第1章 安全・安心なインターネット社会を目指して

(2)サイバー犯罪対策

 増加するサイバー犯罪に対応するため、サイバー犯罪対策に必要な法令の整備、態勢の強化に努め、取締りの徹底を図るとともに、国民に対する広報啓発、適切な相談対応等サイバー犯罪の未然防止等のための施策を推進している。

〔1〕 法令の整備
ア 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律
 平成10年5月、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律が改正され、専ら性的好奇心をそそるため性的な行為を表す場面や衣服を脱いだ人の姿態の映像をインターネット等により有料で見せる営業を映像送信型性風俗特殊営業として規制の対象とし、この営業を営もうとする者に都道府県公安委員会への届出義務を課すほか、18歳未満の者を客とすることを禁止し、客が18歳未満でないことを確認する義務等を課すこととした(17年12月末現在、映像送信型性風俗特殊営業の届出件数は全国で2,575件で、年々増加している。)。
 また、映像送信型性風俗特殊営業を営む者にウェブサーバを提供しているプロバイダ等には、このウェブサーバに映像送信型性風俗特殊営業を営む者がわいせつな映像又は児童ポルノ映像を記録したことを知ったときに、これらの映像の送信を防止するため必要な措置を講ずる努力義務が課せられ、当該プロバイダ等が努力義務を遵守していないと認められるときは、都道府県公安委員会は、これを遵守するよう当該プロバイダ等に勧告することができることとされた。

イ 不正アクセス禁止法
 11年12月、他人の識別符号を不正に入力し、情報通信ネットワークを通じてコンピュータにアクセスする不正アクセス行為が多発し、社会問題となっていたことを踏まえ、不正アクセス禁止法が制定された。これにより、不正アクセス行為やそれを助長する行為を禁止するとともに、不正アクセス行為の被害を受けたアクセス管理者からの申出により、都道府県公安委員会が再発防止のために必要な資料の提供、助言、指導等の援助を行うこととされた。

ウ 古物営業法
 14年11月、古物営業法が改正され、インターネット・オークションにおいて盗品その他犯罪によって領得された物(以下「盗品等」という。)が売買されることを防止するため、インターネット・オークションを営もうとする者の届出、義務、盗品等の疑いがある場合の申告義務、出品者の確認並びに取引記録の作成及び保存に関する努力義務、競りの中止命令に関する規定等が設けられたほか、盗品等の売買防止に資する業務方法を採用している事業者の認定制度が創設された(18年3月現在、13事業者を認定)。

エ 出会い系サイト規制法
 15年6月、出会い系サイトの利用に起因する犯罪で多くの児童が深刻な被害を受けるようになったことを踏まえ、出会い系サイト規制法が制定された。これにより、出会い系サイトを利用して、18歳未満の児童を相手方とする性交等や対償を伴う異性交際を誘引することなどを禁止するとともに、事業者に対しては、児童の利用を防止するため、児童が利用してはならないことの明示及び利用者が児童でないことの確認を義務付け、これに違反した場合は、都道府県公安委員会が必要な措置を講ずるよう命ずることができることなどとされた。

オ 警察法
 11年4月、増加するサイバー犯罪に的確に対処するため、情報通信の技術についての人的、物的資源を組織的に保有する部局である警察庁情報通信局に、電磁的記録の解析その他情報通信の技術を利用する犯罪の取締りのための情報通信の技術的事項を集約し、横断的に所掌させることとした。また、16年4月、サイバー犯罪に悪用される技術がますます高度化・複雑化し、その取締りには高度の技術的知見が必要とされるようになったことを踏まえ、サイバー犯罪捜査に対する技術支援を国が統轄し、全国的に技術水準を維持向上させることを国の責務として明確にするとともに、警察庁の情報通信部門に現場活動を中心とした技術支援を行わせることとされた。
 なお、8年6月、警察庁長官は、特定のサイバー犯罪を含む広域組織犯罪等に対処するために必要があると認めるときは、都道府県警察に対し、広域組織犯罪等に対処するための警察の態勢に関する事項について必要な指示をすることができることとされた。

