第6章 公安の維持と災害対策

2 経済安全保障等に関する取組

(1)経済安全保障をめぐる情勢

近年、国際情勢の複雑化、AI、量子技術等の革新的技術の出現、宇宙・サイバー・電磁波といった安全保障における新たな領域の誕生等により、安全保障の裾野が経済・技術分野に拡大している。

我が国には、規模の大小を問わず、様々な産業分野において、先端技術に関する情報を保有する企業が多数存在しており、これらの企業が保有する技術情報等の中には、軍事用途に転用可能なものもある。こうした技術情報等が国外に流出した場合、企業や研究機関の国際競争力が低下するだけでなく、我が国の安全保障上重大な影響が生じかねない。我が国においては、令和4年5月に経済安全保障推進法が成立したほか、令和4年12月に閣議決定された「国家安全保障戦略」において、我が国が優先する戦略的アプローチとして「自主的な経済的繁栄を実現するための経済安全保障政策の促進」が掲げられるなど、経済構造の自律性の確保や技術の優位性、不可欠性の獲得等のための取組が進められている。

また、海外においては、令和5年(2023年)10月、いわゆるファイブ・アイズ(注1)を構成する5か国の治安情報機関の長官が初めて公の場に集まり、米国連邦捜査局(FBI(注2))等の主催により新興技術とイノベーション・セキュリティの確保に関する会合が開催された。

同会合において、特に中国による技術情報等の獲得の脅威について言及がなされ、企業やアカデミアが自らの知的財産や技術を産業スパイから保護するための「イノベーション保護のための5原則」が示された。

注1:米国、英国、オーストラリア、カナダ及びニュージーランドによる情報共有の枠組み

注2:Federal Bureau of Investigationの略

 
イノベーション保護のための5原則(英国保安庁(MI5)ウェブサイトより)
イノベーション保護のための5原則(英国保安庁(MI5(注))ウェブサイトより)

注:Military Intelligence 5の略

(2)技術情報等の流出防止に向けた取組

警察庁では、令和4年4月、経済安全保障室を設置し、技術情報等の流出の未然防止のための取組を都道府県警察と連携して推進している。

① 取締り

警察では、従前から、安全保障貿易管理の実効性を確保する取組の一環として、大量破壊兵器関連物資等の不正輸出に対する取締りを徹底している。また、「拡散に対する安全保障構想(PSI(注))」に平成15年の発足当初から参画するなど、国際的な取組にも積極的に参加している。

これらに加え、経済安全保障の観点から、広く先端技術に関する情報の流出に対応すべく、産業スパイ事案やサイバー事案の実態解明と取締りを強化している。例えば、令和5年6月には、国立研究開発法人の営業秘密である技術情報が記載されたファイルデータが中国所在企業のメールアドレスに送信・開示された事案を検挙している。

注:Proliferation Security Initiative(拡散に対する安全保障構想)の略。国際社会の平和と安定に対する脅威である大量破壊兵器関連物資等の拡散を阻止するために、国際法及び各国国内法の範囲内で、参加国が共同してとり得る移転及び輸送の阻止のための措置を検討・実践する取組のことで、106か国(令和5年5月現在)がPSIの基本原則や目的に対する支持を表明している。

② アウトリーチ活動

様々な経済活動を通じた技術情報等の国外流出を未然に防止するためには、技術情報等を取り扱う企業等による自主的な対策が不可欠である。警察では、技術情報等の獲得に向けた外国からの働き掛けの実態を捜査等を通じて把握した上で、技術情報等を取り扱う企業や研究機関に対してその手口や有効な対策についての情報提供を行う「アウトリーチ活動」の強化を通じ、企業等による対策の実施を支援している。

警察によるアウトリーチ活動は、地域住民の生活に密着して犯罪の予防等に当たる我が国の警察の特性を生かして行っている。また、多くの都道府県警察では、経済産業省、経済団体等と連携し、これらの関係機関・団体が所管している安全保障貿易管理に関する制度や、現に講じられている営業秘密の流出防止対策等についての情報提供を行っている。こうした都道府県警察の取組に加え、警察庁では、大企業や経済団体等へのアウトリーチ活動を行い、国レベルでの官民協力を推進している。

MEMO 技術情報等の流出防止に向けて

警察によるアウトリーチ活動では、警察庁が作成した技術情報等の流出防止対策を呼び掛けるためのパンフレットを活用している。パンフレットでは、技術情報等の獲得に向けた外国からの働き掛けに対する有効な対策として、「See(相手・書類をよく見る)」、「Stop(立ち止まってリスクを把握する)」、「Share(共有する・相談する)」ことを「企業やアカデミアに守ってほしい3つのS」として紹介している。

なお、警察庁では、企業等における社内研修等での活用も念頭に、警察庁ウェブサイト(注)において、これらの動画やパンフレットを公開している。

注:警察庁特設ページ「技術流出の防止に向けて」https://www.npa.go.jp/bureau/security/economic-security/index.html
QRコード 警察庁特設ページ「技術流出の防止に向けて」

 
パンフレット「技術流出の防止に向けて」
パンフレット「技術流出の防止に向けて」
 
パンフレット「技術流出の防止」
パンフレット「技術流出の防止」
 
技術情報等の流出防止に向けた動画
技術情報等の流出防止に向けた動画


前の項目に戻る     次の項目に進む