特集:犯罪のグローバル化と警察の取組み 

6 グローバルな国際協力体制の構築

 犯罪のグローバル化に対し、警察庁では、国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)や外交当局を通じて外国治安機関との情報交換に努めているほか、国際会議への参加、二国間協議の推進等により、協力関係を強化している。

(1)ICPOを通じた国際協力
 ICPOは、1956年(昭和31年)に設立された各国の警察機関を構成員とする国際機関であり、事務総局はフランス・リヨンに置かれている。その任務は、国際犯罪に関する情報の収集と交換、犯罪対策のための各種国際会議の開催、国際手配書の発行等多岐にわたり、2009年(平成21年)末現在、188の国・地域が加盟している。
 ICPOは、加盟国・地域の間で、迅速かつ確実な情報交換を行うための国際的な通信手段として、従来から独自の通信網の整備拡充に努めている。2002年(14年)からは、操作性及び経済性に優れた新しい通信網(注)の整備が進められ、全加盟国・地域が接続されている。ICPOでは、盗難車両、紛失・盗難旅券、国外逃亡被疑者、盗難美術品等に関するデータベースを運用しており、加盟国・地域は、この通信網を通じて、直接データベースの検索を行うことができる。
 警察庁は、捜査協力の実施のほか、ICPOが開催する国際組織犯罪対策に関連する様々な会合への参加、事務総局への職員の派遣、分担金の拠出等により、ICPOの活動に貢献している。

注:I-24/7(Interpol's global police communications system 24/7)

 
ICPO本部(フランス・リヨン)(提供:ICPO)
ICPO本部(フランス・リヨン)(提供:ICPO)

事例
 中国生まれの日本人の男(34)は、11年12月、会社役員宅に侵入し、被害者の両手首や両足首等をガムテープで緊縛するなどして、現金や貴金属等を奪い取った。その後の捜査により、同男が中国に逃亡している事実が判明したことから、ICPOを通じて、住居侵入罪及び強盗罪で国際手配した。20年5月、中国で同男の所在が確認されたことから、中国公安部に対して身柄確保を要請し、21年11月、外交ルートにより、同男の身柄の引渡しを受けた。(関係警察:神奈川)
 本件は、外交ルートにより、中国から国外逃亡被疑者の身柄引渡しを受けた初事例である。

コラム11 犯罪のグローバル化に対応するための技術的取組み
 犯罪のグローバル化に伴い、外国製の電子機器等が犯罪に悪用される事例が増加している。これらの電子機器等に保存されている情報の抽出・解析を行うためには、外国における最新の技術動向の把握、外国治安機関との情報共有等を推進し、解析能力を向上させる必要がある。
 このため、2009年(21年)12月、技術情報等の集約・体系化・相互活用を図るため、IOCE(国際電子計算機証拠機構)・ICPO・警察庁共催で情報技術の解析に係る国際会議を開催し、電子機器の解析手法等に関して議論を行うなどした。

(2)国際的な犯罪に対する外国治安機関等との連携

〔1〕 国際機関等との連携
 2009年(平成21年)10月、シンガポールにおいて、ICPOと国際連合との共催により、紛争が国際治安に与える影響と、これに対する効果的な国際警察活動について議論するための閣僚会議が開催され、我が国からは国家公安委員会委員長が出席した。
 
国家公安委員会委員長によるスピーチ
国家公安委員会委員長によるスピーチ

〔2〕 G8各国との連携
 G8各国の治安機関は、国際的な連携が必要な問題について、G8司法・内務大臣会議やG8ローマ/リヨン・グループにおいて検討を行っている。警察庁では、これらの会議に継続的に参加し、議論に積極的に参画するとともに、成果が我が国の国内治安対策の推進に資するものとなるよう、課題の設定及び検討に際し、我が国が主導的な役割を果たすよう努めている。また、主要国首脳会議(サミット)においても、国際組織犯罪等に関する問題が近年多く取り上げられており、2009年(21年)7月のイタリア・ラクイラサミットでは、G8首脳宣言(「持続可能な未来に向けた責任あるリーダーシップ・政治問題」)が採択され、その中で国際組織犯罪と効果的に闘うための国際協力の強化を支持することなどが確認された。
 
