長崎大会:パネルディスカッション

「身近にある被害の落とし穴」~人間関係上のトラブルと社会化と相談先~

コーディネーター:
前田 和明(公益社団法人長崎犯罪被害者支援センター理事長)

パネリスト:
前川 希帆(基調講演者)
中村 明夫(基調講演者)
飯田 直樹(長崎県弁護士会弁護士)
岩木 浩(長崎県警察本部広報相談課犯罪被害者支援室長)

(前田) 皆さん、こんにちは、前田でございます。よろしくお願いいたします。

 前段、非常に感動的なお話も伺いましたけれども、後半のほうではタイトルにございますが、「身近にある被害の落とし穴~人間関係上のトラブルの社会化と相談先~」というお話、4人のパネリストの方と限られた時間ではございますが、考えていきたいと思っております。

 私、長崎犯罪被害者支援センターを預かっておりますけれども、普段は精神科の病院を中心にいろいろな人間関係に関わっております。いろいろありますけれども、人間関係のいろいろな複雑化といいますか、社会化ですね。誰ともしゃべらずに1週間暮らせる人はいないわけでありまして、自分とそれから相手、これはもう家族であろうが、学校の友達であろうが、職場の仲間であろうが、言葉を交わしたときから人間関係はできてくるわけですけれども、その中でいろいろな人間関係の構造といいますか、私なりに考えてみました。ちょっと【スライド2】で見ていただきたいと思います。

 何か怪しげなピラミッドが出てきておりまして、裾野が広いこの辺の部分は、家庭でも学校でも、どこにでもありますよ、ということであります。だんだんいろいろな問題が社会化していきますと、少し専門的な第三者の介入、相談をするということでもって問題が解決していくというような状態になっていきはしないかというふうに考えております。

 1対1の人間関係、これはもうとにかく私も含めまして、皆さん、誰でも経験していることであります。自分と相手との間には、「我慢と自己主張」ですね。我慢しっ放しですと自分が折れてしまいますし、自己主張が強過ぎますとトラブルになります。これがもうちょっと問題が社会化していきますと、「自傷と他害」ということになってまいります。「自傷」というのはどういうことかといいますと、読んでの字のごとくです。自分を傷つけてしまう。人間関係がゆえに自分を責めて、あまりよろしいことではありませんが、自殺をしてしまうということもあるかも分かりません。それから、「他害」。これは今日のテーマにもなっておりますけれども、いろいろな犯罪につながってくる行動化でありますね。何とかこういうことが起こらないように食い止めたい部分ではありますけれども、実際、人間関係がこじれてきますと「自傷と他害」ということになってまいります。

 そして、究極の人間関係というか、一番まずい人間関係は、おそらく今日のテーマでございます「被害と加害」という、こういうことになってしまうわけでありますね。先ほど講演者がおっしゃっていましたように、「何で自分がこんな目に遭わなくてはいけないのか」と。理不尽ですね、これは。わけが分かりません。そうなりますと、ここまで行きますと、本当にいろいろな人、あるいはいろいろな専門機関によってお手伝いをしていきながら、生活を取り戻す、あるいは生活が取り戻せない場合もあるかも分かりませんけれども、それでも何とか生活の回復を図るというようなことになってくるわけであります。

 いろいろ申し上げましたけれども、難しいことではございません。まず、第1点が犯罪被害ということは他人事ではございません。今のコロナと同じではありませんけれども、いつ、誰がそういうふうになるか分かりません。それから、なりたくて被害者になる人なんか、一人もいないわけであります。その辺のところを、私らはつい生活の中で忘れがちなのですけれども、ぜひこの機会に、自分もそうなるかもしれない、自分の家族もそうなったらどうしよう、というふうに置き換えて考えていただきたいというのが一つでございます。

 それからもう一つ、長崎県の条例、それから各市・町でもそういう条例が今できておりますけれども、何かあった場合には、とにかく第三者に相談をしていただいて、そういう条例みたいなものもございますので、一人で悩まずに解決する道が少しずつできつつあります。十分ではありませんけれども、確実にここ数年、そういう動きが高まってきておりますので、ぜひ何かあったときは相談していただきたい、この2つをディスカッションに先駆けて、ちょっと印象を残しておいていただければと思っております。

