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第3節 刑事手続への関与拡充への取組


コラム5:公訴時効制度の改正について

1 改正の経緯について

平成22年4月27日、「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(平成22年法律第26号)が成立し、同日公布され、殺人罪など人を死亡させた犯罪であって死刑に当たるものについて公訴時効が廃止されるなどの改正が行われました。

公訴時効とは、犯罪が行われたとしても、法律の定める期間が経過すれば、犯人を処罰することができなくなるものです。例えば、殺人罪の公訴時効期間は、これまでは25年とされていましたので、たとえ凶悪な殺人犯であっても、25年間逃げ切れば、処罰されることはありませんでした。

しかし、公訴時効については、殺人事件などの遺族の方々から、「自分の家族が殺されたのに、一定の期間が経過したからといって犯人が無罪放免になるのは、とても納得できない。殺人罪などについては公訴時効を見直してもらいたい」という声が高まっており、この種事犯においては、時間の経過による処罰感情の希薄化等、公訴時効制度の趣旨が必ずしも当てはまらなくなっているとの指摘がなされていました。

このような指摘等を契機として、人の生命を奪った殺人などの犯罪については、時間の経過によって一律に犯人が処罰されなくなってしまうのは不当であり、より長期間にわたって刑事責任を追及することができるようにすべきであるという意識が、国民の間で広く共有されるようになっているものと考えられます。

そこで、殺人罪など一定の犯罪について、公訴時効を廃止したり、公訴時効期間を延長する法整備がなされたものです。

2 改正内容について

これまでの公訴時効期間は、犯罪の法定刑の重さに応じて定められていました。その内容は次の表の左欄にあるとおりですが、今回の法改正により、「人を死亡させた罪」については、特別の定めをしました。その内容は表の右欄のとおりです。

「人を死亡させた罪」とは、例えば、傷害致死罪、強盗致死罪及び自動車運転過失致死罪のように、実行行為と因果関係のある死亡の結果が構成要件要素となっている罪のことです。

これに対して、殺人未遂罪のように、未遂にとどまったため死亡の結果が構成要件要素となっているとはいえない犯罪や、現住建造物等放火罪のように構成要件上死亡の結果がその要素とされていない犯罪はこれに当たりません。

今回の改正により、例えば、殺人罪(既遂)や強盗殺人罪など、「人を死亡させた罪」のうち、法定刑の上限が死刑であるものについては、公訴時効は廃止されました。これにより、犯罪行為の時からどれだけ時間が経過しても、犯人を処罰することができるようになりました。

また、「人を死亡させた罪」のうち、

<1> 法定刑の上限が無期の懲役・禁錮であるものについては、公訴時効期間が30年に、

<2> 法定刑の上限が20年の懲役・禁錮であるものについては、公訴時効期間が20年に、

<3> 法定刑の上限が懲役・禁錮で、<1>及び<2>以外のものについては、公訴時効期間が10年に、

それぞれ延長されました。これにより、従来であれば犯人の処罰を諦めなければならなかった時期を過ぎても、犯人を処罰することができるようになりました。

  法定刑 改正前 改正後
1 「人を死亡させた罪」のうち、法定刑の上限が死刑である犯罪(例:殺人罪) 25年 公訴時効なし
2 「人を死亡させた罪」のうち、法定刑の上限が無期の懲役・禁錮である犯罪(例:強姦致死罪) 15年 30年
3 「人を死亡させた罪」のうち、法定刑の上限が20年の懲役・禁錮である犯罪(例:傷害致死罪、危険運転致死罪) 10年 20年
4 「人を死亡させた罪」のうち、法定刑の上限が懲役・禁錮で、上の2・3以外の犯罪(例:自動車運転過失致死罪) 5年又は3年 10年
3 適用範囲について

今回の改正法は、平成22年4月27日から施行されていますが、上記の表に掲げた犯罪が改正法の施行前に犯されたものであっても、その施行の際公訴時効が完成していないのであれば、改正後の公訴時効に関する規定が適用されます。


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