図-21 G8における取組み
図-21 G8における取組み

〔3〕 アジア諸国等との連携

ア ASEAN+3国際犯罪閣僚会議
 東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に日本、中国及び韓国を加えた治安機関の閣僚が参加する「ASEAN+3国際犯罪閣僚会議(AMMTC+3)」が2004年(16年)から開催されており、我が国からは国家公安委員会委員長や警察庁幹部が出席している。
 2009年(21年)11月には、カンボジアにおいて第4回会議が開催され、テロ、人身取引、サイバー犯罪等の8つの犯罪分野における国際犯罪対策について各国の連携強化の重要性を確認した。
 
第4回AMMTC+3
第4回AMMTC+3

イ ASEAN警察長官会合
 東南アジア地域の警察機関相互の交流促進を目的として、1981年(昭和56年)、ASEAN警察長官会合(ASEANAPOL)が結成された。我が国は、2005年(平成17年)の第25回会合からオブザーバーとして参加し、2008年(20年)の第28回会合からは、中国、韓国等と共に議題提案権を有する「ダイアログ・パートナー」として参加している。
 2009年(21年)5月には、ベトナム・ハノイにおいて第29回会合が開催され、我が国から警察庁幹部が出席し、国際犯罪に対する域内の連携等を内容とする共同声明の採択等がなされた。
 
第29回ASEANAPOL
第29回ASEANAPOL

ウ 東アジア地域組織犯罪対策会議
 2009年(21年)10月、15の国・地域の参加を得て、第6回東アジア地域組織犯罪対策会議を東京で開催し、東アジア地域における組織犯罪の現状と対策について情報交換したほか、問題点の共通認識の醸成を図るなど、各機関の連携を更に強化するよう努めている。

〔4〕 二国間の連携
 警察では、我が国との間で多くの国際犯罪が敢行される国や来日外国人犯罪者の国籍国を始めとする各国の治安機関との間で協議を行い、必要に応じて警察当局間協力に関する文書を作成するなどして協力関係を深めている。
 2010年(22年)3月には、国家公安委員会委員長が米国国土安全保障省長官との間で捜査機関間の協力の在り方について意見交換を行ったほか、警察庁長官が韓国を訪問して韓国警察庁長と会談を行い、犯罪のグローバル化等の新たな治安課題に的確に対処するための協力関係を構築することなどについて合意した。
 
国家公安委員会委員長と米国国土安全保障省長官との会談
国家公安委員会委員長と米国国土安全保障省長官との会談
 
警察庁長官と韓国警察庁長との会談
警察庁長官と韓国警察庁長との会談

(3)条約交渉への参画
 刑事共助条約(協定)及び犯罪人引渡条約は、国際犯罪の捜査を行うに当たり有効であることから、警察庁では、これらの条約(協定)の締結交渉に参画している。現在までに我が国とこうした条約を締結していない国・地域についても、今後、我が国が捜査共助及び犯罪人引渡しの要請を行う必要性が高い国を中心に、当該国の法制等を勘案しつつ、関係機関と共に条約締結のための検討を進めていくこととしている。
 刑事共助条約(協定)については、これまで、米国、韓国、中国及び香港との間で締結したほか、2010年(平成22年)4月にはロシア及び欧州連合(EU)との間での締結について国会の承認を得た。
 犯罪人引渡条約は、日本で犯罪を犯し国外に逃亡した犯罪人等を確実に追跡し、逮捕するため、一定の場合を除き犯罪人の引渡しを相互に義務付けるものであり、米国及び韓国との間で締結した。