 それでは、早速、今日は限られた時間で時間がございませんけれども、想定事例を2つ用意してございます。

 その想定事例でそれぞれのお立場から、この辺の部分もあるかもしれません。例えば、学校でこういうことがあったよということがあるかもしれない。それから、実際にいろいろな専門相談みたいなものがあって、法律的にはこうなっているよというようなところもあるかもしれません。それから、全体通して言えば、一番、被害者、そのそばにいるのはやはり警察なんですね。警察の方にお世話になっていることは非常に多いのですけれども、今は被害者支援まで警察のお世話になるということもありまして、それぞれのお立場からその想定事例に沿いまして、自由に御発言いただきたいと思っております。

 それでは、早速、第1題目、いってみたいと思います。

 インターネットの話ですね。皆さん、御覧いただけると思いますけれども、私が読ませていただきます。

 事例1「インターネットから発展した事件」【スライド3】

 県内の高校に通うA女は同級生のB男と交際していたものの、B男の「自分の気に入らないことがあれは暴力を振るう」という性格に嫌気がさして交際関係を解消した。交際を続けたいB男はA女に復縁を求めるメール・SNSを頻繁に送付していた。A女はそれを無視していたところ、B男は「A女は男好きの変態だ。人間のクズ」等とA女を誹謗中傷する内容のメッセージを不特定多数の者が閲覧可能なインターネットサイトに掲示したほか、A女宅に動物の死骸を送り付けるなどの嫌がらせを行うようになった。それからしばらくして、A女は下校途中にA女の後をつけていたB男にナイフで刺されて死亡した。なお、A女は学校や警察にも相談できていなかった。

 というケースであります。

 実際の事件も下敷きにしておりますけれども、こういうふうに殺されてしまうほどまではいかないにしても、今、インターネットでのいろいろな問題というのは皆さんの身の回りにたくさんあると思います。こういうケースなんですけれども、学校のほうでいかがでしょうか、前川さん、中村さん。

(前川) そうですね、学校でもやはり若い子たちのSNSとかインターネット、携帯とかを使う状況というのは多く見られているかなというのはすごく感じるんですけど、学校としてはこういうことがあったときに、このA女さんは誰にも相談できていなかったということなので、この子がどういうふうに苦しんでいるのかというのは学校の立場、関係者の立場としては気付くべきところがポイントだと思います。もし万が一こういうことが起きた場合、学校としては担任や生徒指導担当者が主に関わっていくと思います。

(中村) まず、相談しやすい雰囲気づくりが学校に求められますね。あと、本人が言わなくても、気付いている友人から、担任に限らず、部活動の顧問であるとかその他の先生が、相談をしやすい人間関係をつくっておくことは学校がやるべきことかなと感じます。

 あと、最近あるのが、深刻じゃなくても担任に相談をしたと。それを担任が「ふーん」と聞いて、他の教員に共有しなかったり、管理職である校長、教頭とかに話を上げていなかったということが見受けられます。それが大きくなったときに、本人は学校に相談をしていた、ところが担任は個人的に聞いたつもりで、学校の組織の一員として聞いたという認識がないということです。特に生徒と年齢が近い若い教員にそういうのが多いです。例えば前川は若いので比較的生徒が話がしやすいと思います。ちょっとした相談でもきちんと情報を共有して、ちょっとした問題でも組織でちゃんと対応を考えていくということが大切かなと感じます。

(前田) 今教えていただいたように、まず、初期の窓口というのは担任の先生なんでしょうね。もし、そういうふうに相談して、相談に乗っていただいて、ある程度動いていただいた。例えば、具体的には相手の子に注意するということで止まればいいのですが、止まらなかったり、それからそういう騒動が長引いたり、それから学校の中で刺されるということはなかなかあれなんでしょうけれども、更に行動がエスカレートしたような場合というのは、今、学校から考えられる相談先というのはどんなところでしょうか。

