性犯罪は、「魂の殺人」とも呼ばれ、被害者の尊厳を踏みにじる悪質な犯罪です。被害者は、身体的にはもちろん、精神的にも大きなダメージを受けています。心理的、社会的な何らかの反応(「1. 犯罪被害者等の抱える様々な問題 1-2 具体的に困難な状況 (1)心身の不調」参照)が現われる場合が多く、PTSDに加え、うつ病やパニック障害等を併発することもあります。また、刑事手続が進むことで、被害者は事件のことを想起せざるを得なくなり、精神的負担が増大します。影響が深刻な場合、恐怖症、アルコールや薬物への依存、対人関係の障害、自傷行為や自殺行動などに至ることもあると言われています。
また、被害者にとって、男性に対する恐怖心がある場合もありますので、その時は、女性の支援者が対応することが必要です。
早期解決・回復のためには、すぐに警察に相談することが重要です。しかしながら、性犯罪の被害者は、羞恥心や恐怖心から、被害の届出をためらう場合が多いため、警察でどのような対応がされるか説明する、支援者が警察まで付き添うなどし、被害者の不安の軽減に努めることが重要です。
警察への届出の重要性や支援について説明した上で、なお届出に消極的な場合には、届出を強いるのではなく、本人の判断で決めることが大切であることを伝えることが重要です。警察では、本人の希望に応じて、できるだけ女性警察官が対応するようにしています。
性犯罪は、親告罪(告訴がなければ起訴できない)にあたるため、近年まで原則として犯人を知った日から6か月経過後は告訴することができない(刑事訴訟法235条1項柱書本文)とされてきました。しかし、強制わいせつ罪、強姦罪、わいせつ・結婚目的略取・誘拐罪等に係る告訴については、被害者が精神的ショック等から告訴するまでに時間がかかることから、平成12年の刑事訴訟法改正で、告訴期間の制限がなくなりました。
被害の状況や犯人像などを聞かれる他、現場の確認や証拠品(当時着ていた服など)の提出を求められる場合があります。
警察では、被害者等の「パトカーや制服警察官が家に来られたら困る。」「女性捜査員に話を聞いて欲しい。」等の希望に応じるよう配慮しており、証拠採取に関しては、専用の用具や着替え等が入った証拠採取セットを使用したり、被害状況を再現する必要がある場合には、ダミー人形等を使用するなどしています。
すぐに警察に届け出ることに消極的な場合でも、治療や緊急避妊、犯人の体液等証拠採取や性感染症の検査のため、婦人科等の検診を受けるように勧める必要があります。その際、受診の必要性について本人によく説明し、理解を得ることが重要です。
被害から72時間以内であれば、服用により、妊娠を回避することができます。服用開始が遅くなるほど回避の成功率が低くなるので、被害後すぐに受診することが重要です。また、警察署に届け出れば、診断書料、初診料、検査費用、緊急避妊費用等を公費で負担します(4. 各機関・団体における支援業務 (3) 警察参照)。
産婦人科(日本家族計画協会HP参照:http://www.jfpa.or.jp/)(4. 各機関・団体における支援業務 (28) 医療機関)
被害直後の場合には、婦人科において、犯人の体液等を採取しておくことで、後に告訴することとなった際に、証拠となります。ただし、入浴等してしまうと採取できない場合があるので、すぐに受診することが重要です。
産婦人科(すべての病院で対応できるわけではないので、可能な限り警察署を通した方がよい。)(4. 各機関・団体における支援業務 (28) 医療機関)
被害者の精神的負担軽減のため、診療の際に、支援者が付添いを行います。
民間被害者支援団体(4. 各機関・団体における支援業務 (6) 民間被害者支援団体)
HIV抗体検査、クラミジア抗体検査、梅毒血清検査が無料・匿名でできます。
保健所(4. 各機関・団体における支援業務 (24) 保健所)
裁判においては、被害者の精神的負担の軽減のため、以下のような制度があります。
性犯罪の被害者が法廷で証言する際、状況に応じて、心理カウンセラーや親・教師などが付き添うことが認められており、民間団体の支援者や検察庁の被害者支援員が付き添うこともできます。また、事案によりますが、加害者と顔を合わさないようにするため、裁判所において、遮へい措置をとったり、ビデオリンク方式による尋問を行うこともできます。さらに、公開の法廷において被害者の氏名などを明らかにしない措置をとることもできます。
検察庁(4. 各機関・団体における支援業務 (11) 検察庁)、裁判所(4. 各機関・団体における支援業務 (9) 地方裁判所・簡易裁判所)、民間被害者支援団体(4. 各機関・団体における支援業務 (6) 民間被害者支援団体)
精神的なショックが非常に大きく、支援者には特段の配慮が求められます。対応が困難な場合には、専門機関・団体における相談を勧めることも重要です。
各種性犯罪被害相談電話、性暴力問題に特化した民間被害者支援団体(4. 各機関・団体における支援業務 (42) 性暴力に特化した民間被害者支援団体)