特集 組織犯罪を許さない社会を目指して ~資金獲得活動との対決~ 

第3節 暴力団の資金獲得活動との対決

1 資金源対策の推進

(1)現在の資金源対策の方向性

 暴力団対策法の施行前における警察の暴力団対策は、暴力団の取締りと暴力団排除活動の推進による総合対策を基本としていたが、暴力団対策法の施行後には、新たに暴力団対策法の運用を加えた三本柱の総合対策を推進することとし、暴力団対策の拡大・強化を図ってきた。とりわけ資金源対策については、平成16年10月に警察庁が策定した組織犯罪対策要綱により、暴力団関係企業等に対する取締りの徹底を図ることとしたほか、関係機関と連携した資金獲得活動の封圧、職域及び地域における暴力団排除活動の支援、行政機関等及び企業に対する不当要求行為の排除といった視点で暴力団排除活動を推進するなどし、資金源対策の充実を図っている。
 
 図-22 暴力団対策の進展
図-22 暴力団対策の進展

 また、暴力団に対する民事訴訟については、昭和60年代前半、不法行為の実行行為者に対する損害賠償請求訴訟や暴力団事務所の撤去訴訟という形で提起され、以後、民法第715条(使用者責任)に基づく暴力団の組長への損害賠償請求訴訟の形をとるようになってきたが、経済的被害の回復に資する観点と暴力団から資金をはく奪して経済的打撃を与える観点から、警察では、暴力団対策の一手法としてこれを積極的に支援することとしている。また、大規模な暴力団に対する民事訴訟が円滑に進むよう、平成16年4月に暴力団対策法を改正し、指定暴力団に係る対立抗争又は内部抗争により被害が生じた場合に指定暴力団の代表者等が無過失損害賠償責任を負うこととする規定を設けるといった立法的支援が進められたことに加え、同年11月、最高裁判決が対立抗争時の山口組傘下組織構成員による殺傷行為について山口組組長の使用者責任を認めたことにより、最近では指定暴力団に係る対立抗争の著しい減少という効果が生じている。

(2)各種業及び公共工事等からの暴力団排除

 警察では、暴力団の資金源を遮断し、業の健全化を図るため、国及び地方公共団体と連携して、産業廃棄物処理業、貸金業、建設業等の各種業からの暴力団排除活動を推進している。また、国及び地方公共団体と連携して、公共工事の請負業者から暴力団関係企業を排除するための、いわゆる暴力団排除要綱、条例等(以下「暴力団排除要綱等」という。)を整備するなどして、公共事業からの暴力団排除活動を推進している。さらに、近年、各種業法や規制改革等により新たに成立した法律の中に、各種業等から暴力団や暴力団関係企業等を排除するための、いわゆる暴力団排除条項を整備している。

事 例 1
 平成18年9月、山口組傘下組織関係企業(建設業)2社に対する建設業法違反(虚偽記載)を検挙し、これを受けて国、県等が同2社を指名停止にするとともに、建設業許可を取り消した(兵庫)。

事 例2
 18年4月、山口組傘下組織の親睦グループに属する産業廃棄物収集運搬会社が、顧問料の名目等で、同傘下組織に資金を提供していた事実等を県に通報し、県が同社の産業廃棄物処理業の許可を取り消した(和歌山)。

事 例3
 18年1月、稲川会傘下組織関係建設業者を公共工事をめぐる談合事件により逮捕するとともに、同建設業者が同傘下組織に恒常的に資金を提供している事実を明らかにした。山梨県及び国土交通省関東地方整備局へ通報し、2月、山梨県が同社を2か月の指名停止処分、5月、国土交通省関東地方整備局が同社を指名排除処分とした(山梨)。
 
 表-3 公共工事からの暴力団排除要綱等の整備状況(平成12~18年)
表-3 公共工事からの暴力団排除要綱等の整備状況(平成12~18年)
 
 表-4 法律における最近の暴力団排除条項の整備状況(平成16~18年)
表-4 法律における最近の暴力団排除条項の整備状況(平成16~18年)


コラム7 暴力団資金源等総合対策に係る省庁横断的な取組み

 18年6月20日に開催された第7回犯罪対策閣僚会議・第3回青少年育成推進本部合同会議において、暴力団の資金獲得活動の巧妙化、暴力団の存在を許容又は利用する土壌の存在等の課題に的確に対処し、社会から暴力団を確実に排除するため、犯罪対策閣僚会議に、関係省庁から成るワーキングチームを設置し、関係省庁が連携して、暴力団の資金源等に対する効果的な対策を検討することとされた。
 その方針を受けて、7月21日、暴力団資金源等総合対策ワーキングチームが設置された。同ワーキングチームは、内閣官房内閣審議官を議長とし、関係省庁の課長級職員を構成員とするもので、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を踏まえ、暴力団犯罪等から経済や社会を防護するため、関係省庁が連携し、〔1〕公共事業からの暴力団排除、〔2〕企業活動からの暴力団排除、〔3〕組織犯罪資金のはく奪等の暴力団の資金源に打撃を与えるための総合的な対策を検討することとされた。
 12月19日に開催された第8回犯罪対策閣僚会議において、同ワーキングチームから公共事業からの暴力団排除の検討状況について報告がなされた。
 
