特集3 新型コロナウイルス感染症をめぐる警察の取組

2 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けた警察の取組

(1)空港等における警戒警備

新型コロナウイルス感染症に係る検疫の強化に伴い、警察庁では、厚生労働省をはじめとする関係機関との情報共有や協力を緊密に行うとともに、関係都府県警察では、円滑な検疫の実施に協力しつつ、トラブルや不測の事態の防止を図るため、空港等における警戒警備等を実施している。

 
空港における警戒状況
空港における警戒状況
(2)関連する犯罪の取締り・防犯情報の提供

警察では、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」等に基づき、関係機関との連携を図るなどして、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う混乱等に乗じた犯罪に関する情報の入手に努めるとともに、取締りを徹底している。

また、感染拡大を予防する「新しい生活様式」(注)が普及していくことに伴う犯罪情勢の変化等の実態把握を推進しているほか、ウェブサイト、電子メール、SNS、チラシ等の各種広報媒体等を通じた防犯情報の提供や注意喚起に努めるとともに、各種犯罪の発生状況等を踏まえたパトロール等の警戒活動を実施している。

注:新型コロナウイルス感染症専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020年5月1日)において示された、マスクの着用や手洗い等の基本的な感染対策やテレワーク等の接触機会を軽減するための対策の継続といった、感染拡大を予防する行動を取り入れた生活様式

 
警視庁による注意喚起
警視庁による注意喚起
(3)都道府県知事による住民に対する外出・移動の自粛要請等に伴う警察の対応

警察では、都道府県知事による住民に対する外出の自粛要請等に伴い、繁華街でのトラブル等の発生を防止するため、地域警察官によるパトロールを強化するなどの所要の措置を講じている。

また、都道府県知事からの要請等を踏まえ、こうした活動を通じて、状況に応じ、国民に対し、外出の自粛要請が行われている旨の一般的な声掛けを行うなどの協力を行っているほか、道路管理者等と連携し、交通情報板等を活用して移動の自粛要請が行われている旨を周知するなどの協力を行っている。

 
繁華街における警戒活動
繁華街における警戒活動
(4)警察関係行政手続の臨時措置

警察では、新型コロナウイルス感染症への感染防止の観点から、運転免許証の有効期間の末日までに更新できない可能性がある者について、運転免許センター、警察署等に対する事前の申出があれば、運転及び更新可能期間を延長する措置を講じた。当該申出については、全ての都道府県警察において、代理人や郵送によるものも可能とした。

また、緊急事態宣言の発出に伴い、自動車教習所や運転免許センター等の業務が一時休止したことを受け、運転免許を取得しようとする者が不利益を被ることがないよう、教習期間の弾力的な運用を可能とするとともに、事前の申出があれば、卒業証明書により運転免許試験の技能試験が免除される期間を延長するなどの措置を講じた。

このほか、警察では、新型コロナウイルス感染症への感染やそのおそれを理由に、警察関係法令に基づく許可手続等ができない方について、とり得る措置を教示するなどして、国民の権利利益の保全を図っており、都道府県警察本部及び警察署において、許可手続等に係る相談に対応している。

 
延長申請手続の状況
延長申請手続の状況
(5)感染拡大防止のための取組

警察職員の新型コロナウイルス感染症への感染防止対策は、職員の健康確保という観点のみならず、警察が治安維持の責務を全うするという観点からも重要である。警察では、全職員に対し、手洗い、アルコール消毒液による手指消毒のほか、「咳エチケット」の励行を徹底させるとともに、集団感染のリスクを高めるとされる3つの条件(注)をできる限り避けるための勤務環境の改善、窓口業務等の対面でのやり取りが必要な場面での透明ビニールカーテン等の遮蔽物の設置等を行っている。

このほか、不特定多数の者に接する機会や様々な物品に触れる機会が多いなど、感染のリスクが高い各種業務については、従事する警察職員に手袋やマスクの着用等の感染予防対策を徹底させるとともに、留置管理業務、犯罪捜査及び警備活動等に当たり必要となる感染予防資機材の整備を推進している。

注:換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面

 
感染予防資機材を活用した窓口業務
感染予防資機材を活用した窓口業務

MEMO 新型コロナウイルス感染症の感染拡大が犯罪情勢にもたらした影響

新型コロナウイルス感染症の感染拡大が長期化する中、令和2年4~6月期の国内総生産(GDP)が前期比で実質8.3%の減少となるなど、経済への影響が生じているほか、「新しい生活様式」の実践等が呼び掛けられたことを受け、多くの人が外出自粛を意識するようになる(注1)など、感染拡大は、様々な社会情勢の変化をもたらしており、犯罪情勢にもその影響の一端とみられる動向を垣間見ることができる。

