京都大会:パネルディスカッション

「少年犯罪の被害者及び家族等への途切れることのない支援について」

コーディネーター:
山下 俊幸(京都府立洛南病院院長、(公社)京都犯罪被害者支援センター副理事長)

パネリスト:[五十音順]
安保 千秋(弁護士)
池埜 聡(関西学院大学人間福祉学部教授)
西田 勝志(京都府警察本部生活安全対策課子どもと女性を守る対策室長)
土師 守(神戸連続児童殺傷事件ご遺族、医師、(公社)ひょうご被害者支援センター監事)

山下: 皆さんこんにちは。それでは早速パネルディスカッションのほうを始めさせていただきます。私は精神科の一医師でございますけれども、支援センターのほうにも設立当初より関わらせていただいた経過があるということで、この役を仰せつかったのだと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 本パネルディスカッションは、これまでの本日のお話を踏まえまして、実際に現場で支援をされている方々の話をお聞きし、また土師さんからもコメントや御意見等を頂くということで進めてまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、最初にパネリストの方より自己紹介ということで、簡単に御所属と、また現在されていることを紹介していただいて、その後パネリストの御発表を頂きたいと思います。それでは、安保さんよりお願いいたします。

安保: 皆さんこんにちは。弁護士の安保と申します。本日はよろしくお願いします。

 弁護士会には被害者支援について専門的に取り組む犯罪被害者支援委員会というのがございまして、ただ私は現在その犯罪被害者支援委員会の委員ではございません。子どもの権利委員会というところで、子どもの権利擁護活動をしております。なぜ子どもの権利擁護活動をしている私が、今日ここでお話しすることになったかですけれども、子どもの権利擁護活動をしていますと、学校でのいじめや体罰について相談に乗ることがあって、いじめ自殺事件について民事裁判の原告代理人になったこともあります。また、少年事件の付添人もしてきました。その中でいじめの中心的な役割を果たしている子どもや、また少年事件の加害少年の中に虐待を受けてきた子どもたちがいて、その子どもたちがそういう形で周りの人を傷つける前に、虐待を受けているときや受ける前に子どもを支援する必要を感じまして、児童虐待問題や子どもの被害について取り組むようになりました。

 その中で、今晩寝るところがない子どもに出会うことがあります。そうすると、子どもの居場所をまず確保しないと私たち弁護士も法的支援ができないので、まず安全な場所や生活を提供する子どものシェルターというのを2012年4月から京都で運営しております。主に10代後半の子どもたちを受け入れています。主に虐待を受けてきた子どもたちです。ただ、虐待だけではなくて、被害に遭った子どもが家庭に帰って家庭で生活する中で、そこで凄くしんどい思いをしたときに、レスパイトという形で私たちのシェルターで少し休養してまた家庭に戻るとか、そういう形で来る子どもたちもいます。

 このような活動をしている中で、子どもの被害について活動する民間団体はあまりないので、子どもの被害についてもいろんな被害について相談が入ってきます。その中で少年事件の被害者には、子どもが被害者になることが多いので、少年事件について被害者の親御さんとか子どもさんから相談が入ってきます。警察に被害届を出すかどうか悩む段階から相談に乗っていることが多いので、今日ここでお話をさせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いします。

山下: では、池埜さん、よろしくお願いいたします。

池埜: 池埜でございます。私は社会福祉の実践、ソーシャルワークの視点からトラウマ被害者の方々、そして犯罪被害者の方々の支援について、実践及び研究をさせていただいている1人です。

 これまで、2001年の6月4日に起きた附属池田小学校児童殺傷事件、そして1999年4月20日に起きました米国コロンバイン高校銃乱射事件のご遺族と長きにわたって多くの経験を共有させていただきました。また、少年犯罪に関わった少年たちの贖罪教育を少年院などで携わっております。

 私は、土師さんのお話にもあったように、生活の支援、そして被害に遭われた方々の人権擁護のあり方について、被害者の方々の経験をもとに皆様と共有させていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。

山下: ありがとうございます。では、西田さん、よろしくお願いいたします。

西田: 皆様こんにちは。私は京都府警察本部生活安全部生活安全対策課子どもと女性を守る対策室長の西田と申します。2週間前の11月2日から現職に就いておりますが、それまでは警務課犯罪被害者支援室の室長補佐をしておりましたので、本日は被害者支援担当者の立場として話をさせていただきたいと思います。

 私はプロフィールにもありますとおり、京都府警察官を昭和61年に拝命し、経歴約30年となります。いろいろなところで勤務させていただきましたが、本日のテーマにもあります少年犯罪に関わる仕事が多く、警察署の少年係、府警本部の少年課のほか、京都が人口比で少年非行数が全国最悪と言われた平成22年から2年間、府警初の人事交流として京都府教育委員会にも派遣され、中学校や高校などで非行防止教室や薬物乱用防止教室などを行ってまいりました。警察署ではこれまで交番勤務やパトカー乗務員なども経験しておりますので、様々な被害者の方とお会いしております。私自身、警察官になる前から、何よりも被害者の安全を守りたい、困っている人を助けたい、被害者の無念を晴らすために犯人を捕まえる、そういう思いで仕事をしてまいりました。パネリストという大役を十分に果たせるかどうか分かりませんが、よろしくお願いします。

山下: ありがとうございました。土師さんにおかれましては先ほど基調講演を頂きました。基調講演の中では直接的な被害に加えて、二次被害ということで報道被害のお話を頂きました。また、実際の支援内容を本当に分かりやすく丁寧にお話いただきました。その中で、警察の逆探知グループの方が職務を超えて支援されたというようなこともお話いただきました。また、今後に必要な支援ということで、被害直後の生活面も含めた支援の大切さ、また経済的支援、それから情報がない中での専門家からのサポート、そういった重要性についても提言いただきました。

 それから、最後には被害者支援の中心はやはり被害者自身であるということで、御自身の兵庫での御経験も踏まえながら、それに加えて民間のネットワークを生かしていく、そういった御提案も頂いたかと思います。ありがとうございました。土師さんにつきましては、お三方の御発表を聞いていただいた上でコメントと御意見とを頂ければと思っていますので、よろしくお願いいたします。

 では、安保さんから御発表をお願いいたします。

安保: 私のほうからは、少年事件といいますと、大人の事件である刑事裁判と違いますので、いわゆる少年審判と刑事裁判との違いと、では少年事件の被害者の支援は大人の事件の被害者の支援とどこが少し違うのかというお話をさせていただきたいと思います。

 「被害者のための制度~少年事件の手続の流れ(犯罪少年の場合)」というのがお手元にありますでしょうか。少年事件の流れはいろいろありまして、それを皆さんにお話しするのに少しこれを見ていただいたほうがいいのかなということで作成しました。