 図-23 公共事業からの暴力団排除の検討状況
図-23 公共事業からの暴力団排除の検討状況


(3)証券取引からの暴力団等排除の推進

 暴力団等が証券市場に介入し、資金獲得活動の場としている状況がうかがわれることから、警察では、証券取引に介入する暴力団等の違法又は不当な行為の防止を図り、健全で公正な証券市場の構築に寄与するため、東京証券取引所や日本証券業協会を始めとする証券関係者との連携を強化している。
 18年11月、日本証券業協会は、警察庁を始めとする関係機関と共に証券保安連絡会を設立し、反社会的勢力に関する情報の集約・共有を行う不当要求情報管理機関(仮称)の設置、反社会的勢力排除に向けた体制整備のための実効的対策等を検討することとしている。
 また、18年12月、東京証券取引所は、警察庁及び警視庁と共に東京証券取引所の市場における反社会的勢力排除対策連絡協議会を設立し、今後、情報交換を強化するほか、警察又は東京証券取引所の部内研修へ講師を相互に派遣するなどして、連携を強化することとしている。
 
 東京証券取引所の市場における反社会的勢力排除対策連絡協議会 第1回総会(平成18年12月)
東京証券取引所の市場における反社会的勢力排除対策連絡協議会 第1回総会(平成18年12月)

(4)行政対象暴力対策の充実

 警察庁では、行政対象暴力について、平成14年11月、実態把握の強化、行政機関との連携の強化、取締り等の強化等を柱とする行政対象暴力対策の推進を都道府県警察に指示するとともに、15年以降、国・地方公共団体の行政機関に対するアンケート調査の実施、関係省庁等連絡会議の開催等を行ってきた。今後も、これら施策を継続するとともに、次の施策を推進するなどして、行政対象暴力対策の充実を図ることとしている(第2章第1節4(2)参照)。
〔1〕 コンプライアンス(法令遵守)条例等の制定の推進
 警察では、全国の地方公共団体に対し、行政対象暴力に対する組織的な対応を規定するいわゆるコンプライアンス条例、要綱等(以下「コンプライアンス条例等」という。)を制定するよう働き掛けを行っている。
 
 表-5 コンプライアンス条例等の制定状況(平成14~18年)
表-5 コンプライアンス条例等の制定状況(平成14~18年)

〔2〕 高速道路事業からの暴力団排除の推進
 警察では、高速道路事業及び関連事業に関する不当要求行為等を排除するため、高速道路株式会社(東日本、中日本)と協議を行い、同社の支社ごとに暴力団排除のための協議会を設立するなど、高速道路事業からの暴力団排除を推進している。18年末現在、東日本高速道路株式会社の4支社中3支社及び中日本高速道路株式会社の4支社中3支社で協議会が設立されている。

〔3〕 機関誌購読拒否運動の推進
 暴力団や社会運動等標ぼうゴロが機関誌購読名目で各種事業所や行政機関に対して不当要求行為を行い、資金を獲得する例が全国で多くみられることから、12年に福井市が弁護士に委任して購読拒否通知文を発出し始めたことを契機として、福井県内の他の地方公共団体にも同様の拒否運動が広がった。以後、宮崎県、山梨県、高知県及び三重県において、警察、都道府県暴力追放運動推進センター及び弁護士会が連携し、市町村の首長や民間企業から委任を受けて一斉に購読拒否通知を送付し、関係を遮断する運動が展開されている。

(5)新たな分野における暴力団排除活動の推進

〔1〕 公営住宅等からの暴力団排除の推進
 独立行政法人都市再生機構が、住民の安全を確保するため、同機構賃貸住宅の賃貸借契約書に暴力団排除条項を盛り込むこととしたことを受け、平成18年11月、警察庁では、関係都道府県警察に対し、同機構との連絡協議会の設置、所要の情報提供等を指示し、同機構賃貸住宅からの暴力団排除を推進している。
 また、暴力団による公営住宅への入居が住民の安全を脅かすほか、低額所得者に低廉な家賃で住宅を供給するという公営住宅制度の信頼を揺るがすといった問題があるため、国土交通省が、公営住宅における暴力団排除に関する基本方針を各都道府県に示したことを受け、19年6月、警察庁では、各都道府県警察に対し、住宅管理条例に暴力団排除条項を盛り込むことの各地方公共団体への積極的な働き掛け、所要の情報提供等を指示し、公営住宅からの暴力団排除を推進している。

〔2〕 生活保護の不正受給対策の推進
 暴力団による生活保護費の不正受給事案に適切に対処するため、厚生労働省が、生活保護からの暴力団排除に関する基本方針を各地方公共団体に示したことを受け、18年3月、警察庁では、各都道府県警察に対し、福祉事務所等生活保護実施機関との連絡協議会の設置、所要の情報提供等を指示し、生活保護からの暴力団排除を推進している。

〔3〕 プロ野球球場等からの暴力団排除の推進
 日本プロフェッショナル野球組織、セントラル野球連盟、パシフィック野球連盟及び各球団が、18年2月から、入場券販売及び入場の拒否事由、観戦の際の禁止行為、球団による応援団の許可等について規定した試合観戦契約約款や、応援団の許可基準及び手続について規定した特別応援許可規定を施行するなど、プロ野球球場からの暴力団排除に向けた取組みを進展させていることから、警察では、連絡協議会の設置、研修への講師派遣等を行い、プロスポーツからの暴力団排除を推進している。

(6)暴力団構成員の社会復帰対策の推進

 暴力団を壊滅させるためには、構成員を一人でも多く暴力団から離脱させ、その社会復帰を促すことが重要であることから、警察では、都道府県暴力追放運動推進センター、関係行政機関等と連携して、全国に社会復帰対策協議会を設立するとともに、暴力団から離脱しようとする者に対して個別に指導・助言を行うなどしている。
 
 表-6 組織離脱者の状況(平成9~18年)
表-6 組織離脱者の状況(平成9~18年)

 第3節 暴力団の資金獲得活動との対決

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