第1章 安全・安心なインターネット社会を目指して

第3節 今後の課題

(1)社会全体で取り組む違法・有害情報への対応
 第1節で述べたとおり、現在、インターネット上には様々な違法・有害情報が氾濫し、これらの情報に起因した犯罪が実際に発生するなど、インターネットの負の部分が深刻な問題となっている。これに対処するため、警察では、サイバーパトロールを通じて違法・有害情報の把握に努め、違法情報については被疑者を検挙し、有害情報についてはプロバイダや電子掲示板の管理者に削除を依頼するなどの取組みを進めてきたところであるが、対象が広範囲にわたることなどから、警察だけの取組みでは限界がある。
 こうした現状を踏まえ、インターネット上の違法・有害情報対策を推進していくためには、これまでの取組みを更に推進するとともに、新たな取組みについて検討を行う必要がある。
 今後、国民のニーズを踏まえつつ、警察の取締りの強化によるインターネット上からの違法・有害情報の排除のほか、次のような対策を重点的に推進していくこととしている。

〔1〕 ホットラインの適切な運用
 インターネット上に違法・有害情報が氾濫している状況を踏まえ、平成17年度総合セキュリティ対策会議において、ホットラインの必要性及びその運営の在り方について検討を行い、「インターネット上の『ホットライン』の必要性及びその運営の在り方等に関する提言」を取りまとめた。ホットラインとは、インターネット利用者からインターネット上の違法・有害情報に関する通報を受け付け、一定の基準に基づいて選別した上、違法情報については、警察に通報するとともにプロバイダや電子掲示板の管理者等に対して削除を依頼し、有害情報については、プロバイダや電子掲示板の管理者等に対して利用者との契約約款等に基づく削除等を依頼する仕組みのことである。現在、米国、英国、ドイツ、フランスを始めとする諸外国において既に運用されており、1999年(11年)にはホットライン相互間の連絡組織であるINHOPE(注)が設置されている。INHOPE加盟国においては、インターネット上の違法情報が外国に所在するウェブサーバに蔵置されている場合、INHOPEを通じて外国のホットラインに削除を依頼するといった取組みもなされている。我が国では、18年6月、警察庁が(財)インターネット協会にホットラインに関する業務を委託し、我が国のホットラインとして、インターネット・ホットラインセンターの運用が開始されたところである。

注:Internet Hotline Providers in Europe Associationの略。2006年(18年)3月現在、23か国・地域の25団体が加盟している。


 ホットラインは、通報を寄せるインターネット利用者、依頼を受けて対応するプロバイダや電子掲示板の管理者等の理解や協力を得て初めてその目的が達成されるものである。したがって、今後、その活動内容や活動実績について、様々な媒体、手段を利用して周知を図るとともに、取り扱う違法・有害情報の範囲やその判断基準についても、広く国民の意見を集約し、最新の情勢に対応したものとしていく必要がある。
 また、我が国では、違法情報が外国に所在するウェブサーバに蔵置されている場合、警察が外国の警察機関を通じ、プロバイダや電子掲示板等の管理者に当該情報の削除を依頼することとしているが、今後、違法情報については、原則として警察機関を通じて対応することとしつつも、我が国がINHOPEに加盟した際は、現在の運用を補完するものとして、INHOPEを通じた仕組みの活用についても検討していく必要がある。
 さらに、ホットラインには様々なインターネット上の違法・有害情報に関する通報が寄せられていることから、フィルタリング・システムの精度の向上のために必要な情報をフィルタリング・ソフトの開発業者に提供するなど、他の違法・有害情報対策に貢献するための取組みについて更に検討していく必要がある。
 
 図1-31 「ホットライン」の仕組み
図1-31 「ホットライン」の仕組み

コラム1 インターネット・ホットラインセンターが扱う違法・有害情報の範囲

 インターネット・ホットラインセンターがプロバイダや電子掲示板の管理者等に対して削除依頼を行う違法・有害情報の具体的範囲は、次のとおりとされている。
 <違法情報>
  ○ わいせつ物公然陳列
  ○ 児童ポルノ公然陳列
  ○ 売春防止法違反の広告
  ○ 出会い系サイト規制法違反の誘引行為
  ○ 規制薬物の濫用を公然とあおり又は唆す行為
  ○ 規制薬物の広告
  ○ 預貯金通帳等の譲渡の誘引等
  ○ 携帯電話の匿名貸与営業等の誘引等 
 <有害情報>
  ○ 違法行為(けん銃等の譲渡、爆発物の製造、児童ポルノの提供、公文書偽造、殺人、脅迫等)の直接的かつ明示的な請負・仲介等に関する情報
  ○ 違法情報該当性が明らかであると判断することは困難であるが、その疑いが相当程度認められる情報
  ○ 人を自殺に勧誘・誘引する情報(集団自殺の呼び掛け等)

