第2章 組織犯罪対策の推進 

第2節 薬物銃器対策

1 薬物情勢

 平成20年中の薬物事犯の検挙人員は1万4,288人と、前年より502人(3.4%)減少したが、覚せい剤の押収量が前年より増加しているほか、大麻事犯の検挙人員は過去最多を記録するなど、我が国の薬物情勢は、依然として厳しい状況にある。
 
図2-7 薬物事犯の検挙人員(平成20年)
図2-7 薬物事犯の検挙人員(平成20年)
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(1)覚せい剤情勢
 平成20年中の覚せい剤事犯の検挙人員(注1)は、前年より減少したものの、依然として全薬物事犯の検挙人員の大半を占めている。また、粉末押収量及び錠剤押収量は、前年より増加した。
<20年中の覚せい剤事犯の特徴>
 ・ 検挙人員の過半数が再犯者
 ・ 検挙人員の過半数が暴力団構成員等
 ・ イラン人の検挙人員、特に営利犯(注2)が増加

注1:覚せい剤事犯に係る国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下「麻薬特例法」という。)違反の検挙人員を含む。
 2:営利目的所持及び営利目的譲渡

 
図2-8 覚せい剤事犯の検挙状況の推移(平成11~20年)
図2-8 覚せい剤事犯の検挙状況の推移(平成11~20年)
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事例
 覚せい剤密輸の日本人ブローカー(40)ら2人は、20年11月、シエラレオネ船籍の貨物船において、同船のインドネシア人船長(49)ら12人から、密売目的で覚せい剤約298キログラムを譲り受けようとしたことから、同人ら2人を覚せい剤取締法違反(営利目的譲受け未遂)で、同船長ら12人を覚せい剤取締法違反(営利目的所持)で、それぞれ逮捕するとともに、覚せい剤約298キログラムを押収した(福岡、警視庁、埼玉、千葉、神奈川、兵庫、岡山、鹿児島)。

(2)各種薬物事犯情勢
〔1〕 各種薬物事犯
 最近5年間の大麻事犯、MDMA(注1)等合成麻薬事犯等の各種薬物事犯(シンナー等の有機溶剤事犯を除く。)の検挙人員及び押収量は、表2-5のとおりである。
<平成20年中の大麻事犯の特徴>
 ・ 検挙人員が大幅に増加
 ・ 検挙人員の62.7%が少年及び20歳代の若年層
 ・ 検挙人員の85.5%が初犯者
<20年中のMDMA等合成麻薬事犯の特徴>
 ・ 押収量が減少
 ・ 検挙人員の62.6%が少年及び20歳代の若年層
 ・ 検挙人員の89.7%が初犯者

注1:化学名「3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(3,4-Methylenedioxymethampetamine)」の略名。本来は白色粉末であるが、様々な着色がなされ、文字や絵柄の刻印が入った錠剤の形で密売されることが多い。

 
栽培されていた大麻
写真 栽培されていた大麻
 
表2-5 各種薬物事犯の検挙状況の推移(平成16~20年)
表2-5 各種薬物事犯の検挙状況の推移(平成16~20年)
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〔2〕 シンナー等の有機溶剤事犯
最近5年間のシンナー等有機溶剤事犯の検挙(補導を含む。)人員は減少傾向にあり、その推移は、表2-6のとおりである。
<20年中の特徴>
 ・ 検挙人員(摂取、吸入及び摂取・吸入目的所持)の33.5%が少年
 ・ 検挙人員(知情販売(注2))の62.3%が少年

