犯罪被害類型等ごとに実施する継続的調査
1.調査の概要
本調査は、基本計画に基づき、被害類型別(身体犯・交通事故・性犯罪)、被害者との関係別(本人・家族・遺族)に、犯罪被害者等の置かれた状況について継続的な調査を実施し、時間の経過に伴う当該状況の経過等を把握することを目的とする調査であり、平成19年から毎年継続的に行われるものです。
調査対象者は、10年以内に前記被害を受けた被害者本人又は遺族、家族であり調査手法としては、被害者のプライバシー保護や安全確保、二次的被害防止の観点から、以下の2種類の方法により、アンケート調査を実施しました。
<1> 被害者団体・支援団体を通じて実施するパネル調査1
<2> モニターを利用したweb調査2
1 発送数581、有効回収数187(身体犯61、交通事故96、性犯罪25)
2 発送数943、有効回収数583(身体犯70、交通事故452、性犯罪57)
2.主な調査結果
(1) 身体・精神状況について
被害類型を問わず、健康上の問題より精神的な問題や悩みがあったと回答した人の割合が高く、また、重症精神障害の診断に該当する可能性が高い人3の割合も一般に比べて極めて高くなっており、被害から年数が経過しても、特に精神面において悩み苦しむ被害者が多いことがうかがえます。
精神的な問題の解決手段として、パネル調査では、身体犯や交通事故の被害者の場合「自助グループへの参加」、性犯罪被害者が「カウンセリング」を利用すると回答した人が多いのに対し、web 調査ではいずれの類型でも「身近な人に相談」、「何もしない」と回答した人が多くなっています。これは、web 調査の被害者は、支援団体とのつながりが少ないと思われ、そのため、医療やカウンセリングを受けられる専門機関まで足を伸ばさず、結果として身近な人に相談またはその相談すら十分にできていない人が多いという可能性もあります。
3 被害者等の精神健康状態の測定について、本調査では「K6」と呼ばれるうつ病、不安障害に対する効率的なスクリーニング項目を用いました。6つの設問の合計値(合計30)が高いほど精神健康の問題があることが多いという意味となり、合計値13点以上が重症精神障害に該当する可能性が高いとされています。
(2) 経済・生活状況について
現在の経済状態について、生活に困っていると回答した人が約3割を占めており、被害からの経過時間にかかわらず、経済的な問題を抱えている人が多いことがうかがわれます。
事件後の生活上の変化については、いずれの類型でも「学校または仕事を辞めた、変えた」、「学校または仕事をしばらく休んだ」と回答した人、「長期通院や入院をしたりするようなけがや病気をした」と回答した人の割合が高く、被害直後から日常生活を継続することが困難となる人が多いと考えられます。
(3) 支援や制度の利用経験の有無、満足度について
事件後に何らかの支援を受けたり制度を使ったりしたことがあると回答した人の割合は全体として低率でした。これは、基本計画策定後に新たに導入された支援や制度が多いこと、提示されても特に活用しなかった人がいることなどが影響していると考えられます。
一方、パネル調査とweb 調査を比較すると、被害者団体や支援団体とつながりの深い被害者が対象とされたパネル調査の方が全体として何らかの支援を受けたり制度を使ったりしたことがあると回答した人の割合が高くなりました。これは、支援や制度に関する情報提供において、被害者団体・支援団体などの民間団体が一定の役割を果たしていることを示しているとともに、支援や制度に関する周知・啓発に課題を提示した結果ともいえます。
また、事件から1年以内の利用率が低い支援や制度は、1年以降も利用率が低いままであり、支援や制度の開始直後の認知・利用の促進が重要であることが分かりました。
(4) 二次的被害について
「加害者関係者」や「捜査や裁判等を担当する機関の職員」から気持ちを傷つけられることがあったと回答した人の割合が、いずれの類型でも高い結果となりました。さらに、家族や友人、職場や地域の人など、普段の生活において身近な人々から二次的被害を受けたと回答した人も一定割合を占めました。
(5) 今後望まれる施策について
いずれの類型においても、「民事損害賠償請求への援助」、「犯罪被害者等に対する加害者の情報提供の充実」、「犯罪被害者等に対する給付制度の充実」、「PTSD 等重度ストレス反応の治療専門家の養成」を望む声が多くみられました。
上記のほか、パネル調査では、身体犯の被害者で、「刑事裁判・少年審判への参加の機会拡充」や「司法・行政機関職員の理解・配慮の増進」といった裁判に関わる配慮や支援について望む人の割合が高くみられました。また、性犯罪の被害者では、「居住の確保」や「雇用の確保」といった、生活の根幹に関わる事項についてのニーズがそれぞれ他類型よりも高く、厳しい状況に置かれていることがうかがわれます。
3.まとめ
今回の調査によって、犯罪被害者等の方々の多くが、経済・生活・精神健康などにさまざまな問題を抱えていることが明らかとなりました。一方で、こうした問題に対する支援・制度については、必ずしも犯罪被害者等の方々のニーズに対応していないため、周知・啓発をより一層行っていく必要があります。
本調査は、今後も毎年継続して実施することになっており、支援・制度の効果や時間の経過による状況の変化などについても詳細な分析を行い、犯罪被害者等の実態をより正確に把握していくことが求められます。