第1章 世界一安全な道路交通を目指して 

第3節 超高齢化社会への対応

 第1節でも触れたように、社会の高齢化の進展に伴い高齢者がかかわる交通事故死者数が増加するなど、現在、高齢者の交通安全対策が重要な課題となっている。そこで、本節では、高齢者の交通安全対策の今後の方向性について取り上げることとする。

(1) 高齢者の交通事故の特徴(第1節(4)参照)
 [1] 死者数、人口当たり死者数、致死率
 平成16年中の65歳以上の高齢者の交通事故死者数は3,046人であった。
 総死者数に占める割合は41.4%となっており、5年以降、最も死者数の多い年齢層となっている。この要因を、高齢人口の増加だけに求めることはできない。人口当たりでみた場合でも、65歳以上の高齢者が、3年以降、最も死者数の多い年齢層となっている。
 また、16年中の致死率(交通事故死傷者数に占める死者数の割合)をみると、65歳以上の高齢者は、他の年齢層と比べると著しく高くなっている。

 
図1-32 年齢層別交通事故死者数の推移(昭和50~平成16年)

図1-32 年齢層別交通事故死者数の推移(昭和50~平成16年)
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図1-33 年齢層別致死率(平成16年)

図1-33 年齢層別致死率(平成16年)
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 [2] 増加傾向にある高齢運転者による死亡事故
 過去10年間に発生した自動車又は原動機付自転車の運転者を第1当事者とする死亡事故を、運転者の年齢層別にみると、16歳から24歳までの若者層によるものが約60%減少し、25歳から64歳までの層によるものも約18%減少している。
 一方、65歳以上の高齢運転者によるものは、当該年齢層の運転免許保有者数が10年前の2倍となっていることを背景として、約24%増加している。
 また、死亡事故の第1当事者となった運転者の総数に占める高齢者の割合は年々増加しており、6年に9.1%であったものが、16年には15.7%となっている。

 
図1-34 高齢運転者による死亡事故件数の推移(平成6~16年)

図1-34 高齢運転者による死亡事故件数の推移(平成6~16年)
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 16年中の高齢運転者が第1当事者となった死亡事故を法令違反別にみると、漫然運転によるものが14.5%と最も多く、この傾向は、他の年齢層と変わらない。他方で、高齢者以外の運転者では、最高速度違反によるものが12.7%であるのに対して、高齢運転者ではそれが1.5%と著しく低い。このほか、運転操作不適(12.4%)、一時不停止(10.2%)、通行区分違反(8.3%)、優先通行妨害(6.1%)によるものの割合は、高齢運転者の方が他の年齢層の運転者より高い。

 
図1-35 運転者の主な法令違反別死亡事故件数(平成16年)

図1-35 運転者の主な法令違反別死亡事故件数(平成16年)
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 こうした状況を踏まえ、17年2月、警察庁は、国民に対し、高齢者がかかわる交通事故の防止に関する意識調査(注)を行った。
 まず、一般的に高齢運転者に対してどのようなイメージを持っているかと質問したところ、全年齢層の平均で、「周囲の状況に注意を払わない」と答えた者が66.0%、「ブレーキを踏むのが遅れるなど、反応が遅い」と答えた者が61.2%であった。こうした悪い印象を抱いている者が、「安全意識が高く、交通ルール・マナーをよく守っている」といった良い印象を抱いている者よりはるかに多い。この傾向は、高齢者以外の年齢層の回答者において顕著である。


注:質問の内容が多岐にわたることから、次の3つに分けて実施した。
  ・「交通事故防止に関するアンケート」(5ページの意識調査と同一のもの)
  ・「高齢者の交通事故防止に関するアンケート」(運転免許を受けている全国の満65歳以上の男女1,092人を対象)
  ・「歩行中・自転車乗車中の高齢者の交通事故防止に関するアンケート」(運転免許を受けていない全国の満65歳以上の男女1,104人を対象)

 
図1-36 高齢運転者に対する国民のイメージ(複数回答)

図1-36 高齢運転者に対する国民のイメージ(複数回答)
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 次に、高齢運転者に対して、自身の運転に関して、若いころと比べて変わったことがあるかと質問したところ、大半の者が「慎重に運転するようになった」と答えている。一方、「とっさの動作や複雑な動作がスムーズにできないようになった」、「周囲に対する注意がおろそかになりがちになった」と、身体機能の衰えを自覚している旨回答した高齢者は、半数程度であった。