〔2〕 学校等と連携したインターネット利用に係る被害防止対策やマナー等の周知
 17年11月、警察庁が中学生、高校生及びその保護者に対して実施した意識調査(注1)の結果から、学校で、不審なウェブサイトにアクセスしたり、心当たりのない電子メールに返信したりしない、電子掲示板等に他人の悪口を書き込んだり、いわゆるチェーンメール(複数の者に同内容の電子メールを送信することを求める電子メール)を送ったりしないといったインターネットを利用する際の被害防止対策やマナー等についての教育への保護者の期待の高さがうかがえる(第1章第1節(2)〔2〕イ(9頁)参照)。警察では、非行防止教室やインターネットに関する講習会等の場を通じて、少年に対してこのような教育を実施しているところであるが、今後は、学校その他の関係機関との連携を深めつつ、教育内容を充実させるとともに、開催回数と参加者数の増加を図り、その普及・促進に一層努めていくこととしている。

注1:6頁の意識調査と同一のもの


〔3〕 保護者に対する意識啓発
 上記意識調査によれば、フィルタリング・ソフト又はサービスを知らない保護者が6割近くおり、また、これを「利用したくない」と答えた保護者の中には、フィルタリング・ソフト又はサービスの利用方法が分からないことを理由にしている者が4割近くいることから(第1章第1節(2)〔2〕イ(9頁)参照)、警察では、保護者に対し、フィルタリング・ソフト又はサービスの利用方法について情報提供を行い、保護者の理解を深めていくこととしている。
 また、インターネット上の違法・有害情報の影響から少年を守るためには、各家庭における教育が重要であるが、上記意識調査の結果から、保護者が子どものインターネットや電子メールの利用状況を十分把握しておらず、少年が違法・有害情報に触れないようにする取組みに対する保護者の意識が十分でないことがうかがえる。したがって、警察では、学校その他の関係機関と連携し、非行防止教室やインターネットに関する講習会等への保護者の参加を積極的に促すとともに、インターネット上の違法・有害情報に起因する犯罪や少年の犯罪被害の発生状況について実例を示しつつ、違法・有害情報から少年を守るため、保護者の責務の自覚を促すための意識啓発を進めていくこととしている。

〔4〕 違法・有害情報の排除に向けたネット安全・安心国民運動の展開
 我が国のインターネット社会の安全・安心を確保するためには、広報啓発活動を進めるほか、違法・有害情報を排除し、インターネット社会の健全化に協力する民間ボランティアの取組みを支援するとともに、違法・有害情報から子どもを守るためのネット安全・安心国民運動とも言うべき活動による国民的気運の醸成が不可欠である。このため、警察では、シンポジウムや講演会の開催やインターネットを通じた広報啓発の推進等により、違法・有害情報を排除し、インターネット社会の健全化を推進する気運を全国的に波及・向上させ、国民の意識と理解を深めるための国民運動を展開することとしている。

〔5〕 産業界における自主的取組みの強化に向けた働き掛け
 インターネット上に氾濫する違法・有害情報への対策を推進するためには、プロバイダによる違法・有害情報の排除のための自主的取組みが重要である。
 しかしながら、18年3月、警察庁がインターネット利用者を対象に行ったインターネット利用に関する意識調査(注2)において、9割近くの者がプロバイダの取組み不足を違法・有害情報氾濫の原因とし、8割以上の者がインターネット上から違法・有害情報をなくすための対策として、「プロバイダ、電子掲示板の管理者による自主規制」を「更に強化すべき」としており、また、次に示す東京都による調査結果からも、一般にプロバイダや電子掲示板の管理者、関連機器の販売店等による取組みは十分とは認識されていないことから、警察としても関連事業者に対して自主的な取組みを促していくこととしている。