 まず、少年事件が発生した後、逮捕・勾留までは、被疑者が少年の場合でも成人の場合とほとんど同じような手続がとられます。ただ、少年法61条というのがありまして、少年を推知するような記事とか写真とかは掲載禁止になっておりますので、そういう意味では大人よりも情報が入ってこないということがあります。

 では、警察、検察庁まで送致された後どうかということについてお話しします。この手続の流れは犯罪少年といいまして、14歳以上の少年のことについて記載しています。14歳未満の少年は触法少年といいまして、児童相談所等が最初に絡んできまして、また手続が複雑になります。これは14歳以上の少年、それから触法少年でも家裁に送られたときはこの手続の流れとなりますけれども、基本的には14歳以上の少年の手続だというふうに見ていただければと思います。

 少年事件は全て家庭裁判所に送られてきます。大人の事件だと、起訴猶予等で検察段階で刑事裁判にならない場合もありますが、少年事件の場合は全て家庭裁判所に送られてきます。いわゆる身柄といいまして、勾留されている少年はほとんどの場合は、図の右手に書いてあります少年鑑別所というところで、観護措置という身柄の拘束を受けながら審判を受けます。少年の身柄は少年鑑別所に入って、それと事件記録と一緒に家庭裁判所に送られます。

 この少年法による手続になりますと、大人の刑事裁判と違う手続になります。どうして違うかですが、少年法は少年の健全育成という目的のもとに、非行を行った少年に対して性格の矯正とか環境の調整を行う保護処分ということを行う手続ですので、違ってきます。なぜ少年がそういうような手続になっているかですが、少年の場合は可塑性といいまして、成長可能性や教育可能性があることと非行原因において社会環境的な要因の比率が非常に大きいということで、こういう手続がとられています。

 少年審判という手続になりますので、大人の場合のような公開の法廷で検察官と被告人が対置する対審の刑事裁判ではありません。少年は、調査官によって、人格、環境面における科学的調査が行われるうえ、鑑別所には鑑別技官という少年の資質調査の専門家がいらっしゃいます。その鑑別所の意見と調査官の意見を踏まえて、非公開の審判廷で裁判官が審判を行います。ここは原則として検察官は立ち会いません。ただ、検察官を立ち会わせることもできまして、昨年の少年法改正により検察官が立ち会える事件の範囲が広まりました。

 少年事件においても犯罪被害者への配慮という視点から法改正が行われてきまして、平成12年と20年の改正によって被害者への配慮を念頭に置いた制度が拡大されてきました。

 まず、被害者は少年審判になった場合、どういうことができるかなのですけれども、少年と一緒に先ほど少年事件の記録が家庭裁判所に送られてくると言いましたが、警察の捜査した記録とか検察が捜査した記録とか、少年の供述調書とか、そういう記録を閲覧、謄写できます。

 それから、一定の重大事件の場合、つまり故意の犯罪行為によって被害者の方が亡くなられたり、それから命の危険のあるような大きなけがをされた場合等には、被害者の方が申し出られましたら、審判は非公開ですけれども、被害者やそれからそのご遺族、それから付添いの方々に審判の傍聴を、裁判所が認めて、できる場合もございます。

 それ以外に被害者やご家族が裁判官や調査官に、被害者の心情や意見を陳述するということもできます。その陳述は、審判の傍聴が行われる場合は、通常は審判廷で陳述をされることが最近は多いと聞いております。ただ、これは被害者が申し出ない場合はされません。被害者からの意見陳述の申出がなくても、最近は重大事件の場合は家裁の調査官が調査の一環として被害者に御事情等を聞いているというふうに聞いております。

 この手続を見ると、先ほど土師さんがおっしゃった平成20年の改正による刑事裁判の被害者参加制度は、少年審判ではございません。刑事裁判の場合は、一定の重大事件の場合は被害者の方が法廷のバーの中に入って公判期日に参加して、自ら証人尋問や被告人質問を行い、検察官とは別に論告求刑も行いますが、少年審判では、そういう被害者参加制度はございませんし、いわゆる損害賠償命令の制度もございません。

審判状況の説明とか審判結果の通知を受けることはできます。

 ところで、図の審判のところに、左側に検察官送致ということを書いてありますけれども、審判において、これは検察官に送って刑事裁判を受けて、刑事処分を受けたほうがいいというふうに裁判官が判断した場合は、検察官送致になりまして、その後、少年も地方裁判所で刑事裁判を受けることになります。現在は、犯行時16歳以上の少年で、被害者の方が故意の犯罪行為により死亡された場合は、原則逆送という、原則的にこちらの検察官送致になって、刑事裁判を受けるという手続になっています。平成13年4月から25年末までの、いわゆる原則的に逆送しなければいけない事件は、603人であり、このうち64.3%、388人がこちらの検察官送致になっています。

 そのほか、少年院に送られたり、それから保護観察になったときの処遇の通知や、それから少年が仮退院をするときにはその意見陳述ができたりという制度は、これは大人の受刑者の場合と同じような制度があります。

 こういう手続を前提に少年事件の被害者の支援の違いというか、特殊性についてお話をいたします。

 まず、被害届や告訴の段階について、お話します。少年事件の被害者の場合、子どもが被害者の場合が多いです。この場合、被害者も加害者も同じ学校だったり近隣だったり、それから性被害の場合もあります。そういう場合、被害者のほうが仕返しとか、うわさになることとか、それから今後の手続について、被害に遭ったのに、例えば性被害の場合だと、警察官とか検察官にまたしゃべらなければいけないとか、そういうことを考えて被害届とか告訴をするかどうかについて大変迷われます。本人も悩みますし親御さんも迷います。親御さんが迷うのは、例えば性被害に遭ったことについて、もし被害届を出したりしたら、それがうわさになったら自分の子どもの将来にかえって傷がつくんじゃないかとか、そういうことを恐れて、なかなか被害届を出すこと自体、それから告訴を出すこと自体を非常に不安に思われます。

 少年の中にはひどいいじめとか、それから傷害などいろんな被害を受けて、自宅から出られなくて、出ること自体が怖いという少年もいます。ですので、そういう場合には今後どういう支援を受けられるかとか、どういう手続になるかということを説明して、判断材料をきちんとお示しするということがとても大事になってきます。早期の支援といいますけれども、できればこの被害届を出すかどうかとか、そういう段階から支援を受けて、すごく怖いとか、被害に遭った直後で気持ちが混乱しているときに、きちんとそういう支援を受けることが大切だと思います。被害をきちんと手続に乗せて、その被害に対してきちんとした回復の手続を受けるほうが本当はいいんですけれども、本当に被害に遭うとなかなかそれが言いにくいということも、皆さんが理解していただきたいと思います。でも、今年度、性被害についてはワンストップセンターのSARAができたので、それについては大変期待をしております。