 
図1-37 自身の運転に関して若いころと変わったと感じるか

図1-37 自身の運転に関して若いころと変わったと感じるか
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 さらに、高齢運転者に対して、他の運転者についてどのようなイメージを持っているかと質問したところ、「スピードを出しすぎている」(50.2%)、「車間距離を詰めすぎている」(40.3%)、「無理な追越しをする」(30.5%)と答えた者が多かった。高齢運転者が、他の運転者は無謀な運転をするという印象を抱いていることがうかがえる。

 
図1-38 高齢者から見た他の運転者のイメージ(複数回答)

図1-38 高齢者から見た他の運転者のイメージ(複数回答)
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 [3] 多発する歩行中・自転車乗用中の高齢者の死亡事故
 第1節(4)で触れたように、歩行中・自転車乗用中の交通事故死者数に占める高齢者の割合は、歩行中では約3分の2に当たる66.3%、自転車乗用中では59.5%と、その比率は他の年齢層に比べ圧倒的に高い。現在において、歩行者や自転車利用者の交通安全対策を講じるに当たっては、第一に高齢者の行動特性を考慮に入れる必要があることが分かる。
 歩行中・自転車乗用中の高齢者の交通事故死者のうち、運転免許を保有していない者の割合はそれぞれ86.0%、88.3%と非常に高く、自動車の運転をしない高齢者には、交通事故の危険から身を守るための知識や技能が不足していることがうかがえる。

 
図1-39 歩行中・自転車乗用中の高齢者の交通事故死者に占める運転免許保有者の割合(平成16年)

図1-39 歩行中・自転車乗用中の高齢者の交通事故死者に占める運転免許保有者の割合(平成16年)
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 法令違反別にみると、歩行中の死亡事故の場合、高齢者は横断歩道外横断(19.0%)、走行車両の直前・直後横断(22.8%)のような道路横断時の違反の割合が高い。また、自転車乗用中の場合、高齢者の側に何らかの違反があった割合(83.2%)が高い。

 
図1-40 歩行中(第1・2当事者)の主な法令違反別死者数(平成16年)

図1-40 歩行中(第1・2当事者)の主な法令違反別死者数(平成16年)
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 自動車安全運転センターは、16年度に「高齢者の交通モード別の安全行動等に関する調査研究」を実施した。そこで行った走行実験の結果、
 ・ 自転車及び自動車の停止距離は、高齢者の方が長くなること。
 ・ 自転車及び原動機付自転車の回避行動に要する時間は、高齢者の方が長くなること。
 ・ 模擬市街路走行における高齢者の運転に対する評価は、全般的に低いこと。
 ・ 高齢者は、右折の可否を、対向車の速度ではなく、対向車までの距離で判断する傾向があること。
などが明らかとなった。
 一方、被験者に行ったアンケートでは、高齢者は「安全運転に心掛けている」、「安全確認を行っている」という意識が強いことが明らかとなっており、意識と行動の間には隔たりが認められた。

 
心身特性検査
心身特性検査

 
走行実験
走行実験

 
(2) 高齢者の交通安全対策の今後の方向性
 平成16年10月1日現在の65歳以上の人口は約2,488万人で、総人口に占める割合は約19.5%である。この割合は、26年には25%を、45年には30%を超えることが予測されており(注)、我が国には、近い将来、世界でもまれな超高齢化社会が到来することとなる。それを踏まえた今後の高齢者の交通安全対策の方向性は、次のとおりであるべきと考えられる。


注:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成14年1月推計)」による。

 
図1-41 高齢者人口の推移(昭和40~平成52年)

図1-41 高齢者人口の推移(昭和40~平成52年)
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 [1] 高齢運転者の交通安全対策
  ア 道路交通環境の整備
 今後、これまで以上に多くの高齢運転者が道路交通の場に参加することが見込まれる。しかし、高齢運転者の知識や技能を向上させるには一定の限度があり、それを取り巻く道路交通環境の側を、できる限り、高齢者が安全に安心して運転できるものに改良していく必要がある。
 国民に対する意識調査でも、多くの者が、高齢運転者の関係する交通事故を防止するため、見やすい道路標識等を設置するなどの施策を「推進すべき」、「もう少し推進すべき」と答えており、信号灯器のLED化、道路標識の大型化・高輝度化、道路標示の高輝度化を推進していかなければならない。また、カーナビゲーション装置等を通じて運転者に安全運転に資する情報を提供し、安全運転を支援するシステムを開発・普及することも急務である。