例えば、刑法犯認知件数の大きな部分を占める街頭犯罪(注2)の認知件数は、官民一体となった総合的な犯罪対策の推進や防犯機器の普及その他の様々な社会情勢の変化を背景に、近年、継続的に減少しているところ、令和2年は、前年比で27.0%の減少と、減少傾向に入った平成14年以降で最大の減少率となっており、特に、月別の街頭犯罪の認知件数をみると、令和2年4月以降は、前年同期比で20%以上の減少が続いた。令和2年4月7日から同年5月25日までの間は、特措法に基づく緊急事態措置が実施されており、不要不急の外出・移動の自粛が要請されていたところ、例えば、首都圏・関西圏の主なターミナル駅におけるピーク時間帯の利用者数が大幅に減少(注3)するなど人流の変動がみられ、また、緊急事態解除宣言後も「新しい生活様式」の実践等が呼び掛けられていることなどを受けて、こうした動向が引き続いている様子がみられる。犯罪の発生件数の増減には様々な要因が考えられるものの、このような新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う感染防止のための外出自粛についても、街頭犯罪認知件数の減少の一因となった可能性が考えられる。

配偶者からの暴力事案等及び児童虐待事案についても、外出自粛等による生活の不安やストレスの増加によって、被害が増加・深刻化することが懸念されたところ、配偶者からの暴力事案等の相談等件数(注4)や警察から児童相談所に通告した児童数(注5)の増加傾向にはいずれも大幅な変化はみられなかった。他方、常に配偶者が一緒に家にいることによる電話相談の難しさ、地域社会における子供の見守り機会の減少等によって事案が潜在化している懸念もあり、配偶者暴力相談支援センター等に寄せられた相談件数が前年度比約1.6倍に増加している(注6)などの状況もあることから、引き続き、関係機関と連携した情報の把握に努める必要がある。

このほか、緊急事態措置として行われた休業要請等に従って休業している店舗等への侵入窃盗や感染拡大に関連した詐欺等の感染拡大に伴う混乱等に乗じた犯罪や行政機関をかたるワクチン接種に関連した不審な電子メール、マスク不足に便乗した詐欺サイト、偽の給付金の申請サイト(注7)等も確認されているほか、感染拡大対策に関連した給付金をだまし取る詐欺等、事業者への経済支援に乗じた犯罪も発生している。

注1:令和2年9月に警察庁が実施したアンケート調査(全国の15歳以上の男女1万人を対象に、年代別・性別・都道府県別の回答者数の割合が平成27年国勢調査の結果に準じたものとなるようインターネットを通じて実施したもの)によれば、平日の滞在場所について、6割超の人が「飲食・買い物・娯楽施設などへの外出先」に滞在する時間が減り、「自宅」の滞在時間が増えたと回答しているほか、「インターネットで買い物や決済をすることが増えた」、「現金を使う機会が減り、キャッシュレスサービスを使うことが増えた」と回答した人がそれぞれ3割を超えた。

注2:路上強盗、ひったくり、自動車盗、オートバイ盗、自転車盗、車上ねらい、部品ねらい及び自動販売機ねらいのほか、強制性交等、強制わいせつ、略取誘拐・人身売買、暴行、傷害及び恐喝のうち街頭で行われたもの

注3:出典:「駅の利用状況(首都圏・関西圏:速報値)」(国土交通省)(https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_fr1_000062.html

注4:77頁参照(第2章)

注5:78頁参照(第2章)

注6:出典:内閣府HPより(https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/pdf/soudan_kensu.pdf

注7:15頁参照(特集2)

CASE

無職の男(23)は、令和2年5月、緊急事態措置として行われた休業要請に従って休業していた居酒屋に侵入し、現金3万8,000円を窃取した。同月、同男を建造物侵入罪及び窃盗罪で逮捕した(熊本)。

CASE

会社役員の男(26)らは、令和2年5月、国の持続化給付金制度を利用して同給付金の名目で現金をだまし取ろうと考え、同給付金申請用ページに接続し、虚偽の事業内容、事業収入等を入力するなどして同給付金の給付を申請し、現金100万円をだまし取った。同年8月、同男ら3人を詐欺罪で逮捕した(愛知)。

CASE

健康食品販売会社役員の男(72)らは、令和2年2月頃、厚生労働大臣の承認を得ていない医薬品について、「新型コロナウイルスの対策として」「ウイルス増殖を抑制する」などと薬効をうたう広告をした。同年3月、同男ら1法人2人を医薬品医療機器等法違反(承認前の医薬品の広告禁止)で検挙した(警視庁)。

 
図表特3-2 刑法犯の認知件数の推移(平成元年~令和2年)
図表特3-2 刑法犯の認知件数の推移(平成元年~令和2年)
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図表特3-3 月別の街頭犯罪の認知件数の推移(平成30年~令和2年)
図表特3-3 月別の街頭犯罪の認知件数の推移(平成30年~令和2年)
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