(前川) 学校以外のところとなると、スクールカウンセラーや警察といった外部の方に相談してというふうに思っています。

(中村) まず、やはり本人と保護者の同意が必要になってくるので、この事例であると、SNSのメッセージを送り付けるとかであれば生徒指導の範囲で、正しいマナーあるインターネットの利用ということで指導ができるし、それに攻撃的なメールを加えているのであれば、より厳しい指導というものを考えられます。しかし、動物の死骸を送り付けるとかなったときなど、学校では目の届かないところになってきたときには、やはり保護者ときちんと情報を共有して、学校の中でできる対応としては先ほど前川が申しましたようにスクールカウンセラーであるとか、スクールソーシャルワーカーに相談します。あと加害者の心情にも心配りが必要ですね。加害者が、なぜそのようなことをするのか、彼女との関係だけでなく、もしかしたら家庭にも、彼女に依存しなければならない事情があったりするかもしれません。加害者、被害者と共に観察をしっかりして、そしてそれに適した外部への相談を、管理職を通じてという対応になってくるかと思います。

(前田) 実際、例えば、先生方の学校でよろしいのですが、こういうスマートフォンだとかインターネットだとかの持ち込みというのは、今、どんな感じなんですか。

(中村) 今、実は長崎県が全国で数少ない県立高校は全面持ち込み禁止です。けれども、実情はほとんど持ってきており、黙認している形になっています。しかし、校内で使用しているところを見つけると預かり指導というふうになっています。ただ、やはりこのような御時世でありますし、コロナの影響で緊急に午後から下校させるということもありました。そういうときに、学校に2つくらいしかない固定電話回線で数百人の家庭と連絡をとるということは不可能ですので、今、学校の実情に応じて持ち込みを認めているところがあります。今まで以上に、正しい、適切な利用方法とかをきちんと指導していかなければならないなという、今、そういう場面になっております。

(前田) はい、ありがとうございました。やっぱり学校の中ではある程度の生徒指導を中心とした部分に限りがあるのは、これはもうしようがないことなのかも分かりませんけれども、外部に確実につないでいただくということも大事かなと。それから、お話の中で出ておりました、やはり本人と保護者の承諾ですね。それから、そういう「困り感」みたいなものがないとなかなか外部につなげないという現状もあるようです。

 そして、もう一つ言えば、最後に中村先生がおっしゃっていましたけれども、長崎の現状から見ますと、今からやはりスマホの問題はますます出てくるのかも分からないのですけれども、ただ、禁止するだけではなくて正しい使い方を指導するといいますか、その辺についての目配りというのも今から大事になってくるのではないかというお話でございました。

 それでは、続きまして、飯田先生、弁護士の立場からということなのでありますけれども、一応、すみませんがコメントをいただいてから私のほうから質問させていただきたいと思います。お願いいたします。

(飯田) この案件、メッセージとか、あと動物の死骸が送られてきている段階で、弁護士のほうに相談に来てもらえるような状況になれば、あとはこれはストーカー規制法の対象になるんじゃないかというふうに率直に思いますし、その場合は一緒に警察に同行したりとかして、被害届を出すなどの対応はできるかなというふうに思っています。

 ただ、どうしても学校でのトラブルとか被害の事件とかを対応していると、学校があんまり公にしたくないというのがあるのかなという感じがしていて、どうしても先生からしたら、加害者も被害者も、多分、生徒なんですね。両方とも生徒である以上は、こっちが悪者で、こっちが被害者で、こっちの被害者にだけ「ちょっと警察に相談に行きなさい」とかいうのはなかなか言いづらいのかなというのが実際に対応していて思うところですね。

(前田) はい、ありがとうございます。やはり、どっちかといいますと被害が出てから、被害届あるいは事件化してから弁護士の関与というのは一般的かなというふうに考えるのですけれども、そこまでなる前の何か相談の窓口のようなものがありましたらぜひ教えていただきたいと思うのですが。

(飯田) 例えば、学校の先生がそういう話を聞いたら、今、スクールロイヤーと言って、学校で先生から、例えば保護者の方の対応とか学校内でのトラブルに対する相談を受けるという広まりは徐々に広まってきています。それが個人で、例えば御本人とか、その親御さんがということであれば、弁護士会だったり、法テラスに相談の電話をしてもらえば、そこで担当の弁護士につないで相談を受けられるという状況にはなっています。

