第1章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

8 サイバー犯罪

 インターネットその他高度情報通信ネットワークは、国民生活の利便性を向上させ、社会・経済の根幹を支えるインフラとして機能している。その一方で、サイバー犯罪(注1)は年々増加しており、犯罪の手口についても高度化・多様化している状況にある。

注1:高度情報通信ネットワークを利用した犯罪やコンピュータ又は電磁的記録を対象とした犯罪等の情報技術を利用した犯罪


(1)サイバー犯罪の情勢
〔1〕 サイバー犯罪の検挙状況
 サイバー犯罪の検挙件数は増加の一途をたどっており、平成19年中は5,473件と、前年より1,048件(23.7%)増加し、過去最高となった。
 
 表1-11 サイバー犯罪の検挙件数の内訳(平成15~19年)
表1-11 サイバー犯罪の検挙件数の内訳(平成15~19年)

ア ネットワーク利用犯罪
 19年中のネットワーク利用犯罪(注2)の検挙件数は3,918件と、前年より325件(9.0%)増加した。特に、詐欺の検挙件数が1,512件と、ネットワーク利用犯罪の検挙件数の38.6%を占めており、詐欺の検挙件数の81.3%がインターネット・オークションを利用したものであった。また、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童買春・児童ポルノ法」という。)違反、児童福祉法違反及びいわゆる青少年保護育成条例違反の検挙件数は1,021件と、前年より43件(4.4%)増加し、児童(18歳未満の者をいう。以下同じ。)の性的犯罪の被害も依然として深刻な状況となっている。

注2:その実行に必要不可欠な手段として高度情報通信ネットワークを利用する犯罪

 
 図1-14 不正アクセス禁止法違反の検挙件数(平成15~19年)
図1-14 不正アクセス禁止法違反の検挙件数(平成15~19年)

イ 不正アクセス禁止法違反
 19年中の不正アクセス行為の禁止等に関する法律(以下「不正アクセス禁止法」という。)違反の検挙件数は1,442件と、前年より739件(105.1%)増加し、過去最高を記録した。このうち、フィッシングやスパイウェアといった巧妙な手口により他人の識別符号(ID、パスワード等)を取得したものが1,212件に上り、前年の2.9倍と急増した。
〔2〕 出会い系サイトに関係した事件の検挙状況
 19年中のいわゆる出会い系サイト(注)に関係した事件として警察庁に報告のあった件数は1,753件であり、これらの事件の被害者1,297人のうち、児童は1,100人(84.8%)であった。また、インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(以下「出会い系サイト規制法」という。)違反の検挙件数は122件(前年比75件増)であり、うち児童によるものは61件(前年比43件増)であった。

注:面識のない異性との交際(以下「異性交際」という。)を希望する者(以下「異性交際希望者」という。)の求めに応じ、その異性交際に関する情報をインターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれに伝達し、かつ、当該情報の伝達を受けた異性交際希望者が電子メールその他の電気通信を利用して当該情報に係る異性交際希望者と相互に連絡することができるようにする役務を提供するウェブサイト

 
 図1-15 出会い系サイトに関係した事件の検挙件数の推移(平成14~19年)
図1-15 出会い系サイトに関係した事件の検挙件数の推移(平成14~19年)

〔3〕 サイバー犯罪等に関する相談の受理状況
 19年中の都道府県警察におけるサイバー犯罪等に関する相談の受理件数は表1-12のとおりで、前年より19.1%増加した。特に、詐欺・悪質商法に関する相談が前年より56.2%増加した。また、19年中のインターネット安全・安心相談システム(http://www.cybersafety.go.jp/)へのアクセス件数は420,487件であった。特に、「料金請求」へのアクセスが143,855件(60.2%)であり、架空・不当請求に関するトラブルに遭っている利用者が多いことがうかがわれる。
 
 表1-12 サイバー犯罪等に関する相談の内訳(平成15~19年)
表1-12 サイバー犯罪等に関する相談の内訳(平成15~19年)

(2)サイバー犯罪の取締りの推進
〔1〕 法令の整備
ア 不正アクセス禁止法
 他人の識別符号を不正に入力し、高度情報通信ネットワークを通じてコンピュータにアクセスする行為を禁止するとともに、当該行為の被害を受けたアクセス管理者からの申出により、都道府県公安委員会が再発防止のために必要な資料の提供、助言、指導等を行うことなどとしている。

イ 古物営業法
 インターネット・オークションを営もうとする者の届出義務、盗品その他犯罪によって領得された物の疑いがある場合の申告義務、出品者の確認並びに取引記録の作成及び保存に関する努力義務、競りの中止命令等について規定している。
〔2〕 態勢の強化
ア サイバー犯罪対策の強化・効率化のための体制の整備
 複数の都道府県にまたがって敢行されるサイバー犯罪については、関係都道府県警察が捜査の重複を防ぎつつ、連携して対処する必要がある。このため、警察庁では、16年に情報技術犯罪対策課を設置し、都道府県警察が行うサイバー犯罪捜査に関する指導・調整を行っているほか、捜査員の能力向上のための研修、産業界や外国関係機関等との連携、広報啓発活動等を推進している。
 都道府県警察では、サイバー犯罪対策を効率的に進めるため、関係部門が連携の上、サイバー犯罪対策に関する知識及び技能を有する捜査員等により構成されるサイバー犯罪対策プロジェクトを設置している。また、サイバー犯罪捜査に必要な専門的技術・知識を有する捜査員を育成したり、民間企業でシステム・エンジニアとして勤務していた者をサイバー犯罪捜査官として採用したりしている。
 
