第1章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

第2節 安全で安心な暮らしを守る施策

1 子どもの安全対策

(1)子どもを犯罪から守るための取組み
〔1〕 子どもが被害者となる犯罪
 刑法犯に係る13歳未満の子どもの被害件数(以下「子どもの被害件数」という。)は、平成14年以降減少傾向にあったが、19年中は3万4,458件と、前年より1,501件(4.6%)増加した。
 19年における全刑法犯被害件数に占める子どもの被害件数の割合の高い罪種についてみると、略取誘拐が39.6%(82件)、強制わいせつが11.8%(907件)、公然わいせつが7.6%(73件)、殺人が6.9%(82件)となっており、全刑法犯被害件数に占める子どもの被害件数の割合(2.2%)と比べ、特に高くなっている。
 
 図1-17 刑法犯に係る13歳未満の子どもの被害件数の推移(平成10~19年)
図1-17 刑法犯に係る13歳未満の子どもの被害件数の推移(平成10~19年)
 
 図1-18 13歳未満の子どもの罪種別被害状況の推移(平成10~19年)
図1-18 13歳未満の子どもの罪種別被害状況の推移(平成10~19年)

〔2〕 犯罪から子どもを守るための施策
ア 学校周辺、通学路等の安全対策
 警察では、子どもが被害者となる事件を未然に防止し、子どもが安心して登下校することができるよう、通学路や通学時間帯に重点を置いた警察官によるパトロールを強化するとともに、退職した警察官等をスクールサポーター(99頁参照)として委嘱し、積極的に学校に派遣するなどして、学校と連携して、学校や通学路における児童生徒の安全確保等を推進している。
 
 通学路におけるパトロール活動
通学路におけるパトロール活動

イ 被害防止教育の推進
 警察では、子どもが犯罪に巻き込まれる危険を予見する能力や危険を回避する能力を向上させるため、幼稚園や保育所、小学校等において、学年や理解度に応じ紙芝居、演劇やロールプレイ方式等により、子どもが参加・体験できる防犯教室を学校や教育委員会と連携して開催しているほか、教職員に対しては、不審者が学校に侵入した場合の対応要領の指導等を行っている。
 
 防犯教室
防犯教室

コラム1 子ども防犯テキスト

 警察では、子どもの被害防止教育の一環として、保護者が子どもと共に利用できる「子ども防犯テキスト」を作成し、全国の小学校等に配付しており、子どもがより興味を持って学べるよう、子どもに人気の高いキャラクターを使用するなど、内容の工夫を行っている。
 この「子ども防犯テキスト」については、警察庁のウェブサイト(http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki75/kodomo_bouhan_text.htm)から印刷して各家庭で活用することが可能となっている。
 
 子ども防犯テキスト(©青山剛昌/小学館・読売テレビ・TMS 1996)
子ども防犯テキスト

ウ 情報発信活動の推進
 子どもが被害に遭った事案や子どもに対する犯罪の前兆と思われる声掛けや付きまとい等の発生に関する情報については、迅速に児童や保護者に対し情報提供が行われるよう、警察署と小学校、教育委員会との間で情報共有体制を整備している。また、これらの情報を都道府県警察のウェブサイトで公開するとともに、電子メール等を活用した情報提供システムによる情報発信を行うなど、地域住民に対する積極的な情報提供を実施している。
 
 不審者情報の提供
不審者情報の提供

エ ボランティアに対する支援
 子どもを犯罪の被害から守るためには、警察や教育委員会、学校による取組みを推進することはもとより、子どもを取り巻く地域ぐるみで子どもを見守る意識を持つことが重要である。そのため、警察では、「子ども110番の家」として危険に遭遇した子どもの一時的な保護と警察への通報等を行うボランティアに対し、ステッカーや対応マニュアル等を配布するなどの支援を行っている。また、通学路における子どもの保護・誘導を主な活動内容とするボランティア団体に対し、活動拠点を整備したり資機材等を提供しているほか、防犯ボランティア団体との合同パトロールを実施するなど、自主防犯活動を積極的に支援している。
 
 防犯ボランティア団体による活動
防犯ボランティア団体による活動

コラム2 防犯ブザーの実効性の確保

 子どもが携帯する防犯ブザーについては、防犯ブザーの音色や音量、耐久性、操作性等の性能基準が策定されており、警察では、各種機会を捉えて性能基準の周知を図るとともに、警察庁のウェブサイト(http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki67/index.html)において、性能基準に適合した防犯ブザーのサンプル音を紹介するなど、防犯ブザーの実効性確保に努めている。
 
子どもが携帯する防犯ブザー

(2)少年の福祉を害する犯罪
 警察では、児童に淫行をさせる行為のように、少年の心身に有害な影響を与え少年の福祉を害する犯罪(以下「福祉犯」(注)という。)の取締りと被害少年の発見・保護を推進している。特に、児童買春や児童ポルノについては、児童買春・児童ポルノ法を積極的に適用し、取締りを強化している。

注:児童買春・児童ポルノ法違反(児童買春等)、労働基準法違反(年少者の危険業務、深夜業等)等

 
 図1-19 福祉犯の法令別検挙人員(平成19年)
図1-19 福祉犯の法令別検挙人員(平成19年)
 
 表1-13 福祉犯の被害少年の学職別状況
表1-13 福祉犯の被害少年の学職別状況
 
 表1-14 児童買春・児童ポルノ法による検挙状況
表1-14 児童買春・児童ポルノ法による検挙状況

 また、日本国民が国外で犯した児童買春・児童ポルノ事犯等の取締りや国際捜査協力を強化するため、警察庁では、平成19年11月、東南アジア4か国の捜査関係者、非政府組織(NGO)関係者等を招いて、児童の商業的・性的搾取対策に関する取組みについて意見交換を行った。