 次に、事件化された場合、被害届を出して、警察の調べがあって、検察に送られて、その後、家裁に送られたというとき、では少年事件の被害者はどこが違うかについてお話しします。先ほど説明しましたとおり、少年事件の場合は成人と比べて手続が複雑です。ですので、被害者のための配慮の制度はあるんですけども、手続が複雑なので、それを使えない場合もありますので、そういう手続を説明することが必要と思います。

 それと、少年事件の場合は、少年法61条がありますので、なかなか被害者が得る情報が少ないというところがありますので、できるだけこの被害者の配慮のための制度を利用して、事件についての情報を入手することが必要と思います。

 もう一つは、成人事件と比べて普通の事件の流れをとると、少年事件は家裁送致になって、審判までの時間が非常に短いです。この観護措置という少年鑑別所に入る期間なんですけれども、原則は4週間でございます。重大事件の場合など、特別な場合は8週間になったり、鑑定留置という鑑定をされたりしたら長くなりますけれども、通常の場合は4週間ですので、被害者の方は、その被害に遭われて間もない、審判に向けて気持ちの整理がつかない段階で加害少年が審判を受けてしまうということもあります。

 また、少年事件の場合は共犯事件が多くて、加害少年の人間関係とか力関係とか、家庭環境とか、その取り巻く環境が様々でございます。なおかつ、少年審判は少年ごとに行われます。ですので、審判も少年ごとにあるわけです。大人の刑事裁判だと共犯は、分離をされない限りは一緒にされる場合もあるんですけど、そうではなくて少年ごとに行われますので、審判傍聴にしても少年ごとに行うことになり、被害者の負担はとても重くなります。

 それから、土師さんが先ほどお話しされたように、今でも重大事件についてはマスコミは、特に少年事件についてはワッと集中的にやってこられます。マスコミ対策も早くから必要になってきます。今は土師さんのときに比べたら、新聞とかテレビとか、一定ルールを守られるようになって、犯罪被害者のほうに弁護士がつくと、きちんと弁護士が申し入れた形で配慮をしていただくことができますが、そういう新聞とかテレビに属さないマスコミというのもございまして、それに関してはいろいろ申し入れてもなかなか難しい場面もございます。

 それから、マスコミ以外に今はソーシャルネットワークサービスというのがございまして、その対策が大変です。加害者の情報も拡散をしますが、被害者に関しても心ない方が情報を拡散します。友達同士のやりとり、それも被害者の友達が思いやってやりとりをする中で、それがライン等で違う方にも流れて、その方が被害者であることが分かってしまうということもあって、子どもの場合はそういうライン等で、あっという間に情報が広がるところがあるので、そういうことも大変なところです。

 それから、被害者が子どもさんの場合は、先ほど土師さんがおっしゃったように被害者にご兄弟がいる場合が多くて、ご兄弟に対して専門的な、そういうケアをするところがなかなか難しい。探してもなかなか難しいというのが今の課題です。子どもの被害の場合は、子どもさんがそういうケアを受けるときは、子どもさんは遠くまで行けないですね。学校へ行ったりしているので、近くでそういう子どものケアを受けられるところを捜すのがなかなか難しいです。先ほど申しましたように少年事件の場合は被害者と加害者が同じ生活圏内にいる場合が多いので、被害者側の安全を守る、日常の生活の安全を守るということがとても大切です。被害者とか被害者のご兄弟とかが安全に学校に行けるとか、そういう対策をする必要があります。加害者側に付添人がついた場合は、場合によっては絶対被害者側に近づかない、それから同じ交通機関を使わないとかいうことを約束させて安全を確保する場合もあります。

 重大事件では、先ほど言いました検察官送致になる場合もあります。そうすると、被害者にとれば少年審判も傍聴し、そしてまた次に刑事裁判が始まるということで、少年審判、刑事裁判と2回の負担があるという問題もあると思います。

 三つ目に、審判が終わった後についてお話しします。成人の加害者の事件も同じですけども、少年の事件の場合も、もしかしたら成人が加害者の事件よりも、より少年や親に賠償能力がない場合がありますので、民事裁判をするかどうかというのも大変悩むところです。民事裁判をしたところで、損害賠償が分割になる場合もありますので、そうすると、分割になるということは加害少年との関係が続くことになります。その続くことによって加害少年の更生を見きわめたいという意図がある場合、そういう場合はいいんですけど、そうではない場合に加害少年との関係が続くという問題もあります。

 それから、少年院入院中とかに、この通知制度を利用するかどうかとかいうことも御判断いただかなければいけませんし、少年院から仮退院したときに、最近は少年院の中でも被害者についての教育をするようになっていますし、付添人もそういう取り組みをしていると聞いております。そうすると、仮退院後、お墓参りをしたいとか、そういうふうに加害者側から言ってくる場合もありまして、そうすると、加害者が少年の場合は、加害者側のそれからの人生が長いわけですね。ということは、加害者のそういうお墓参りの申入れとか、そういうことも長く続くということになりますので、そういう意味で長い支援が必要で、被害者側もそういう意味で加害者とどういう形で関わるのか、関わらないのかという判断をすることが必要になると思います。

 先ほど土師さんがおっしゃったように長いスパンでの支援が必要ですが、子どもが被害者の場合、学校に行っている場合は、学校へ行っている間は教育委員会等も含めて支援をしていただくんですが、そこを卒業した段階でぶちっと切れてしまいます。それから、福祉の支援を受けている場合は、18歳を過ぎると福祉の支援を受けられないということになりますので、その長い期間の支援を次にどうつないでいくかということも問題になるかと思います。

 その点、実は行政の方は、せっかく担当者と人間関係ができても、その方が転勤をすると支援がつながらないという場合があるんですけど、弁護士の場合は同じところで事務所を開設しているというところがあるので、弁護士がつなぎ役になる場合も多いかと思います。

 最後に、被害者側の支援で難しいところを言ってくださいと言われたんですけれども、私ども法的支援をする立場にありますけれども、被害者の方のことについては非常に分かっていないところがたくさんあります。被害者の方に話してもらったり教えてもらわないと分からないことがたくさんあります。そこのところを被害者の方に、私どもがきちんと話してもらえるような、必要なことは必要だときちんと言ってもらうような関係になることがまず一番だというふうに思っています。それと、自分が支援者であることが未熟であるということを肝に銘じて、感受性と想像力を発揮して被害者の声を聴くよう努めていくほかないというふうに考えています。

 以上で終わります。

山下: ありがとうございました。審判前の被害届を出すか出さないかという段階から、審判中のこと、審判後のこと、それからまだ分からないことがたくさんあるということで、被害者にきちんと話をしていただけるような関係づくり、そういったことについてお話を頂きました。どうもありがとうございました。

