第1部 犯罪被害者等のための施策と進捗状況

第2章 犯罪被害者等のための具体的施策



2 調査研究の推進等(基本法第21条関係)

《基本計画において、「速やかに実施する」とされたもの》

(1) 重症PTSD症例に関するデータ蓄積及び治療法等の研究

 文部科学省において、平成17年度の科学技術振興調整費「重要課題解決型研究等の推進」プログラムにおける課題「犯罪・テロ防止に資する先端科学技術研究」の中で採択した「犯罪、行動異常、犯罪被害等の現象、原因と治療、予防の研究」における犯罪被害等による重症PTSDの治療法等の研究成果を得、犯罪被害者等支援の実践への活用を目指していくこととされた。

 平成17年7月、東京医科歯科大学難治疾患研究所において、精神科医1名、心理士2名より成る研究チームを編成、同年9月に同所内に心的外傷ケアユニット:PTCU(Psychological Trauma Care Unit)を開設し、症例の蓄積を開始している。

研究目標

 具体的には、海外の先行研究において有効性を証明されている、以下に関する認知行動療法を用いての治療研究を、民間被害者援助団体、警察等から紹介を受けた事例を対象に、実施している。

 《1》 深刻な犯罪・重度事故被害者のPTSDに対する認知行動療法(曝露療法)。

 《2》 被害者遺族の心的外傷性悲嘆(PTSD+悲嘆症状)に対する認知行動療法(複雑性悲嘆治療)。

 平成17年度の治療研究結果の概要は、2―4―2図、2―4―3図に示すとおりである。

▼2―4―2図

2―4―2図 犯罪被害・重度事故によるPTSDに対する曝露両方(PE)の効果


▼2―4―3図

2―4―3図 外傷的死別による複数性悲嘆治療

 この間、平成18年2月には、国際シンポジウム「犯罪被害・人為災害とPTSD」(上智大学、演者:海外3名、国内3名、参加登録300名)、及びPTCU症例検討ワークショップを開催した。研究スタッフは、関係の国際学会やワークショップに参加し、海外研究者との意見交換や研究協力の機会を持った。

 また、平成18年3月には、「くらしの安全と犯罪被害に関する意識調査」を実施(全国無作為抽出サンプル2,000、有効回答率67%)、その結果を現在分析中である。

 平成18年度は、前年度に開始した2種類の治療研究、すなわち、《1》被害者本人のPTSDを対象とした曝露療法、及び、《2》被害者遺族のPTSD+悲嘆症状を対象とした複雑性悲嘆治療を継続し、より多くの症例を蓄積する。また、その間に可能な方法を検討し、対象にコントロール群を加え、結果を比較・検討して効果測定を厳密にし、曝露療法と複雑性悲嘆治療の有効性を明らかにすることとしている。

▼平成18年2月に開催された国際シンポジウム
「犯罪被害・人為災害とPTSD」のポスター

平成18年2月に開催された国際シンポジウム 「犯罪被害・人為災害とPTSD」のポスター

提供:東京医科歯科大学

(2) 犯罪被害者の精神健康の状況とその回復に関する研究

 厚生労働省において、犯罪被害者の精神健康についての実態とニーズの調査、医療場面における犯罪被害者の実態の調査、重度PTSD等持続的な精神的後遺症を持つものの治療法の研究、地域における犯罪被害者に対する支援のモデルの研究等を継続的に行い、その研究成果を得、高度な犯罪被害者等支援が行える専門家育成や地域での対応の向上に活用していくこととされた。

 平成17年より厚生労働科学研究で「犯罪被害者の精神健康の状況とその回復に関する研究」を3年計画で行っており、

 《1》 犯罪被害者の精神状態についての実態とニーズの調査

 《2》 医療場面における犯罪被害者の実態とニーズの調査

 《3》 精神保健福祉センター等の職員が犯罪被害者にかかわる場合のマニュアル作り

等を進めている。

 これらの研究の成果も踏まえて、PTSD対策専門研修会等のカリキュラムの見直し、精神保健福祉センター等における相談支援方法の見直し等必要な措置を検討している。

(3) 犯罪被害者等の状況把握等のための継続的調査の実施

 内閣府において、警察庁、法務省、厚生労働省、犯罪被害者団体等の協力を得て、犯罪被害類型別、被害者との関係別に、犯罪被害者等の置かれた状況や当該状況の経過等を把握するため、犯罪被害類型等ごとに、一定の周期で継続的な調査を行うこととされた。現在、継続的調査の実施に向けての調査の基本的設計等を検討している。

(4) 配偶者に該当しない交際相手等からの暴力に関する調査の実施

 内閣府において、平成11年度以降実施している女性に対する暴力による被害の実態把握に関する調査の中で、平成17年度は、平成17年11月から12月にかけて、全国の20歳以上の男女4,500人を対象に、交際相手等からの暴力についても調査を実施し、平成18年4月に「男女間における暴力に関する調査」として公表した。同調査によると、2―4―4表のとおり、10~20歳代の結婚前に「交際相手(後に配偶者となった相手以外)がいた(いる)」という人(1,550人)に、当時の被害経験について聞いたところ、“身体に対する暴行”“精神的な嫌がらせや恐怖を感じるような脅迫”“性的な行為の強要”のいずれかをされたことが「あった」という人は、女性13.5%、男性5.2%となっている。

 また、平成18年度の新規事業として、配偶者からの暴力の被害者が利用した支援、求められる支援体制等についての調査である、「配偶者からの暴力の被害者の自立支援等に関する調査」を実施する。

 平成17年度に実施した、「男女間における暴力に関する調査」についての調査報告書の内容は、内閣府ホームページ上で確認することができる(http://www.gender.go.jp/)。

▼2―4―4表 交際相手からの被害経験

2―4―4表 交際相手からの被害経験



目次 << 前の項目に戻る 次の項目に進む >>