第1章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

7 サイバー犯罪

 インターネットその他の高度情報通信ネットワークは、国民生活の利便性を向上させ、社会・経済の根幹を支えるインフラとして機能している。その一方で、サイバー犯罪(注)は年々増加しており、犯罪の手口についても高度化・多様化している状況にある。

注:高度情報通信ネットワークを利用した犯罪やコンピュータ又は電磁的記録を対象とした犯罪等の情報技術を利用した犯罪


(1)サイバー犯罪の情勢
〔1〕 サイバー犯罪の検挙状況
 サイバー犯罪の検挙件数は増加の一途をたどっており、平成20年中は6,321件と、前年より848件(15.5%)増加し、過去最多となった。
 
表1-8 サイバー犯罪の検挙件数の内訳(平成16~20年)
表1-8 サイバー犯罪の検挙件数の内訳(平成16~20年)
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ア 不正アクセス禁止法違反
 20年中の不正アクセス行為の禁止等に関する法律(以下「不正アクセス禁止法」という。)違反の検挙件数は1,740件と、前年より298件(20.7%)増加し、過去最多を記録した。このうち、利用権者のパスワードの設定・管理の甘さにつけ込んだものが1,368件に上り、前年の9.8倍と急増した。
 
図1-23 不正アクセス禁止法違反の検挙件数の推移(平成16~20年)
図1-23 不正アクセス禁止法違反の検挙件数の推移(平成16~20年)
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イ ネットワーク利用犯罪
 20年中のネットワーク利用犯罪(注1)の検挙件数は4,334件と、前年より416件(10.6%)増加した。特に、詐欺の検挙件数が1,508件と、ネットワーク利用犯罪の検挙件数の34.8%を占めており、詐欺の検挙件数の75.6%がインターネット・オークションを利用したものであった。また、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童買春・児童ポルノ法」という。)違反、児童福祉法違反及びいわゆる青少年保護育成条例違反の検挙件数は1,270件と、前年より249件(24.4%)増加し、児童(18歳未満の者をいう。以下同じ。)の性犯罪等の被害も依然として深刻な状況である。

注1:その実行に必要不可欠な手段として高度情報通信ネットワークを利用する犯罪


〔2〕 出会い系サイト等に関係した事件の検挙状況
 20年中のいわゆる出会い系サイト(注2)に関係した事件として警察庁に報告のあった件数は1,592件であり、これらの事件の被害者852人のうち、児童は724人(85.0%)であった。このうちインターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(以下「出会い系サイト規制法」という。)違反の検挙件数は367件(前年比245件増加)であり、うち児童によるものは119件(前年比58件増加)であった。また、20年中の出会い系サイト以外のサイトに関係した事件(注3)として警察庁に報告のあった件数は994件であり、被害児童数は792人であった。

注2:面識のない異性との交際(以下「異性交際」という。)を希望する者(以下「異性交際希望者」という。)の求めに応じ、その異性交際に関する情報をインターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれに伝達し、かつ、当該情報の伝達を受けた異性交際希望者が電子メールその他の電気通信を利用して当該情報に係る異性交際希望者と相互に連絡することができるようにする役務を提供するウェブサイト
注3:出会い系サイト以外のサイトの利用に起因した事件のうち、児童買春・児童ポルノ法違反事件、児童福祉法違反事件、青少年保護育成条例違反事件及び重要犯罪のうち児童被害に係る事件

 
図1-24 出会い系サイトに関係した事件の検挙件数の推移(平成16~20年)
図1-24 出会い系サイトに関係した事件の検挙件数の推移(平成16~20年)
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〔3〕 サイバー犯罪等に関する相談の受理状況
 20年中の都道府県警察におけるサイバー犯罪等に関する相談の受理件数は表1-9のとおりであり、前年より12.0%増加した。特に、不正アクセス・ウイルスに関する相談が前年より50.5%増加した。
 また、インターネット上での困りごと相談を受け付け、その対応策等を回答するウェブサイト「インターネット安全・安心相談」(http://www.npa.go.jp/cybersafety/)への20年中のアクセス件数は29万8,450件であった。特に、「料金請求」、「ホームページ・掲示板」及び「インターネット・オークション」へのアクセスが多かった。
 