〔2〕 サイバー犯罪の未然防止に向けた取組み
ア 広報啓発活動
 警察では、情報セキュリティに関する国民の知識及び意識の向上を図るため、警察やプロバイダ連絡協議会等が主催する研修会、学校関係者等からの依頼による講演会、地域の各種セミナー、情報通信技術関連イベント等において、犯罪手口の実演を交えるなどして、サイバー犯罪の現状、対策等についての周知を図っている。
 また、広報啓発用パンフレットを配布するほか、情報セキュリティ対策ビデオをケーブルテレビで放映したり、警察署や図書館等で貸し出したり、警察庁ウェブサイト(http://www.npa.go.jp/)において、新たなサイバー犯罪の手口を紹介したりして、インターネットを利用する際の注意喚起を行っている。
 さらに、毎年4月及び5月をサイバー犯罪防止のための情報セキュリティ対策に関する広報啓発の重点期間とし、集中的な広報啓発を実施している。
 
 警察庁ウェブサイト
写真 警察庁ウェブサイト

 
 情報セキュリティ対策ビデオ
写真 情報セキュリティ対策ビデオ

イ 相談対応
 都道府県警察では、サイバー犯罪相談窓口を設け、情報セキュリティ・アドバイザー等の専門の職員によりサイバー犯罪等の相談に対する対応を推進している。
 また、16年12月には、フィッシング事案に関する部外との窓口となる「フィッシング110番」を各都道府県警察に設置し、フィッシング事案に関する相談や情報提供を受け付けている。
 さらに、警察庁において、サイバー犯罪等に関する相談の増加(第1章第1節(3)〔1〕イ(17頁)参照)に的確に対応し、インターネット利用者の被害防止を推進するため、17年6月、インターネット安全・安心相談システム(http://www.cybersafety.go.jp/)の運用を開始した。
 このシステムでは、利用者の困りごとに応じた基本的な対応策等を自動的に回答するとともに、利用者からの情報提供を受け付けている。
 
 インターネット安全・安心相談システム
写真 インターネット安全・安心相談システム

〔3〕 サイバー犯罪の取締り
ア サイバー犯罪対策のための態勢の強化
 警察庁では、サイバー犯罪対策を的確に推進するための態勢の強化を図っており、9年4月には、電子商取引等の新たな社会的インフラに対する安全対策を確立するため、生活安全局生活安全企画課にセキュリティシステム対策室を設置した。
 また、情報通信技術の発展に伴い、サイバー犯罪に悪用される技術が高度化し、その取締りには高度な技術的知見が必要とされるようになったことから、警察庁では、11年4月、サイバー犯罪対策に関し都道府県警察を技術的に指導する組織として情報通信局に技術対策課(現情報技術解析課)を設置するとともに、その技術的な中核組織として、同課に警察庁技術センターを開設した。さらに、13年4月には、管区警察局情報通信部に技術対策課(現情報技術解析課)を設置した。16年4月には、都道府県(方面)情報通信部に情報技術解析課を設置した。
 その後、サイバー犯罪の検挙件数が増加するとともに、被害が複数の都道府県警察にわたるため、捜査が重複するという問題等が顕著になってきたことから、16年4月、生活安全局に情報技術犯罪対策課を設置し、都道府県警察が行うサイバー犯罪捜査に関する指導・調整を行うとともに、産業界や外国関係機関等との連携、広報啓発活動、相談対応等の施策を推進するなど、サイバー犯罪の捜査と予防に関する施策を一体的に推進することとした。また、都道府県警察が行うサイバー犯罪捜査に関する指導・調整能力の向上を図るため、18年4月、同課に情報技術犯罪捜査指導官を設置した。
 一方、都道府県警察では、サイバー犯罪対策を効率的に進めるため、関係部門が連携の上、サイバー犯罪対策に関する知識及び技能を有する捜査員等により構成されるサイバー犯罪対策プロジェクトを設置している。
 また、サイバー犯罪捜査に必要な専門的技術・知識を有する捜査員を育成したり、民間企業でシステム・エンジニアとして勤務した経験を有する者をサイバー犯罪捜査官として採用したりしているほか、サイバー犯罪等に関する相談への対応、情報セキュリティに関する広報啓発活動等サイバー犯罪の予防のための施策を推進する情報セキュリティ・アドバイザーを配置するなど、サイバー犯罪対策のための態勢の強化に努めている。
 