 それでは、池埜さん、引き続きよろしくお願いいたします。

池埜: ありがとうございました。安保先生から、少年犯罪に関する司法の立場、その手続において被害者の方々にどう寄り添っていけばいいのかという、具体的なお話を聞かせていただいたかと思います。

 私は生活支援と人権の視点から、持続的に被害に遭われた方々とどのようにつながりを保っていけばいいのかについてお話しさせていただきたいと思っております。お手元の資料にもありますように、全部で4点あります。

 第1に、「ホール・パーソンの視点」です。日本語で言うと「全人的な視点」となるでしょうか。少し最初の文章だけ読ませていただきたいと思います。

 犯罪被害者という言葉は慎重に使う必要があります。なぜなら、犯罪被害に見舞われた方々は被害者になろうとしてなられたのではなく、また被害者としてのみ生きておられるわけではないからです。被害に遭うまでは1人の市民として社会に生きてこられた方々であり、それは今も変わらないという点を忘れてはならない。

 このように書かせていただきました。私たちは「犯罪被害者」という言葉を使うときに、被害者、あるいは被害という言葉に対するイメージあるいはレッテルを貼り付け、無意識のうちにそのイメージやレッテルに見合ったものを、相手に求めてしまうということが起こっていると思います。

 犯罪被害者のイメージというと、悲しみ、怒り、あるいは不運などになるかもしれませんが、これらイメージを当事者に付与してしまうことの危うさを私たちは自覚する必要があります。

 ある方は、犯罪被害でお子様を亡くされました。この方がもう1人のお子様と手をつないで、スーパーで笑いながら買物をしていました。それを見た近隣の方々が、「あの人、被害に遭ってるのに笑ってるわ」というようなうわさ話をする。犯罪被害に遭われた方は笑ってはいけないような無言のレッテルを、私たちの社会は被害者に与えてしまう。このようなことが起こってしまうのではないかということです。

 犯罪被害者の方々は、被害者としてだけで生きておられるわけではありません。主体的に、これからの人生をもう一度たぐり寄せて生きようとされる意志も含めた、全人的な存在として理解し、寄り添っていくことが大事なのではないかと思っています。

 被害に遭われた痛みに、目を背ければいいというわけではありません。ただ、被害の側面だけでその方の存在を全て語ってしまうという私たちの心に潜む危うさを、私たちは見つめていく必要があると思います。

 2番目です。「今、この瞬間の大切さ」を挙げさせていただきました。コロンバイン高校銃乱射事件、1999年4月20日に起きました。12名の生徒、そして1名の教師が、同じ高校の生徒2人によって殺害され、24名の方が重軽傷を負ったという、アメリカを震撼させた事件です。この事件のあるご遺族が次のように語っておられます。読ませていただきます。

 「私が最も慰められたのは、最も助けを期待していなかったある友人の支えでした。彼女は長年の友人で、24時間ひっきりなしにしゃべり続けるような人でした。乱射事件のことが伝わり、彼女が家の玄関に現れたとき、私は彼女のたわいもないおしゃべりには到底付き合えないと思って、たじろいでしまいました。しかし、彼女は家の中に入り、ただ黙って私の横に座ったのです。彼女は私が語らなくても、また私に何も聞かなくても、私が何を必要としているのかを察してくれました。無理にでも私に水を飲ませ、私が泣けば理由づけをしたり慰めの言葉を言うのではなく、泣くままにしておいてくれました。このような残虐な殺人に真っ当な理由など付けられるはずがありません。彼女はそのようなことをせず、共に泣いてくれました。そして、娘がついに帰宅することなく過ぎようとしている1日の終わりに、後ろ髪を引かれるようにして自宅へ帰っていき、そして自分の家族のもとへ帰っていきました。その友人は翌朝早く、再び我が家を訪れ、私に何か必要なことが生じても、どんな新しいニュースが入ってきたときでも、私のそばに静かに座っていてくれました。」

 「この友人による支援が最も慰められた支援だ」と、このご遺族は語ってくれました。この方はドーン・アナさんという方で、ローレンさんという18歳の娘さんを事件でお亡くしになった方です。アナさんは、次のようにおっしゃっています。

 「事件直後というのは、自分が息をしていることすら忘れている状態だ。このときに何かを考えたり、何か必要なことを言ってくださいと言われても、何が必要であるかも分からない」。今日の土師さんのお話とも共通する御経験ではないかと思っております。

 今、この瞬間の大切さ。今この瞬間は、考えることのできない、息をすることもできない状態かもしれません。その状態に寄り添うには、言葉による理由づけなどではなく、ただそばにいること。アナさんのご友人がアナさんの心情、経験、状態を思い計り、アナさんの靴を履いて、何が必要なのかということを全身で感受されたからこそ行えた支援ではなかったかと思っています。

 皆様のお手元の資料を御覧ください。これは大和田攝子先生が2003年に、犯罪によって子どもを奪われた親御さんのインタビュー調査でまとめられたものです。傷ついた言葉や態度、うれしかった言葉や態度がまとめられています。

 傷ついた言葉や態度という一連の表を見ていただきますと、一つ浮かび上がってくることがあります。それは、「過去を忘れて未来を展望できるように」という被害に遭わなかった側の論理によって発せられたものであるという点です。被害に遭わなかった側にとっての一種の慰めが目的となって語られたり、示された態度であると言えるのではないでしょうか。時間軸としては過去あるいは未来、そして立場としては被害に遭わなかった人の立場を保持したものです。別の言い方をすると、自分たちが被害者の痛みから少しでも距離をあけたいがために発せられたり示された態度ではないかと私は感じています。

 次の表にありますように、被害者にとってうれしかった態度や言葉は、過去でもなく未来でもなく、今この瞬間、被害者の方の靴を履いてみて感じ取れるもの、何が必要なのかと被害者のニーズに寄り添おうとする純粋な気持ちから生まれてきた言葉であり態度ではないかなと思っています。

 それらは、食事の用意であったり、具体的な被害者を支えるアクションを伴っています。

 過去でもなく未来でもなく、今この瞬間に苦しんでおられる被害に遭われた方々の状態。そのニーズというのは刻々と変わっていきます。その姿にどれだけ私たちは寄り添えるのか。「今」に寄り添おうという私たちの思いが、被害に遭われた方に「今ここにいる」「今ここに何とか生きているんだ」という感覚を持っていただけることにつながっていくのではないかと思います。

 3番目です。「知ること」です。安保先生のお話にもあったように、少年犯罪の場合、情報の壁が被害者を苦しめていきます。土師さんの御経験にも共通する部分だと思います。

 コロンバイン高校の場合、ご遺族は遺体に面会するまでに4日間かかりました。4日間、ご遺族は遺体のそばにすら近づくこともできませんでした。その間、多くの情報が、警察関係あるいは司法関係には流れていたけれども、被害に遭った人々にとってもっとも近い存在である遺族に伝わらなかった経緯があります。