注2:乱用する目的で購入すると知った上での販売

 
表2-6 有機溶剤事犯の検挙人員の推移(平成16~20年)
表2-6 有機溶剤事犯の検挙人員の推移(平成16~20年)
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(3)薬物犯罪組織の動向
〔1〕 薬物事犯への暴力団の関与
平成20年中の暴力団構成員等による覚せい剤事犯の検挙人員は5,801人と、前年より558人(8.8%)減少したものの、覚せい剤事犯の全検挙人員の52.6%を占めていることから、依然として覚せい剤事犯に暴力団が深く関与していることがうかがわれる。
 また、大麻事犯については、暴力団構成員等の検挙人員は856人と、前年より192人(28.9%)増加し、全検挙人員の31.0%を占め、MDMA等合成麻薬事犯については、暴力団構成員等の検挙人員は84人と、前年より18人(17.6%)減少しているものの、全検挙人員の29.9%を占めており、暴力団構成員等が薬物事犯に幅広く関与していることがうかがわれる。
 
図2-9 暴力団構成員等による覚せい剤事犯の検挙人員の推移(平成11~20年)
図2-9 暴力団構成員等による覚せい剤事犯の検挙人員の推移(平成11~20年)
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事例
 無職の男(40)は、稲川会傘下組織幹部(36)から覚せい剤密輸の依頼を受け、「闇の職業安定所」と称するウェブサイトを利用し、覚せい剤密輸の実行役として「運び屋」を募集し、18年10月から19年5月にかけて、合計14人を「運び屋」として利用し、合計13回の覚せい剤の密輸を敢行した。20年2月までに、同男及び同幹部のほか、仲介役(36)ら5人及び「運び屋」14人を覚せい剤取締法違反(輸入)等で逮捕(同男については、同年10月、麻薬特例法違反(業として行う不法輸入)に訴因変更)した(千葉、愛知、福岡)。
 
麻薬特例法違反

〔2〕 イラン人薬物密売組織
 20年中のイラン人の覚せい剤事犯検挙人員は101人と、前年より16人(18.8%)増加した。このうち、営利犯は66.3%を占め、来日外国人による覚せい剤事犯の検挙人員の中で他の国籍・地域の者と比べると著しく高率であり、依然としてイラン人が覚せい剤の密売に深くかかわっている状況がうかがわれる。
 最近では、携帯電話を利用して客に接触場所を指定し、交渉役、代金受領役等の役割分担をするなど巧妙かつ組織的な密売が敢行されている。
 
図2-10 来日外国人による覚せい剤事犯の検挙人員に占める営利犯(平成20年)
図2-10 来日外国人による覚せい剤事犯の検挙人員に占める営利犯(平成20年)
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(4)インターネット利用による薬物密売事犯
 平成20年中にインターネットを利用した薬物密売事犯で密売人を検挙した事件は11事件と、前年より6事件(35.3%)減少した。このうち、2事件については、覚せい剤取締法における広告の制限に係る規定を適用した。
 密売の主な手口は、インターネット特有の匿名性を悪用したものであり、具体的には、電子掲示板等に「上質の白03G=1万3,000円~」等と掲載して薬物の購入を勧誘し、これに連絡してきた客から注文を受け、指定した預貯金口座に代金を振り込ませた後、薬物を配送するというものである。

(5)薬物密輸入事犯の現状
 平成20年中の薬物密輸入事犯の検挙件数は199件と、前年より1件(0.5%)減少し、薬物事犯別では、覚せい剤事犯及び大麻事犯が増加した。
 我が国で乱用される薬物の大半は、国際的な薬物犯罪組織の関与の下に海外から密輸入されており、航空機を利用して手荷物の中に隠匿するほか、国際郵便・国際宅配便や貨物船を利用して隠匿するなどの方法が用いられている。
<20年中の大量押収事件(注)での主な仕出地>
 ・ 覚せい剤…中国、マレーシア、香港
 ・ 乾燥大麻…南アフリカ、アメリカ、フランス
 ・ 大麻樹脂…オランダ、インド、ネパール
 ・ MDMA…オランダ、ドイツ、フランス

注:覚せい剤及び大麻については1キログラム以上、MDMA等合成麻薬(覚せい剤との混合錠剤を含む。)については1,000錠以上押収した事件

 
密輸に利用された貨物船
写真 密輸に利用された貨物船
 
押収された薬物
写真 押収された薬物
 
写真 押収された薬物

 第2節 薬物銃器対策

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