 図1-25 サイバー犯罪対策のための態勢
図1-25 サイバー犯罪対策のための態勢

コラム2 警察庁技術センターの活動

 警察庁技術センターには、特に高度かつ専門的な知識及び技能を有する職員を配置するとともに、高性能の解析用資機材を整備し、都道府県(方面)情報通信部で対応が困難な暗号等により隠ぺいされた情報、破損したハードディスク等に記録された情報等の抽出・解析、コンピュータ・ウイルス等の不正プログラムの動作の解析等を行っている。
 
非破壊検査装置を使った解析手法検討
写真 非破壊検査装置を使った解析手法検討

 
クリーンルームでの精密作業
写真 クリーンルームでの精密作業

事例
 中国人留学生の男(26)は、17年3月、オンラインゲーム運営会社がゲームサーバの負荷を軽減させるために外国からのアクセスを禁止していたにもかかわらず、中国からのアクセスを国内で中継してゲームサーバへのアクセスを可能とするサービスを提供することにより、接続料を徴収するなどして収益を得ようと企て、自宅等にプロキシサーバ(注)を設置してこれらのアクセスを不正に中継したことで、オンラインゲーム運営会社のゲームサーバに過度の負荷を与えて、同社の業務を妨害した。同年7月、電子計算機損壊等業務妨害罪で逮捕した。香川県情報通信部情報技術解析課では、押収されたコンピュータ等の解析等の技術支援を実施し、事件の全容解明に貢献した(香川)。

注:ウェブサイトの参照等を本来のコンピュータに代わって行うコンピュータであり、参照したウェブサイトのデータを記憶しておき、利用者からの同一のウェブサイトの閲覧要求があった場合、記憶しているデータを閲覧させることでネットワークの通信量を減らすことなどを目的として設置される。

 
 大量押収した解析対象コンピュータ
写真 大量押収した解析対象コンピュータ

イ 都道府県警察間の情報共有
 複数の都道府県にまたがって敢行されるサイバー犯罪については、被害の拡大防止を図るため、早期に被疑者を特定し、検挙することが必要であるが、このような事案については、各都道府県警察において捜査している事件に競合が生じやすいことや捜査範囲が多数の都道府県にまたがることなどから、一の都道府県警察で捜査を遂行することが困難となっている。
 このような状況に的確に対処するためには、従来、各都道府県警察において個別に把握していた捜査情報の共有を図り、各都道府県警察における捜査の競合を回避することにより、迅速に合同捜査・共同捜査を実施することが必要となる。
 このため、各管区警察局及び各都道府県警察にサイバー犯罪捜査共助官を設置し、サイバー犯罪の捜査に関する連絡調整に当たらせることにより、サイバー犯罪の合同捜査及び共同捜査を推進している。

事例
 無職の男(28)ら12人は、16年4月から同年12月にかけて、他人の識別符号を使用してインターネット・オークションサイトに不正アクセスし、携帯電話やブランド品等を架空に出品し、落札者から金銭をだまし取るなどしていた。警察では、被害者が33都道府県に及んだことを踏まえ、関係都県警察による合同捜査本部を設置し、捜査を実施した。17年6月までに詐欺罪、不正アクセス禁止法違反(不正アクセス行為)等で検挙した(大分、宮城、警視庁、茨城、兵庫、熊本)。

