第5章 公安委員会制度と警察活動の支え 

第10節 国際社会における日本警察の活動

(1)国際協力の推進
 警察庁では、平成17年9月に警察による国際協力の基本方針、その方向性と今後実施する施策を明らかにした「国際協力推進要綱」を制定し、同要綱に基づき国際協力を積極的かつ効果的に推進している。
 
図5-24 国際協力推進要綱の概要
図5-24 国際協力推進要綱の概要

 〔1〕 知識・技術の移転
 警察庁では、我が国の警察の特質をいかし、外務省や独立行政法人国際協力機構(JICA)と協力して、知識・技術の移転による国際協力を推進している。

  ア インドネシア国家警察改革支援プログラム
 警察庁では、13年以降、JICAの協力の下、インドネシア国家警察改革支援プログラムを実施している。その中核事業である市民警察活動促進プロジェクトは、19年8月から、交番制度、犯罪鑑識、通信指令システム等に関するこれまでの協力の成果を全国に波及させることを主眼とした新たな5年間の協力期間(第2フェーズ)に移行している。

  イ フィリピン国家警察犯罪対策能力向上プログラム
 警察庁では、従来から、JICAの協力の下、犯罪鑑識及び初動捜査の分野に専門家を派遣しており、18年夏からは指紋自動識別システム(AFIS)(注)運用強化プロジェクトを実施している。さらに、20年秋には、銃器対策能力向上プロジェクトを加えたフィリピン国家警察犯罪対策能力向上プログラムを立ち上げた。

注:Automated Fingerprint Identification System

 
AFISに関する指導風景
写真 AFISに関する指導風景

  ウ 専門家の派遣
 警察では、上記事例のほか、タイ、ブラジル等の各国に専門家を派遣して交番制度、犯罪鑑識、薬物対策等の多岐の分野にわたり知識・技術の移転を図っている。20年中には、上記事例も含め、21人の専門家を派遣し、派遣者数は、継続派遣中の者と合わせ34人となった。
 
写真技術の指導風景
写真 写真技術の指導風景

エ 研修生の受入れ
 警察では、警察運営、交番制度、犯罪鑑識等の分野における知識・技術の移転及び諸外国との情報交換の促進を図るため、研修生の受入れ体制を整備し、都道府県警察における実地研修、警察大学校国際警察センターにおけるセミナー等を行っている。20年中には、29回の研修で248人の研修生を受け入れた。
 
地域警察活動に関する研修風景
写真 地域警察活動に関する研修風景
 
国際警察センターにおける研修風景
写真 国際警察センターにおける研修風景
 
〔2〕 国際緊急援助活動
 警察では、外国で大規模な災害が発生したときには、被災地に国際緊急援助隊を派遣して国際緊急援助活動(捜索・救助)を行っているほか、被災者の身元確認のため、国際緊急援助隊専門家チームを派遣している。
 20年5月の中国四川省における大地震に際しては、中国側の要請を受け、国際緊急援助隊救助チーム要員として捜索・救助活動や通信活動に当たる警察職員20人を同国に派遣した。
 
国際緊急援助隊救助チーム要員代表と胡錦濤中国国家主席との会見
写真 国際緊急援助隊救助チーム要員代表と胡錦濤中国国家主席との会見

〔3〕 国際連合の活動に対する取組み(文民警察活動等)
 19年1月から東ティモール国際平和協力隊に警察職員3人(文民警察要員2人、連絡調整要員1人)を派遣し、同年8月には第2次派遣要員3人を派遣して、東ティモール内務省及び国家警察に対して警察行政事務に関する助言及び指導業務を行った。
 
(2)国際的連携の強化
 国際的な犯罪が発生した場合、警察では、国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)(注)や外交当局を通じて外国の治安機関との情報交換を行い、事件の解決を図っている。また、国際会議への参加、二国間協議の推進、条約交渉への参画等により、協力関係の強化に努めている。