 一番多くの生徒が殺害されたのは図書館でした。図書館での惨劇は911、日本でいうところの119に電話をされた人がそのまま電話をオープンにしていて、一部始終犯人の犯行が録音されることになりました。「録音テープを聞きたい」とご遺族が要求しても警察や司法関係者は全く耳を貸さなかったといいます。ご遺族が録音に接することができたのは、事件から1年後、それも検察関係者が同席で、質問は一切許されない、聞くのも1回限りという条件のもとでご遺族に公開された。

 最もコロンバイン高校のご遺族を苦しめたのが、この事件は防ぐことができたという情報が隠されているということです。犯行に及んだ2人の少年たちは、事件に至るまで多くのサインを発していました。その情報がいまだに隠されています。この点が、ご遺族の回復にとって大きな障害になっているのです。

 附属池田小学校事件のご遺族に事件の3年後、次のように聞いたことがあります。「最も力になった、あるいはよかったと思われる支援は何ですか」。ご遺族の1人、お父様は、間髪を入れずにおっしゃいました。「DNA鑑定です」と。娘さんが犯人に刺されて、救急車に乗せられるまでの足取りが全く分かりませんでした。多くの関係者にあたってもらっても分からなかった。最終的には、当時の大阪府警の判断で、まだ事件現場に残っていた血痕を一つ一つDNA鑑定をされ、病院に残っていた娘さんの血液と照合させて、最終的にそのお子さんがどのような経緯で逃げられ、そして救急車に乗せられたのか、その足取りがやっと分かりました。

 DNA鑑定は、犯人を捕まえるために行われるものが通例です。被害に遭われた方の足取りを確認するためにDNA鑑定がなされたのは恐らく日本でも初めてのことではないかと言われています。これは全て大阪府警の英断であったと聞いております。この支援によって、最後は59メートル独力で歩いて逃げたということが、初めて分かりました。ご遺族がうけとったのは、お子さんの「生きたかった」というメッセージです。生きたかったというメッセージをDNA鑑定を通じてご遺族は知ることができたのです。子どもの最後のメッセージをようやくつかむことができて、ご遺族は悲しみの淵から次のステップへ移ることができたといいます。「これにまさる支援はなかった」と振り返っておられました。いかに情報が大事なのか、知るということが大切なのかを知るエピソードとなりました。

 開示できないものもあるとは思いますが、ご遺族のペースで、何もやみくもに与えていくわけではなくて、ご遺族のペースで情報を開示し、知りたいというニーズに寄り添っていくことができるかどうか。被害者支援にとって重要な側面ではないかなと思っております。

 最後です。「動くことを支える」と表現させていただきました。スライドの写真をご覧ください。これはコロンバイン高校の事件現場の写真です。1階がカフェテリアですが、この2階が図書館でした。事件後、学校あるいは教育委員会は、そのまま図書館として再生させるという案を出しました。それに憤りを感じたご遺族の方々が、自ら募金を集めて、約4週間で日本円にして3億円あまりの寄付金を集めて図書館を別のところに建設して、2階部分を吹き抜けの祈りの場にされました。これはご遺族の方々が自ら一生懸命考えて、建築士と一緒にこの祈りの場をつくることを達成されたという経緯があります。

 ここ図書館で10人の方が亡くなられたのですが、亡くなられた方が倒れていた場所のコンクリート片をひとつひとつご遺族と工事関係者が協力して降ろし、そのコンクリート片をご遺族に持って帰ってもらうことも行われました。ご遺族の中には、コンクリート片をブランコの台にされたり、祭壇にされたりして、亡くなった家族の最後の場所を大切に守っておられます。

 家族が奪われ、トラウマの記憶となる場所を祈りの場に再生していく。このプロセスには多くの苦労がありました。それでも、その過程に自ら参加され、達成されたご遺族の姿があります。身体を動かし、凍結された身体から再生し、奪われたものをもう一度別の形に再生していく。コロンバイン高校の場合、図書館の改築でしたが、人よっては別な形になるかもしれません。土師さんにとっても土師さんの形があったかと想像しております。共に動き、回復のために創造していく活動に私たちも一緒に動いていく。こういった支援の形も大切なことではないかと思っています。

 スライドのこの絵は私のお世話になった、ボストンにあるトラウマ・センターのメディカル・ディレクター、ヴィッセル・ヴァン・デア・コーク先生から紹介いただいた絵でございます。「イカロスの墜落」というオランダ画家の絵です。この絵がトラウマを受けた方々の現実を表している象徴的な絵として紹介されました。

 皆様はこの絵をどのように受け取られるでしょうか。絵の右下に1人の溺れる少年がいます。イカロスです。今、まさに命が危ぶまれるような状態であっても、大海原に船は出港し、農夫たちは気づかず日常生活が繰り返されていく。その日常の中で、イカロスが取り残されていってしまいます。孤立に満ちた状態が、被害に遭われた方にとって大きな痛みとなります。さて、私たちは何をすべきか。この問いを見つめていくことを支援の根幹に据えるべきであろうとコーク先生はおっしゃっておられます。この絵を見ながら、私も何をすべきか、考えながら日々過ごしております。

 以上でございます。ありがとうございました。

山下: ありがとうございました。池埜さんから4つの視点ということで、被害者が被害者としてのみ生きておられるわけではないという、全人的な視点の大切さ。また、この瞬間を共に過ごす、ニーズに寄り添って共に過ごす、そういうことの大切さ。また、知ることから被害に遭われた方の支援が始まるのではないか。DNA鑑定の例も出していただきました。また、支援の中には共に動くこと、新たな活動とか何かをつくり上げていくこと、そういった形で共に動くことによる支援のあり方についてもお話いただきました。ありがとうございました。

 それでは、西田さんからよろしくお願いいたします。

西田: 私からは京都府警察の立場として、お配りしているレジュメに従って少年非行の状況や当府警察の犯罪被害者支援の状況など、4点についてお話しさせていただきます。

 まず1点目の少年非行の状況についてでありますが、内閣府が今年9月に発表いたしました世論調査によりますと、「5年前と比べて少年重大事件が増えていると思いますか」という質問に対して、79%の人が「増えていると思っている」というふうに回答しておられます。

 では、実際の少年非行の実態はどうでしょうか。京都府の少年非行の数値として表すのに用いております刑法犯少年の検挙補導人員を見てみますと、数値が確定しております平成26年は1,658人の少年が検挙等されているのに対し、5年前の平成21年は3,054人の少年が検挙等されて、その数値は半減しております。