コラム12 刑事共助条約

 国際犯罪の捜査を行うに当たり、外国における証拠の取得、見分、所在地の特定等の捜査共助を当該国に要請することが必要となる場合がある。
 外国との捜査共助については、刑事共助条約を締結していない場合、国際礼譲に基づいて行われることとなり、必ずしも要請した捜査共助が実施されるとは限らない。また、捜査共助要請の発受が外交ルートを通じて行われるために、迅速な回答を得ることが困難である。
 そこで、各国との間で刑事共助条約を締結し、捜査共助の実施を条約上の義務とすることで捜査共助の一層確実な実施を期するとともに、捜査共助の実施のための連絡を外交ルートではなく、条約が指定する中央当局間で直接行うことにより、手続の効率化・迅速化を図っている。

(4)外国治安機関との共同オペレーションの推進
 国際犯罪組織は、世界的規模で犯罪を敢行していることから、我が国で発生した事件であっても、捜査が国外へ波及する可能性を早期かつ的確に見極め、必要に応じて、外国治安機関と緊密に連携を図っていかなければならない。
 警察では、国際犯罪組織に対する捜査の効率化を図るため、事件発生時における外国治安機関との共同オペレーションを積極的に実施している。

事例1
 平成21年12月、日本在住のフィリピン国籍の女性が、インターネットのチャットで知り合った男性に会うためマレーシアへ渡航したところ、空港でナイジェリア人の男らに誘拐された上、電話により日本在住の妹に身の代金の要求がなされた。警察では、事件認知後、直ちにICPOルートによりマレーシア警察に対して、事件発生を通報するとともに、捜査協力を要請した。その上で、日本警察及びマレーシア警察において、それぞれ捜査体制を整え、相互に情報交換を行うなどして、緊密な連携を図った。その後、被疑者らは、女性の処置に困り同女を解放したが、保護された同女の供述に基づき、マレーシア警察において、ナイジェリア人の男1人及びマレーシア人の男女2人を逮捕した。(関係警察:警視庁)

事例2
 21年12月、韓国人の男が、東京都内の貴金属店に事情を知らない日本人の女性を伴って入店し、店員に対して指輪を提示させた上、これを奪い取った。22年1月、台湾台北市内の貴金属店において、同様の手口による指輪窃盗事件が発生し、防犯カメラに写っていた被疑者が日本における事件の被疑者に酷似していたことから、同一犯による犯行の可能性が高まり、さらに、被疑者に酷似した男が、台湾で盗難届の出ている旅券で韓国へ出国していることが判明した。
そこで、日本、台湾及び韓国の捜査当局が、防犯カメラの画像、被疑者の出入国状況に関する情報等の迅速な交換・共有を積極的に行うなど、緊密な連携を図った結果、被疑者は韓国人の男(40)であることが判明した。韓国警察では、同男の逮捕状を取り、所在捜査を実施し、同年2月、同男を日本における事件について強盗罪、台湾における事件について窃盗罪等で逮捕した。(関係警察:警視庁)
 
事例2

事例3
 22年1月、東京都内の貴金属店において外壁が破壊され、高級腕時計等が盗まれた。犯行の手口から「爆窃団」による犯行である可能性が高いと考えられたことから、香港警察と情報交換を行っていたところ、本件の被害品と疑われる時計が香港に郵送されている旨の情報をICPOルートにより受理した。日本における被害状況等を香港警察に対して情報提供するなどした結果、同月、香港警察において、香港人の男(52)ら6人を香港の法令に基づく盗品処分罪で逮捕した。(関係警察:警視庁)

(5)国外逃亡被疑者等の追跡
 日本国内で犯罪を行い、国外に逃亡している者及びそのおそれのある者(以下「国外逃亡被疑者等」という。)の数は、依然として多い。被疑者が国外に逃亡することにより、外国捜査機関との捜査協力が必要となる場合も多く、捜査が困難になる面はあるが、警察では、犯罪者の「逃げ得」を許さないための取組みを進め、厳正な対処に努めている。
 被疑者が国外に逃亡するおそれがある場合には、入国管理局に手配するなどして出国前の検挙に努める一方で、被疑者が国外に逃亡した場合には、外交ルートやICPOルートにおける関係国の捜査機関等との捜査協力や刑事共助条約に基づく捜査共助の実施を通じ、被疑者の人定や所在の確認等を進めている。その上で、犯罪人引渡条約等に基づいて被疑者の引渡しを受けたり、被疑者が逃亡先国で退去強制処分に付された場合には、その被疑者の身柄を公海上の航空機で引き取ったりするなどして確実な検挙に努めている。このほか、事案に応じ、国外逃亡被疑者等が日本国内で行った犯罪に関する資料等を逃亡先国の捜査機関等に提供するなどして、逃亡先国における国外犯処罰規定の適用を促している。
 