注2:5頁の意識調査と同一のもの


 もっとも、プロバイダの中には、インターネット上の違法・有害情報の氾濫について強い問題意識を有し、自己の管理するウェブサイトやその電子掲示板を定期的に監視するなどして違法・有害情報の把握に努め、警察への通報や削除措置等を講ずるなどの取組みを推進しているところもある。
 今後、警察としては、このようなプロバイダにおける先進的な取組みが業界全体において一層推進されるようプロバイダ連絡協議会等の機会を活用して、業界に対して協力を求めていくこととしている。
 
 図1-32 インターネット上の違法・有害情報対策として必要な取組み
図1-32 インターネット上の違法・有害情報対策として必要な取組み
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コラム2 フィルタリングに関する実態調査

 東京都青少年・治安対策本部は、平成17年3月に改正した東京都青少年の健全な育成に関する条例(第1章第3節(1)コラム3(56頁)参照)の施行状況を調査するため、18年2月から3月にかけて、東京都内に所在する家電量販店(パソコン販売部門)、家電量販店(携帯電話機器販売部門)、携帯電話機器販売専門店及びまんが喫茶・インターネットカフェを対象として「フィルタリングに関する実態調査」を行った(注)
 まず、青少年がコンピュータや携帯電話等を購入する際、フィルタリング・サービスを告知・勧奨し、提供しているかどうかについて質問したところ、31.3%(40店)の店舗が「告知・勧奨し、提供している」と回答したが、21.9%(28店)の店舗が「告知・勧奨しているが、提供はしていない」と回答したほか、「いずれもしていない」と回答した店舗は46.9%(60店)に上った。
 店舗形態別にみると、携帯電話機器販売専門店では45.3%(34店)の店舗が「告知・勧奨し、提供している」と回答したものの、家電量販店のうち携帯電話機器販売部門については50%(11店)、コンピュータ販売部門については64.5%(20店)が、「いずれもしていない」と回答した。
 まんが喫茶・インターネットカフェでは81.0%(51店)の店舗がフィルタリングサービスを「提供していない」と回答した。

注:調査対象数1,695のうち有効回答数は247であり、回答率は14.6%であった。

 
コラム2 フィルタリングに関する実態調査
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〔6〕 バーチャル社会の弊害から子どもを守るための取組み
 インターネット上には、少年が簡単にアクセスできる状態で性や暴力に関する情報が氾濫しており、少年の健全育成を図る上で深刻な状況となっている。さらに、携帯電話等を通じたインターネット等へののめり込みが、少年の精神的な成長に悪影響を与える可能性を指摘する者もいる。
 こういった現状は問題視されてはいたものの、この問題の深刻さ、解決策等については、いまだに議論の一致をみていない。
 そのため、警察庁は、18年4月、有識者から成る「バーチャル社会の弊害から子どもを守る研究会」を立ち上げ、出会い系サイトの利用が少年にもたらす悪影響、子どもを性の対象とするアニメがもたらす社会的弊害について幅広く議論しているところであり、今後、バーチャル社会が子どもの成長に与える様々な影響について、社会に問題提起していくこととしている。
 
バーチャル社会の弊害から子どもを守る研究会
写真 バーチャル社会の弊害から子どもを守る研究会

コラム3 地方公共団体におけるインターネット上の有害情報への対応

 東京都は、17年3月、東京都青少年の健全な育成に関する条例を改正し、インターネット上の有害情報への対応に関して、事業者、保護者及び青少年の育成にかかわる者の責務を次のように規定している(同年10月施行)。なお、18年4月1日現在、東京都のほか、17府県の条例において、同様の規定が設けられている。
○ 事業者の責務
 ・ インターネット事業者は、フィルタリングを利用したサービスの開発及び提供に努めること。
 ・ インターネット事業者は、利用者と契約を行う際に、青少年にフィルタリングを利用したサービスを提供していることを告知し、利用の勧奨等に努めること。
 ・ インターネットカフェの経営者は、青少年にフィルタリング付きの機器の提供に努めること。
○ 保護者等の責務
 ・ 青少年にフィルタリングを利用させるよう努めること。
 ・ インターネットの利用の危険性及び過度の利用による弊害等について、青少年に対する教育に努めること。

 第3節 今後の課題

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