(前田) その辺のところが、私がよく知らない部分でございますので、何か弁護士さんというと敷居が高いようなふうに考えられている方もおられるかも分かりませんけれども、きちんとしたそういう契約による法律相談じゃないにしても、やはり法的な知恵なんかは貸していただけると思いますし、今、お話の中にございました最近の新しい役割ですけれども、スクールロイヤーという方が、各学校ではありませんが、学校を担当して、いろいろそういうトラブルに対応していただけるということでございますので、この辺も大いに活用するべきではなかろうかという気がしております。

 それから、あまり考えたくないのですが、この事例はとうとう大変なことになってしまったという事例なのでございますけれども、中長期的な弁護士としての支援といいますと……。具体的に教えていただいたらいいと思いますけど。

(飯田) まず、事件が起こって、一番先にやらなければいけないのはメディア対応になるかと思います。特に高校生の案件だと、その生徒の写真を公表されるかどうかとか、例えば葬式、お通夜にマスコミが駆け付けるかどうかとか、そういったところをきちんと防がなければいけないというのが一番最初にはなってくると思います。

 そういったところを対応した上で、ある程度、落ち着いてきたら、少年事件にはなると思うのですけれども、少年審判とか、その親御さんに対する慰謝料の請求とか、御本人に対する慰謝料の請求とか、そういった形のことを進めていくということになると思います。

(前田) もうここまで来ますと非常に重たくて、頭を抱えてしまいそうな部分ではありますけれども、ここまで来る前に何とか相談ができれば、そして食い止めることができればというふうに思っているところであります。

 先ほどもちょっとお話ししましたけれども、警察は一番、被害者さんのそばに、事件が起こったときから寄り添ってということでございますので、非常に広範囲になりますけれども、まず警察がこういう事件が起こりましたときに、初期の段階で対応できることを教えていただきたいと思いますが。

(岩木) そうですね。まず、警察においては、この様なケースでは、当然、事前に相談があれば殺人事件等の大きな被害が出る前に、相談の段階で適切な助言・指導を行ったりとか、様々な身の安全を第一に考えた対応をとっているところです。今回、不幸にも相談もなく、そういったストーカー的な行為から殺人事件に至ってしまったということですので、警察のほうではコーディネーターのほうからもお話があったとおり、犯罪被害の直後から被害の届出や事情聴取とか、また被疑者の検挙等を通じて、犯罪被害者等と最も身近で密接に関わっておりますし、犯罪被害者等を保護する役割を担う機関でありますので、特に犯罪の発生直後から犯罪被害者等の視点に立った二次被害防止、また軽減のための各種支援・施策の推進に努めているところです。

 事例の発生後の初期的支援ということですが、まずは警察としては直ちに捜査活動に入ると同時に、被害者の両親、兄弟姉妹等の御遺族に対する二次被害防止等のために被害者支援活動を開始することとなります。想定される警察での初期支援の主なものとしては、まず御遺族に捜査員と別に指定被害者支援要員という者が2名一組でつきまして、まずは自己紹介の上、被害者支援要員であることを告げて、『被害者の手引き』というのがありますので、これを交付して刑事手続の概要や犯罪被害者等が利用できる制度、また各種相談機関等について説明を行います。また、御遺族への事情聴取時には、御遺族の心情に十分配した聴取に心掛けるとともに、先ほどの支援要員が御遺族に付き添うことで安心感を高めて、御遺族の心身の負担の軽減に努めます。

 それで、事例は高校生の殺人事件ということで、先ほど飯田弁護士のほうからもありましたけれども、やはり報道が過熱することが想定されますので、まずは御遺族からの取材自粛要請に基づきまして、コーディネーターの前田理事長が所属されている長崎犯罪被害者支援センターにつないで、当センターを介しまして飯田先生等の犯罪被害者支援に精通された弁護士さんを御遺族に紹介していただいて、その弁護士さんを通じた取材自粛要請を報道機関へ行うということを連携して行います。

