特集 組織犯罪を許さない社会を目指して ~資金獲得活動との対決~ 

3 資金に窮する暴力団の資金獲得活動

 1及び2で概観したとおり、戦後、違法な資金獲得活動に依存していた暴力団は、第一次頂上作戦及び第二次頂上作戦を代表例とする取締りの強化に対応して、昭和40年代後半以降、資金獲得活動の中心を不当要求行為によるものへと移していった。そして、第1節で概観したとおり、平成4年の暴力団対策法施行により、不当要求行為による資金獲得活動が困難になったことに対応し、一部の暴力団は、資金獲得活動を不透明化させ、安定的な資金源を有するようになった。
 しかし、こうした経済的基盤を強固にする暴力団が現れた一方で、資金に窮する暴力団も存在しており、二極分化する傾向がみられる。

(1)資金に窮する暴力団の増加

 平成4年の暴力団対策法施行により、不当要求行為を類型化した暴力的要求行為を行う指定暴力団等の構成員に対し、都道府県公安委員会が中止命令や再発防止命令を発出することができることとなったが、さらに、資金獲得活動の変化等に対応して、5年には暴力的要求行為の行為類型を追加し、また、9年には暴力団と一定の関係にある者が行う準暴力的要求行為を規制等するといった暴力団対策法の改正が行われた。
 これらの結果、不当要求行為に対する規制の実効性は継続して高く、近年、暴力的要求行為に係る中止命令件数は増加傾向にある一方、警察又は都道府県暴力追放運動推進センターが受理した暴力的要求行為に係る相談件数は減少傾向にあるなど、暴力団対策法が、不当要求行為による資金獲得活動を着実に追い詰めていることがうかがわれる。
 
 図-21 暴力的要求行為に係る中止命令件数と相談件数(平成9~18年)
図-21 暴力的要求行為に係る中止命令件数と相談件数(平成9~18年)

 しかし、暴力団の中には、違法な資金獲得活動や不当要求行為による資金獲得活動に依存する状態から脱却する能力がないため、暴力団関係企業等を利用した安定的な資金源を有することができないまま現在に至るものも、当然に存在する。最近では、とりわけ大規模な暴力団の下位組織において、暴力団対策法の影響で資金力が衰退し、これに追い打ちをかけるように上位組織から上納金を厳しく要求されることに起因して、資金に窮する状況が顕著になりつつある。
 こうした資金に窮する暴力団の増加により、暴力団を離脱する構成員が増える可能性がある反面、自暴自棄となり過激な行動に訴える動向も見られるようになっていることから、今後、資金に窮する暴力団には警戒が必要である(第2章第1節2(2)参照)。


コラム6 資金獲得活動の必要性と内部統制

 暴力団の暴力団たるゆえんは、暴力を組織的に行使できる能力にあり、それを有するがゆえに、他人の意思を制圧し、服従させる威力も有することとなる。暴力を必要に応じて的確に行使する能力を有するためには、襲撃はもとより、下見、武器調達、逃走支援等を行うことができる数の構成員の確保が必須である。しかし、構成員にとって所属組織への忠誠を強固にするに足るメリットがなければ、構成員の確保すらおぼつかないことから、暴力団としては、構成員が生計の維持、財産の形成、享楽的な生活等を期待できる程度の資金を獲得する必要がある。また、構成員が暴力の行使に関与させられる不安を払拭できるよう、検挙された場合における訴訟費用、家族の生活費、刑務所に服役した後の報酬等を賄うことができる資金も必要である。さらに、自らの勢力を誇示し、もって資金獲得活動を容易にするため、いわゆる義理掛け行事を、襲名披露、組葬、出所祝い等の様々な名目で開催するが、その際に多額の金銭を支出することができるよう、相応の資金も必要となる。こうした理由から、暴力団は、表向きに任侠団体等の大義名分を掲げようとも、組織を維持する限り、生計の維持や蓄財といった構成員の個人的動機以外に、組織としても、ひたすら資金を獲得する必要に迫られる。
 また、暴力団の組織内においては、親分の命令に理非善悪を問わず従うことが、子分の当然かつ絶対的な義務とされている。その上で、親分の命令に従って組織に貢献した者を賞揚し、地位、金銭等の報酬を与えるとともに、命令に従わないなどして組織の一体性を乱した者にはリンチ、指詰め、破門、絶縁等の厳しい制裁が与えられる。暴力団は、このような「アメとムチ」を駆使することにより、構成員を洗脳に近い精神的呪縛の下に置き、組織全体の強固な内部統制を図っている。
 これらの結果、暴力団においては、所属組織が構成員に、又は上位組織が下位組織に厳しく上納金を要求し、要求された側は上納金を拒否できない環境が作られている。