図-22 国外逃亡被疑者に対する主要な措置
図-22 国外逃亡被疑者に対する主要な措置
 
図-23 国外逃亡被疑者等の推移(平成12~21年)
図-23 国外逃亡被疑者等の推移(平成12~21年)
Excel形式のファイルはこちら

コラム13 海外における犯罪の被害者等に対する警察の支援

 被害者及びその遺族又は家族は、犯罪によって直接、身体的、精神的又は経済的な被害を受けるだけでなく、様々な二次的被害を受ける場合がある。そこで、警察では、様々な側面から被害者支援の充実を図っている。
 海外において発生した犯罪の被害者等については、その居住地を管轄する都道府県警察が空港を管轄する都道府県警察等と連携の上、被害者等の空港から自宅までの移動の支援、付添い等の支援を実施している。警察庁においては、外務省と連携の上、日本国内の遺族等や帰国する被害者等の要望を踏まえた支援が実施されるよう、関係都道府県警察に対する指導・調整を実施している。
 
コラム13 海外における犯罪の被害者等に対する警察の支援

(6)薬物銃器犯罪への対応

〔1〕 薬物対策
 薬物の不正取引は、薬物犯罪組織により国境を越えて行われており、一国だけでは解決できない問題である。主要国首脳会議(サミット)、国際連合等の国際的な枠組みの中でも、地球規模の重大な問題として、その解決に向けた取組みが進められている。
 警察では、捜査員の相互派遣、国際会議への参加を通じた情報交換等の国際捜査協力のほか、関係国に対する薬物捜査指導等の技術協力を推進している。

ア アジア・太平洋薬物取締会議の主催
 警察庁では、アジア・太平洋地域全体での薬物取締り及び捜査協力に関する討議、研究を行うとともに、我が国が有する薬物事犯の捜査技術等の移転を図る目的で、アジア・太平洋薬物取締会議を主催しており、関係国の薬物取締情報の共有化及び薬物不正取引情報ネットワークの強化を図っている。平成7年以降、ほぼ毎年開催しており、22年2月には、33の国・地域及び2国際機関の参加(オブザーバーを含む。)を得て、第15回会議を東京都で開催した。
 
第15回アジア・太平洋薬物取締会議
第15回アジア・太平洋薬物取締会議

イ 薬物犯罪取締セミナーの共催
 警察庁では、独立行政法人国際協力機構(JICA)と共催で、深刻な薬物問題を抱える国・地域から薬物取締機関の上級幹部を招へいし、薬物取締りに関する情報交換と日本の捜査技術の移転を図るための薬物犯罪取締セミナーを開催している。昭和37年以降、毎年開催し、平成21年中は9月から10月にかけて、アジア、中南米等の15の国・地域(オブザーバーを含む。)の幹部を招へいした。

ウ タイ薬物対策地域協力プロジェクト
 警察庁では、JICAと共催で、タイを始めとするインドシナ地域の薬物の分析技術向上と薬物取締りでの活用を支援するため、薬物分析及び取締りの専門家を同国に派遣した。14年6月から17年6月にかけての第1フェーズ及び18年9月から21年3月にかけての第2フェーズが終了した。

エ 各種国際会議への参加
 警察庁では、21年中、3月にオーストリアで開催された第52回国連麻薬委員会、10月にインドネシアで開催された薬物取締機関長会議等の会議に参加し、薬物の国際的な不正取引に関する情報交換及びこれらの事犯の取締りに向けた国際協力の強化を図った。

