第1章 安全・安心なインターネット社会を目指して

(2)少年に与える悪影響

 現在、多数の少年が自由に使える携帯電話を持っており、出会い系サイト(注1)の利用を通じた児童買春・児童ポルノ法違反、いわゆる青少年保護育成条例違反等の性的被害に遭う事件が多発しているなど、出会い系サイトの利用が少年の健全育成に悪影響を及ぼしている。また、少年が、保護者の監督の及ばない所で携帯電話によりインターネットを利用し、違法・有害情報に直接アクセスできる状況が放置されているという問題が指摘されている。近年、これらの情報に影響を受けたとみられる少年による凶悪事件が発生するなど、性や暴力に関する情報が少年に深刻な悪影響を与えている。

注1:面識のない異性との交際(以下「異性交際」という。)を希望する者(以下「異性交際希望者」という。)の求めに応じ、その異性交際に関する情報をインターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれに伝達し、かつ、当該情報の伝達を受けた異性交際希望者が電子メールその他の電気通信を利用して当該情報に係る異性交際希望者と相互に連絡することができるようにする役務を提供するウェブサイト


〔1〕 出会い系サイトの危険性
ア 児童による出会い系サイトの利用実態
 17年11月、警察庁は中学生、高校生及びその保護者を対象にインターネット利用に関する意識調査(注2)を行った。

 
注2:インターネット人口普及率(人口に対するインターネット利用者数の比率)等を考慮して、6都県を選定し、それぞれ中学校及び高等学校1校ずつ(合計12校)の生徒計2,271名及び保護者計2,196名を対象に、あらかじめ作成した調査票を配布、回収する形式で実施

 中学生及び高校生に対し、自由に使える携帯電話を持っているかどうかについて質問したところ、70.9%の者が「持っている」と回答しており、特に、高校生については「持っている」と回答した者の割合は男子で94.2%、女子で98.0%に上るなど、大多数の高校生が携帯電話を保有し、自由に使用することができる環境に置かれている。
 次に、出会い系サイトを利用した経験の有無について質問したところ、2.6%の者が実際に出会い系サイトを「利用したことがある」と回答した。中学生、高校生とも、女子による利用が多く(中学生の女子1.9%、高校生の女子4.2%)、特に高校生の女子については、利用したことのある者の割合が高かった。
 また、出会い系サイトを「利用したことがある」と回答した者に対し、出会い系サイトを利用する手段について質問したところ、70.9%の者が「携帯電話から利用した」と回答しており、携帯電話及びコンピュータの「両方から利用した」ことがあると回答した者(12.7%)を合わせると83.6%の者が出会い系サイトの利用に際して携帯電話を使用している。
 
 図1-4 出会い系サイトの利用形態
図1-4 出会い系サイトの利用形態
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 さらに、出会い系サイトを利用して知り合った相手と実際に会ったことがあるかについて質問したところ、3割近くの者が実際に「会ったことがある」と回答し、特に、高校生の女子については、半数近くが実際に「会ったことがある」と回答している。
 
 図1-5 いわゆる出会い系サイトを利用して知り合った者との接触状況
図1-5 いわゆる出会い系サイトを利用して知り合った者との接触状況
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 このように、相当数の少年が、携帯電話を利用して出会い系サイトにアクセスするだけでなく、出会い系サイトを通じて知り合った相手と実際に会っている。
 
 出会い系サイトへの書き込みの例
写真 出会い系サイトへの書き込みの例

イ 出会い系サイトに関係した犯罪の発生状況
 出会い系サイトに関係した犯罪の検挙件数は、15年の1,743件をピークにほぼ横ばいで推移しており、17年中は1,581件と、前年より1件(0.1%)減少した。
 そのうち、児童買春・児童ポルノ法違反の検挙件数は707件(前年比61件(7.9%)減)、児童福祉法違反の検挙件数は71件(前年比16件(18.4%)減)とそれぞれ減少しているものの、いわゆる青少年保護育成条例違反の検挙件数は460件(83件(22.0%)増)と増加しており、依然として児童(18歳未満の者をいう。)の性的犯罪の被害が目立っている。また、インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(以下「出会い系サイト規制法」という。)違反の検挙件数は18件(前年比13件(41.9%)減)と減少し、うち児童によるものは5件(前年比1件(16.7%)減)であった。
 