 図1-16 サイバー犯罪対策のための体制
図1-16 サイバー犯罪対策のための体制

イ 国による技術支援体制の確立
 サイバー犯罪に悪用される技術が高度化し、その取締りには、高度な技術的知見が必要となったことから、警察庁では、サイバー犯罪対策に関し都道府県警察を技術的に指導する組織として情報通信局、管区警察局情報通信部及び都道府県(方面)情報通信部に情報技術解析課を設置している。また、警察庁技術センターでは、特に高度な暗号等で隠蔽された情報等の抽出・解析、コンピュータ・ウィルス等の不正プログラムの動作の解析等を行っている。
〔3〕 国際連携
ア 国際的なサイバー犯罪の捜査協力の推進
 サイバー犯罪は、容易に国境を越えて行われることから、国際的な協議の場で捜査機関相互の協力や各国国内の体制整備に関する議論を行っている。警察庁は、G8ローマ/リヨン・グループに置かれたハイテク犯罪サブグループや国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)(注)における捜査手法に関する情報の交換等に積極的に参加し、国際的な連携の強化に努めている。

注:the International Criminal Police Organizaition-Interpol

 
 アジア大洋州地域サイバー犯罪捜査技術会議
アジア大洋州地域サイバー犯罪捜査技術会議

 また、20年6月現在、49か国・地域に国際的なサイバー犯罪に24時間常時対応できる連絡窓口である24時間コンタクトポイントが設置されているが、我が国では警察庁にこれを設置し、国際捜査協力の円滑化を図っている。
 このほか、2001年(13年)11月、欧州評議会でサイバー犯罪に関する条約が採択されたことから、我が国でも、16年4月に同条約の締結について国会の承認を得、現在、締結に向けた国内法の整備のため、不正アクセス禁止法、刑法及び刑事訴訟法の改正を含む犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案が国会で審議されている。

イ 国際的なサイバー犯罪捜査技術協力の推進
 警察庁では、アジア大洋州地域14か国・地域(20年6月現在)の法執行機関を結ぶサイバー犯罪技術情報ネットワークシステム(CTINS)(注1)の整備・運用、アジア大洋州地域サイバー犯罪捜査技術会議の開催を通じ、国際的なサイバー犯罪捜査技術協力を推進している。

注1:Cybercrime Technology Information Network Systemの略。電子メール、電子掲示板及びデータベースの機能を備え、暗号化されたネットワークにより、各国の担当官が安全に情報を共有できる手段を提供している。


(3)サイバー犯罪等の防止に向けた取組み
〔1〕 広報啓発活動
 警察では、情報セキュリティに関する国民の知識及び意識の向上を図るため、警察やプロバイダ連絡協議会(注2)等が主催する研修会、学校関係者等からの依頼による講演会、地域の各種セミナー、情報通信技術関連イベント等の機会を活用して、情報セキュリティ・アドバイザー等が、犯罪手口の実演を交えるなどしてサイバー犯罪の現状、対策等について周知を図っている。
 また、広報啓発用パンフレットを配布するほか、情報セキュリティ対策ビデオのケーブルテレビでの放映、特定非営利活動法人POLICEチャンネルのウェブサイト(http://www.police-ch.jp/)等への掲載、警察署や図書館での貸出し等を推進したり、警察庁ウェブサイト(http://www.npa.go.jp/)において新たなサイバー犯罪の手口を紹介したりして、インターネットを利用する際の注意喚起を行っている。

注2:都道府県警察では、関係行政機関、プロバイダ、消費者団体等で構成されるプロバイダ連絡協議会等を設置し、サイバー犯罪の情勢や手口、サイバー犯罪被害防止等に関する情報交換を行っているほか、講習会等の実施、一般向け広報資料の作成等を行っている。

 
 情報セキュリティ対策ビデオ
情報セキュリティ対策ビデオ
 
 警察庁ウェブサイト
警察庁ウェブサイト

〔2〕 民間企業等との連携
 警察庁では、平成13年度から、有識者、関連事業者、PTAの代表者等で構成する総合セキュリティ対策会議を開催し、情報セキュリティに関する産業界と政府の連携の在り方について検討している。平成19年度総合セキュリティ対策会議においては、「Winny等ファイル共有ソフトを用いた著作権侵害問題とその対応策について」をテーマに議論を行い、20年3月に、著作権侵害者に対する対処方法等について報告書に取りまとめた。同報告書を受け、20年5月、著作権団体等及びプロバイダにより構成され、警察庁等関係省庁がオブザーバとして参加する「ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害対策協議会」が発足し、提言内容の実現に向けた検討を行っている。
〔3〕 自殺予告事案等への対応
 近年、インターネット上で自殺を予告する事案や自殺の呼び掛けを通じて知り合った者同士が自殺する事案が多発している。都道府県警察は、インターネット上の自殺予告事案への対応に関するガイドライン(注3)に基づき、プロバイダ等から自殺を予告する者等に関する情報の開示を受け、インターネット上での自殺予告事案に対応している。19年中は、121件の事案に対応し、63人の自殺を行うおそれのあった者について説諭等の措置をとり、自殺を防止した。

注3:17年10月に、業界団体が、警察庁及び総務省と連携し策定


 第1節 罪種別犯罪情勢とその対策

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