 
大型化、高輝度化された道路標識
大型化、高輝度化された道路標識

 
図1-42 高齢運転者の事故防止施策についてどうすべきか(見やすい道路標識等の設置)

図1-42 高齢運転者の事故防止施策についてどうすべきか(見やすい道路標識等の設置)
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  イ 高齢運転者に係る運転免許制度の見直し
  (ア)現行制度
 現在、70歳以上の免許保有者は、更新時に高齢者向けの特別の講習を受講することが義務付けられている。また、71歳以上の免許保有者の更新後の運転免許証の有効期間は、他の年齢層であれば最長5年とされているところ、一律3年とされている。さらに、認知症であることが判明した者については、免許の取消し等の処分を行うこととされている。
 他方、身体機能の低下等を理由に自動車等の運転をやめる際には、本人の申請により運転免許証を返納し、運転免許を取り消すことができることとされている。その場合、希望があれば、身分証明証として用いることのできる運転経歴証明書を交付している。

  (イ)高齢運転者の特徴
 加齢に伴い、運転に必要な情報を得るための視力や聴力は低下していく。中でも、動体視力や夜間の視力の低下には、加齢の影響が強く現れる。様々な情報を一時的に記憶する能力、複数の事象に適切に注意力を配分する能力も低下する。交差点では多くの情報を基に瞬時に次の運転行動を決する必要があるが、高齢運転者は、右左折の時に視線を切り替える回数が少なく、進行方向を見る時間が長くなる傾向がある。また、不適切なタイミングで右折を開始する傾向がある。
 本節(1)[2]で述べたとおり、高齢運転者による死亡事故にみられる法令違反は、速度超過が少なく、一時不停止、優先通行妨害、運転操作不適が多い。最近では、認知症の高齢運転者が高速道路を逆走して重大事故を起こす例も多くみられる。

事例
 16年4月、認知症の疑いがある高齢者が運転する乗用自動車が、東名高速道路を約2キロメートルにわたって逆走した上、順行の車両と正面衝突し、当該高齢者が死亡した(神奈川)。

  (ウ)国民の意識
 70歳以上の運転免許保有者を家族に持つ者(50歳未満)に対し、70歳以上の家族が車を運転することについてどう思うかと質問したところ、「危険だと思うので、運転をやめてほしい」と答えた者が18.1%、「危険だと思うが、移動手段がないので、運転はやむを得ない」と答えた者が28.4%、「今は大丈夫だと思うが、体が衰えてきたら運転をやめてほしい」と答えた者が48.4%となっており、9割を超える者が高齢者の運転には危険が伴うと認識していることが分かる。

 
図1-43 70歳以上の家族が運転をすることについてどう思うか

図1-43 70歳以上の家族が運転をすることについてどう思うか
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 上の質問で「危険だと思うが、移動手段がないので、運転はやむを得ない」と答えた者に対し、70歳以上の家族がどういう目的で運転しているのか質問したところ、「買物のため」(28.0%)、「通院のため」(20.1%)、「職業として」(14.6%)といった回答が多く、車が正に生活の足となっていることがうかがえた。

 
図1-44 70歳以上の家族の運転目的

図1-44 70歳以上の家族の運転目的
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次に、高齢運転者に対し、運転免許証の返納を考えたことがあるかと質問したところ、85.0%が考えたことが「ない」と答えた。

 
図1-45 運転免許証の返納を考えたことがあるか

図1-45 運転免許証の返納を考えたことがあるか
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 返納を考えたことが「ない」と回答した高齢運転者に対し、返納についてどう考えるかと質問したところ、72.8%の者が「まだまだ普通に運転できるので返納しない」と答えており、自分の運転能力に自信があるため返納を考えていない者が多いことが分かる。

 
図1-46 運転免許証の返納についてどう考えるか(返納を考えたことがない者への質問)(複数回答)

図1-46 運転免許証の返納についてどう考えるか(返納を考えたことがない者への質問)(複数回答)
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 返納を考えたことが「ある」、「たまにある」と答えた者に対し、考えたことはあっても実際に返納していない理由を質問したところ、57.4%の者が「運転能力の低下を感じてはいるが、運転免許証を返納するほどではない」と答えている。また、46.3%の者が「返納すると、代わりの交通機関がない、又は不便である」と答えており、車の運転が生活に不可欠であるという事情も、返納に踏み切れない理由となっていることが分かる。