 表1-1 出会い系サイトに関係した事件の検挙件数の推移
表1-1 出会い系サイトに関係した事件の検挙件数の推移
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 出会い系サイトに関係した犯罪の被害者数に占める児童の割合は約8割以上の高水準で推移しており、被害者となった児童のほとんどを女性が占めている。また、17年中の被害者のうち、小学生、中学生、高校生の人数を見ると、約6割を高校生が占めているが、約4割を中学生が占め、少数ではあるが小学生の被害児童もみられるなど、出会い系サイトによる被害は低年齢層にも着実に広がっていることが分かる。
 
 表1-2 出会い系サイトに関係した犯罪の被害者数の推移
表1-2 出会い系サイトに関係した犯罪の被害者数の推移
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 表1-3 被害者のうち小学生・中学生・高校生の人数(平成17年中)
表1-3 被害者のうち小学生・中学生・高校生の人数(平成17年中)
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 また、出会い系サイトについては、必ずしも異性交際を目的として利用されるばかりではなく、次の事例のように知り合った相手に危害を加えたり、性風俗店で稼働させる者を探すためにも利用されている。これらの者は、異性交際が目的であるかのように装い、本来の目的を隠して児童と接触することが多いため、警戒心が乏しく、判断能力が未熟な児童が安易に出会い系サイトを利用すると犯罪に巻き込まれる危険性が高い。

事例1
 地方公務員の男(27)は、16年11月、当初から殺害する目的で、携帯電話からアクセスすることのできる出会い系サイトを通じて知り合った少女に「8万円を払う」などと交際を持ちかけて、待ち合わせ場所に現れた少女を殺害し、死体を雑木林に遺棄した。17年9月までに、殺人罪及び死体遺棄罪で逮捕した(愛知)。

事例2
 性風俗店経営の男(32)は、17年5月から同年6月にかけて、携帯電話からアクセスすることのできる出会い系サイトを通じて知り合った少女3人を、同人が経営する性風俗店で稼働させ、客相手にみだらな行為をさせるなどした。17年11月、児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為)で逮捕した(新潟)。

〔2〕 違法・有害情報対策に関する保護者の意識
ア 少年による違法・有害情報へのアクセスの状況
 現在、多数の少年が携帯電話を保有しており、自由に使用している状況にある。警察庁が実施した意識調査(注1)において、中学生及び高校生に対し、コンピュータや携帯電話を使ってわいせつな画像を見ることができるのを知っているか質問したところ、「知っているが見たことはない」と回答した者が67.2%、「知っているし、見たこともある」と回答した者が25.1%を占めている。同様に、残虐な画像を見ることができるのを知っているか質問したところ、「知っているが見たことはない」と回答した者が62.5%、「知っているし見たこともある」と回答した者が13.9%であった。このように、ほとんどの少年がコンピュータや携帯電話により、性や暴力に関する情報を入手できることを知っており、実際にそのような画像を見たことのある少年も多くいる。

注1:6頁の意識調査と同一のもの


 
 図1-6 わいせつ画像及び残虐な画像の認知・閲覧経験
図1-6 わいせつ画像及び残虐な画像の認知・閲覧経験
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イ フィルタリングに関する保護者の認識不足
 このような違法・有害情報から少年を守るため、現在、コンピュータ用だけでなく、携帯電話用のフィルタリング・ソフト又はサービス(注2)の提供も行われているが、保護者に対して、こうしたコンピュータ及び携帯電話のフィルタリング・ソフト又はサービスを知っているかどうか等について質問したところ、「知らなかった」と答えた者が57.7%を占める一方で、「知っていて、利用したこともある」と答えた者は7.7%にとどまった。また、フィルタリング・ソフト又はサービスの利用の意向の有無について質問し、「利用したくない」と答えた保護者が34.6%いたことから、その保護者に対して理由を質問したところ、「子どもが有害な情報を見ないと思うから」と答えた者が46.4%、「利用する方法が分からないから」と答えた者が38.0%に上った。

注2:ウェブサイト上の違法・有害情報へのアクセスを制御するために、受信者側でこれらの情報を受信するかどうかを選択できるソフトウェア又はサービス


 
 図1-7 フィルタリング・ソフト又はサービスの認知度
図1-7 フィルタリング・ソフト又はサービスの認知度
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 図1-8 フィルタリング・ソフト又はサービスを利用しない理由
図1-8 フィルタリング・ソフト又はサービスを利用しない理由
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 保護者に対して出会い系サイトやインターネット上の違法・有害情報に対して必要だと思う対策について質問したところ、「プロバイダにおいてフィルタリング・サービスを契約時に設定し、標準機能として提供すること」と答えた者が61.7%、「コンピュータにフィルタリング・ソフトを組み込んで販売すること」と答えた者が61.3%と、契約又は販売時においてフィルタリング機能の初期設定が必要であると回答した保護者が6割を超えている。また、「プロバイダがフィルタリング・サービスを提供すること」と答えた者は45.3%、「学校でインターネットの利用の仕方について教えること」と答えた者も44.4%に上った。
 