(2)外国人犯罪者と連携する暴力団

 近年、資金に窮した暴力団の中には、手っ取り早く資金を獲得するため、強盗や窃盗に手を出すものが存在する。このような暴力団の中には、自らは、事前の情報収集、計画策定、地理案内、見張り、実行者の運搬等に当たり、実行行為を来日外国人に行わせるものがある。他方、報酬を目当てに来日外国人犯罪組織の配下として働くものもみられる。

事 例
 山口組傘下組織幹部(38)は、同傘下組織構成員の日本人知人を通じて、警備会社による億単位の現金輸送に関する情報、同警備会社セキュリティシステム等の情報、警備会社内部の図面等の提供を受けたことから、日本人周辺者等と共謀の上、これらを中国人窃盗グループ首領に提供した。この首領は、これらの情報等を基に犯行現場となる警備会社の下見を行うとともに、必要な情報や図面等を同グループの中国人実行犯リーダーに提供し、同人に実行犯となる中国人5人を集めさせ、下見や現金強奪のシミュレーションを行わせた。
 平成16年10月、中国人実行犯リーダーの指揮の下、別の日本人から貸与された犯行車両で現場に向かった中国人実行犯5人が警備会社に侵入し、従業員にスタンガン等を突き付け、電気コード等で緊縛の上、金庫室から現金約5億4,000万円を強奪した(現金を他の犯行車両に移し替える途中でサイレンの音が聞こえたため、約1億2,000万円を残して逃走)。
 最終的に手元に残った現金については、中国人側が約3億円、日本人側が約1億2,000万円で分配し、この事件全体を首謀した同傘下組織幹部は、日本人側利益のうち約8,000万円を獲得したとみられる。18年9月までに中国人実行犯ら8人を強盗致傷罪及び強盗罪で逮捕したほか、家族を利用して約4,000万円を隠匿した同傘下組織幹部を組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で逮捕した(警視庁、栃木)。
 
中国人窃盗グループとの連携

(3)少年に触手を伸ばす暴力団

 近年、資金に窮した暴力団の中には、構成員の人的供給源としてだけではなく、少しでも安定的に資金獲得できる対象として少年に目をつけ、名目をつけては組織的に金銭を巻き上げるものがみられる。

事 例
 山口組傘下組織では、平成11年ころから、地元暴走族を集めた会員制のグループを結成し、その活動を支援するとともに、会員である暴走族構成員の少年の中から同傘下組織構成員に採用するなど、同グループを人的供給源としていた。15年からは、同傘下組織組長(57)の実子が、「構成員ではない自分の方が会員を集めやすい」との理由の下、同グループの長として活動を主導していた。
 同グループでは、会員の少年は、会費名目で毎月1万円を徴収されていたが、集められた会費は服役中の同傘下組織構成員に対する差し入れに使われるなど、同傘下組織の重要な資金獲得活動の一部となっていた。これ以外にも、同グループでは、毎夏の全国高校野球甲子園大会に合わせて野球賭博を行い、1口100円で会員に強制的に申し込ませ、得られた利益を同傘下組織の資金としていた。また、17年からは、同グループ幹部が、「9月の新曲」等と題する音楽を収録したCD-Rを編集・複製し、1枚1,000円から3,000円の価格で会員に強制的に購入させ、毎月18万円程度を獲得していた。さらに、同グループでは、組長の誕生祝い、構成員の病気見舞い、服役等のたびに1万円程度を強制的に徴収していた。17年8月から10月にかけて同傘下組織組長ら26人を賭博場開張等図利罪等で検挙した(静岡)。
 
暴走族グループからの資金獲得

 第2節 暴力団の資金獲得活動の変遷

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