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第4章 支援等のための体制整備への取組

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1 相談及び情報の提供等(基本法第11条関係)

手記 警察職員による被害者支援手記

警察においては、毎年、犯罪被害者等支援に関する警察職員の意識の向上と国民の理解促進を図ることを目的に、犯罪被害者等支援活動に当たる警察職員の体験記を広く募集し、優秀な作品を称揚するとともに、優秀作品を編集した「警察職員による被害者支援手記」を刊行し、これを広く公開している(警察庁ウェブサイト「警察職員による被害者支援手記」:https://www.npa.go.jp/higaisya/syuki/index.html参照)。
令和6年度優秀作品の中の一つを紹介する。

●心からの被害者支援とは

警察署勤務 巡査部長
大切な人たちと過ごす幸せな毎日は、当たり前に続いていく。
一緒に笑ったり、怒ったり、けんかをしたり、そんな何気ない日常は一生あるものだと。
そう、誰もが信じて疑うことはないでしょう。
そんな当たり前の幸せを、一瞬で奪うものが交通事故です。
朝、元気に行ってきますと出て行った家族が、少し前まで一緒に話していた友人が、突然いなくなってしまう。
悪質な交通違反が絡む交通事故もありますが、交通事故の多くは、少しの不注意や確認不足で起こり得てしまうものです。
しかしその悲しみは、辛く耐えがたいものであり、当事者の方々にしか本当の辛さは分からないと思います。
私は、そんな悲しみを抱える交通事故の被害者や、その御遺族、御家族の方とこれまで何度も接してきました。
その度に、私にできる心からの被害者支援とは何なのだろうと、自問自答を繰り返しながら毎日仕事をしています。
今年私は、交通警察官として10年目になります。
交通警察官1年目だった頃と現在を比べると、人身交通事故の発生件数は大きく減少しました。
それは、高度な技術により自動ブレーキ等の自動車の安全性が向上したことや、運転者や社会全体の安全意識の向上、悪質な交通違反の厳罰化など、多くの理由があると思います。
人身事故の発生件数が減少したことに伴い、数十年前に比べると、交通事故により亡くなる方や、怪我をされる方も大きく減少しました。
悲しい交通事故が年々減少しているということは、交通警察官としてとても嬉しいことではあります。
しかし、交通死亡事故が0件ではないということも、事実です。
それは、大切な人が亡くなり、悲しい思いを抱えている方達が今も多くいるということであり、一概に嬉しいといえるものではありません。
私が初めて担当した交通死亡事故は、赤信号を看過して交差点を直進したバイクと、対向右折してきた普通車が衝突した交通事故により、バイクの運転者が亡くなってしまった交通事故でした。
その当時、私は交通警察官2年目で、初めての交通死亡事故を担当することになり、遺族の方への対応にとても不安がありました。
「私の説明で、遺族の方が不快な思いをされたらどうしよう。」
「悲しんでいる方から、どう話を聞けばいいのだろう。」
そんな不安を抱えていました。
遺族の方の事情聴取をするまでは、当時の上司がこまめに連絡をしており、私自身が遺族の方と話す機会はありませんでした。
上司が連絡を取っている中で、遺族の方は、いつも淡々とされており、落ち着いている様子だと聞いていた私は、
「きっと事故のことをもう受け入れているだろう。落ち着いて話をしてもらえるかもしれない。」と感じていました。
しかし、遺族の方と直接対面し、話を聞き始めると、その方は涙を流しながら、「優しく親思いな息子でした。高齢な私たち夫婦に、身体に気を付けなよ、と言ってくれたのが最後で、病院で対面した息子は、もう変わり果てた姿でした。現実を、受け入れられません。」
と、ぽつりぽつりと話されたのです。
その時に、私は自分がなんて想像力に乏しかったのか、浅はかな考えをしていたのかと、初めて気付いたのです。
大切な人が亡くなってしまった現実を、簡単に受け入れられるなどないはずなのに、捜査をすることに意識が向いてしまった私は、遺族の方の気持ちを想像することができていませんでした。
また、私には、大切な人を交通事故で亡くした経験はありません。私が遺族の方にかけるどんな言葉も、きっと遺族の方にとっては、表面だけの、軽い言葉になってしまうと思いました。
ですから私は、とにかく遺族の方の話を聞きました。
自分の感情は言わず、聞くことを大切にしました。
そして供述調書の読み聞かせの際は、遺族の方の辛く悲しい思いに耐えきれず、涙を流す遺族の方と一緒に泣いてしまいました。
警察官として感情を我慢できなかった結果です。
それは、正しいことではなかったかもしれません。
ただ遺族の方は、最後に私に対し、
「話を聞いていただき、ありがとうございました。」
と言ってくださいました。
その時の経験は、警察官として、捜査ばかりに意識を向けるのではなく、一人の人として、辛い思いを抱える方とどう向き合うか。
その事を常に忘れないようにと思う、大きなきっかけとなりました。
また、私が経験した交通事故で、被害者支援についてよく考えるきっかけとなった事があります。
私たち交通警察官は、車両と横断歩行者等の交通死亡事故等があると、被害者の方が着ていた衣服を一度お預かりし、実況見分をする必要があります。
それは、被害者の衣服がどれくらい損傷してしまったのか、被疑車両が被害者の方のどこにどんな風に衝突したのか、などを明らかにする必要があるからです。
衝突の時の速度や状況によっては、衣服は大きく破けたり、被害者の方の血痕が付いてしまったり、損傷は激しいものとなります。
他の警察官が担当の交通死亡事故で、初めて衣服の実況見分を実施した際に、当時の上司が、終了した後の衣服を1枚1枚綺麗に畳み、そして、1枚ごとに綺麗に袋に入れているのを見ました。
初めて捜査に携わった私は、なぜここまで上司がするのか不思議に思いました。
その時に上司は、私に対し
「この服は被害者の方が最後に着ていた大切なものだ。事故の前に戻すことはできないが、せめて少しでも綺麗にして遺族の方にお返ししよう。」
と教えてくれたのです。
その後、遺族の方に捜査協力のお礼とともに衣服をお返しした際、遺族の方は
「こんなに綺麗に袋に入れて頂き、ありがとうございます。」
と言っていました。
その時に私は、本当に小さな心遣いでも、遺族の方にとってとても大切なものになるのではないかと、上司のおかげで分かったのです。
他にも、私はこれまで何人もの被害者や遺族の方と接してきました。
しかし10年目の私には、未だに被害者支援とは何なのか、何が正解なのか、は分かっていません。
私は、これが正解だという被害者支援は無いのだと思います。
なぜなら、一人一人の気持ちや感情は、その人それぞれで違うものであり、状況や環境でも大きく変わるものだからです。
正解を決めてしまえば、一つの対応しかできなくなります。
ただ、絶対に間違いないものは、相手の方の気持ちを自分に置き換えて想像し、考え続けるということです。
ですから私は、正解が分からないからこそ、今後も私自身にできることは何なのかをずっと考えながら、被害者や遺族の方に寄り添っていきたいです。

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