〔2〕 銃器対策
 我が国は、14年12月、銃器議定書(注)への署名を行った。同議定書を締結することで、国際的に不正取引された銃器の追跡調査が容易になり、国際協力が更に円滑になることが期待される。
 また、警察庁では、ICPOを通じるなどして、外国関係機関と積極的に情報交換を行っているほか、職員を派遣するなどして、外国関係機関との連携の強化に努めている。

注:国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する三議定書の一つに位置付けられ、銃器、その部品及び弾薬の不正な製造及び取引を犯罪化するとともに、銃器への刻印、記録保管、輸出入管理等に関する制度を確立し、法執行機関間の協力関係を構築するための条約(22年5月末現在の署名国は52か国、締約国は80か国)


(7)サイバー犯罪への対応

〔1〕 国際捜査協力
 サイバー犯罪は、容易に国境を越えて行われ、一国だけでは解決できない問題であることから、1997年(平成9年)12月のG8司法・内務大臣会議で策定された「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」に基づき、21年10月現在、57の国・地域に国際的なサイバー犯罪に常時対応できる連絡窓口としての24時間コンタクトポイントが設置され、サイバー犯罪の国際捜査協力に大きな役割を果たしている。
 我が国では、警察庁に24時間コンタクトポイントを設置し、国際的な対応を必要とする事件への対応の円滑化を図るとともに、二国間での情報交換を積極的に行うなど、サイバー犯罪の取締りに関する国際的な捜査協力を推進している。

〔2〕 インターネット上の違法情報対策における国際連携
 インターネット上の違法情報は、国内だけではなく海外のウェブサーバにも蔵置されていることから、インターネット・ホットラインセンター(特集第1節3第1章第1節9参照)では、19年3月に各国のホットライン(注1)相互間の連絡組織であるINHOPE(注2)に加盟し、これを通じた削除依頼を実施している。
 同センターでは、21年中に海外のホットラインに対して664件の通報を行い、削除に向けた取組みを依頼するとともに、海外のホットラインから652件の通報を受理して、警察への通報、国内のプロバイダ等へ削除依頼を行った。

注1:インターネット利用者からインターネット上の違法情報等に関する通報を受理し、その情報について一定の基準に基づいて判断を行い、警察への通報やプロバイダや電子掲示板の管理者等への削除依頼を行う仕組み
 2:International Association of Internet Hotlines。1999年(平成11年)に設立された団体で、22年1月現在、36団体(31の国・地域)が加盟している。

 
図-24 海外のホットラインへの通報件数及び海外のホットラインからの通報件数の推移(平成19~21年)
図-24 海外のホットラインへの通報件数及び海外のホットラインからの通報件数の推移(平成19~21年)
Excel形式のファイルはこちら

〔3〕 国際的なサイバー犯罪捜査技術協力の推進
 警察庁では、犯罪の取締りに関する技術情報を共有し、相互の技術水準の向上を図ることを目的として、アジア大洋州地域の法執行機関を結ぶサイバー犯罪技術情報ネットワークシステム(CTINS)(注3)を整備・運用しており、22年4月現在、14の国・地域が参加している。さらに、CTINSに参加する国・地域のサイバー犯罪の捜査等に当たる技術者等を集め、アジア大洋州地域サイバー犯罪捜査技術会議を毎年度開催し、各国の相互理解を深めている。

注3:Cybercrime Technology Information Network System。電子メール、電子掲示板及びデータベースの機能を備え、暗号化されたネットワークにより、各国の担当官が安全に情報を共有できる手段を提供している。

 
アジア大洋州地域サイバー犯罪捜査技術会議
アジア大洋州地域サイバー犯罪捜査技術会議

(8)知的財産権侵害事犯への対応
 警察では、知的財産権侵害品の大半が中国、韓国等のアジア諸国から密輸入されていることや、中国を始めとする海外において我が国の企業の知的財産権が侵害される例が多発していることを踏まえ、アジア諸国の捜査機関との協力の場を設け情報交換を行うとともに、個々の事犯について捜査協力を行うなど、連携強化を図っている。また、不正商品対策協議会(注1)における活動を始め、権利者等と連携した知的財産の保護及び不正商品の排除に向けた広報啓発活動を推進している。