 図1-9 必要な対策
図1-9 必要な対策
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ウ ルール無き子どものインターネット利用
 中学生及び高校生に対して、インターネット利用に係る家庭でのルールについて質問したところ、「ルールは何も決めていない」と答えた者が62.1%に上った。
 また、保護者に対して、子どもがインターネットを利用するときの保護者の態度について質問したところ、「何もせず、自由に使わせている」と答えた者が49.2%に上った。
 
 図1-10 家庭でのルール
図1-10 家庭でのルール
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 以上の意識調査の結果から、少年がインターネット上の違法・有害情報に容易にアクセスし得る状況が放置されているのは、コンピュータや携帯電話にフィルタリング・ソフト又はサービスを付加せずに、子どもにインターネットを自由に使用させているなど、保護者の意識や取組みが不十分であることが一因となっていることが分かる。

〔3〕 性や暴力に関する情報が少年に与える悪影響
 インターネット上には、児童ポルノ、わいせつ画像等の性に関する情報や、人が殺害される画像、死体画像等の暴力に関する情報が氾濫しているが、少年がコンピュータや携帯電話によりインターネットを利用して、これらの情報に容易にアクセスすることができる状況となっている。
 そのため、ウェブサイトで、女児への性的ないたずら、盗撮等の体験談等を読んだことで触発されたとみられる少年による性犯罪や、殺人・暴力に関するウェブサイトに影響を受けたとみられる少年による凶悪事件が発生するなど、性や暴力に関する情報が少年に与える悪影響が深刻な状況となっている。

事例
 中学生の男子(14)は、15年12月、自宅において、鉄製の棒で実妹を数回殴打し、頭部等を負傷させた。同月、殺人未遂罪で逮捕した。この男子は、幼児期より家族の跡継ぎとして親や地域に期待されてきたことなどのストレスを感じてきたが、思春期に差し掛かり、学業や人間関係に行き詰まりを覚えて人間不信に陥り、人に殺されたり人を殺したりする悪夢を見て不眠に相当期間悩まされていたところ、殺人に関するウェブサイトに触発されて、些細なきっかけで敢行したものである(茨城)。

〔4〕 その他の少年に悪影響を及ぼす情報
 出会い系サイト、性や暴力に関する情報以外にも、ウェブサイト上には、モデル、性風俗営業の営業所等で働く者等を募集するサイト、家出した少女に対し生活の方法等を教えるサイト、使用済み下着を販売するサイト等、少年の健全育成上問題のある情報や、少年を非行や犯罪被害に巻き込むおそれのある様々な情報に少年が容易にアクセスできるほか、電子掲示板等への書き込みに起因したトラブルも発生しており、その結果、少年が犯罪に巻き込まれた事件も発生している。

事例1
 自営業の男(42)は、17年3月、携帯電話からアクセスすることのできる電子掲示板に、モデル募集目的の求人広告を掲載し、応募してきた中学生の女子(15歳)に対して、現金3万円を供与する約束をして性交し児童買春するとともに、同女子の裸体をビデオカメラで撮影して、児童ポルノを製造した。同年10月、同自営業の男を児童買春・児童ポルノ法違反(児童買春、児童ポルノ製造)で逮捕した(埼玉)。

事例2
 小学生の女児(11)は、16年6月、小学校において同級生の女児の首をカッターナイフで切りつけ、殺害した。加害者の女児は、交換ノートや電子掲示板に記載された内容を見ているうちに、自分が馬鹿にされ、批判されているように感じて、怒りを募らせ、殺害しようと決意するに至ったものである(長崎)。

コラム2 家出サイト

 家出サイトとは、家出中に収入を得る方法や宿泊地を探す方法等家出を助長する情報を掲載しているウェブサイトであり、家出をしようとする者とこれを受け入れることを希望する者との間で情報交換をするための電子掲示板を設けているウェブサイトも存在する。この電子掲示板を利用して家出をした少女を受け入れた男が、少女に対してわいせつな行為をする事案が発生するなど、少年の健全な育成を図る観点からも問題があると指摘されている。

 第1節 国民の生活を脅かすインターネット社会の現実

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