第3節 刑事手続への関与拡充への取組

1 刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための制度の整備等(基本法第18条関係)

《基本計画策定以前からの施策で、基本計画策定後も引き続き実施するもの》

(1) 公判記録の閲覧・謄写の機会の付与

従来より、「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」に基づき、犯罪被害者等から損害賠償請求などの正当な理由に基づき刑事事件の訴訟記録の閲覧・謄写の申出があり、相当と認められるときは、刑事事件の係属中であっても、裁判所は、申出をした者にその閲覧・謄写をさせることができるものとされていた。

平成19年12月26日から、閲覧・謄写の範囲が拡大されている(「公判記録の閲覧・謄写の範囲拡大に向けた検討及び施策の実施」参照)。

犯罪被害者等に公判記録の閲覧・謄写をさせた事例の延べ数は、平成20年1月から同年12月までの間に、1,036件であった*11

(*11)最高裁判所事務総局の資料による。

(2) 犯罪被害者等調査及び犯罪被害者等への対応の充実

法務省において、仮釈放等審理やそれに関連する調査、恩赦上申に際して、被害者感情の調査を行い、適切な仮釈放等の許否の決定や恩赦上申に努めている。

なお、仮釈放等審理を行うに当たり、「更生保護法」に基づき、犯罪被害者等から申出があったときは、その意見などを聴取している(「犯罪被害者等の意見等を踏まえた仮釈放審理の検討及び施策の実施」参照)。

《基本計画において、「速やかに実施する」とされたもの》

(3) 犯罪被害者等と検察官のコミュニケーションの充実

法務省において、犯罪被害者等の意見が適切に刑事裁判に反映されるよう、また、公判期日の設定に当たっても、犯罪被害者等の希望が裁判所に伝えられるよう、必要に応じ、適切な形で、検察官が犯罪被害者等とコミュニケーションをとることを、会議や研修などの様々な機会を通じて、検察の現場への周知徹底を図っている。

(4) 国民にわかりやすい訴訟活動

検察庁において、傍聴者などにも手続の内容が理解できるように、難解な法律用語の使用はなるべく避けたり、プレゼンテーションソフトなどを活用して視覚的な工夫を取り入れたりするなど、国民に分かりやすい訴訟活動を行うよう努めている。

(5) 上訴に関する犯罪被害者等からの意見聴取等

法務省において、検察官が上訴の可否を検討するに当たり、犯罪被害者等の意見を適切に聴取するよう、会議や研修などの様々な機会を通じて検察の現場への周知徹底を図っている。

(6) 少年保護事件に関する意見の聴取等各種制度の周知徹底

法務省において、検察官に対し、会議や研修などの様々な機会を通じて、少年保護事件に関する意見の聴取の制度、少年審判の傍聴、記録の閲覧・謄写の制度、家庭裁判所が犯罪被害者等に対し少年審判の結果などを通知する制度の周知を図っており、検察官が犯罪被害者等に対して適切に情報提供できるよう努めている。また、犯罪被害者等向けパンフレットに掲載し、一般国民に対しても周知を図っている(「刑事の手続等に関する情報提供の充実」参照)。

▼「少年法等の一部を改正する法律」(平成12年)の実績
  申し出のあった件数 認められた件数
意見聴取 1,465 1,402
記録の閲覧・謄写 4,891 4,808
審判結果等の通知 5,737 5,700
(注)数字はいずれも平成13年4月1日から平成20年12月31日までに裁判所に申し出た人数である。
提供:法務省

(7) 刑事の手続等に関する情報提供の充実

法務省においては、平成20年12月に被害者参加制度や少年審判の傍聴制度などの新しい被害者保護・支援制度が実施されたことから、制度の内容について理解していただくために、新たに内容を充実させた犯罪被害者等向けパンフレット「犯罪被害者の方々へ」を作成した。パンフレットについては人身取引などの外国人犯罪被害者等に対する支援体制の確立に努めるため、英語版も作成している。

その他、犯罪被害者等向けDVD「もしも…あなたが犯罪被害に遭遇したら」を作成している。

パンフレットは、事情聴取をする際などに犯罪被害者等に手渡すほか、検察庁や警察署など関係機関の窓口に備え付け、法務省ホームページにも掲載している。さらに、イベントなどで配布するなど、周知を図っている。

また、DVD「もしも…あなたが犯罪被害に遭遇したら」は、全国の検察庁の被害者支援室に備え付け、犯罪被害者等に対する説明に利用している。

今後も、パンフレットを検察庁や警察署ほか関係機関に備え付けて国民一般に配布していくほか、必要に応じて、パンフレットやホームページの内容を更新し、各種制度の周知徹底に努めていく。

・法務省ホームページ:「犯罪被害者の方々へ」

http://www.moj.go.jp/KEIJI/keiji11.html

・DVD「もしも…あなたが犯罪被害に遭遇したら」

都道府県警察において、検視、司法解剖に関する手続などを盛り込んだパンフレットを配布し、遺族に対する適切な説明や配慮に努めている。また、法務省においても、検察官が、捜査段階から、捜査に及ぼす支障なども総合考慮しつつ、必要に応じ、適切な形で、犯罪被害者等に対し検視、司法解剖に関する情報提供をしている。

また、「被害者の手引」の内容を充実させている(「『被害者の手引』の内容の充実等」参照)。

▼検視、司法解剖に関する情報提供の一例
検視、司法解剖に関する情報提供の一例の写真
提供:警察庁
▼犯罪被害者の方々へ
犯罪被害者の方々へのホームページの写真
▼「もしも…あなたが犯罪被害に遭遇したら」
「もしも…あなたが犯罪被害に遭遇したら」DVDの写真
提供:法務省

