特集II:安全・安心で責任あるサイバー市民社会の実現を目指して

3 ネットワーク利用犯罪への対策

(1)インターネットを利用した児童ポルノ対策

<1> 児童ポルノの現状

近年、高画質画像の高速かつ大量な流通や、ファイル共有ソフトの利用拡大などにより、児童ポルノ情勢が深刻化している。平成22年中の児童ポルノ事犯の検挙件数は1,342件、検挙人員は926人、被害児童数は614人と、それぞれ前年より407件(43.5%)、276人(42.5%)、209人(51.6%)増加し、いずれも過去最多となった。このうち、ファイル共有ソフトを利用した児童ポルノ画像の交換、掲示板への児童ポルノ画像の掲載、販売サイトを利用した児童ポルノDVD の販売等のインターネットを利用した事件の検挙件数は783件で、全体の検挙件数の58.3%を占めている。

図―34 児童ポルノ事犯の検挙状況等の推移(平成18~22年

<2> インターネットを利用した児童ポルノ事犯の取締り

警察では、21年6月に警察庁が策定した「児童ポルノの根絶に向けた重点プログラム」に基づき、インターネットを利用した児童ポルノ事犯の取締りを強化しており、インターネット・ホットラインセンターからの通報を活用するほか、ウェブサイトや電子掲示板等の閲覧による違法情報・有害情報の有無の調査を行うサイバーパトロールその他あらゆる活動を通じた児童ポルノ事犯の情報収集に努めている。

また、都道府県警察では、児童ポルノ画像に係る被疑者、被害児童等の居住地が広範囲に及ぶ場合があるなどのインターネット利用事犯の特殊性を踏まえ、関係都道府県警察が合同捜査・共同捜査を積極的に実施している。警察庁においても、全国会議の開催等により情報共有を図るなどして、都道府県警察の捜査力の向上等に努めるほか、ファイル共有ソフトを利用した児童ポルノ公然陳列事犯等の一斉取締りを調整するなど、効果的な取締りの推進による児童ポルノの根絶を図っている。

事例〔1〕

公務員の男(51)らは、ファイル共有ソフトを利用して、児童ポルノ等を閲覧可能な状態に設定することにより不特定多数の利用者に対して公然と陳列した。22年9月、警察庁の調整により21都道府県警察で全国50か所の被疑者の自宅等の捜索を一斉に実施し、18人を児童買春・児童ポルノ法違反(児童ポルノ公然陳列)等で逮捕した。

<3> 児童ポルノ画像の流通防止対策

児童ポルノ画像が一度インターネット上に流出すれば、その回収は事実上不可能となり、被害児童の精神的苦痛が将来にわたって続く。このため、警察では、インターネット上での児童ポルノ画像発見時には、速やかにサイト管理者等に削除を依頼するとともに、インターネット関係事業者に児童ポルノ画像の掲載・流通防止に係る自主的な取組の要請やプロバイダによる実効性のあるブロッキングの実施に向けた積極的な協力を行うなど、インターネット上の児童ポルノ画像の流通防止に取り組んでいる。

事例〔2〕

22年4月、児童ポルノ画像を含む複数のウェブサイトの紹介、これらウェブサイトへの誘導を行う14のランキングサイトをサイバーパトロールにより把握し、警察において削除依頼を実施したところ、全て削除された(警視庁)。

(2)インターネットを利用した薬物密売事犯対策

現在、政府全体で「第三次薬物乱用防止五か年戦略」や当該戦略を加速化するために策定された「薬物乱用防止戦略加速化プラン」等に取り組んでいるところであるが、警察庁においてもこれら政府全体の取組や最近の薬物犯罪情勢の変化等に的確に対処するため、平成22年11月、関係部門間の連携により重点的に強化すべき施策を「薬物対策重点強化プラン」として策定した。その重点の一つに「サイバー空間からの薬物密売事犯の根絶」を挙げ、インターネットを利用した薬物密売事犯対策を推進している。

その取締りに当たっては、サイバーパトロールやインターネット・ホットラインセンターからの通報等により薬物密売情報の収集を強化し、譲受け捜査(注)等の効果的な捜査手法を活用した密売人の検挙を推進している。また、薬物密売関連情報を掲載しているウェブサイトのサイト管理者等に対しても薬物の密売や広告、これらのほう助に関する罪を適用するなど、インターネット上で薬物密売・乱用を助長する行為の取締りに努めている。

さらに、薬物関連の違法情報・有害情報については、インターネット・ホットラインセンター等を通じて削除要請を徹底しており、特に、インターネットを利用した薬物密売事犯を検挙した場合は、サイト管理者等に対して警告及び再発防止指導等を行っている。

図―35 薬物対策重点強化プランの概要

注:譲受け捜査とは、薬物に関する犯罪捜査に当たり、警察官等が薬物の密売人等に接触し、薬物を譲り受けるなどする捜査手法をいう。

事例〔1〕

無職の男(35)らは、電子掲示板に「◆信頼と実績100%納得!◆各種揃えています◆S=0.15g¥10.000-◆直接取引又は郵送にて取引」等と書き込みをして覚醒剤の密売を行っていたことから、22年4月、6名を覚せい剤取締法違反(共同所持等)で逮捕した。また、この掲示板の管理者の男(36)は、同掲示板に覚醒剤の密売に関する書き込みが行われていることを知りながら、これらの書き込みの削除や掲示板の閉鎖をしていなかったことから、覚醒剤密売を手助けしたとして、同年9月、覚せい剤取締法違反(営利目的譲渡ほう助)で逮捕した(兵庫)。