 更に、通夜とか葬儀の際にも、やはり報道機関の過熱した取材であるとか、野次馬の参集なども想定されますので、御遺族や被害者の同級生等が故人を穏やかに送れるように、葬儀社のほうと連携して支援要員の配置であるとか、管理者側として取材自粛依頼の文章を掲示していただくとか、そこの職員さんに一緒に取材活動の自粛を声掛けしていただくなどのプライバシーの保護対策を連携して行うこととなります。

 そして、事例は最愛の娘、また、家族を亡くされた殺人事件でありますので、御遺族の精神的ショックは計り知れず、それぞれの精神状態また御意向に応じて、県警の部内の臨床心理士若しくは臨床心理士会所属の臨床心理士さんを手配して、カウンセリングによるメンタルサポートを行うこととなります。また、この支援のうち、先ほどの部外のカウンセリング費用であるとか、また今回、殺人事件ということになりますので、解剖等の措置が行われた御遺体に関しては、その後の葬儀社等までの搬送の費用とか、場合によっては報道機関の取材であるとかいろいろ周囲が騒がしく御自宅にはいたたまれないということで一時避難する際はホテル等の宿泊料についても公費で支出することで、御遺族の経済的負担の軽減を図るという支援を行うこととなります。

(前田) ありがとうございました。警察といいますと、要するに加害者のほうばかりにいろいろとかかるのではないかと思われている方がおられますけれども、そうではありません。今、お話しいただきました岩木さんは被害者支援室の室長さんなのですけれども、今お話の中にあったような、警察だけではなくて、外部のいろいろな機関とネットワークがございまして、そちらのほうでいろいろと連携をしながら、言ってみれば地域で被害者支援をする場合の一つのネットワークの核といいますか、言い方を変えますと、今流行りの言葉で言えば“ワンストップ”の役割を果たす、そういう機関にもなり得ているというところであります。

 初期からずっと中長期まで関わっていただくわけなんですけれども、中長期的になりますと、今お話ししましたような地域の外部のいろいろな連携先と本当に役割分担というのが大事になってくると思いますけれども、その中長期的な支援について、もう少しお話をしていただけませんでしょうか。

(岩木) はい、警察としても発生後、中長期にわたって支援を行っていくこととなります。事例が殺人事件でありますので、御遺族の精神的ショックは非常に大きく、深い悲しみや喪失感とか自責感の感情が長期間続くことが想定されますので、初期的支援から継続的にカウンセリングによるメンタルサポートであったり、報道機関等からの取材活動に対するプライバシーの保護活動をそれぞれ関係機関と連携して行っていきます。また御遺族が特に関心が高く、疑問や不安を抱かれる事件の捜査経過等についても部内で「被害者連絡制度」というのがありますので、捜査を担当する捜査員が被疑者の検挙とか送致、それから起訴などの捜査の節目節目に御遺族の意向を踏まえながら、情報の提供を行います。そして、裁判が始まれば、犯罪被害者支援センターとも連携の上、御遺族の裁判への参加、傍聴、また証人出廷の際に警察支援要員とセンターの職員さんと一緒に御遺族に付き添うなどの支援を行います。また、こういった裁判関係のいろいろな支援に関しましては、長崎地方検察庁や裁判所のほうでも同様の支援がありますので、そういった機関と連携して支援を行っていくことになります。

 それから、経済的支援としまして、現在、県内のほとんどの自治体で犯罪被害者等支援条例が制定され、その中でこういう犯罪行為によって亡くなられた被害者の御遺族に遺族見舞金というのが支給されるような規定が設けられておりますので、条例に基づく見舞金制度を御遺族に教示の上、関係自治体と連携して見舞金が速やかに支給されるよう、支援を行っていきます。

 また、人がお亡くなりになられたということで、様々な行政機関での手続がありますので、そういった場合についても各市役所、町役場と連携しまして、いわゆるワンストップで各種手続がスムーズに行えるように、事前に役所に警察のほうから申入れをして、御遺族の方がいろいろな説明を繰り返しする必要がないように、警察のほうから人定事項とかある程度の状況を御遺族の承諾の基、情報提供して、1か所で各種手続がスムーズに行えるように、役所と連携することで御遺族の精神的、また、肉体的負担の軽減を図るということを行います。