ウ 関係機関・団体との情報共有による取締り
 近年、インターネット・オークションを利用した偽ブランド品や海賊版のCD、DVD等の出品が増加している傾向にある。既に著作権等の権利者や権利者団体では、自主的に出品状況を監視し、インターネット・オークション事業者に対し、違法出品の削除を要請するなどの対策を講じているが、出品する側も出品の宣伝において隠語を用いて知的財産権侵害品であることを分かりにくくするなど、その手口は巧妙化している。
 これらの状況を踏まえ、16年度には、警察庁において開催した総合セキュリティ対策会議において、違法出品の把握、出品者への警告、捜査機関への通報、検挙といった一連の措置を円滑に実施するため、権利者・権利者団体、インターネット・オークション事業者及び警察の間の情報共有のための仕組みを構築した。現在、これを活用して、インターネット・オークションを利用した知的財産権侵害事犯の取締りを推進している。
 
 図1-26 情報共有のための仕組み
図1-26 情報共有のための仕組み

事例
 無職の男(37)は、17年8月から18年1月にかけて、インターネット・オークションにおいて複数の識別符号を用いてコンピュータソフトの海賊版を出品し、約1万5,000人に対しCD-R約2万枚を販売して約3,000万円の収益を得た。兵庫県警察は、権利者団体から提供を受けた違法出品に関する情報を基に捜査を行い、18年1月、著作権法違反(頒布)で逮捕した。

コラム3 快適なインターネット社会を目指して
 
 警視庁ハイテク犯罪対策総合センター 吉田浩子 巡査部長
写真 吉田浩子 巡査部長

 私は、警視庁のコンピュータ犯罪特別捜査官として採用され、前職で携わっていた大手都市銀行のシステム開発の経験や知識をいかし、日々、新たな手口が登場するハイテク犯罪の捜査に取り組んでいます。
 インターネット社会の利便性とそこに潜む危険性については、警視庁のウェブサイトやハイテク犯罪防止教室等あらゆる機会を通して多くの方に呼び掛けをしていますが、最も効果的に多くの方に呼び掛けられるのは、ハイテク犯罪事件を解決し、それを新聞、テレビ等で報道していただくことだと思っています。
 年々増加するハイテク犯罪事件を数多く検挙し、その手口を解明することで、インターネットを利用する多くの人々に注意を喚起しながら、快適なインターネット社会ができることを願っています。

コラム4 見えない敵との戦い
 
 香川県高松北警察署生活安全課 藤本芳明 警部補
 (当時、香川県警察本部生活安全部生活環境課勤務)
写真 藤本芳明 警部補

 「パソコンの調子が悪くなった」、「ホームページが見えない」といった相談の裏には犯罪のにおいがするものです。16年1月、一人の少年から、「オンラインゲームですべてのアイテムが盗まれた」という相談を受けました。「におい」がしたため地道に捜査を続けたところ、日本国内のプロキシサーバを利用した国外からの不正アクセスであることが分かりました。捜索に着手すると30台を超えるプロキシサーバがあり、中国語の画面と格闘しながら検証したものの、この時には実行行為者を特定することはできませんでした。
 しかし、被害者の悔しさに思いを致し、あきらめずに裏付け捜査を積み重ねたところ、最終的には、オンラインゲーム運営会社に対する業務妨害事件(注)により、プロキシサーバを設置していた被疑者を検挙することができました。
 インターネット社会の秩序はでき上がっていません。だれもが安心してインターネットを利用することができる社会の実現を目指して、新たな形態のサイバー犯罪捜査に挑み続けていきたいと思っています。

注:第1章第2節(2)〔3〕アの事例(35頁)参照

 第2節 サイバー空間の安全確保に向けた取組み

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