事例〔2〕

自営業の男(30)らは、インターネットの会員制コミュニティサイトを悪用して、大麻密売に関する書き込みをし、インターネットにより客から注文を受け付けて全国的に乾燥大麻を密売していた。22年5月、2人を大麻取締法違反(営利目的共同所持)で逮捕するとともに、乾燥大麻約26.4キログラムを押収した(大阪)。

(3)インターネットを利用した生活経済事犯対策

<1> インターネットを利用した知的財産権侵害事犯

サイバー空間では、映像や音楽等のファイルを複製したものが著作権者の許諾を受けずに動画投稿サイトやファイル共有ネットワークで不特定多数の者に対して公開され、インターネット・オークションサイト等で偽ブランド品や海賊版DVD の違法販売が横行している。特にファイル共有ネットワークはそのネットワークの管理者が存在せず、発信元を容易に特定できないことから、著作権侵害ファイルについての警察による取締りやプロバイダによる警告が困難である。このため、著作権侵害に係るファイルのネットワーク上における流通が容易な状況にあり、知的財産権保護の観点から重大な問題となっている。警察では、この問題に対して、取締りを推進するとともに、事業者等との連携を図っている。

ア 取締りの徹底

警察では、インターネット・オークションにおける偽ブランド品や海賊版DVD の違法販売事犯の買受け捜査、多数の音楽ファイルが違法に投稿されている電子掲示板管理者に対するほう助に関する罪の適用、権利者からの取締り要望、警察庁が運用するP2P(Peer to Peer)観測システムによるファイル共有ネットワークの観測やサイバーパトロールを端緒とした被疑者の検挙を行うことにより、取締りに努めている。

事例〔1〕

無職の女(26)は、正規のプログラムを改変したものを内蔵し商標を付した改造ゲーム機を作成し、これをインターネット・オークションを利用して販売していたことから、平成22年5月、商標法違反(商標権の直接侵害)で逮捕した。また、無職の男(35)が、ゲームソフトデータを、ファイル共有ソフトを使用して不特定多数の者がダウンロードし得る状態にしたことから、同年6月、著作権法違反(公衆送信権侵害)で逮捕した(いずれも愛知)。

コラム〔4〕 P2P 観測システムについて

P2P と呼ばれる通信技術を利用したファイル共有ネットワークは、参加者の匿名性が高く、多数の違法ファイルが流通している実態がある。警察庁では、ファイル共有ソフトによるファイル流通状況等の実態を把握するため、P2P 観測システムを導入し、22年から運用している。同システムは、ファイル共有ネットワークを巡回してファイル情報を収集し、分析・検索を行うシステムである。

図―36 P2P 観測システムの概要

イ 事業者等との連携

19年度総合セキュリティ対策会議(注)における提言を受け、20年5月、著作権団体等及びプロバイダにより構成され、警察庁等関係省庁がオブザーバとして参加する「ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害対策協議会」が設立された。同協議会では、22年2月、権利者からの要請を受けたプロバイダが権利侵害者に対して行う侵害行為の中止通知手続の透明性を確保すること等を目的としたガイドラインを策定し、22年3月からこのガイドラインをもとに「Winny ユーザへの啓発メール等送付スキーム」の運用を開始し、ファイル共有ソフトによる著作権の権利侵害が犯罪であることの周知を図っている。

注:有識者、関連事業者、PTA の代表者で構成し、情報セキュリティに関する産業界と政府の連携の在り方について検討している。

<2> 生活経済事犯に係るインターネット上の違法な情報への対策

貸金業者としての登録を受けていないのに契約の締結を勧誘するなどの無登録貸金業(ヤミ金融)に係る広告、医薬品として承認を得ていない製品の購入を勧誘するなどの無承認医薬品に係る広告等、生活経済事犯に係るインターネット上の違法な情報の削除を求める社会的要請が高まっている。22年9月には、プロバイダ等関係団体において、違法性判断基準や警察からの削除依頼への対応手続等について整理した「インターネット上の違法な情報への対応に関するガイドライン」が改訂され、削除すべき違法な情報として、無登録貸金業に係る広告に該当する情報及び無承認医薬品の広告に該当する情報が明記された。

警察では、関係機関・団体と連携を図りつつ、生活経済事犯に係るインターネット上の違法な情報を掲載しているウェブサイトについて、サイト管理者等に対して削除を要請している。また、偽ブランド品の広告に該当する情報については、関係団体に対してその情報を提供している。さらに、中国等の外国のウェブサイトに当該違法な広告を掲載しているものが多いことから、外国治安機関に情報提供を行い、違法な情報の取締りや削除を要請している。

事例〔2〕

婦人服雑貨店経営者(48)らは、22年5月、同人らが経営する婦人服雑貨店において、偽ブランド品65点を販売する目的で所持していた。同年5月、2人を商標法違反(譲渡目的所持)で逮捕した。また、同人は、偽ブランド品を中国のウェブサイトを利用して購入していたことから、同年6月から9月にかけて、ICPO を通じて中国警察に情報提供するとともに、当該偽ブランド品の流通販売業者の取締り及び当該ウェブサイトの削除を要請した(兵庫)。

図―37 生活経済事犯に係るインターネット上の違法な情報への対策


第2節 サイバー犯罪に対する取組

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