1 相談及び情報の提供等(基本法第11条関係)
手記 犯罪被害者の思いを繋ぐために
小山市役所 市民生活安心課
主事 千葉 大輝

私は、令和2年度に小山市職員に採用され、市民生活安心課に配属されました。
そこで私は、市民安全相談係員として、被害者支援や市民の方々からの相談などの対応を行っています。
○ 小山市における取組
小山市では毎年、隣接する野木町、管轄の小山警察署、白鷗大学被害者支援学生ボランティア「ひまわり」と共催で、犯罪被害者等の置かれている現状や支援の必要性・重要性について住民に周知し、犯罪被害者支援の輪を広げ、より充実した支援活動が推進されることを目指し、犯罪被害者御遺族、警察、被害者等の取材経験があるメディア関係者等による講話や犯罪被害者等の支援に関するパネル展示などを行う「犯罪被害者等支援市町民のつどい」を開催しています。
この「つどい」は、自らも犯罪被害の御遺族である「被害者支援センターとちぎ」の和氣みち子さんの講演を聞き、「犯罪被害者等支援の必要性や現状をより多くの住民に知ってもらいたい」と発起した小山市の若手職員の提案により、平成23年度から始まりました。
残念ながら令和2年度と3年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で、開催することができませんでしたが、私も学生時代は、被害者支援学生ボランティア「ひまわり」の一員として「つどい」に携わり、例年、多くの方にご来場いただいていました。
○ 小山市犯罪被害者等支援条例の制定
令和2年度以降、新型コロナウイルス感染症の影響により、例年と同様のイベントの開催などが困難となりましたが、小山市では、活動が出来ない期間を犯罪被害者等施策について検討する機会と捉え、犯罪被害者等支援条例を制定する方針を決めました。
条例制定に向けた検討委員会を発足させ、被害者支援団体、警察、検察、弁護士、医師会、白鷗大学、市民代表者、市議会議員の方々に委員を務めていただきましたが、いずれの委員からも「この条例は被害者の声を第一に」との意見をいただき、具体的支援として見舞金の支給や市営住宅の入居要件緩和などの制度を取り入れることとなりました。
また、「見舞金を申請する際、住民票や死体検案書、診断書などの必要書類の費用を被害者に負わせないで欲しい」という意見をいただいたことから、住民票については、申請者の同意を得て、市が住民票を確認することで、申請書類への添付を省略できることとしました。犯罪により亡くなられた方の死体検案書料や、傷害を負った場合の診断書料は、栃木県警察において公費で負担していることから、これら制度を利用することで、見舞金申請時に必要となる書類の費用負担をなくすことができました。
このような検討を経て、令和3年4月1日、小山市犯罪被害者等支援条例が施行されました。
○ 総合的対応窓口での被害者応接
条例制定後、見舞金支給対象となる傷害事件が発生しました。犯罪被害に遭われた方が来庁される前に、管轄の小山警察署と、犯罪被害に遭われた方の要望事項の引継ぎや来庁日時などについて綿密な調整を行いました。また、来庁時に犯罪被害に遭われた方が事前に申し合わせた番号を窓口職員に伝えることで、周囲の一般来庁者に聞かれることなく個室に案内するなどの対応を取りました。
犯罪被害に遭われた方に対応する前、上司からは「自己紹介をすること」、「犯罪被害に遭われた方が話しているときは傾聴に徹すること」、「犯罪被害に遭われた方になぜこの質問をするのか理由を必ず説明すること」などの助言を受けました。この助言を念頭に置いてお会いしましたが、犯罪被害に遭われた方はまだ事件の発生から間がなく、顔は腫れ上がり、治療の跡が痛々しく残っていました。私は、犯罪被害に遭われた方が被害時に受けた恐怖を思うと、何と声をかけてよいのかもわからず、淡々と見舞金の申請手続の説明をすることしかできませんでした。
それでも犯罪被害に遭われた方からは、「市役所と警察が段取りをしてくれたので、安心して申請に来ることができました」、「何もわからなかったから色々丁寧に教えてもらえて助かりました」と感謝の言葉をいただき、被害者支援に限らず、誠意をもって、相手の心情に配慮し、話を聞いたり、説明をしたりすることが大切だということを学ぶことができました。
○ 被害者支援に当たる自治体職員として思うこと
犯罪被害は、本人がいくら気を付けていてもゼロにすることは難しく、また、被害から立ち直ることは容易ではありません。
条例を制定することで、犯罪被害者やその御遺族の方々の精神的・肉体的・経済的負担等が必ずなくなるとは言えませんが、犯罪被害に遭われた方が支援を受けることができる体制を整えておくことが自治体として重要であると考えております。
採用1年目から、条例制定といった貴重な経験ができたことは感慨深いものがありますが、被害者支援を行うに当たって条例の制定は一つのきっかけにしかすぎません。今後も時代の要請に応えながら、犯罪被害に遭われた方々に必要な支援を継続していきたいと思います。

