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第1節 損害回復・経済的支援等への取組


1 損害賠償の請求についての援助等(基本法第12条関係)

《基本計画策定以前からの施策で、基本計画策定後も引き続き実施するもの》
(1) 交通事故被害者への相談対応

各都道府県警察本部・警察署において、交通事故の当事者からの相談に応じ、

・保険請求、損害賠償請求制度の概要の説明

・被害者援助、救済制度の概要の説明

・各種相談窓口、被害者支援組織、カウンセリング機関の紹介

・示談、調停、訴訟の基本的な制度、手続などの一般的事項の説明

などを実施している。

また、都道府県警察においては、死亡事故などの一定の交通事故事件の被害者等から、当該交通事故などを起こした加害者に対する意見の聴取等の期日などや行政処分の結果についての問い合わせがあった場合に、それぞれ適切に対応しており、平成22年中の都道府県警察における意見の聴取等の期日などに関する問い合わせに対する回答件数は14件、行政処分の結果に関する問い合わせに対する回答件数は33件であった。

さらに、都道府県交通安全活動推進センターにおいても、職員のほか、弁護士、カウンセラーなどが、交通事故被害者等からの相談に応じ、適切な助言を行っており、平成21年度中の同センターにおける交通事故相談回数は19,627回であった。

また、内閣府において、地方公共団体の交通事故相談活動の推進を図るため、相談員としての基本的な心構えや知識の習得を目的とした「交通事故相談員中央研修会(初任者コース)」を開催した。さらに、被害者等からの相談に対する相談員の対応能力を向上させるため、「交通事故相談員総合支援事業(相談員研修事業・情報誌発刊事業)」を通じて、都道府県・政令指定都市の交通事故相談活動(平成21年度の相談件数は都道府県69,219件、政令指定都市13,742件)に対する支援を行っている。

今後も交通事故被害者等の心情に配意しつつ、交通事故被害者等の要望に応じた適切な相談業務を実施していく。

(2) 刑事事件記録の閲覧制度

検察庁において、訴訟終結後の刑事事件の裁判書や記録(いわゆる確定記録)を保管しており、保管検察官の許可を得てだれでも閲覧することが可能である。

不起訴記録は、非公開が原則であるが、交通事故に関する実況見分調書などの証拠については、裁判所からの送付嘱託や弁護士会からの照会に対し、開示することが相当と認められるときは、これに応じている。

また、被害者参加制度の対象となる事件の被害者等の方々については、「事件の内容を知ること」などを目的とする場合でも、捜査・公判に支障を生じたり、関係者のプライバシーを侵害しない範囲で、実況見分調書などを開示し、弾力的な運用に努めている。

さらに、それ以外の事件の被害者等の方々についても、民事訴訟などにおいて被害回復のため損害賠償請求権その他の権利を行使するために必要と認められる場合には、捜査・公判に支障を生じたり、関係者のプライバシーを侵害しない範囲で、実況見分調書などを開示している。

(3) 刑事和解(犯罪被害者保護二法関係)

刑事和解とは、被告人と犯罪被害者等との間において、被告事件に関連する民事上の争いについて合意が成立した場合には、刑事事件の係属する裁判所に対し、共同して当該合意の公判調書への記載を求める申立てをすることができ、その合意が公判調書に記載されたときは、その記載が、裁判上の和解と同一の効力を有する制度である(「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」)。これにより、犯罪被害者等は、被告人から債務の履行がない場合に、別に民事訴訟を提起することなく、当該公判調書により強制執行の手続をとることができる。

この制度による申立てが公判調書に記載された延べ件数は、制度導入(平成12年11月)以降22年までの間に、483件であり、うち22年は34件であった*1

(*1)最高裁判所事務総局の資料による。

刑事和解の図
出典:法務省ホームページ
《基本計画において、「速やかに実施する」とされたもの》
(4) 日本司法支援センターによる支援(民事法律扶助制度の活用)

日本司法支援センター(愛称:法テラス)では、民事法律扶助業務として、経済的に余裕のない方が民事裁判等手続を利用される際に、収入などの一定の条件を満たすことを確認した上で、無料で法律相談を行い、必要に応じて弁護士・司法書士の費用の立替えを行っている(法テラスホームページ「法テラスの業務(民事法律扶助業務)」:http://www.houterasu.or.jp/houterasu_gaiyou/mokuteki_gyoumu/minjihouritsufujo/別ウインドウで開きます)。

