特集 組織犯罪を許さない社会を目指して ~資金獲得活動との対決~ |
事 例
道仁会傘下組織構成員(29)は、平成19年2月、2万円を融資してほしい旨の知人の依頼に対し、7日間で元金の10%を利息とし、その利息を毎週1回払うことを条件として、借用証に記載させた上で、1回目の利息である2,000円を除く1万8,000円を交付した。 その1週間後、知人の妻が同傘下組織構成員に連絡をとろうとしたが、同人が携帯電話に出ず、2回目の利息を返済できなかったところ、その翌日、同傘下組織構成員は、電話にて「お前馬鹿か、何で連絡せんのか。期限どおりに支払わなかったから、利息を5,000円に引き上げる。前回の利息2,000円と併せて合計7,000円を今日中に支払え。金を払わんなら、うちの組の者がお前らに追い込みをかけるぞ」と怒鳴りつけ、「どげんするんか。貴様、ヤクザをなめているのか」などと返済を迫った。 さらに、その1週間後には、知人の自宅を訪れ、「今度は利息が5,000円から1万円に上がった」と告げるなどして、暴力団の威力を示しつつ債権取立ての要求をしたことから、同年3月、暴力団対策法に基づき中止命令を発出したところ、以後、要求は行われなかった(福岡)。 |
事 例
工藤會傘下組織幹部(40)は、平成17年8月、かねてより毎月3万円のみかじめ料の支払いを受けていた居酒屋店主から、「みかじめ料は、もう払うことはできませんから」と告げられたことに腹を立て、「ここで商売するんじゃったら、断ることはできんよ。今度からは、○○に取りに来らせるから」などと威力を示しつつ、継続してみかじめ料を支払うよう要求したことから、同年9月、暴力団対策法に基づき中止命令を発出したところ、以後、同居酒屋に対する要求は行われなかった。 同人は、中止命令を受けていたにもかかわらず、18年7月、新装開店したぱちんこ店を訪れ、従業員に所属組織の名称を告げた上で、「お付き合いの件で社長に話がある。社長と至急連絡を取りたい。社長にくれぐれもよろしく」などと申し向けた。その2日後、同店を再度訪れ、「社長に連絡してくれたやろうか」などと代表者との面会を迫り、同従業員が「会社としてお付き合いはできませんので、社長には連絡していません」と対応したところ、同傘下組織幹部は、「ワシが個人で社長に用事があるんなら、お前どうするんか。責任とるんか」、「社長はどう言ってるんか。お前の方針か。お前は社長よりも偉いんか。その気になれば、社長の行動くらい調べようと思えば調べられる」などとみかじめ料の支払いを要求したことから、同年8月、中止命令を発出したところ、以後、同ぱちんこ店に対する要求は行われなかった。 これら2件の行為により、同傘下組織幹部については、更に反復して同様の行為を行うおそれが認められたことから、同年9月、暴力団対策法に基づき再発防止命令を発出した(山口)。 |
事 例
山口組傘下組織構成員(46)は、平成18年2月から3月にかけて、出会い系サイトで知り合った女性とトラブルになった従業員の所属する運送会社を複数回訪れ、同運送会社の役員に対し、「おたくの社員にレイプされたということで、女が会社を訴えたいと言っている。私が中に入って丸く収めます」、「どうしますか。犯人は、2年半から5年の懲役になる。刑務所から出てきても、会社に汚名がつく。お金で折り合いがつくか分からないが、そういう解決の方がいいんじゃないか」、「女が悔しがって泣いて待っているので、早く返事しなきゃいけない」、「会社の責任か、個人の責任か、アンケートをとらせてもらう。子供の使いで来ているわけじゃない」、「裁判やるからには勝つ。裁判やるからな」などと示談金名目で金品の贈与を要求したことから、同月、暴力団対策法に基づき中止命令を発出したところ、以後、要求は行われなかった(福島)。 |
事 例