注:International Criminal Police Organization-Interpol


〔1〕 G8各国との連携
 G8各国の治安担当機関は、国際的な連携が必要な問題について、G8司法・内務大臣会議やG8ローマ/リヨン・グループにおいて検討を行っている。警察庁では、これらの会議に継続的に参加し、議論に積極的に参画するとともに、成果が我が国の国内治安対策の推進に資するものとなるよう、課題の設定及び検討に際し、我が国が主導的な役割を果たすよう努めている。また、主要国首脳会議(サミット)においても、国際組織犯罪及びテロに関する問題が近年多く取り上げられており、2008年(平成20年)7月の北海道洞爺湖サミットでは、「テロ対策に関するG8首脳声明」等が採択され、断固としたテロとの闘いの継続が確認された。
 
図5-25 G8における取組み
図5-25 G8における取組み

  ア G8司法・内務大臣会議
 1997年(9年)から継続的に開催されているG8司法・内務大臣会議には、国家公安委員会委員長や警察庁幹部が出席しており、国際組織犯罪及びテロに関する諸問題について検討するとともに、日本の取組状況を報告し、共同宣言等の起草に積極的に参画している。
 2008年(20年)6月、東京都において、我が国では初めてとなるG8司法・内務大臣会議を、警察庁が法務省と共同で主催した。同会議では、国際テロ対策、薬物犯罪対策、国際組織犯罪に対抗するユニバーサル・ネットワーク(注1)の構築、キャパシティ・ビルディング(注2)支援等について議論を行い、総括宣言及びキャパシティ・ビルディング支援に関する宣言を採択した。

注1:国家や組織の垣根を越えた世界的かつ多様な連携網
 2:支援対象国の司法制度の整備、法執行能力の向上等
 3:1978年(昭和53年)のボン・サミットを契機として、ハイジャック対策や国際テロの動向について意見交換を行う場として発足
 4:1995年(平成7年)のハリファックス・サミットで、各種犯罪分野における法執行協力や刑事法制の在り方について検討する場として設置

 
平成20年G8司法・内務大臣会議
写真 平成20年G8司法・内務大臣会議

  イ G8ローマ/リヨン・グループ
 G8テロ専門家会合(ローマ・グループ)(注3)とG8国際組織犯罪対策上級専門家会合(リヨン・グループ)(注4)は、2001年(13年)9月の米国における同時多発テロ事件以降、G8ローマ/リヨン・グループとして合同で開催されている。同グループ全体に関する議論の取りまとめを行う団長会合の下、法執行、サイバー犯罪、テロ対策等の各課題を扱う様々なサブグループが置かれており、各サブグループでの検討の成果の多くがG8司法・内務大臣会議に報告されている。

 〔2〕 アジア諸国等との連携
 19年11月、ブルネイにおいて、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に日本、中国及び韓国を加えた治安機関の閣僚が参加する「国境を越える犯罪に関するASEAN+3閣僚会議」(第3回会合)が開催され、我が国からは警察庁次長が出席した。同会合では、テロ、人身取引、サイバー犯罪等の8つの犯罪分野における各国の連携強化の重要性を確認した。
 
 〔3〕 二国間の連携
 警察では、我が国との間で多くの国際犯罪が敢行される国や来日外国人犯罪者の国籍国を始めとする各国の治安機関との間で協議を行うなどして協力関係を深めている。19年4月にブラジル連邦警察との間で警察当局間協力に関する文書を作成したほか、21年1月には、東京都において中国公安部との間で第5回定期協議を開催し、各種情報交換を行った。
 
中国公安部との第5回定期協議
写真 中国公安部との第5回定期協議

 〔4〕 条約交渉への参画
 警察庁は、犯罪対策等に関する取組みの実施を法的に担保するために、条約等の法的拘束力を持つ国際約束の締結交渉に参画している。刑事共助条約は、捜査共助の実施を条約上の義務とすることで捜査共助の一層確実な実施を期するとともに、捜査共助の実施のための連絡を外交当局間ではなく、中央当局間で直接行うことにより手続の効率化・迅速化を図るものである。これまで、18年7月に日米刑事共助条約、19年1月に日韓刑事共助条約、20年11月に日中刑事共助条約が発効した。また、同年5月に日・香港刑事共助協定、21年5月に日露刑事共助条約の署名が行われるなど、各国との刑事共助条約締結交渉等に積極的に参画している。

 第10節 国際社会における日本警察の活動

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