(前田) ありがとうございます。やはり、初期から中長期にわたりまして、大分長い間、警察のお世話になっていくというところがある。それからいろいろと行政手続等もありますけれども、もちろんそういう御家族を亡くされたりして感情的に非常に混乱している部分もあるのでしょうけれども、その辺の手続というのは、やはり着々と進めなければいけないわけですが、誰かが付いてきて一緒に手伝っていただくというようなことは非常に大切になってきまして、その辺の部分も今警察も協力してやっていただけるということでございます。

 それぞれの御立場からお話をいただきましたけれども、冒頭に私、申しましたように、ただでさえ、目の前の人間関係でさえ、いろいろとそういう摩擦がございますところに、今度は、仮想現実というか、インターネットを使いました、そういうことというのもますます複雑化していく部分というのがありまして、できましたら学校の中でいろいろと見つかったことを学校の先生にまず相談していただいて、程度とか、その期間、内容によりましては弁護士相談を学校の先生からしていただくという可能性も見えてきました。そして、本当はあってはならないことですけれども、この事例のように重大事件化しましたときは、初期から中長期にわたって警察が被害者のほうの支援もしていただけるということでございます。

 なかなか、別にこれは話をまとめて結論どうこうということではございませんけれども、事例1としまして、こういう事例が世の中に今から出てくると思いますけれども、こうなった場合にこんな感じですよというイメージだけ、ちょっとつくっていただければなという感じがしております。

 それでは、実は、もう1題、非常に身近な例を持ってきておりますので、これもちょっと皆さんと一緒に考えたいと思います。

 交通事故でございます。交通事故というのは、テレビで報道されない日がないくらい、ですね。本当はそれではいけないのですけれども、ここにも一つ例を持ってきておりますので、ちょっと読ませていただきたいと思います。

 事例2〔交通事故〕【スライド4】

 県内の高校に通うA男は、野球部での練習を終えて、帰宅途中にB女の車にはねられ下半身不随の大怪我を負った。A男をひいた車は交通事故現場から逃走したものの、警察の捜査によって運転手はB女と分かり、捜査の結果、B女は事故当時「飲酒運転」であることが分かった。A男は懸命のリハビリにより学校へ通えるようになったものの、野球の練習はできないので、次第に仲間と距離を置き、自宅に引きこもりがちになった、という感じですね、これ。

 被害が直接的な被害と、それ以降の被害といろいろ複数出ておるようでありますが、そうしたら、またちょっと御意見を伺いたいと思いますけれども、交通事故がこういうふうに起こったときに、前川さん、中村さん、学校で事故直後、初期の支援、どういうことが考えられますでしょうか。

(前川) そうですね、私自身も事故に遭ったときは、担任の先生がまず最初に病室に来てくださって、学校の状況であるとか、今、こういう状況だよ、ということを親身に話しに来てくれたおかげで、自分自身も安心することができました。学校がどういう状況かとか、自分のことがどういうふうに知られているのか、というのはすごく本人も気にすると思いますので、まずは担任や養護教諭がまず最初に一番話を聞くというのが良いかなとは思います。

(中村) あと、学校としては、まず医師とも相談をして、授業に戻れるようになるまでにどのように治療が進んでいくのか、いつごろ学校に戻って来れるであるとか、まず怪我を治すことを医者と相談しながら考えていくと思います。また、それに伴う学校設備ですね、例えば教室を1階にするとか、スロープを付けるであるとか、そういう生徒が回復して学校に戻って来ることを前提として、そのときに考えられる、まず設備的なことをきちんと整えておく必要があると思います。