(3)暴力団等の影響の排除
 警察では、暴力団やその周辺者が関与する福祉犯等の取締りを積極的に行うとともに、補導活動や少年事件の取扱いを通じて少年の暴力団等への加入状況の把握に努め、暴力団等からの離脱促進や新たな少年の暴力団等への加入阻止のための対策を推進している。

(4)児童虐待対策
 平成19年中の児童虐待事件の検挙件数は300件(前年比1.0%増)と最近5年間で1.9倍に増加した。
 
 図1-20 児童虐待事件の態様別検挙状況(平成15~19年)
図1-20 児童虐待事件の態様別検挙状況(平成15~19年)

 児童虐待の早期発見と被害児童の早期保護は、児童の生命及び身体の保護という警察の責務であることから、警察では、児童相談所、学校、医療機関等の関係機関との緊密な連携を保ちながら、児童の生命、身体の保護のための措置を積極的に講ずることとしている。
 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した場合には、速やかに児童相談所等に通告するほか、厳正な捜査や被害児童の支援等、警察としてできる限りの措置を講じて、児童の安全の確認及び安全の確保を最優先とした対応の徹底を図っている。また、児童の保護に向けて、個別事案についての情報を入手した早期の段階から、関係者間で情報を共有し、対応の検討が行えるよう、児童相談所等関係機関との連携の強化を図っている。

事例1

 無職の女(21)及び無職の男(21)は、19年1月、女の長男を自動二輪車座席下部のトランクに入れ、そのふたを閉じて脱出不能な状態にした上、同自動二輪車をぱちんこ店前路上に放置し、この長男を死亡させるとともに、遺体を山林に遺棄した。同年6月までに、監禁致死罪及び死体遺棄罪で逮捕した(大阪)。

事例2

 会社員の男(25)は、19年3月、長男と入浴中、浴室のシャワーを使用して長男の胸部、腹部、背部等に熱湯をかけて、熱傷を負わせ、搬送先の病院で死亡させた。同月、傷害致死罪で逮捕した(愛知)。

事例3

 市に「子どもの体に傷がある」との匿名の通報があったことから、19年3月、当該市の福祉事務所職員が通報のあった家を訪問し、この家に住む無職の男(26)の長男及び長女の体を確認したところ、虐待を受けていると思われるこん跡を確認した。そのため、当該市の福祉事務所長から送致を受けた児童相談所の長は、この児童2人を緊急に保護する必要性を認め、住居への立入調査の実施及びこの児童2人の一時保護についてこの男の住居地を管轄する警察署長に対して援助を求めた。これを受け、警察署長は、4人の警察官をこの男の住居に派遣し、児童相談所職員による立入調査に応じるようこの男を説得するなどした。これらの措置により、この児童2人は無事保護され、その安全が確保された。なお、この男については、長男の足にかみ付くなどして負傷させていたことから、また、男の妻(20)については、長男及び長女の耳にピアス用の穴を開けるなどして負傷させていたことから、6月までに、傷害罪で検挙した(兵庫)。

(5)有害環境浄化活動
 警察では、インターネット上の違法情報・有害情報に少年が触れることのないようにするため、コンピュータ及び携帯電話におけるフィルタリング・ソフト又はサービスの普及促進や啓発活動等の取組みを実施している。また、性や暴力等に関する過激な情報を内容とするコンピュータソフト、ビデオ、雑誌等に関して、関係業界による自主的な措置が講じられるように働き掛けを行うとともに、悪質な業者に対する指導、取締りに努めているほか、未成年者が酒類やたばこを容易に購入できないようにするため、同様の対応をとっている。

(6)少年の犯罪被害への対応
 平成19年中の少年が被害者となった刑法犯の認知件数は30万4,685件であり、このうち凶悪犯は1,345件、粗暴犯は1万5,775件であった。
 警察では、被害少年に対して、継続的にカウンセリングを行うなどの支援を行っている。また、大学の研究者、精神科医、臨床心理士等部外の専門家を被害少年カウンセリングアドバイザーとして委嘱し、支援を担当する職員が専門的な助言を受けることができるようにしている。
 
 図1-21 被害少年の支援活動
図1-21 被害少年の支援活動

事例

 女子高校生(17)は、出会い系サイトを通じて成人男性と知り合い、その交際のために怠学・家出等の問題行動を繰り返していた。少年サポートセンターの少年補導職員(注)は、同高校生に対して出会い系サイトの危険性等を教示し、再び学校生活に戻る意思を持つよう働き掛けるとともに、その保護者に対しては今後の生活面での諸注意、とりわけコンピュータ及び携帯電話へのフィルタリング・ソフト又はサービス導入の重要性を指導し、また、同高校生が在籍する学校に対しては、これら立直りに向けた支援への理解と協力を求めた。
 こういった取組みにより、同高校生は、今後の自分の具体的な進路と目標についての意思表示をするなど、生活面、精神面共に立直りを見せるようになり、また、保護者の監護意欲も向上し、安定した学校生活を取り戻した(石川)。

注:特に専門的な知識及び技能を必要とする活動を行わせるため、その活動に必要な知識と技能を有する警察職員(警察官を除く。)のうちから警察本部長が命じた者で、少年の非行防止や立直り支援等の活動において、重要な役割を果たしている。


 第2節 安全で安心な暮らしを守る施策

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