注1:昭和61年、不正商品の排除及び知的財産の保護を目的として、知的財産権侵害に悩む各種業界団体により設立された任意団体。警察庁等の関係機関と連携し、シンポジウムの主催や各種催物への参加を通じて、広報啓発活動、海外における不正商品販売の実態調査、海外の捜査機関や税関等に対する働き掛け等を行っている。


事例
 日本人の男(40)や韓国人の男(37)らは、平成17年12月ころから19年2月ころにかけて、偽ブランド品を中国から密輸入し、インターネットオークションを利用して販売していた。18年5月から19年4月にかけて、11人を商標法違反(譲渡等)、3人を関税法違反(輸入してはならない貨物の輸入未遂)で逮捕し、偽ブランド品約14万点を押収した。また、同事件の首謀者である韓国人の男(50)は、韓国に逃亡していたが、21年8月、犯罪人引渡条約に基づき、逃亡中の同男の身柄を韓国政府から引き受け、商標法違反(類似する商標の使用)で逮捕した(富山、大阪)。

(9)マネー・ローンダリング事犯への対応
 国境を越えて敢行されるマネー・ローンダリングやテロ資金供与を防止するためには、相対的に規制の緩い国の金融サービス等が悪用されることのないよう、各国が連携して対策を講ずることが不可欠である。

〔1〕 国際機関の活動内容と警察庁の参画状況
 国際社会においては、各国が連携してマネー・ローンダリング対策等を推進するため、金融活動作業部会(FATF)(注2)、アジア・太平洋マネー・ローンダリング対策グループ(APG)(注3)、エグモント・グループ等の枠組みの下、マネー・ローンダリング対策及びテロ資金対策の国際的基準の策定、普及等が行われており、警察庁も、これらの活動に積極的に参画している。

注2:Financial Action Task Force
 3:Asia/Pacific Group on Money Laundering

 
エグモント・グループ年次会合
エグモント・グループ年次会合

ア FATF
 FATFは、マネー・ローンダリング対策及びテロ資金対策に関する国際協力を推進するため設置されている政府間会合であり、平成22年1月1日現在、我が国を含む33の国・地域及び2国際機関が参加している。FATFは、マネー・ローンダリング対策及びテロ資金対策として、各国が法執行、刑事司法及び金融規制の各分野において講ずるべき措置を、それぞれ「40の勧告」、「9の特別勧告」として発出している。また、FATFは、加盟国における勧告の遵守の徹底のため、順次、各加盟国に審査団を派遣して相互審査を実施しており、我が国に対しても、20年に3回目の審査が実施された。
 警察庁では、従来から、FATFの活動に積極的に参画しており、21年中は、マネー・ローンダリング対策及びテロ資金対策のための新たな枠組みづくりに向けた議論に参加したほか、相互審査における審査官として職員を派遣した。

イ APG
 APGは、アジア・太平洋地域のFATF非参加国・地域におけるマネー・ローンダリング対策を促進するために設置された国際協力の枠組みであり、22年1月1日現在、我が国を含む40の国・地域が参加している。警察庁では、FATFの活動と同様、APGの活動にも積極的に参画しており、21年中は、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与の手口分析の研究のための会合等に職員を派遣した。

ウ エグモント・グループ
 エグモント・グループは、各国FIU(注)間の情報交換、専門知識の共有等による協力を目的として設置された国際機関であり、22年1月1日現在、116の国・地域のFIUが加盟している。国家公安委員会・警察庁は、我が国におけるFIUとして同グループに加盟し、各種会合へ職員を派遣して、非加盟国への支援等の活動に参画している。

注:Financial Intelligence Unitの略。資金情報機関と呼ばれ、疑わしい取引に関する情報を集約・分析して捜査機関等に提供する機関として各国が設置している。日本のFIUは、JAFIC(Japan Financial Intelligence Center)と呼ばれ、国家公安委員会・警察庁が担当している。