 
図1-47 運転免許証を実際に返納しない理由(返納を考えたことがある者への質問)(複数回答)

図1-47 運転免許証を実際に返納しない理由(返納を考えたことがある者への質問)(複数回答)
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 次に、全年齢層を対象に、高齢者の運転免許制度の見直しについてどう思うかと質問したところ、多くの者が、高齢者の関係する交通事故を防止するため「推進すべき」、「もう少し推進すべき」と答えているが、高齢者の約3分の2は、「現状どおりでよい」と答えている。

 
図1-48 高齢運転者の事故防止施策についてどうすべきか(運転免許制度の見直し)

図1-48 高齢運転者の事故防止施策についてどうすべきか(運転免許制度の見直し)
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 「推進すべき」、「もう少し推進すべき」と答えた者に対して、その具体的な施策について質問したところ、「適性検査の項目を追加する」ことについては、高齢者とそれ以外の年齢層の者のいずれも、「必要である」と答えた者が大半であった。
 一方、「高齢者の運転免許証の有効期間を短縮する」ことについては、「必要である」とする回答が高齢者では半数以下であったのに対し、それ以外の年齢層では7割を超えた。また、「運転免許の定年制を設ける」ことについては、高齢者では「必要でない」とする回答が「必要である」とする回答を上回ったのに対し、それ以外の年齢層では逆転した。
 このことから、高齢者の運転免許制度を見直す必要性を感じている者の中でも、運転する権利を制限したり新たな義務を課したりする施策については、高齢者とそれ以外の年齢層との間に意識の隔たりがあることが分かる。

 
図1-49 適性検査の項目を追加する必要性

図1-49 適性検査の項目を追加する必要性
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図1-50 免許証の有効期間を短縮する必要性

図1-50 免許証の有効期間を短縮する必要性
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図1-51 運転免許の定年制を設ける必要性

図1-51 運転免許の定年制を設ける必要性
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  (エ)見直しの考え方
 16年末現在、65歳以上の高齢者の運転免許保有率は37.1%と、10年前の1.5倍となっており、今後も急速に上昇すると見込まれる。他方で、自動車が日常生活に不可欠な移動手段となっている以上、その運転を制限することには慎重な検討が求められる。
 そこで、まず、高齢者が安全に運転を継続できるよう支援する施策を充実させる必要があり、安全運転の能力を維持・向上させるための教育を充実させるとともに、個々の運転適性に応じて運転継続の可否をよりきめ細かく判断できるようにすることが望まれる。
 現在、免許更新時の高齢者講習では、動体視力等を検査し、身体能力の変化を受講者に自覚させているが、教育効果を高めるため、検査項目の追加や検査結果を効果的に自覚させる手法等を検討していく必要がある。
 また、免許更新時の適性検査では、視力、聴力等の検査を実施し、基準に満たない者は更新をしないこととされているが、高齢運転者の交通事故の状況を詳細に分析するなどして、適性検査の充実方策を検討していく必要がある。特に、認知症の疑いのある運転者を把握する手法については、早急に調査研究を進める必要がある。
 一方、高齢者の運転免許証の有効期間を短縮し、適性検査の頻度を高めるべきとの意見があるが、まずは適性検査を充実させ、適性の経年変化の状況を年齢層別に把握した上で、その可否を検討すべきであると考えられる。
 また、運転免許の定年制を設けるべきとの意見があるが、高齢者の身体能力の低下の度合いには個人差があること、高齢者の生活に不自由が生じるおそれがあることなどを踏まえると、普通免許や原付免許について定年制を設けることは必ずしも適当でないと考えられるが、タクシー等を運転するための第二種免許、大型貨物自動車を運転するための大型自動車免許等、安全な運転が強く求められる自動車の免許については、事故の発生状況等によっては、一定の制限を設けることを視野に入れつつ、制度の在り方を検討していく必要がある。

 [2] 高齢歩行者・自転車利用者の交通安全対策
  ア 交通安全教育及び広報啓発の徹底
 国民に対する意識調査によると、9割を超える者が、歩行中や自転車乗用中の高齢者の交通事故を防止するため、交通安全教育のより一層の推進を望んでいることが分かる。

 
図1-52 歩行中又は自転車乗用中の高齢者の交通事故防止対策(高齢者に対する教育)