 あとは、先ほど前川が申しましたように、本人があとは頑張って治療に取り組めるような、安心した環境づくり、心を支えていくということが学校としては重要と考えます。

(前田) ありがとうございます。自分が学校に行っていない間にどういう噂になっているかというのは、御自身の経験からいかがですか、何か気になることとかありましたか。

(前川) そうですね、自分自身も友達とかに携帯を使って大学の受験に行くときは「行ってくるね」という連絡をしながら、急に連絡が途絶えたわけです。同級生から「大丈夫?何かあったの?」と言われたときに、どう、こっちも返していいのかとか、自分が行っていない間にどういう状況になっているのかというのはすごく不安だったので、この事例だったら、自分がいない間にどういうふうになっているのか、どういう話がされているのか、というのは不安になると思います。

(前田) 中村先生、今度は、先ほどのお話の中にも少し出てきましたけれども、体が治って、ある程度、登校できるようになったとして、学校に来ていない部分、勉強を習っていないこともあるし、しばらくそういう部活も行っていないというので、友達関係もあるわけですけれども、具体的に、今、学校でできるような、こういう場合の学習支援というか、個別支援みたいなものはどの程度のことができるのでしょうか。

(中村) 長期に入院とかの場合は、定期的に担任が見舞うときに、プリントなどを準備し、本人が学校に戻って勉強したいなという意識を高めるために、授業に対して遅れることがないよう課題を渡します。それを点検し、必要に応じて専門の教科の担当が病院に見舞ってちょっと説明をしてあげたりして、病院でできる範囲で学習指導はやっているのが現状です。

(前田) おっしゃったように、体を治すことが第一番ですけれども、そのあとに、また学校という、帰って行ける場所に上手に、スムーズに帰って行けるようなそういう配慮、それから勉強についてのいろいろな補講といいますか、その辺の学習保障なんかも必要になってくるのかなという感じがいたします。

 それでは、飯田先生、すみませんが、交通事故と言えば、やっぱり弁護士さんというふうなところが出るみたいですけれども、まず初期に対応していただけることといいますと?

(飯田) この案件、飲酒運転なので、事故が起こって加害者の人は多分逮捕されると思うんですね。逮捕された後、加害者の家族とかが謝罪に行きたいとかいうところで、例えば入院して、手術して、なかなか落ち着かない状況で謝罪に行きたいとかいうことで、かなり積極的にアプローチをしてくる人とかもいます。そういった人に対して、「ちょっとまだ落ち着いていないから少し待ってください」「そんな事故を起こして、謝罪、ちょっと受け入れられません」とか、そういったケースできちんと被害者と加害者の距離を置くということは、まず初めにやらなければいけないことかなと思っています。

 野球をやられていたんですね。現実、考えると、目標、夢を失って、多分、茫然自失とするような状況だと思うので、あまり加害者の方が前のめりに接触をしてくるというのは避けてもらったほうがいいのかなというふうには思っています。

(前田) ありがとうございます。やはり、被害者支援を私どもがやっていても、その辺のところがあるんですね。謝罪に来たときに、被害者の方がどういうふうに対応されるかということで、なかなかすんなり、そういう謝罪を受け入れるような形というのは、あまり私も知りませんし、もっと言えば、加害者が謝りに来ることがほとんどないんです、これは。その混乱の中でそういう行為が起こった場合に、やはり第三者として弁護士さんが間に入っていただくというのは非常に役に立つことではないかという気がしております。

 中長期的にはいかがでしょうか。

(飯田) これ、大きく、交通事故の賠償の問題と刑事事件、刑事裁判の対応というところがあると思います。刑事事件に関して言うと、被害者や、この人は高校生なのでその親御さんが被害者参加と言って、刑事事件で実際に加害者、被告人に「何でこんな事故を起こしたのか」とか「何で飲酒したまま運転をしたんだ?」とか、そういう質問をしたりとか自分の意見を述べたりとか、これでどれだけ望んでいた未来が失われたかとか、そういった意見を述べるというような制度があります。

 それと、あと保険会社との賠償の交渉になってくると。下半身不随ということですので、後遺障害も含めて慰謝料の交渉とか、下半身不随の怪我にならなければ将来得られたであろう経済的な給料とか、そういったものの請求をしていくということがあると思います。