 ちなみに、京都の少年非行が最も多かったのは、ちょうど私世代が思春期の時代で、ツッパリという言葉が流行り、校内暴力やアンパンと言われたシンナー遊びをしている少年たちが社会問題になっていた昭和57年ぐらいで、その数は何と7,080人であり、昨年の当府警の刑法犯少年の1,658人と比べますと、実に8割近く減少したことになります。にもかかわらず多くの方が少年重大事件が増えていると感じておられます。

 これは全国で発生した様々な少年による凶悪犯罪や子どもたちが被害に遭う事件が連日報道されたり、先ほども安保先生からありましたけれども、SNSの発展などによって情報が早く詳しく知られるようになったこともその一因かなと思っております。また、インターネットの普及も、子どもたちを取り巻く環境の悪化に繋がっていると考えております。

 2点目は、当府警察の犯罪被害者支援の状況についてでありますが、私も被害者支援を担当しておりましたので、多くの被害者やご遺族の方とお話をしておりますが、被害者やご遺族の方は、何年経っても悲しみや苦しみが癒えることはないとおっしゃっています。

 先日、事件から1年半経過した娘さんを殺害されたご両親にお会いしました。被害者のお父さんの仕事の関係の方に「1年たったので少し落ち着きましたか」と聞かれ、「そうですね」と答えてしまいましたが、実は「とんでもない。逆に1年たって毎日涙が出るんです」とおっしゃっていました。ご遺族、被害者にとって、事件はあまりにも突然のことで、頭が真っ白になり、そのときはすごく冷静に見えても、状況が分かるにつれ「つらさが日に日に増してくる」とおっしゃっていました。

 このご両親も1年間は何となく過ごせたようですが、1年経ったときに、同じような環境、同じような季節を感じ、このときに本当に自分の娘がいないんだということに気づいて、「今から帰ってくるんじゃないかなと思っていたけれど、やっぱり帰ってこない。その現実に毎日毎日涙が出て、止まりません」というふうにおっしゃっておりました。

 また、数年前に交通事故で4歳のお子さんを亡くされたご遺族の支援を行っておりますが、先ほどの土師さんの話でも自責の念という話があり、この事故のお母さんも4歳の子どもが、「お兄ちゃんのところに行く」と言って家を出て行き、「気をつけていきや。道路の右をちゃんと歩きなさいよ」と言って見送り、子どもはちゃんと言うことを聞いて道路の右端を歩いていたにもかかわらず、車にはねられて亡くなってしまいました。本当はまだ4歳の子どもを1人で外に出すのはどうかなという方もいるかもしれないですが、たまたまお母さんはその前の日に足を骨折されていて、一緒に行くことができませんでした。後悔といいますか、つらい思い、本当は何ら責任はないのですが、自責の念を感じておられました。

 話はかわりますが、冒頭に坂井警察本部長の挨拶にもありましたように、京都ではここ数年、死傷者多数の大変痛ましい事件が発生しておりますので、これら事件の被害者支援について若干触れさせていただきたいと思います。

 私たち被害者支援室というのは、少年の事件だから特別こうしようというのではなく、犯人が少年であろうが大人であろうが、被害者を支援する内容に大きな変わりはありません。ただ、子どもたちが命を亡くす、小さい子どもたちが事件に巻き込まれるというと、やはり報道が加熱しますので、心情面を含め、慎重な対応を行っています。

 さて、当府で発生した死傷者多数事件について、概要を説明させていただきます。平成24年4月、観光地の祇園地区で暴走車両が次々と歩行者をはね、7名の方が亡くなり、13名の方が重軽傷を負うという大きな事故が発生しました。その支援を行っている真最中で、祇園事故からわずか11日後に、京都市内よりも少し北方に位置する亀岡市で集団登校中の児童の列に居眠りで、かつ無免許で運転していた18歳の少年が、衝突する事件が発生しました。この事件では2人の子ども、1人の付添いの保護者とお腹の中の赤ちゃんまで亡くなられたほか、多くの児童が重軽傷を負いました。

 また、平成25年8月には京都市からさらに北西約90キロメートルに位置する福知山市の花火大会会場で、灯油が引火して爆発が発生し、小学生を含む3名の方が亡くなられ、54名の方が重軽傷を負う、これも大変痛ましい重大な事案が発生いたしました。

 こういった事件が発生いたしますと、京都府警察では直ちに指定被害者支援要員を緊急派遣して、被害者やご遺族、ご家族の方のもとに早期に赴き、少年事件と成人事件の違いを含め、これまで把握している状況を丁寧に説明するほか、被害者等への取材に訪れた報道関係者からの保護対策、亡くなられた方の葬儀対応や生活支援など、被害者やご遺族に寄り添った支援を行っているところであります。

 安保先生、池埜先生からも「寄り添う」という言葉が出ておりましたが、私たちもよくこの「寄り添う」という言葉を使います。「寄り添う」ということは簡単そうで、結構難しいというふうに思うのですが、私が考える「寄り添う」は、聞きたいことがいつでも聞くことができる、そういう関係を言うのだろうなと思っています。

 もう少し詳しく説明しますと、事件が発生して警察署にご家族の方が来られて、悲嘆されて頭が真っ白で何を聞いていいのか分からなく、パニック状態になられる方がたくさんおられるわけですが、ふと何かを聞きたいときがあります。ふと何か聞きたいときに、そこに誰もいないと聞けないわけで、そこに警察官が1人いると「すみません、これはどうなっているのでしょうか」とか「トイレはどこにあるのでしょうか」、「コーヒーはどこに売っているのでしょうか」など話をすることができる、それが「寄り添う」ということなのだと思っています。

 先ほど説明した死傷者多数事件では、どのような支援をしたか、簡単に説明します。祇園事故では4月ということで、桜がきれいな観光シーズンであり、多くの観光客の方がおられました。ですから、多くの人が事故を目撃され、多くの方が心理的ダメージを受けられ、心の健康相談室の設置など行政と連携した対応をいたしました。また、他府県から来られた方が事件に巻き込まれていますので、被害者のご家族も他府県から来てもらわなければいけないわけで、来てもらっても観光シーズンのため、泊まる場所がありません。宿泊場所の手配をいたしますが、やっとのことで「本来泊まる部屋ではないところを、ここでどうぞ泊まってください」と配慮をしてくださるホテル関係者があったのです。

 亀岡事件の場合は、被害者の多くが子どもたちでした。子どもたちが被害に遭った、それだけではなく、同級生のほか、土師さんの話にもありましたが、被害者の兄弟を含めたサポートも必要で、このような事件が今後起こらないよう対策を含め、スクールカウンセラーや学校、教育委員と連携した対応を行いました。