(8) 捜査に関する適切な情報提供

警察庁において、被害者連絡実施要領や「被害者の手引」モデル案(「『被害者の手引』の内容の充実等」参照)に基づき、被害者連絡が確実に実施され、犯罪被害者等に対する適切な情報提供が推進されるよう、都道府県警察に対する指導を行っている。

法務省において、捜査段階から、捜査に及ぼす支障なども総合考慮しつつ、必要に応じ、適切な形で、犯罪被害者等に捜査に関する情報を提供するよう、会議や研修などの様々な機会を通じて検察の現場への周知徹底を図っている。

(9) 交通事故捜査の体制強化等

各都道府県警察本部において、交通事故事件捜査統括官、交通事故鑑識官を設置し、悪質な交通事故、事故原因の究明が困難な交通事故などについて、組織的かつ重点的な捜査、正確かつ綿密な実況見分・鑑識活動を行うとともに、交通事故捜査の基本である実況見分などについての教育を強化している。

警察庁においては、交通事故捜査員に対する各種捜査研修を実施し、捜査員の能力向上を図るとともに、交通事故自動記録装置を始めとする捜査支援機器の整備・活用を進め、迅速・的確な交通事故捜査を推進している。

(10) 不起訴事案に関する適切な情報提供

法務省において、検察官が、犯罪被害者等の希望に応じ、不起訴処分の理由などについて丁寧な説明を行うことを、会議や研修などの様々な機会を通じて、検察の現場への周知徹底を図っている。

(11) 受刑者と犯罪被害者等との面会・信書の発受の適切な運用

法務省において、平成18年5月、これまで原則として親族に限定されていた受刑者の面会や信書の発受の相手方について、犯罪被害者等も認めることとした指針を示し、その後、犯罪被害者等と受刑者との面会が実施されるなど、施設において適切な指導を行っている。

(12) 犯罪被害者等の意見等を踏まえた適切な加害者処遇の推進(保護処分の執行に資する情報の収集等)

法務省において、保護処分の執行に資するため、少年に係る情報については、少年院において得られるものだけでなく、家庭裁判所や保護観察所などの関係機関や保護者から得られたものを、その都度少年簿に記載している。平成19年12月からは、犯罪被害者等についてより一層必要な情報の収集、記載ができるよう、少年鑑別所や少年院において被害に関する事項を把握した際には、少年簿に具体的に記載することとし、少年の処遇に携わる職員が確実に情報の共有を図れるようにしている。

(13) 犯罪被害者等の視点を取り入れた交通事犯被収容者に対する更生プログラムの整備等

法務省において、矯正施設に収容されている加害者に対し、被害者感情を理解させるためのオリジナルビデオ教材などを活用した指導、ゲストスピーカー制度の拡大など、「被害者の視点を取り入れた教育」の充実に努めている(「再被害の防止に資する教育の実施等」参照)。

また、刑事施設においては、必要な者には義務付けて、犯罪被害者等の視点を取り入れた交通安全指導プログラムを実施している。

(14) 矯正施設職員及び更生保護官署職員に対する研修等の充実

法務省において、矯正施設職員については、矯正研修所が新規採用職員や初級幹部要員に対して実施する研修の中に、科目として「犯罪被害者の視点」を設けるとともに、同じく上級幹部要員を対象とする研修において、犯罪被害者団体などの関係者を講師に招くなど、犯罪被害者等の置かれている現状や心情などの理解を深める研修の充実を図っている。

更生保護官署職員については、被害者担当官などを対象とした研修のほか、新任の保護観察官や社会復帰調整官を対象とした研修、指導的立場にある保護観察官を対象とした研修などにおいて、本省職員による犯罪被害者等施策の講義、犯罪被害者遺族による講話、犯罪被害者団体関係者や東京都精神医学総合研究所研究員による被害者心理を含む被害者支援の講義などを実施しているほか、それぞれの保護観察所などにおいても犯罪被害者等の心理などに関する研修を実施している。

《基本計画において、「1~3年以内を目途に検討の結論を得て、施策を実施する」とされたもの(「1~2年以内を目途に実施する」とされたものを含む)》

(15) 犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度の検討及び施策の実施

平成19年6月20日に成立した「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」により、「刑事訴訟法」が一部改正され、裁判所から参加を許された犯罪被害者等が、原則として公判期日に出席できるとともに、一定の要件の下で、証人の尋問や被告人に対する質問、意見の陳述ができる「被害者参加制度」が創設され(平成20年12月1日施行)、現在、法務省において円滑な運用に取り組んでいる。

なお、本年1月末までに参加の申出がなされた件数及び人員は、64件98名、そのうち、参加が許可された件数及び人員は、45件70名である。

さらに、裁判所から参加を許された被害者参加人につき、その資力が乏しい場合であっても弁護士の援助を受けられるようにするため、裁判所が弁護士を選定して国がその報酬と費用を負担するとともに、法テラスが弁護士(国選被害者参加弁護士)の候補を裁判所に通知する業務などを行うことについての所要の規定を整備するため、法務省において、平成20年2月5日、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律及び総合法律支援法の一部を改正する法律案」を国会に提出した(同年4月16日成立、同月23日公布)。これにより創設された被害者参加人のための国選弁護制度については(「被害者参加制度」と同じく、同年12月1日施行)、現在、円滑な運用に取り組んでいる。

法テラスにおいては、国選被害者参加弁護士制度開始を受け、国選被害者参加弁護士の候補を指名し、裁判所に通知するなどの業務を行っている。

なお、制度開始から平成21年3月末までに、被害者参加人が国選被害者参加弁護士の選定を請求した件数は29件である(コラム3「法テラスの犯罪被害者支援」参照)。


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