特集II:安全・安心で責任あるサイバー市民社会の実現を目指して

4 サイバー犯罪捜査への支援

(1)技術支援

<1> 技術支援のための体制

情報通信技術の発展に伴い、サイバー犯罪に悪用される技術が高度化し、その取締りには、高い技術的知見が必要とされるようになったことから、警察庁では、サイバー犯罪対策に関し都道府県警察を技術的に指導する組織として、情報通信局、管区警察局情報通信部及び都道府県(方面)情報通信部に情報技術解析課を設置している。

<2> 技術支援の取組

サイバー犯罪の捜査に当たっては、犯行に使用されたコンピュータの特定が必要となる。情報技術解析課では、サイバー犯罪捜査への技術支援として、犯人が使用したとみられるコンピュータや犯人が不正にアクセスしたコンピュータ等から、当該犯行に係る情報を抽出する作業を行っているほか、捜索・差押え現場でコンピュータ等を適切に差し押さえるための技術的指導等を行っている。

また、コンピュータ・ウイルス等の不正プログラムを用いたサイバー犯罪に対しては、当該プログラムの動作解析を行い、手口の解明に資する情報を収集するほか、コンピュータ・ウイルスに感染したコンピュータの動向を把握するためのインターネット上の情勢の観測等を行っている。

さらに、警察庁では、ファイル共有ソフトによるファイルの流通状況等の実態把握を目的とした、P2P 観測システム(特集II 2節3項コラム4参照)を平成22年から運用している。同システムは、ファイル共有ソフトを用いた著作権法違反事件、児童買春・児童ポルノ法違反事件等の捜査において有用な情報を提供するなどしている。

解析の様子

解析の様子

事例

出会い系サイト運営会社取締役(36)らが、20年9月頃から21年3月頃にかけて、SNS サイトに不正アクセスして女性会員になりすまし、SNS サイトの男性会員にメールを送信して自らが運営する出会い系サイトへ誘導して会員登録させた上、実際には異性会員との電子メール交換ができないにもかかわらず、同サイト内において同社従業員らがなりすました架空の女性会員とのメール交換を継続させることにより、男性会員のポイントを消費させ、男性会員から出会い系サイト利用料をだまし取った詐欺事件に関し、21年2月から22年3月にかけて東北管区警察局宮城県情報通信部は、捜査員へのネットワークサービスに関する技術指導、約120台のコンピュータ等の解析、警察専用捜査支援ツールの作成等、事件解決に向けた技術支援を行った。

コラム〔5〕 デジタルフォレンジック(注1)に係る取組

携帯電話、コンピュータ等の電子機器が一般に普及し、多くの犯罪に利用されるようになってきているとともに、客観的証拠の収集の徹底が強く求められていることから、犯罪に利用された各種電子機器に保存されている電磁的記録を適正に解析することが必要不可欠となっている。警察では、消去、改ざん等が容易な電磁的記録について、適正な手続による解析・証拠化等を行うための取組を強化している。

電子機器等に保存されている犯罪捜査に必要な情報を証拠化するためには、電子機器等から当該情報を抽出した上で、文字や画像等の人が認識できる形に変換するという電磁的記録の解析が必要不可欠であるところ、犯罪に利用された電子機器等は、証拠隠滅を企図した被疑者によって破損させられている場合があるほか、電磁的記録が暗号化されていることもあるなど、その解析には高度な技術が求められる。

また、電子機器等の製造技術の進歩は著しく、次々と新たな機器が登場することから、常に最新の技術や情報を収集・活用していくことが重要となる。

警察では、電磁的記録の解析に必要な技術情報を得るため、電子機器等の製造業者を始めとする企業との技術協力を推進するとともに、国内捜査関係機関が参加するデジタルフォレンジック連絡会及びアジア大洋州地域の治安機関が参加するアジア大洋州地域サイバー犯罪捜査技術会議を開催しているほか、21年5月には、欧州においてデジタルフォレンジックの中心的役割を担っているNFI(注2)との間で技術協力の推進を目的とした意図表明文書に署名するなど、関係機関との連携を推進している。

