特集:変容する捜査環境と警察の取組 

2 窃盗犯捜査が抱える課題

窃盗犯の検挙件数は平成17年から連続して減少しており、14年から25年にかけての窃盗犯の検挙件数の減少数は、同期間の刑法犯全体の検挙件数の減少数の7割以上を占めている。

 警察庁では、同年12月から26年1月にかけて、警察捜査に対する国民の意識を把握し、今後の施策の参考とするため、警察捜査に関する意識調査(注)を行った。同調査のうち、被害に遭うことに関して不安を感じる犯罪については、「空き巣などの住宅へ侵入して物を盗む犯罪」との回答が最も多かった。

 このように、窃盗犯の検挙件数が減少していることは、国民の体感治安に悪影響を及ぼしかねない要因であり、警察捜査における重要な課題となっていることから、窃盗犯の余罪(被疑者の取調べの開始以降に同一被疑者による犯行であると裏付けられた別の事件)の検挙状況に焦点を当て、窃盗犯捜査が抱える課題について分析する。

注:意識調査は、インターネットアンケート形式による2段階調査(予備調査で適切な対象者を抽出した後に本調査を実施。)を用いて実施した。予備調査は、インターネットアンケート登録モニターのうち20歳から69歳までの男女約278万人から無作為に抽出した約6万人を対象に実施し、過去1年以内に犯罪被害の経験がある者447人、過去5年以内に捜査協力の依頼を受けた経験がある者656人(それぞれ両方に該当する者158人を含む。)を抽出し、これらに無作為に抽出した1,055人を加えた合計2,000人を本調査の対象とした。回収数2,000人の男女内訳は、男性は1,210人(60.5%)、女性は790人(39.5%)であった。年代別では、20歳代は206人(10.3%)、30歳代は471人(23.6%)、40歳代は484人(24.2%)、50歳代は513人(25.7%)、60歳代は326人(16.3%)であった。

 
図表-18 被害に遭うことに関して不安を感じる犯罪(3つまで)
図表-18 被害に遭うことに関して不安を感じる犯罪(3つまで)
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(1)窃盗犯の余罪検挙状況の推移

窃盗犯の解決事件を除いた検挙件数の推移を本件(注)、余罪別でみると、本件の検挙は近年減少傾向にあるものの、過去20年間は13万件以上で推移している。一方で余罪の検挙は、平成16年と比べて半減しており、検挙件数に占める余罪検挙の割合(以下「余罪割合」という。)も過去20年間で28.5ポイント低下するなど、近年、窃盗犯の余罪検挙が顕著に減少している。

注:取調べを開始するまでにその被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当の証拠を収集した事件

 
図表-19 窃盗犯の余罪割合の推移(平成6~25年)
図表-19 窃盗犯の余罪割合の推移(平成6~25年)
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図表-20 窃盗犯の余罪割合の推移(平成16~25年)
図表-20 窃盗犯の余罪割合の推移(平成16~25年)
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(2)窃盗犯の余罪検挙の端緒

図表-21のとおり、25年中の窃盗犯の本件検挙の端緒については、「民間人の協力等」(42.1%)、「現認・職務質問」(22.2%)を始め、様々な方法で入手している。一方、余罪検挙の端緒については、「被疑者の取調べ」(94.7%)がその大部分を占めている。

このように、窃盗犯の余罪捜査では、被疑者の取調べにおいて余罪に関する供述を得ることが欠かせないものとなっている。

 
図表-21 窃盗犯の検挙の端緒(本件・余罪別)(平成25年)
図表-21 窃盗犯の検挙の端緒(本件・余罪別)(平成25年)
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(3)窃盗犯の余罪検挙減少の要因

窃盗犯被疑者の取調べにおける供述状況をみると、窃盗事件でも否認事件の割合が増加している(注1)。被疑者が本件について否認している場合には、余罪に関する供述を得ることは困難である。また、本件について否認していない場合であっても、余罪に関する供述が得られるとは限らない。このように、被疑者から余罪に関する供述を得ることが困難になっていることが、窃盗犯の検挙件数を減少させている大きな要因と考えられる。

この背景には、一事件における捜査事項が増加していることや捜査を行う刑事部門の警察官が行うべき直接の捜査以外の業務が増加していること等が影響していると考えられる。例えば、図表-22のとおり、通常逮捕状及び緊急逮捕状の発付人員(注2))が減少傾向にある一方、差押・捜索(許可)状・検証許可状の発付人員(注3))は増加傾向にあり、一事件当たりの携帯電話等に係る照会、通信履歴の差押え等の捜査事項が増加していることがうかがわれる。

こうした捜査事項の増加のほか、相談業務(注4)や死体取扱業務(注5)の増加等により、被疑者の取調べ等に十分な時間を割くことが困難になっていること等が影響しているものと考えられる(注6)

注1:17頁参照

注2、3: 延べ人員

注4:88頁参照

注5:28、29頁参照

注6:16、20頁参照

 
図表-22 令状の種類別発付人員(平成18~24年)
図表-22 令状の種類別発付人員(平成18~24年)
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 第1節 犯罪情勢と捜査上の課題

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