山口組傘下組織幹部(58)は、居住している市営住宅について13年11月から15年12月までの25か月分の家賃18万6,000円を滞納し、市担当者の請求に対して支払いに応じる姿勢を示さなかった。 18年4月、市担当者が同傘下組織幹部に対し、「家賃を払ってください。市も困っています」と改めて請求すると、「お前、今更何じゃい。このわしも懲役いっとるし、住んでへんときの家賃まで払えるかい」と告げ、さらに、「耐用年数が切れた水道配管付けやがって、部屋に浄水器付けんかい。ポンプ室に家具を置いてるけど、アスベスト対策してへんやろ。病院行くから、治療費払わんかい。部長か理事が来んかい。浄水器と病院代どうなっとんじゃ。このわしが言うとるやろが」と告げて、暴力団の威力を示しながら債務免除と損害賠償名目で金品等の要求を行ったことから、18年5月、暴力団対策法に基づき中止命令を発出したところ、以後、要求は行われず、滞納した家賃の支払いも確約された(大阪)。 |
コラム4 不当要求行為の手法と被害 暴力団は、国民の日常生活や仕事に対して様々な名目で不当要求行為による資金獲得を行うべく、平素から不当要求行為を行う端緒となる情報を入手しようとして、個人や企業に関する事故、法令違反、スキャンダル等に注意を払っている。そして、何らかの情報を入手すると、情報の確度、関係者の詳細、関連する法律や専門知識等を調査・確認するといった準備を行った上で、機関紙購読、下請参入、口止め等の名目を使い分けて接触を試みる。 接触に成功し、不当要求行為を行うに当たっては、大声でまくしたてる、机をたたくといった直接的な恫喝は、脅迫罪や恐喝罪として検挙されるおそれがあることから、必要最小限度に抑えることが通常であり、むしろ、暴力団であることを口頭で告げる、詰めた指を見せる、組織名の入った名刺を見せるなどの方法で示すとともに、「このままだと大変なことになる。よく考えたほうがいい」などと告げ、国民が潜在的に暴力団に抱いている恐怖感を利用しようとする。その上で、相手の失言や言葉尻をとらえて「俺の顔を潰した」などと因縁を付け、それを奇貨として「土下座して謝れ」、「念書を書け」、「社長を呼べ」などと無理難題を言って相手を困惑させ、かつ、「若い者を連れて騒ぐぞ」、「街宣車をまわすぞ」などと告げて恐怖感を増幅させることで、自らのペースに巻き込もうとする。さらに、不当要求行為を二度、三度と執拗に繰り返す、職場に長時間居座る、早朝や深夜に自宅へ電話をかけるなどの方法により、相手を正常な判断ができないように精神的に追い詰め、その苦しい状態から逃れたいという心理状態に陥らせて要求に従わせようとする。それでも要求に従わない相手であれば、仕事の忙しい時間をねらって訪問する、近所の住人や職場の同僚に接触する、夜間に自宅前で大声で騒ぐなど、より直接的な嫌がらせにエスカレートさせるほか、その交渉の過程において、複数人で脅し役となだめ役の役割分担を行うといった手法も活用し、要求に応じるように仕向けていく。 不当要求行為の対象となった者は、過去に不当要求を受けた体験を持たないことが普通であるため、冷静に判断する余裕がないまま、「要求に応じたくない」という思いと「ひどい仕返しを受けるのではないか」という思いの狭間で苦悩し、想像できないほどの不安と恐怖で日常生活や仕事に支障を来すことが通常である。また、そうした精神的苦痛に耐えかねて要求の一部なりとも応じた場合には、暴力団に更につけ込む余地があると判断され、何度となく金銭を要求されて、徹底的に財産を収奪されることもあり得る。 こうした不当要求行為を受けた場合には直ちに警察に相談すべきであり、不当要求行為が行われた後に警察への連絡を行って検挙や暴力団対策法に基づく中止命令の発出が行われた場合でも、被害の届出を行った者に対するいわゆるお礼参りは、暴力団にとって検挙される危険性の高い無意味な行為となることから、何も行われないことが通常である。しかし、過去において、警察や弁護士への連絡が遅れたために、離婚や夜逃げを余儀なくされたり、会社を乗っ取られたり、老後の生活資金をすべて奪われたりするといった悲惨な結末を迎えた事例は数多いとみられる。 |
第2節 暴力団の資金獲得活動の変遷 |
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