第2章 組織犯罪対策の推進 

2 総合的な薬物対策

(1)政府の薬物対策
 薬物問題は治安の根幹にかかわる重要な問題であり、政府一体となった対策が必要であることから、内閣府特命担当大臣(薬物乱用対策)を議長とする薬物乱用対策推進会議の下、関係機関(注1)が連携して取り組んでいる。

注1:内閣官房、内閣府、警察庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省及び海上保安庁

 
図2-11 薬物乱用対策推進会議
図2-11 薬物乱用対策推進会議

コラム1 「第三次薬物乱用防止五か年戦略」の策定

 首相を本部長とする薬物乱用対策推進本部(注2)において、平成10年に「薬物乱用防止五か年戦略」が、15年に「薬物乱用防止新五か年戦略」が、それぞれ策定され、関係機関が諸対策を講じてきた。しかし、若年層による大麻やMDMA等合成麻薬の乱用拡大が懸念される状況にあるなど、我が国の薬物情勢は、依然として厳しい状況にある。
 このため、20年8月、薬物乱用対策推進本部において、政府を挙げた総合的な対策を講じて薬物乱用の根絶を図ることを目的とした「第三次薬物乱用防止五か年戦略」が策定された。

注2:薬物乱用対策推進本部は、平成20年12月、犯罪対策閣僚会議の下に統合され、内閣府特命担当大臣(薬物乱用対策)を議長とする薬物乱用対策推進会議となった。
 
第三次薬物乱用防止五か年戦略の目標
コラム 図 第三次薬物乱用防止五か年戦略の目標

(2)警察の薬物対策
〔1〕 供給の遮断
 我が国で乱用されている薬物の大半が海外から流入していることから、これを水際で阻止するため、税関、海上保安庁等の関係機関との連携を強化するとともに、外国の取締機関等との情報交換を緊密に行っている。
 また、薬物犯罪組織の壊滅を図るため、コントロールド・デリバリー(注3)、通信傍受等の効果的な捜査手法を活用した捜査を推進している。さらに、薬物犯罪組織に資金面から打撃を与えるため、麻薬特例法の規定に基づき、業として行う密輸・密売等(注4)やマネー・ローンダリング行為の検挙、薬物犯罪収益の没収・追徴等の対策を推進している。

注3:取締機関が規制薬物等の禁制品を発見しても、その場で直ちに検挙・押収することなく、十分な監視の下にその運搬を継続させ、関連被疑者に到達させてその者らを検挙する捜査手法
 4:通常の密輸・密売等より重く処罰することができ、また、一連の行為を集合犯としてとらえ、その間の薬物犯罪収益の総体が没収・追徴の対象となる。

 
表2-7 コントロールド・デリバリーの実施件数の推移(平成11~20年)
表2-7 コントロールド・デリバリーの実施件数の推移(平成11~20年)
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表2-8 麻薬特例法違反(業として行う不法輸入等)事件数の推移(平成11~20年)
表2-8 麻薬特例法違反(業として行う不法輸入等)事件数の推移(平成11~20年)
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〔2〕 需要の根絶 
 薬物乱用は、乱用者自身の精神・身体をむしばむばかりではなく、幻覚、妄想等により、乱用者が殺人、放火等の凶悪な事件や重大な交通事故等を引き起こすこともあり、社会の安全を脅かすものである。
 薬物の需要の根絶を図るためには、社会全体に、薬物を拒絶する規範意識が堅持されていることが重要である。警察では、末端乱用者の検挙を徹底するとともに、広報啓発活動を行い、薬物の有害性・危険性についての正しい知識の周知を図っている。
 平成20年度には、19年度に引き続き、薬物の再乱用を防止するため、薬物事犯により検挙され、即決裁判手続により執行猶予となった者に対して、民間団体によるグループ・カウンセリング、薬物検査等を行う「薬物再乱用防止モデル事業」を警視庁において実施した。
 
薬物乱用防止キャンペーン
写真 薬物乱用防止キャンペーン
 
表2-9 薬物常用者による犯罪の検挙人員(平成19、20年)
表2-9 薬物常用者による犯罪の検挙人員(平成19、20年)
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〔3〕 国際協力の推進((1)国際協力の推進 参照
 薬物の不正取引は、薬物犯罪組織により国境を越えて行われており、一国だけでは解決できない問題である。主要国首脳会議(サミット)、国際連合等の国際的な枠組みの中でも、地球規模の重大な問題として、その解決に向けた取組みが進められている。
 警察では、捜査員の相互派遣、国際会議への参加を通じた情報交換等の国際捜査協力のほか、関係国に対する薬物捜査に関する技術協力を推進している。
 具体的には、20年9月から10月にかけて、独立行政法人国際協力機構(JICA)と共催で、アジア、中南米等の13か国から薬物取締機関の上級幹部を招へいし、薬物取締りに関する情報交換と日本の捜査技術の移転を図るための薬物犯罪取締セミナーを開催した。また、21年2月には、29か国、2地域、2国際機関の参加(オブザーバーを含む。)を得て、第14回アジア・太平洋薬物取締会議を千葉県で開催し、薬物の不正取引の現状と対策について討議を行った。
 
第14回アジア・太平洋薬物取締会議
写真 第14回アジア・太平洋薬物取締会議

 第2節 薬物銃器対策

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