 福知山の花火大会では、家族連れの方が被害に遭われ、それぞれ別々の病院に運ばれました。したがいまして、家族と連絡がとれないということがありました。そこで警察官が「家族はここの病院にいますよ」と連絡を行ったりしました。また、現場はパニック状態ですので、携帯電話や鞄など、現場に置きっ放しの状態で救急車で病院に運ばれる方もおり、鞄がない、携帯電話がない、あるいは駐車場に車を停めっ放しだからどうしようなど、様々な要望がありました。この相談・要望も、福知山警察署を始め大会関係者と連携をとりながらしっかりと対応することができました。

 3番目ですが、当府警の犯罪被害者支援施策について、簡単に説明します。1つ目が、捜査過程における被害者支援の説明と心理的サポートです。先ほど申しましたとおり、京都府警察には被害者支援要員というのが指定されており、現在732名います。主な任務は病院や捜査の付添い、犯罪給付金の説明、報道機関からの保護対策、困り事等の相談など、732名の要員が重大事件が発生すれば支援に当たっているわけです。

 心理的サポートでは、当府警には犯罪被害者支援室に臨床心理士の資格を有する専属の心理カウンセラーが配置されています。実は、専属のカウンセラーが配置されているのは、近畿では京都だけであります。当府警では事案発生直後にカウンセラーが被害者に寄り添った支援を行い、継続的にカウンセリングを行ってケアに努めています。

 2つ目が、経済的負担の軽減です。これは1つが公費負担制度です。診断書料、初診料のほか、自宅に住むことができなかったときの一時避難場所、あるいは精神科医の診察、司法解剖後の検案書料や遺体搬送料を公費で負担しています。平成26年中は318人の方に約271万円の費用を負担しています。2つ目が犯罪被害給付制度ですが、この制度は一定の審査はありますが、故意の犯罪被害により亡くなられた犯罪被害者のご遺族への遺族給付金のほか、犯罪により重傷病を負った被害者にお支払いする重傷病給付金、障害が残った被害者にお支払いする障害給付金があります。

 3つ目が、関係機関との連携です。1つが京都府犯罪被害者支援連絡協議会で、平成10年に設立されております。1年に1回の総会で意見交換を行って被害者支援施策に努めています。もう一つは公安委員会指定の早期援助団体である公益社団法人京都犯罪被害者センターとの連携です。同センターとは被害者等から同意を得て情報提供を行っており、同センターと連携することによって中長期的な、途切れることのない支援を行うことができます。

 4つ目が、被害者も加害者も出さないまちづくりです。これは京都府と連携し、中学生や高校生に対する、「いのちを考える教室」を行い、子どもたちの規範意識を醸成する活動を行っているほか、府警独自の取組としては今年3月にご遺族と連携し、交通事故で亡くなった方の等身大の人型パネルであるメッセンジャー6命を製作し、その後、8月下旬まで約5カ月かけて、府下全ての警察署と警察学校にそのメッセンジャーを展示する「つなげ、いのちのリレー」プロジェクトを行いました。

 また、交通事故で亡くなった4歳の男の子が生前に育てていたヒマワリを、今年は全ての警察署に咲かせ、来年は全国に咲かせていこうという「ひまわりの絆プロジェクト」を行いました。このような取組は、命の大切さと交通安全を訴える活動として、本当に多くの府民の方に見ていただきました。

 最後に、被害者支援等に配慮している点でございますが、ここには現場で活躍している京都府警察官の方がたくさん来ておりますので、警察官へのメッセージも込めて話させていただきます。

 先ほど申しましたとおり、犯罪被害者に係る各種制度が確実に進んでおります。私は被害者支援室で勤務し、様々な被害者やご遺族の方とお話をさせていただき感じたことは、事件直後に最初に被害者等と接する警察官の役割というのは、良くも悪くも実に大きいということです。幾ら制度が進んでもやはり人間同士が接するわけで、接する警察官との関係性というのは被害者にとってはとても重要なわけです。

 警察官は法律に基づいて仕事をしています。そのため、同じ事件であれば同じ方法で捜査が進んでいく傾向にあります。ですから、言葉は悪いかもしれませんが、型通りの事情聴取や捜査が行われ、ただでさえ通常の精神状態でない被害者にとっては、警察官の説明が理解できないことがあるのです。そのため、必要なことはゆっくりと分かりやすい言葉で説明する必要があると思っています。

 そして、「気付き」が大切です。警察官の立場とすれば、聞きたいこと、聞かなければいけないことがたくさんあるわけですが、逆に被害者としては、聞かれたくないことがたくさんあるのです。ですから、この「気付き」は被害者の立場に立つことが重要で、被害者の聞かれたくないであろうことに気付き、聞かなければいけない理由などを、理解を確かめながらゆっくりと説明して、聞いてあげることが大切であると感じています。

 被害者にとって理想とする警察官は、被害者の無念を晴らすため犯人を捕まえてくれる強い警察官であり、被害者には親切で優しい警察官であると思います。被害者にとってはお巡りさんがいいのです。ある被害者は「とてもいい警察官に当たったからよかった」、ある被害者は「ちょっと嫌な警察官に当たったからつらかった」ということでは駄目だと思っています。そのためには犯罪被害者支援を担当する警察官のスキルアップを図っていく必要があり、そして、何よりも「力になりたい」と思うことが、適切な被害者支援につながるのではないかと思います。

山下: ありがとうございました。西田さんからは、京都府の現状を踏まえて、支援施策の実際ということで、具体例を交えてお話いただきました。特に寄り添うことの大切さ、難しさ。聞きたいときにすぐに聞けるような、そういう寄り添うという意味を教えていただきました。また、本当に警察官の方がきめ細かく、ホテルの確保だとか、鞄のことだとか、駐車場の車のことだとか、本当に身近な被害者のニーズを一つ一つとらえて支援しているということをお話いただいたと思います。ありがとうございました。

 それでは、最後になりますけれども、土師さんから、お三方に対してのコメントや御質問、もうちょっと聞きたいことがございましたらお話いただけたらと思います。よろしくお願いします 。

土師: お三方ともすばらしい発言をしていただきまして、どうもありがとうございます。

 池埜先生の「ホール・パーソン」という、この言葉が非常に被害者にとって「これやねん」という感じの言葉じゃないかなと私は思っています。やはり犯罪被害者というレッテルを貼られてしまって、「こうでなければいけない」という思われ方が、やはり一番精神的につらいことだと私自身は思っています。ですから、1つの主体である、個人であるということをここでおっしゃっていただいたのが、非常にうれしいことだと思っております。

 あと、知ること、この重要性というのは、特に少年事件の場合でしたら完全に十分な情報がないということが一番大きいことで、以前に法務委員会でお話しさせていただいたとき、全部情報を知ることが余計しんどいんじゃないかという、そんな質問をされたんですけれども、逆に知らないことのほうがその百倍しんどいということをやはり御理解いただけたらというふうに思っています。

