特集II:安全・安心で責任あるサイバー市民社会の実現を目指して

第2節 サイバー犯罪に対する取組

1 サイバー犯罪対策に係る体制整備等

(1)対策全般

警察では、サイバー犯罪に適切に対応するため、体制整備による取締りの徹底や広報啓発活動や相談対応等によるサイバー犯罪の未然防止を推進している。

<1> 体制整備

地理的・時間的制約を受けることなく、短時間のうちに不特定多数の者に影響を及ぼしやすい特性を有するサイバー空間については、関係都道府県警察が捜査の重複を避けつつ、連携して対処する必要がある。

このため、警察では、平成16年、警察庁に情報技術犯罪対策課を設置するとともに、都道府県警察及び都道府県情報通信部にサイバー犯罪対策に関する知識及び技能を有する捜査員等により構成されるサイバー犯罪対策プロジェクトを設置した。この体制において、警察庁では、都道府県警察が行うサイバー犯罪捜査に関する指導・調整を行っているほか、捜査員の能力向上のための研修、産業界や外国関係機関等との連携を推進している。

また、23年度予算において地方警察官350人を増員するとともに、「全国協働捜査方式」(特集II 2節1項(2)<2>参照)を導入するなど、サイバー犯罪の取締り体制を強化している。

さらに、技術面に関して、警察では、解析用資機材の増強・整備を行っているほか、関係機関と連携し技術情報の収集・分析を推進するとともに、民間企業でシステム・エンジニアとして勤務していた者等をサイバー犯罪捜査官として採用するなどにより、最新の技術や機器等を利用して敢行されるサイバー犯罪に対応している。

図―26 サイバー犯罪対策のための体制

<2> 広報啓発活動及び相談対応

警察では、情報セキュリティに関する国民の知識やサイバー空間における規範意識の向上を図るため、警察やプロバイダ連絡協議会(注1)等が主催する研修会、学校関係者等からの依頼による講演会、情報通信技術関連イベント等の機会を利用して情報セキュリティ・アドバイザー等が講演等を行うほか、警察庁ウェブサイト(http://www.npa.go.jp/cyber/)、広報啓発用パンフレット、情報セキュリティ対策DVD(注2)等により、サイバー犯罪の手口やインターネット上の違法情報・有害情報の現状、対策等について周知を図っている。

また、サイバー犯罪に関する相談に的確に対応するため、都道府県警察では、サイバー犯罪相談窓口を設け、情報セキュリティ・アドバイザー等の専門職員によりサイバー犯罪に関する相談に対応している。

情報セキュリティ対策DVD

情報セキュリティ対策DVD

注1:都道府県警察ではプロバイダ、関係機関、消費者団体等で構成され、サイバー犯罪の情勢や手口、サイバー犯罪被害防止等に関する情報交換を行っているほか、講習会等の実施、一般向け広報資料の作成等を行っている。

注2:ケーブルテレビでの放映、特定非営利活動法人POLICE チャンネルのウェブサイト(http://www.police-ch.jp/)への掲載、警察署や図書館での貸出し等も行われている。

(2)違法情報・有害情報対策

<1> インターネット・ホットラインセンターにおける取組

警察庁では、一般のインターネット利用者からの違法情報・有害情報に関する通報を受理し、違法情報の警察への通報や国内のウェブサーバに蔵置された違法情報・有害情報に係るサイト管理者等への削除依頼を行うインターネット・ホットラインセンターの運用を平成18年6月から開始した。運用開始以降、同センターの取組が、被疑者の検挙や国内の違法情報・有害情報の削除に結び付くなど、その取組は一定の成果を上げている。同センターは、外国のウェブサーバに蔵置された違法情報についても、19年3月に各国のホットライン(注1)相互間の連絡組織として設置されたINHOPE(注2)へ加盟し、INHOPE 加盟団体に対して削除に向けた措置を依頼するなど、INHOPE 加盟団体との連携による取組を推進している。

また、社会における情勢の変化を受け、20年には硫化水素ガスの製造を誘引する情報が、21年には痴漢行為を誘引等する情報が、同センターにおいて受理する違法情報・有害情報の定義に追加された。

22年中においては、同センターがサイト管理者等に対して削除依頼を行った違法情報1万6,422件のうち1万2,450件、有害情報2,860件のうち1,470件が削除されており、違法情報の削除率は75.8%、有害情報の削除率は51.4%であった。違法情報については、3,972件(24.2%)が削除依頼を行ったにもかかわらず削除されておらず、これを放置することは、犯罪を放置するばかりか、新たな犯罪も引き起こしかねない危険なものである。このため、合理的な理由もなく違法情報の削除依頼に応じない悪質なサイト管理者の中には、犯罪を誘発している状況を作り出し、それを容認している者も少なくないことから、警察において積極的に捜査・検挙していく必要がある。また、有害情報については、これを端緒とした捜査活動を今後進めていく必要がある。

図―27 インターネット・ホットラインセンターの概況

図―28 削除された違法情報の件数の推移(平成18~22年)

図―29 削除された有害情報の件数の推移(平成18~22年)

注1:インターネット利用者からインターネット上の違法情報・有害情報等に関する通報を受理し、一定の基準により、それらの情報に係る違法情報・有害情報の該当性判断を行い、警察への通報やサイト管理者等への削除依頼等を行う仕組み

注2:International Association of Internet Hotlines(旧名称は、Internet Hotline Providers in Europe Association)。平成11年に設立され、23年3月現在、39団体(34の国・地域)からなる国際組織

<2> 全国協働捜査方式の試行

インターネット・ホットラインセンターに通報される違法情報は、同センターによって警察に通報され、最終的には事件検挙に結び付いてはいるものの、発信地に関する情報が含まれていないことが多く、その通報だけでは直ちに発信元が判明しない場合が多いため、捜査を主体的に担当すべき都道府県警察が不明確となり、その結果捜査の競合等が発生し、効率的な捜査を行うことが困難となっていた。

このような問題に対処し、効率的な捜査を進めるため、22年10月から23年6月までの間、同センターから警察庁に対して通報された違法情報の発信元を割り出すための初期捜査を警視庁が一元的に行い、捜査すべき都道府県警察を警察庁が調整する「全国協働捜査方式」の試行を行った。

試行期間中における検挙状況は、23年5月10日現在、302件(前年同期比185件増加)であり、その内訳は、わいせつ情報による検挙が257件(前年同期比157件増加)、薬物関連情報による検挙が32件(前年同期比19件増加)、振り込め詐欺等関連情報による検挙が13件(前年同期比9件増加)と増加している。

このように、検挙件数の増加が顕著にみられ、全国協働捜査方式での捜査が効果的であることが明らかになったことから、増員した350人の地方警察官などにより23年7月から本格実施を開始した。

コラム〔3〕 「全国協働捜査方式」の具体的な流れについて

「全国協働捜査方式」は、匿名性と広域性を特徴とするサイバー犯罪に対処するために導入された全く新しい形態の捜査方式である。

インターネット・ホットラインセンターから警察庁に対して通報された違法情報のうち、発信元がどの都道府県にあるか推認できないものを警察庁から警視庁生活安全部サイバー犯罪対策課に設置されている情報追跡班に送付し、この情報追跡班で違法情報の発信元を割り出す捜査を行い、これによって発信元が判明した違法情報について、警察庁の調整により、発信元を管轄する都道府県警察がその後の捜査を行うものである。

図―30 全国協働捜査方式の流れ


第2節 サイバー犯罪に対する取組

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