犯罪被害者等が、加害者から任意に損害賠償を受けることができず、弁護士などに委任して民事裁判等手続を通じて損害賠償を求める必要があるものの、弁護士費用などを負担する経済的な余裕がない場合には、民事法律扶助制度を利用することによって経済的負担が軽減される。また、犯罪被害者等が、刑事手続の成果を利用して簡易迅速に犯罪被害の賠償を請求することを可能とする損害賠償命令制度(平成20年12月1日施行)の利用に当たっても、民事法律扶助制度の利用が可能である。

(5) 損害賠償請求制度に関する情報提供の充実

警察庁において、「被害者の手引」(P93(25)「『被害者の手引』の内容の充実等」参照)などにより、損害賠償請求制度の概要などについて、紹介している。

法務省においては、犯罪被害者等向けパンフレット「犯罪被害者の方々へ」や犯罪被害者等向けDVD「もしも…あなたが犯罪被害に遭遇したら」により、損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度(平成20年12月1日施行)について、紹介している(P81(7)「刑事の手続等に関する情報提供の充実」参照)。

(6) 刑事和解等の制度の周知

法務省・検察庁において、刑事和解制度などについて、パンフレット「犯罪被害者の方々へ」(P81(7)「刑事の手続等に関する情報提供の充実」参照)に掲載し、周知を図っている。また、検察官に対しても、会議や研修などの機会を通じて刑事和解制度などについての理解を深めさせており、検察官が犯罪被害者等に対して適切に情報提供できるよう努めている。

(7) 保険金支払いの適正化等

金融庁において、各保険会社における保険金等支払管理態勢整備などの状況の検証を行っているほか、苦情・相談として寄せられる情報を活用して、保険会社の検査・監督を行っている。保険金の不払い等が認められた保険会社に対しては業務改善命令などを発出するなど、保険会社側に問題があると認められる業務・運営については適切な対応を行っている。

とりわけ、自賠責保険に関しては、国土交通省において、保険会社等への立入検査や指示等を通じて保険金支払の適正化を図っている。また、自賠責保険金の支払い等に関する紛争処理のため、「自動車損害賠償保障法」に基づく指定紛争処理機関である、財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構(http://www.jibai-adr.or.jp/別ウインドウで開きます)に対し、紛争処理業務に要する経費の一部を補助している。同機構では、被害者等からの紛争処理申請に基づき、弁護士や医師などが支払内容に関する審査・調停を行っている。平成21年度の紛争処理件数は、790件となっている。さらに、国土交通省においては、自動車事故に関する法律相談、示談あっ旋等により被害者等が迅速かつ適切な損害賠償を受けられるよう、財団法人日弁連交通事故相談センター(http://www.n-tacc.or.jp/別ウインドウで開きます)に対して支援を行っている。平成21年度は、相談所を全国152か所(うち35か所で示談あっ旋を実施)、延べ7,846日開設し、38,431件の事故相談を無料で受け付けたところである。

また、自賠責保険による損害賠償を受けることができないひき逃げや無保険車などによる事故の被害者に対しては、「自動車損害賠償保障法」に基づく政府保障事業によって、本来の賠償責任者である加害者などに代わり、政府が直接その損害のてん補を行っている(国土交通省ホームページ「自賠責保険ポータルサイト」:http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/accident/nopolicyholder.html別ウインドウで開きます)。平成21年度の損害てん補件数は2,230件であった。

自動車事故により常時又は随時介護を要する重度の後遺障害を負った被害者に対しては、独立行政法人自動車事故対策機構(http://www.nasva.go.jp/)において、介護料の支給、在宅介護に係る支援(短期入院費用の一部助成等)、適切な治療及び看護を行う専門病院である療護センター(委託病床を含め全国6か所)の設置・運営等により、被害者支援の充実強化を図っている。

(8) 受刑者の作業報奨金を損害賠償に充当することを可能とする制度の十分な運用

法務省において、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」(平成17年法律第50号)に基づき、犯罪被害者等への損害のてん補を図っている。

本制度は、受刑者が釈放前に作業報奨金の支給を受けたい旨の申出をした場合、その使用目的が犯罪被害者等に対する損害賠償への充当など相当なものと認められるときは、支給時における報奨金計算額に相当する金額の範囲内で、申出の額の全部又は一部の金額を犯罪被害者等に支給するものである。