表1-9 サイバー犯罪等に関する相談の内訳(平成16~20年)
表1-9 サイバー犯罪等に関する相談の内訳(平成16~20年)
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(2)サイバー犯罪の取締りの推進
〔1〕 法令の整備
ア 不正アクセス禁止法
 他人の識別符号を不正に入力し、高度情報通信ネットワークを通じてコンピュータにアクセスする行為を禁止するとともに、当該行為の被害を受けたアクセス管理者からの申出により、都道府県公安委員会が再発防止のために必要な資料の提供、助言、指導等を行うことなどについて規定している。

イ 古物営業法
 インターネット・オークションを営もうとする者に対する届出義務、盗品その他犯罪によって領得された物の疑いがある場合の申告義務、出品者の確認並びに取引記録の作成及び保存に関する努力義務、競りの中止命令等について規定している。

ウ 出会い系サイト規制法
 出会い系サイトを利用して、児童を性交等の相手方となるように誘引することや対償を供与することを示して児童を異性交際の相手方となるように誘引することなど(以下「禁止誘引行為」という。)を禁止するとともに、事業者に対しては、児童が利用してはならないことの明示及び利用者が児童でないことの確認を義務付けていたことに加え、平成20年12月1日に施行された出会い系サイト規制法の一部改正法により、事業者に対する届出制の導入、禁止誘引行為に係る異性交際に関する情報を公衆が閲覧できないようにするための措置義務の新設等の規制の強化及び児童による出会い系サイトの利用を防止するための民間活動の促進に関する規定が盛り込まれた。21年2月28日までに、714件2,527サイトの届出がなされた。

〔2〕 体制の強化
 複数の都道府県にまたがって敢行されるサイバー犯罪については、関係都道府県警察が捜査の重複を防ぎつつ、連携して対処する必要がある。このため、警察庁では、16年に情報技術犯罪対策課を設置し、都道府県警察が行うサイバー犯罪捜査に関する指導・調整を行っているほか、捜査員の能力向上のための研修、産業界や外国関係機関等との連携、広報啓発活動等を推進している。
 都道府県警察及び都道府県情報通信部では、サイバー犯罪対策を効率的に進めるため、関係部門が連携の上、サイバー犯罪対策に関する知識及び技能を有する捜査員等により構成されるサイバー犯罪対策プロジェクトを設置している。また、サイバー犯罪捜査に必要な専門的技術・知識を有する捜査員を育成したり、民間企業でシステム・エンジニアとして勤務していた者をサイバー犯罪捜査官として採用したりしている。
 
図1-25 サイバー犯罪対策のための体制
図1-25 サイバー犯罪対策のための体制

〔3〕 国際連携
 サイバー犯罪は、容易に国境を越えて行われることから、国際的な協議の場で捜査機関相互の協力や各国国内の体制整備に関する議論を行っている。警察庁は、G8ローマ/リヨン・グループ(参照)に置かれたハイテク犯罪サブグループや国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)(注1)における捜査手法に関する情報の交換等に積極的に参加し、国際的な連携の強化に努めている。
 また、21年5月1日現在、55か国・地域に国際的なサイバー犯罪に常時対応できる連絡窓口である24時間コンタクトポイントが設置されているが、我が国では警察庁にこれを設置し、国際捜査協力の円滑化を図っている。
 このほか、2001年(13年)11月、欧州評議会でサイバー犯罪に関する条約が採択されたことから、我が国でも、16年4月に同条約の締結について国会の承認を得、現在、締結に向けた国内法の整備のため、不正アクセス禁止法、刑法及び刑事訴訟法の改正を含む犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案が国会で審議されている。

注1:International Criminal Police Organization-Interpol


(3)インターネット上の違法情報・有害情報対策
〔1〕 違法情報・有害情報の削除に向けた取組み
 警察庁では、一般のインターネット利用者からの違法情報・有害情報(注2)に関する通報を受理し、警察への通報やプロバイダ等への削除依頼を行うインターネット・ホットラインセンター(http://www.internethotline.jp/)の運用を平成18年6月に開始した。同センターでは、20年中に13万5,126件の通報を受理しており、このうち国内のウェブサーバに蔵置されたものについては、プロバイダ等に対して8,674件の違法情報・有害情報の削除依頼を行い、このうち7,164件(82.6%)が削除された。また、外国のウェブサーバに蔵置されたものについては、当該外国の同種の機関に対し、当該機関が削除依頼の対象とする違法情報553件について、削除に向けた取組みを依頼している。
 さらに、硫化水素ガスを用いた自殺に伴い、近隣の住民等にまで被害を及ぼす事案が発生したことから、警察庁では、インターネット上での硫化水素ガスの製造を誘引する情報についても有害情報に該当するものとして、プロバイダ等に対して削除等の措置を依頼するよう都道府県警察及びインターネット・ホットラインセンターに指示した。

