金システム

事例
 ベトナム人の男(35)は、平成18年1月ころから21年3月ころにかけて、30都道府県の不法滞在等のベトナム人等約1,000人から送金の依頼を受け、約8億7,000万円をベトナムに対し不正に送金していた。21年5月、銀行法違反(無免許営業)で逮捕した(愛知)。

〔2〕 偽装結婚
 偽装結婚とは、「日本人の配偶者等」の在留資格を得る目的で、日本人との間で、婚姻の意思がないのに市区町村に内容虚偽の婚姻届を提出することをいい、その行為は、公正証書原本不実記載・同行使罪等に当たる。偽装結婚には、暴力団や悪質ブローカー等の請負組織が介在しており、その違法な資金獲得手段となっている。
 
図-11 偽装結婚
図-11 偽装結婚

事例
 ベトナム生まれの日本人の男(53)らは、17年ころから、ベトナムの現地ブローカーを通じて、偽装結婚希望者を募集するとともに、金銭に困窮している日本人に対して、報酬を支払うことを条件に偽装結婚の相手方として勧誘していた。その上で、日本での就労を希望するベトナム人男女に日本人配偶者としての在留資格を得させるため、ベトナム人男女と日本人の偽装結婚5組をあっせんした。21年9月までに、ベトナムから帰化した者を含め、日本人9人及びベトナム人5人を公正証書原本不実記載・同行使罪等で逮捕した(宮城、福島)。

〔3〕 偽装認知
 偽装認知とは、不法滞在等の外国人女性が、外国人男性との間に出生した子等に日本国籍を取得させるとともに、自らも長期の在留資格を取得する目的で、市区町村に日本人男性を父親とする内容虚偽の認知届等を提出することをいい、その行為は、公正証書原本不実記載・同行使罪等に当たる。
 21年1月に国籍法の一部を改正する法律が施行され、出生後に日本国民から認知された子は、父母の婚姻の有無を問わず、届出により日本国籍の取得が可能となった。これにより、子が日本国籍を取得すれば、母親である外国人女性は日本国籍の子の養育者として在留資格を取得できることとなったため、今後、虚偽の認知届出及び国籍取得届出が増加するおそれがある。
 
図-12 偽装認知
図-12 偽装認知

事例
 短期滞在中のフィリピン人の女(31)は、21年4月から同年8月にかけて、日本での長期在留資格を得るため、フィリピン人の男との間で生まれた子を日本人の男(55)が認知したとする内容虚偽の認知届等を市役所に提出した上、内容虚偽の国籍取得届を地方法務局に提出するなどした。同年10月、同女ら2人を電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪、偽造有印私文書行使罪、国籍法違反(虚偽の届出)で逮捕した(警視庁)。

〔4〕 旅券・外国人登録証明書等偽造
 旅券・外国人登録証明書等偽造とは、外国人が正規の出入国者、滞在者、運転免許保有者、就労資格保持者等を装う目的で、旅券、外国人登録証明書、運転免許証その他の身分証明書等を偽造し、又は行使することをいい、その行為は、有印公文書偽造・同行使罪等に当たる。
事例
 不法残留の中国人の男(33)らは、旅券、外国人登録証明書等を大量に偽造し、不法滞在の中国人や韓国人に対して、販売していた。21年9月までに、偽造の実行犯や顧客の中国人33人及び韓国人6人を有印公文書偽造・同行使罪、入管法違反(不法残留)等で逮捕した(警視庁、静岡、埼玉)。

〔5〕 不法就労助長
 不法就労助長とは、就労資格のない来日外国人を不法に就労させ、又は不法就労をあっせんすることなどをいい、その行為は、入管法、職業安定法等に抵触する。
 不法就労助長については、安価な労働力の確保を求める各種事業者やこれを仲介して利益を得るブローカーのほか、暴力団が関与するものがみられる。
 
図-13 不法就労助長
図-13 不法就労助長

コラム3 兵庫県警察におけるヤード対策

 ヤードとは、周囲を鉄壁等で囲まれた作業所等であって、海外への輸出等を目的として、自動車等の解体、コンテナ詰め等の作業に使用していると認められる施設のことをいい、農村部を中心として日本全国に多数点在している。警察では、ヤードの一部が犯罪の温床となっている状況がみられることから、取締りを強化するほか、各種対策を推進している。
 兵庫県警察では、一部のヤードが国際犯罪組織による盗難自動車等の解体・不正輸出のための作業場となっているほか、不法滞在者の稼働・い集場所や薬物の使用・隠匿場所として利用されるなど、犯罪の温床となっている状況がみられることなどから、このまま放置すれば新たな治安上の脅威になるとして、ヤードの実態解明等の諸対策を推進している。

(1)ヤードの現状
 兵庫県警察では、20年8月以降、特定の車種の自動車を対象とした窃盗事件の捜査において、関係府県警察と共に、ヤード等に対する捜索を数回実施し、日本人、ナイジェリア人、カメルーン人等6か国の46人を窃盗罪、盗品運搬罪、入管法違反(不法残留)等で検挙した。
 また、21年4月、ヤードで稼働していたナイジェリア人2人を覚せい剤取締法違反(営利目的所持)で逮捕したほか、同年10月、その後の突き上げ捜査により判明した、別のヤードの日本人経営者やナイジェリア人を覚せい剤取締法違反(営利目的所持)で逮捕した。
 これらの捜査により、一部のヤードが国際犯罪組織による犯罪の温床となっている実態が判明した。
 
兵庫県内に所在するヤード群
兵庫県内に所在するヤード群

(2)ヤード対策の推進
 兵庫県警察では、一部のヤードが犯罪の温床となっている現状を踏まえ、関係機関と情報交換を行っている。また、21年11月、兵庫県警察ヤード対策本部を設置して、ヤードに関する情報収集活動を強化することにより、その実態を解明し、関連する違法行為の取締り、不法滞在者の検挙を徹底するなどの対策を推進している。
 
ヤード内を捜索する捜査員
ヤード内を捜索する捜査員

 第1節 犯罪のグローバル化の脅威

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