〔2〕 外国FIUとの情報交換

ア 情報交換の状況
 国境を越えて行われるマネー・ローンダリングやテロ資金供与を発見するためには、外国FIUとの密接な連携の下、保有情報を交換することが必要である。国家公安委員会・警察庁では、エグモント・グループの活動、外国FIUとの協議等を通じて連携を強化し、活発な情報交換を実施している。
 
図-25 外国FIUとの情報交換状況の推移
図-25 外国FIUとの情報交換状況の推移
Excel形式のファイルはこちら

イ 情報交換枠組みの設定の状況
 国家公安委員会・警察庁では、外国FIUと疑わしい取引に関する情報を交換するため、外国FIUにおける当該情報の使用方法等について定めた枠組みの設定を推進しており、21年中には、新たに3か国のFIUとの間で情報交換のための枠組みを設定した。
 
表-6 FIU間の情報交換枠組みを設定済みの20の国・地域
表-6 FIU間の情報交換枠組みを設定済みの20の国・地域
 
カタールFIUとの情報交換のための枠組みの設定
カタールFIUとの情報交換のための枠組みの設定

(10)海外の警察に対する支援
 海外の警察に対する支援により、外国治安機関の犯罪対処能力を向上させることは、相手国の治安対策上有効であることはもとより、その国が国際犯罪の温床となることを防ぎ、日本を含む関係国の治安対策にも資するものである。また、支援を通じて、相手国の治安機関と良好な関係を築くことができ、国際犯罪対策に関する協力が更に促進されることも期待できる。
 警察では、我が国の警察の特性を生かし、外務省や独立行政法人国際協力機構(JICA)と協力して、知識・技術の移転による海外の警察に対する支援を推進している。

〔1〕 インドネシア国家警察改革支援プログラム
 警察庁では、平成13年以降、JICAの協力の下、インドネシア国家警察改革支援プログラムを実施するとともに、職員を全体の統括責任者である国家警察長官政策アドバイザー兼プログラム・マネージャーとして派遣している。このプログラムの中核事業である市民警察活動促進プロジェクトは、メトロ・ブカシ警察署及びブカシ県警察署をモデル警察署として、交番制度、犯罪鑑識、通信指令システム等に関する支援の成果を全国に波及させることを目的としている。
 
交番における指導風景
交番における指導風景

〔2〕 フィリピン国家警察犯罪対策能力向上プログラム
 警察庁では、従来から、犯罪鑑識及び初動捜査の分野に専門家を派遣しており、18年夏からは指紋自動識別システム(AFIS)(注)運用強化プロジェクトを実施している。
 また、フィリピンでは邦人が被害者となる事件が続発していることや、同国が我が国で押収される違法銃器の主な仕出国となっていることから、20年秋には、銃器対策能力向上プロジェクトを加えたフィリピン国家警察犯罪対策能力向上プログラムを開始した。
 フィリピン国家警察に対するこれらの支援全体を統括調整するために、警察庁から職員を国家警察長官アドバイザーとして派遣している。

注:Automated Fingerprint Identification System


〔3〕 専門家の派遣
 警察では、上記事例のほか、タイ、マレーシア、ブラジル等に専門家を派遣して交番制度、犯罪鑑識、薬物対策等の分野で知識・技術の移転を図っている。21年中には、上記事例も含め、30人の専門家を派遣し、派遣者数は、継続派遣中の者と合わせ43人となった。
 
鑑識技術の指導風景
鑑識技術の指導風景

〔4〕 研修生の受入れ
 警察では、警察運営、交番制度、犯罪鑑識等の分野における知識・技術の移転及び諸外国との情報交換の促進を図るため、研修生の受入れ体制を整備し、都道府県警察における実地研修、警察大学校国際警察センターにおけるセミナー等を行っている。21年中には、39回の研修で284人の研修生を受け入れた。
 
国際警察センターにおける研修風景
国際警察センターにおける研修風景

 第2節 犯罪のグローバル化に対応するための戦略

前の項目に戻る    次の項目に進む