注2:違法情報とは、児童ポルノ画像、わいせつ画像、覚せい剤等規制薬物の販売に関する情報等、インターネット上に掲載すること自体が違法となる情報をいう。有害情報とは、違法情報には該当しないが、犯罪や事件を誘発するなど公共の安全と秩序の維持の観点から放置することのできない情報をいう。

 
インターネット上の違法情報の例(イメージ)
写真 インターネット上の違法情報の例(イメージ)

〔2〕 違法情報・有害情報の取締り
 警察では、サイバーパトロール(注3)、インターネット・ホットラインセンターからの通報等により、インターネット上の違法情報・有害情報の把握に努めるとともに、違法情報については、悪質なものに重点を指向した取締りを推進している。

注3:ウェブサイトや電子掲示板等の閲覧による違法情報・有害情報の有無の調査

 
図1-26 インターネット・ホットラインセンターの概要
図1-26 インターネット・ホットラインセンターの概要

(4)サイバー犯罪等の防止に向けた取組み
〔1〕 広報啓発活動
 警察では、情報セキュリティに関する国民の知識及び意識の向上を図るため、警察やプロバイダ連絡協議会(注1)等が主催する研修会、学校関係者等からの依頼による講演会、地域の各種セミナー、情報通信技術関連イベント等の機会を活用して、情報セキュリティ・アドバイザー等が講演等を行うほか、警察庁ウェブサイト(http://www.npa.go.jp/cyber/)、広報啓発用パンフレット及び情報セキュリティ対策ビデオ(注2)により、サイバー犯罪の手口やインターネット上の違法情報・有害情報の現状、対策等について周知を図っている。

注1:都道府県警察では、関係機関、プロバイダ、消費者団体等で構成されるプロバイダ連絡協議会等を設置し、サイバー犯罪の情勢や手口、サイバー犯罪被害防止等に関する情報交換を行っているほか、講習会等の実施、一般向け広報資料の作成等を行っている。
 2:ケーブルテレビでの放映、特定非営利活動法人POLICEチャンネルのウェブサイト(http://www.police-ch.jp/)への掲載、警察署や図書館での貸出し等も行われている。

 
警察庁ウェブサイト
写真 警察庁ウェブサイト
 
情報セキュリティ対策ビデオ
写真 情報セキュリティ対策ビデオ

〔2〕 民間企業等との連携
 警察庁では、平成13年度から、総合セキュリティ対策会議(注3)を開催しており、20年度においては、「インターネット上での児童ポルノの流通に関する問題とその対策について」をテーマに議論を行い、21年3月、児童ポルノの流通防止に向けた取組みの方向性等について報告書に取りまとめた。同報告書を受け、同年6月、「児童ポルノ流通防止協議会」が発足し、児童ポルノの掲載アドレスや児童ポルノ画像の識別情報のリストを作成し、児童ポルノの流通防止対策を行う事業者等にこれらを提供するとともに、当該リスト上に掲載された児童ポルノに係る情報について検証等を行う機能を有する「児童ポルノ掲載アドレスリスト作成管理団体」(仮称)の立ち上げに関する検討等を行っている。

〔3〕 自殺予告事案等への対応
 近年、インターネット上で自殺を予告する事案や自殺の呼び掛けを通じて知り合った者同士が自殺する事案が多発している。都道府県警察では、インターネット上の自殺予告事案への対応に関するガイドライン(注4)に基づき、プロバイダ等から自殺を予告する者等に関する情報の開示を受け、インターネット上での自殺予告事案に対応している。20年中は、180件の事案に対応し、92人の自殺を行うおそれのあった者について説諭等の措置をとり、自殺を防止した。

注3:有識者、関連事業者、PTAの代表者等で構成し、情報セキュリティに関する産業界と政府の連携の在り方について検討している。
 4:平成17年10月に、業界団体が、警察庁及び総務省と連携し策定


コラム1 青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律の制定 
 20年6月、第169回国会において、フィルタリングソフトウェアの利用の普及等、青少年がインターネット上の青少年の健全な成長を著しく阻害する情報を閲覧する機会を少なくするための措置等を内容とする「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」が可決・成立し、21年4月に施行された。

 第1節 犯罪情勢とその対策

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