特集II:安全・安心で責任あるサイバー市民社会の実現を目指して

5 事業者等による自主的かつ主体的な取組の促進

サイバー犯罪は、匿名性や広域性といったサイバー空間の特性に起因して捜査の困難性が極めて高いことや、この犯罪に的確に対処するためには高度な技術の活用が必要であることなどから、警察における取締りに加えて、事業者等においても自主的かつ主体的な取組を行うなど官民連携した対策を行う必要がある。

(1)総合セキュリティ対策会議

警察庁では、情報通信ネットワークの安全性・信頼性を確保することを目的として総合セキュリティ対策会議を開催し、情報セキュリティに関する産業界と政府の連携の在り方等について検討を行っている。同会議における提言を受け、これまでに、インターネット・ホットラインセンター(特集II 2節1項(2)参照)の運営が開始されたほか平成21年6月、児童ポルノの流通防止対策に関係する事業者、児童ポルノの流通防止に取り組む民間団体、学識経験者等からなる児童ポルノ流通防止協議会が発足した。また、21年度の会議では、インターネット・オークションにおける盗品の流通防止対策について検討が行われ、インターネット・オークションに商品が出品される際には、製造番号等必要な情報を出品物が掲載されたウェブサイトに表示させた上で、製造番号等から当該出品物が盗品であると判明した場合に適切に排除できるようにすることが必要である旨の提言がなされた。

22年度の会議では、安全・安心で責任あるサイバー市民社会の実現をテーマに、<1>不正アクセス対策、<2>違法情報・有害情報対策、<3>サイバー防犯ボランティアの育成について検討を行った。この結果、不正アクセス対策に関しては、フィッシングやSQL インジェクション攻撃の防止方策や民間事業者による自主的なアクセス制御機能高度化の促進を支援する枠組みづくりについて、違法情報・有害情報対策に関しては、インターネット・ホットラインセンターへの通報の活性化や違法情報の削除依頼に応じない悪質なサイト管理者の積極的な検挙について、サイバー防犯ボランティアの育成に関しては、活動ガイドラインの策定による組織化の促進等について提言がなされた。

平成22年度総合セキュリティ対策会議

平成22年度総合セキュリティ対策会議

図―39 平成22年度総合セキュリティ対策会議の概要

(2)コミュニティサイトへの対策

コミュニティサイトの利用に起因して児童が被害に遭った事件に係る検挙件数は増加している。

警察庁において行った平成22年中のコミュニティサイトの利用に起因する児童被害の詳細調査の分析(注1)では、被疑者の犯行動機としては児童との接触目的が90.9%(児童との性交目的70.1%、児童と遊ぶ目的13.8%)であった。また、被疑者が年齢等のプロフィールを詐称したものが44.0%、被疑者がミニメール(注2)からコミュニティサイト以外におけるメールのやり取りへ移行したものは94.0%であったほか、被害児童のうち、フィルタリング(注3)に加入していない児童の割合が96.6%であった。以上のことから、被疑者が、コミュニティサイトにおける児童被害に係る防止対策が不十分な点を利用して犯罪を敢行している状況や、被害児童におけるフィルタリング加入の不十分な状況が明らかになった。

そこで、23年2月、「犯罪から子供を守るための対策に関する関係省庁連絡会議」において「コミュニティサイトの利用に起因する犯罪から子どもを守るための緊急対策」を取りまとめ、警察庁及び関係省庁では、青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(以下「青少年インターネット環境整備法」という。)に基づくフィルタリングの普及、民間事業者による実効性のあるゾーニング(注4)の自主的導入の支援及び民間事業者による自主的なミニメール内容確認の支援に係る取組を推進している。

また、警察庁では、その利用に起因する被害児童数が多いコミュニティサイトの事業者に対し、ユーザー数等その規模に応じ、ミニメールの内容確認を含む十分な体制の構築、年齢認証等のなりすましを防止するためにフィルタリングの有無に関する情報を活用することによるゾーニングの効果的運用やサイト管理者と携帯電話事業者が連携して年齢確認を行う体制の構築・運用を要請するとともに、フィルタリングの普及促進について、都道府県警察により、事業者に対する指導・要請、保護者に対する啓発活動、関係機関と連携した広報啓発活動等を推進している。

図―40 被疑者の犯行動機

図―41 被疑者のプロフィール詐称状況

図―42 被疑者のミニメールから直接メールへの移行状況

図―43 被害児童のフィルタリング加入状況

注1:平成22年中に検挙したコミュニティサイトの利用に起因して児童が被害に遭った事件1,541件(被疑者1,230人、被害児童1,239人)について、捜査の過程で判明した事実を基に、調査項目ごとに集計し、調査項目に係る事実が判明した検挙事件のみの件数を集計している。

注2:コミュニティサイト内において、会員同士でメッセージの送受信ができる機能。

注3:インターネット上のウェブサイト等を一定の基準に基づき選別し、青少年に有害な情報を閲覧できなくするプログラムやサービス

注4:利用者の年齢等属性に応じて利用可能なサービスを区別して設定すること。

コラム〔6〕 児童が使用する携帯電話に係るフィルタリングの100%普及を目指した取組の推進について

児童が携帯電話を通じてインターネットに接続し青少年有害情報を閲覧することを防止するためには、携帯電話に係るフィルタリングの利用が有効であるが、保護者や関係事業者の責務等を定めてフィルタリングの利用促進を図った「青少年インターネット環境整備法」が21年4月に施行されたにもかかわらず、児童の携帯電話に係るフィルタリングの利用率は、23年2月に内閣府が公表した調査結果によれば、小学生で77.6%、中学生で67.1%、高校生で49.3%にとどまっている(注1)。一方、22年上半期にコミュニティサイトの利用に起因する犯罪の被害に遭った児童の9割以上は、フィルタリングに加入していない携帯電話からコミュニティサイトに接続しているという実態が明らかになっている(注2)。このため、警察では、コミュニティサイトの利用に起因する児童の犯罪被害を防止するため、関係省庁等と連携しながら、フィルタリングの100%普及を目指した取組を推進している。

特に、携帯電話の販売・契約現場は、利用者にフィルタリングの利用を促す「最後の砦(とりで)」と考えられることから、携帯電話関係事業者(販売代理店、家電量販事業者等を含む。)等に対し、販売・契約現場において、児童の保護者等に対するフィルタリングの必要性の説明や、より安全なフィルタリングサービスの推奨等を徹底してもらいたい旨の要請を強化している。

また、携帯電話の利用に起因する児童の犯罪被害の実態やインターネットの危険性、フィルタリングの利用を含めた保護者の責務等についての認識・理解の浸透を図るため、学校の入学説明会等の機会を捉えて保護者の意識啓発に努めているほか、教育委員会等の関係機関・団体と連携し、フィルタリングの普及に向けたキャンペーンや広報啓発活動を推進している。

事業者に対する要請(宮崎日日新聞)

事業者に対する要請(宮崎日日新聞)

注1:平成22年度青少年のインターネット利用環境実態調査結果(平成23年2月、内閣府)

注2:非出会い系サイトに起因する児童被害の事犯に係る調査分析(平成22年10月、警察庁)

第2節 サイバー犯罪に対する取組

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