さらに、警察庁には、警察庁技術センター(注3)が開設されており、警察におけるデジタルフォレンジックの技術的中核として機能している。同センターには、高度かつ専門的な知識及び技術を有する職員を配置するとともに、高性能の解析用資機材を整備し、都道府県(方面)情報通信部等で対応が困難な破損・水没した携帯電話やハードディスク等に記録された情報、暗号により隠蔽された情報等の抽出・解析等を行っているほか、新たな解析手法の検討等を行っている。

図―38 デジタルフォレンジックの概要

注1:犯罪の立証のための電磁的記録の解析技術及びその手続

注2:Netherlands Forensic Institute(オランダ司法省法科学研究所)

注3:平成11年4月、サイバー犯罪対策に関し都道府県警察を技術的に指導する組織として警察庁情報通信局に技術対策課(現情報技術解析課)が設置された際、その技術的な中核組織として同課に設置されたもので、特に高度かつ専門的な知識及び技能を有する職員が配置され、高性能の解析用資機材を備えている。

(2)国際連携

<1> 国際的なサイバー犯罪捜査協力の推進

ア 国際捜査共助

国境を越えて行われるサイバー犯罪に関し、国内における捜査で犯人を特定できないときは、外国捜査機関の協力を求める必要がある。

警察庁では、国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)(注1)、刑事共助条約(協定)(注2)、サイバー犯罪に関する24時間コンタクトポイント(注3)等の国際捜査共助の枠組みを活用し、国境を越えて行われるサイバー犯罪に対処している。

注1:International Criminal Police Organization-Interpol

注2:5章3節5項 参照

注3:平成9年12月のG8司法内務閣僚会合で策定された「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」に基づき設置されたもので、現在58の国・地域に設置されている。

イ 国際会議・協議

警察庁では、G8ローマ/リヨン・グループに置かれたハイテク犯罪サブグループ、ICPO アジア・南太平洋IT 犯罪作業部会等の国際会議、外国捜査機関との協議を通じ、国際的なサイバー犯罪対策プロジェクトの実施、外国捜査機関職員との情報交換、協力関係の確立等に積極的に取り組んでいる。

また、平成23年5月、フランスで開催されたG8ドーヴィル・サミットでは、サイバー空間の安全確保等について首脳レベルでの初めての合意がなされ、各国政府や国際機関等が、G8ローマ/リヨン・グループと連携して情報通信技術のテロや犯罪目的利用の防止等に取り組んでいく必要があることなどが首脳宣言に盛り込まれた。これを踏まえ、警察庁では引き続き国際連携を推進していくこととしている。

第12回アジア・南太平洋IT犯罪作業部会

第12回アジア・南太平洋IT犯罪作業部会

<2> 国際的なサイバー犯罪捜査技術協力の推進

犯罪のグローバル化に伴い、外国製の電子機器等が犯罪に悪用される事例が増加している。これらの電子機器等に保存されている情報の抽出・解析を行うためには、外国における最新の技術動向の把握、外国治安機関との情報共有等を推進し、解析能力を向上させる必要がある。このため、警察庁では、各国治安機関等との情報技術解析に係る情報共有を始めとする国際連携を推進している。

ア アジア大洋州地域サイバー犯罪捜査技術会議

警察庁では、アジア大洋州地域の治安機関が情報技術の解析に係る知識・経験等を共有し、円滑な情報交換を促進するとともに、各国・地域のサイバー犯罪等の対策に資する解析能力の向上を図ることを目的として、アジア大洋州地域サイバー犯罪捜査技術会議を12年度から毎年度開催している。

第11回アジア大洋州地域サイバー犯罪捜査技術会議

第11回アジア大洋州地域サイバー犯罪捜査技術会議

イ サイバー犯罪技術情報ネットワークシステム

警察庁では、13年3月から、サイバー犯罪対策等に係る技術情報の共有を目的として、アジア大洋州地域の治安機関を結ぶサイバー犯罪技術情報ネットワークシステム(CTINS(注4))を整備・運用しており、22年12月現在、14の国・地域が参加している。

注4:Cybercrime Technology Information Network System の略。電子掲示板やデータ共有等の機能を備え、暗号化されたネットワークにより、各国の担当官が安全に情報をやり取りできる手段を提供している。


第2節 サイバー犯罪に対する取組

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