第5節 交通事故被害者等の支援のための連携
コラム6 被害者ノート
犯罪被害者から「逮捕された人のために被疑者ノートがあるのなら,被害者のためのノートも欲しい」という声があったことから,任意団体「途切れない支援を被害者と考える会」において「被害者ノート」が作られました。
【被害者ノートとは】
被害者ノートは,犯罪被害者やその家族が後で役立つ記録を残せるよう作られた,書き込み式ノートです。「途切れない支援を被害者と考える会」は,犯罪被害者の体験を丁寧に聞き取った上で,被害当事者,弁護士,自治体職員,保健師,更生保護関係者,マスコミ関係者等が力を合わせて,被害者ノートを完成させました。犯罪被害者は依然として困難な状況に置かれており,被害者ノートの作成に携わった被害当事者や支援者は強い問題意識を持って被害者ノートの普及に取り組んでいます。
【被害者ノートが必要とされる背景】
警察署や検察庁,裁判所,地方公共団体など様々なところで,犯罪被害者への支援が行われています。しかし,犯罪被害者の立場から見ると,各機関・団体で行われている支援は,ぶつぶつと途切れており,犯罪被害者からはぼろぼろになりながら自分で支援してくれそうなところを訪ね歩いたという声が少なからず聞かれます。
例えば,被害を受けたことから生じる心の傷や内科的な症状のための病院探し,犯罪被害者支援に精通した弁護士探し,事件事故後の様々な手続に翻弄されて家事や育児にまで手が回らなくなったり,家族の通院等もままならなくなったりした場合の相談窓口探し等を犯罪被害者は自らしています。また,ようやくたどり着いたと思った支援先で二次被害を受けることもあり,どこにも相談できないというような孤立感を抱いたりする現状もあります。
【被害者ノートの特長】
細部にまで被害者の声を取り入れて作成されています。字が大きく,色分けされているほか,コピーしたり誰かに見せたりするページは必要な部分だけを見せられるよう,コピーしやすいリングノート式になっています。
また,つらい体験を思い出して書き込む部分もあるため,途中で一息つけるよう,枠外に温かいタッチのイラストが載せられています。「今日を生き抜くことで希望が見えます。生きることをあきらめないで」「救急隊の記録は直後の事実を知るのに大変役立つことがあります」「ちょっと先輩の私は,このノートを手にしたあなたたちの力になりたい」「掃除,洗濯,買い物でも,あるサービスは利用しましょう」など,作成に携わった犯罪被害者や支援者が考えたコメントも書かれ,被害直後の犯罪被害者に届けたい様々なメッセージとなっています。
【被害者ノートの活用】
被害者ノートは,「手渡して終わり」ではなく,犯罪被害者が被害から回復していく過程を支援者と一緒に歩むために使われることが想定されています。日々色々なことに巻き込まれているような生活では,どのようなことで困っているのか自分でも分からない場合もあります。今何に困っているのか,困りごとリストや手続リストを一緒にチェックすることができます。
犯罪被害者は,事件事故に巻き込まれる前は,自分で様々な決定をして生活をしてきました。被害者ノートの活用に当たって,支援者には,犯罪被害者本人が何を望んでいるのか,どうなりたいのか,被害者自身が決定できるように意識しながら関わることが期待されています。