この制度を十分に運用するため、刑執行開始時における指導などの際に告知しているほか、居室内に整備している所内生活心得などの冊子に記載して、引き続き周知を図っている。

(9) 暴力団犯罪による被害の回復の支援

警察において、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(平成3年法律第77号。以下「暴力団対策法」という。)などにより、暴力団員による暴力的要求行為の相手方や暴力団員による犯罪の被害者等に対して、本人からの申出に基づき、被害の回復などのための助言や交渉場所の提供などの援助を積極的に行っている(警察庁ホームページ「組織犯罪対策」:http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/index.htm別ウインドウで開きます→「平成22年の暴力団情勢」)。

暴力団対策法が改正され、指定暴力団員が当該暴力団の名称を示すなどにより資金獲得行為を行う際に他人の生命、身体又は財産を侵害した場合には、その指定暴力団の代表者などが損害賠償責任を負うこととされた(平成20年5月2日施行)ほか、指定暴力団員が、損害賠償請求や事務所撤去のための請求者又はその配偶者等に対して、威迫、つきまといその他の不安を覚えさせるような方法で請求を妨害してはならないことと規定された。(平成20年8月1日施行)

都道府県暴力追放運動推進センター(以下「都道府県センター」という。)においては、暴力団対策法に基づき、民事訴訟費用の無利子貸付を行っている(全国暴力追放運動推進センターホームページ:http://www1a.biglobe.ne.jp/boutsui/別ウインドウで開きます)。

各都道府県では、警察、都道府県センター、弁護士会の三者が、民事介入暴力事案の民事訴訟などにおいて共同して対処するために設立した「民暴研究会」において、訴訟関係者に対する暴力団情報の提供や訴訟関係者の保護対策などの支援を行っている。

22年中に警察などが支援した暴力団関係事案に係る民事訴訟件数は90件、援助の措置件数は225件である。

《基本計画において、「1~3年以内を目途に検討の結論を得て、施策を実施する」とされたもの(「1~2年以内を目途に実施する」とされたものを含む)》
(10) 損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度を新たに導入する方向での検討及び施策の実施

平成18年6月、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律」(平成18年法律第86号)、「犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律」(平成18年法律第87号)が成立した(ともに同年12月施行)。これにより、一定の場合に、財産犯などの犯罪行為により犯人が得た財産である犯罪被害財産を没収・追徴した上で、検察官が、これを被害回復給付金として当該事案の被害者等に支給することが可能となった。

平成20年5月には、五菱会(ごりょうかい)ヤミ金融事件において、事件関係者によりスイス連邦の銀行に送金されて隠匿され、同国チューリッヒ州により没収されていた犯罪被害財産等の一部(約29億円)が日本に譲与された。東京地方検察庁では、同年7月25日、「犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律」に基づき、上記の外国譲与財産などを被害者の方々に被害回復給付金として支給するための手続である「外国譲与財産支給手続」を開始する決定をし、裁定が確定した5,490名の方々に対して支給を行った。

このほか、他の多くの検察庁においても、同法に基づき、没収・追徴された犯罪被害財産を被害者の方々に被害回復給付金として支給するための手続である「犯罪被害財産支給手続」を行っている。

損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度に関しては、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」により、「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」が一部改正され、一定の犯罪の被害者等から、刑事事件で起訴されている犯罪事実を原因とした不法行為による損害賠償を被告人に命ずる旨の申立てがある場合には、刑事裁判所が、刑事事件について有罪の言渡しをした後、犯罪被害者等の被告人に対する損害賠償請求について、審理・決定をすることができる「損害賠償命令制度」が創設された(平成20年12月1日施行)。損害賠償命令制度については、平成22年12月末までに465件の申立てがあり、そのうち401件が終局した*2

(*2)最高裁判所事務総局の資料による。

《基本計画には盛り込まれていないが、基本法・基本計画を踏まえ、平成18年度以降新たに実施しているもの》
(11) 振り込め詐欺等の被害者の救済

振り込め詐欺やヤミ金融などの被害者の財産的被害の迅速な回復などを目的とした「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」(平成19年法律第133号、通称「振り込め詐欺救済法」)が平成20年6月より施行されている。

この法律に基づき、金融機関において、振込みを伴う犯罪に利用された預貯金口座の失権手続及び被害回復分配金の支払手続を実施している(平成22年度末までに、被害者に対して返金された額の累計は約44億円)。


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