平成16年12月に「犯罪被害者等基本法」が制定し、1年後の平成17年12月に「犯罪被害者等基本計画」が閣議決定され、わが国における犯罪被害者等に対する施策は、制度上は新しい一歩を踏み出した。その中に国民の理解を高めるための施策も含まれている。それを進めるための基礎資料として調査が行われた。
国民の理解の程度を広く知るための調査は、平成18年度に続き2回目であるが、調査の結果を精査していく中で、いくつか注目すべき点を見いだすことができた。その中で特に3点を紹介したい。まずは国民一般が思い描く「被害者」は、大半が暴力犯罪の被害者であり、実際の出現率からすると1割にも満たない人たちである。国民の多くは、犯罪の被害者と直接遭遇する機会は少なく、情報の大半はテレビや新聞といったマス・メディアであり、そこで繰り返される事柄を通して犯罪被害者の像をイメージするのである。情報を提供する側がどのような事件をどのように伝えているかによって、国民一般が被害者に対してく抱く思いや理解は、実態と大きくずれていく危険性があるのである。本調査の結果から、メディアの犯罪報道のあり方に1つの警鐘を鳴らす必要があるように思われる。
次に国民一般の中で、被害者支援に関心があり、被害者の意見を聞く機会を積極的に持ちたいと思っている人たちの存在に注目した。国民は、犯罪の被害者について考えることが少ないが、その中で積極的に被害者のことを知り、理解したいとする人たちはどのような生活を送っているのだろうか。調査から明らかになったことは、かれらは被害者支援に関する用語(二次的被害、犯罪被害者給付制度、被害者参加制度)に対して理解があり、また地域社会に対して一体感を強く持ち、積極的に活動している人たちである。実はかれらは「重犯罪にまきこまれる不安を持っている人」でもある。社会の中で、リスク社会の特性を認識し、それに対して前向きに対処する1つの道として被害者への関心を高め、積極的に理解を深めようとしていることがわかった。
最後に、加害者との関係である。犯罪被害と一口に言っても、それは身体・経済・精神の領域に及び、また加害者の人格や立場、犯行の方法、加害意識、加害者との面識の有無など多様な要因によって形成され、その回復に必要とする要素もそれらと深く結びついているために、非常にセンシティブなものであることを充分理解しておかなければならないが、その関係性を避けて通ることはできない。本調査において明らかになったことは、「加害者の言動・態度」は犯罪被害者等に苦痛を与え、回復に支障をきたしていると国民一般から思われているだけでなく、被害者にとってもそうであったが、一方で被害者にとっては国民一般が思う以上に「加害者からの謝罪」が回復に有効であったことが示されている。被害者の回復が進むか停滞するかは、加害者の言動・態度が大きな鍵を握っていると考えることができる。裁判に被害者が参加する制度が発足した中で、それが被害者にとって有効なものになるためには、加害者との関係をどのように構築していったらよいかは、早急に求められる課題であろう。
今回の調査に携わって学んだことは、犯罪の被害者といっても様々であるが、被害者に共通していることは、このような調査に向かいあう時に、事件のことを尋ねられるわけであるが、それが5年前であっても15年前であっても「あの時の被害の想いという1点」を強く意識させられ、まさにその被害と共に時間の経過を重ねてきたことを思い返すのである。一方、国民一般は、調査を依頼されるその時点で「被害者のことを考える」のであり、両者の間には「考える範囲と時間的経過」において大きな隔たりがあることを認めなければならない。今後、犯罪被害者への国民の理解を深めていくためには、国民一般は、まずは「被害者がどのような想いで生活をされているか、そのことをありのまま知る」ことが必要である。それが国民一般の心情や想いとは異なっても、どちらかが一方に寄り添っていくというよりは、両者の相違点を認め合い、その上で「人間としての誇り・生き甲斐・幸せを求める基本的な権利」といった共通点を見いだし、それに向けての歩みを共に重ねていくことではないだろうか。そのような姿勢で、前に向かって進んでいきたい。