 あと、安保さんに関しても、「子どもの権利擁護をライフワークに」というふうにおっしゃられましたので、先ほど私が申し上げましたけれども、少年が被害者の場合、その兄弟というのは絶対いますので、その人たちに対しての対策を本当に皆さんに、支援者を含めて考えていただけたらどれほど力強いかと思いますので、今後ともよろしくお願いしますとしか言いようがないんですけれども。

 あと、最後に西田さんはいろんなことをやってはって、すごいなと思ったんですけれども、これが西田さんだからできるというのであれば、これはちょっと違うと思っていますので、やはり人によってできることが違うというのはプラスとしての支援にはならないと思いますので、そこら辺を連綿と続けて、教育を含めて続けていっていただけたら、またすばらしい支援ができるんじゃないかなと思いますので、是非とも今後ともよろしくお願いいたします。

 

山下: どうも貴重なコメント、御意見をいただきましてありがとうございました。

 せっかくですので、今土師さんから一言いただきましたので、それに対して答えということでもないですが、パネリストの方からも少し、それに対してお話いただけたらと思います。安保さんのほうからは子どもの権利擁護ということで土師さんから御意見をいただきましたけれども、ちょっとそのことでコメントを頂きたいと思うのですが、いかがでしょうか。

安保: 子どもの権利擁護をライフワークにするとか、ちょっと大それたことを書き過ぎてしまったかなと思ったのですが、子どもはまず1人では生きられないので、やはり親御さん、それからご兄弟全員、その生活があってこそ子どもの成長が保障されるので、子どもの権利擁護をしようと思うと、そのご兄弟、それからお父さん、お母さんについての支援をしっかり、ご家族全体の支援をしっかりして、ご家族がいわゆるご家族の機能というか、機能という言い方は失礼ですけれども、ご家族としての本来の日常の生活とか機能を取り戻すことが一番大切で、そのためには何が必要かということを、やはりご家族の状況をよく、誰かがきちんと見ていくことが必要じゃないかなと思います。

 本当に被害に遭われると、自責の念とか、それからとてもいろいろなことが急に降りかかってくるので、円満でいらっしゃったご夫婦も、その被害に遭われたことで円満ではなくなるというか、非常に不協和音が出たり、それだけでもまたしんどくなったりするので、そのご家族全体の支援をどう見ていくかということが必要と思います。親子関係もぎくしゃくしたりいろんなことがしてくるので、それについては、どこがどう必要なのかなというところはあるかなと思います。ただ、特に子どもに関しては、子どもに対して専門的な支援をする方が非常に少ないということが、やはり子どもの支援がなかなかできないところにあると思っています。

山下: ありがとうございました。では、引き続き池埜さんのほうから、ホール・パーソンのことを含めて。

池埜: ありがとうございました。ご兄弟のことについて、一つだけ御紹介と、土師さんの思いを共有させていただきたいと思っています。

 附属池田小学校事件の場合、深く関わらせていただいたご遺族には、下のお子さんがおられました。当時まだ4歳のお子さんだったと思います。事件から2週間から3週間、そのお子さんを幼稚園にどうやって登園させるかということが大きな課題になっていました。当時、まだ報道関係者の待ち伏せがありました。幼い子どもをメディアが追いかける可能性はゼロではなく、子どもの安全をどう守るかというところから始まりました。ご遺族にとってのその時の大きなニーズが、「保育支援」だったんです。

 下のお子さんをどう守っていくのか。登園をどう支えるのか。また、成長著しいときです。ちょうど幼児期から児童期に移行するころでしたから、子どもの発達をどう支えていくか。支援者らと協議しまして、私の当時のゼミ生、大学3年生の女性2人が保育支援にかかわるようになりました。彼女たちを私ともう1人の専門家が支えていく。学生たちの保育支援後は、必ずその経験を一緒に分かち合いました。場合によっては私の自宅、あるいはもう1人の支援者の自宅で分かち合いを行い、学生たちを支えていきました。

 裁判の傍聴などの時、ご遺族にとっては、子どもをどこかに預けることすら怖いと感じられます。他者に預けるということがもう許せない。下のお子さんに何かあったらとんでもないことだということで、信頼のおける人に預けたいというニーズがご遺族には強くありました。その後、信頼関係が深まっていき、そのお子様も大学生になり、支援に携わった学生たちも結婚しました。彼女たちの結婚式には、そのご兄弟の方も参列してくださるというような、長い長いスパンの支援が繰り広げられました。

 今は、犯罪被害者支援センター等、民間の支援制度ができていると思いますが、土師さんの御提示していただいたご兄弟の長い長い支援、例えばボランティアや大学生、それもきちっとしたスーパービジョンのある中で、支援の網の目を兵庫あるいは京都の被害者支援センターと連携を組みながら実現できないものかと考えたりしております。今後もまた是非、この問題について一緒に考えさせていただきたいと思っております。

山下: ありがとうございました。では、西田さんも一言お願いいたします。

西田: ありがとうございました。京都は、歴代の被害者支援を担当していただいた先輩方のおかげで先進的な取組が行われているのではないかと思っています。

 京都の場合は、犯罪被害者支援センターや京都府ととても連携がとれておりますので、そういった意味で途切れのない支援をこれからも適切に行ってまいりたいと思っています。また、池埜先生からもありましたが、本日は兄弟の支援の重要性というのをすごく感じました。そういったここから、今後は兄弟の支援の必要性などについて被害者支援を考えていければというふうに思っております。

山下: ありがとうございました。時間も過ぎていますので、まとめということになるのですが、なかなか全体を一言で言うことは難しいです。今日のお話の中で本当に被害者のニーズに沿ってきめ細かな支援を続けていくということが、途切れることのない支援につながると思いました。

 特に被害に遭った子どもさんももちろんですが、ご兄弟を含めた子どもへの支援ということがまだ十分、専門的な支援も含めて不足しているのではないかということで、その辺り、貴重な今後の課題ということを頂いたかと思います。

 最後になりますけれども、内閣府の安田さんのお話にもありましたように、やはり被害者支援というのは私たち自身の問題であるという視点に立ちまして、一人一人が小さな一歩であっても、そこから取り組んでいくということが、被害者支援の広がり、制度や仕組みは確かに広がってきたと思うのですが、そこに力を入れていくというか、肉づけしていくというのはやはり一人一人の取組だと思います。人は確かに人で傷つけられますけれども、人でしか癒されない、そういったことも出されました。そういう意味で今日のお話を踏まえて、また皆様方が現場で小さな一歩から始めていただけたら支援も広がっていくのではないかと思います。

 簡単ですけれども、まとめとさせていただきまして、パネルディスカッションを終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

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