図1-52 歩行中又は自転車乗用中の高齢者の交通事故防止対策(高齢者に対する教育)
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 ところが、歩行中又は自転車乗用中に交通事故で死亡する高齢者の大半は、運転免許を受けておらず、免許の取得時や更新時に行われる交通安全教育に接していないほか、車の運転を通じて事故回避のために必要な知識及び技能を習得することもできないことが、交通事故の被害に遭いやすい原因となっていると考えられる。
 国民の意識調査によると、運転免許を受けていない高齢者に対し、65歳を過ぎてから、安全な歩き方や安全な自転車の乗り方についての講習に参加したり、指導を受けたりしたことがあるかと質問したところ、「参加したことがある」と答えた者は36.6%にとどまった。

 
図1-53 交通安全講習等に参加したことがあるか(運転免許のない高齢者)

図1-53 交通安全講習等に参加したことがあるか(運転免許のない高齢者)
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 そこで、講習等を受講したことがない高齢者に対し、なぜ講習等を受けないのかと質問したところ、6割以上の者が「どこで講習や指導をやっているのか知らないから」と答えた。

 
図1-54 交通安全講習等を受けたことがない理由(運転免許のない高齢者)(複数回答)

図1-54 交通安全講習等を受けたことがない理由(運転免許のない高齢者)(複数回答)
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 運転免許を受けている高齢者が、相対的にみて歩行中又は自転車乗用中に死亡事故に遭うことが少ないことは、交通安全教育の効果が高いことを示すものと考えられる。これに対し、意識調査の結果からみても、現状では、受講機会を拡大し、その周知を図るという基本的な対策から取り組んでいかなければならないことが明らかとなっている。
 しかし、法定講習のない免許非保有者のすべてに交通安全教育の機会を提供することは、容易ではない。また、学校を通じることによって相当程度網羅的に働き掛けを行うことができる若年層と異なり、高齢者にはそうした場がない。
 こうした問題を解決するためには、高齢者が日常的に利用する機会の多い病院や福祉施設の協力を得たり、テレビ等のマスメディアを活用したりすることが有用であると考えられる。また、民生委員らの協力を得て、高齢者宅を訪問する際に交通安全に関する情報提供を行ったり、老人会や自治会の活動を通じた働き掛けを行ったりすることも効果があると考えられる。
 これに当たっては、地方公共団体、自治会、ボランティア等に対し、交通事故情報や教育ノウハウを提供するなどして、その取組みを促進していく必要がある。

 
高齢者宅訪問による交通安全教育
高齢者宅訪問による交通安全教育

  イ 道路交通環境の整備
 高齢者に対し、普段の生活で利用している住宅街や商店街等の街路において、信号機がなくて安全に横断できない場所や、車が猛スピードで通り抜けていくような危険であると感じる場所があるかと質問したところ、それぞれについて、約半数が「ある」と答えた。また、その他の危険であると感じる場所を質問したところ、「道幅が狭い道路」、「見通しの悪い交差点」、「違法駐車・駐輪のある道路」、「段差のある道路」といった回答が多かった。
 次に、日常生活に身近な住宅街や商店街の街路で歩行中又は自転車乗用中に事故に遭わないようにするための施策について質問したところ、多くの者が、最高速度の引下げ、信号機の設置、見やすい道路標識の設置等が必要であると答えている。

 
図1-55 街路における交通事故防止対策

図1-55 街路における交通事故防止対策
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 このことから、高齢の歩行者・自転車利用者の多くは、日常生活に身近な道路に様々な危険を感じており、これらの危険を解消するため、更なる交通規制の実施や交通安全施設等の整備を求めていることが分かる。
 このため、音響により信号表示の状況を知らせたり、押ボタン等の操作により歩行者用信号の青の時間を延長したりする機能を有するバリアフリー対応型信号機の整備、道路標識の大型化・高輝度化等を推進していく必要がある。
 また、高齢者がよく利用する施設の周辺地域等において、通過交通量の減少や走行速度の低下等を目的とした交通規制を行ったり、高齢者が利用しやすい交通安全施設等を整備したりするなど、地域の特性に着目した交通安全対策を一層推進していく必要がある。

 
図1-56 バリアフリー対応型信号機

図1-56 バリアフリー対応型信号機

 
図1-57 歩行者・自転車利用者の安全確保のための施策(あんしん歩行エリアのイメージ図)

図1-57 歩行者・自転車利用者の安全確保のための施策(あんしん歩行エリアのイメージ図)

 第3節 超高齢化社会への対応

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