(前田) ありがとうございました。警察の対応なんですけれども、これ、さっきからも言っておりますけれども、とにかくそういう事件・事故の直後からずっとそういう被害者さんに一番近いところで支援をしていだたくというのが警察なのでありますけれども、初期の支援というとどういうことがありますでしょうか。

(岩木) この事例は、先ほど説明があったように、飲酒運転の上、救護義務を怠って逃走した危険運転致傷並びに道路交通法違反容疑事件でありますが、警察としては事例1同様に直ちに捜査活動に入ると同時に、被害者及び両親等の御家族に対する被害者支援活動を行うこととなります。

 まずは、事例1と同様ですが、被害者本人また御家族に対して指定被害者支援要員を捜査員とは別に2名1組で付けて、まず治療中と思いますので病院へ派遣して、治療の状況を見て『被害者の手引き』を交付し、それに基づいて先々の刑事手続や犯罪被害者が利用できる制度であるとか、今後のことについて説明することで被害者や御家族が、「先々どうなるのだろうか」と不安に思われることを少しでも解消するように努めます。

 また、どうしても捜査活動で被害者本人に事故の状況等の事情聴取の必要がありますが、被害者は重傷ですので、基本的にしばらく動けないと思いますから、その際には身体に負担をかけないように、捜査員が病院へ赴いて、時間や場所、また被害者の心情等にも十分配した聴取に心掛けます。そして、支援要員がその際も被害者に付き添って、いろいろと相談相手となり、ちょっとしたアドバイスとかしながら不安の解消に努めることで、被害者の心身の負担の軽減に努めます。

 また、被害者及び御家族の精神の状態、特に被害者本人は、野球ができなくなるとか、学校に行けるのだろうかとか、将来どうなるのだろうとか、いろいろな不安がありますから、事例1同様に臨床心理士を手配してカウンセリングによるメンタルサポートの支援を実施します。特に、こういった状況の被害者は、やはり大きな後遺症も残りますので精神的なストレスというのは長く続くと思われますので、カウンセリング支援は初期だけではなくて中長期にわたって行っていくことになると思います。

 そして、経済的負担についても、事例1同様に、診断書料等公費で支出できる分については公費で負担することによって、経済的負担の軽減を図るという支援を行っていくことになります。

(前田) ありがとうございました。中長期的なところの部分もお話をいただいたようですけれども、支援要員についてもうちょっとお話ししていただけませんでしょうか。

(岩木) はい、先ほど少し説明しておりますが、警察では、「指定被害者支援要員制度」というのを設けて支援に当たっているところです。これは各警察署と高速道路交通警察隊において、あらかじめ被害者支援の適任者を指定しておきまして、その中から支援対象事件とか事故が発生したときに、署長等が支援要員を指名して、事件発生直後から各種支援活動に当たらせるというものであります。現在、県下で22警察署と高速隊で合計約700 人指定して、適時、適任者を指定して支援に当たっているというような制度になります。

 それで、中長期的な支援としましては、加害者が検挙されて、その後、送致とか起訴、裁判と刑事手続が進んでいきますけれども、被害者及び御家族に対して、「被害者連絡制度」というのがあり、これは事件とか事故の捜査を担当する部署の捜査員が先ほどの起訴とか裁判の結果とか捜査状況等について、随時、被害者等に連絡をするというような制度になります。これによって捜査を担当する捜査員が捜査の節目節目に捜査経過の連絡を行うことで、被害者等の「先々、どうなるんだろう」という不安の解消に努めるということ。そして、裁判が始まれば、事例1と同様に被害者支援センターと連携の上で、被害者等の意向に沿って裁判等への付き添いなどの支援を連携して行うということになります。

 また、経済的支援に関して、各自治体の条例の見舞金については、通常、単なる交通事故ということでは該当しないのですが、今回、この事例については、故意の犯罪である危険運転致死傷事件ということになりますので、被害者の方が居住されている自治体に条例があれば、重傷病の見舞金の支給対象となると思われますので、事例1同様に見舞金の制度を教示した上で、関係自治体と連携して速やかにその見舞金が支給されるように支援を行うということになります。

(前田) ありがとうございました。今、事例1、事例2と通して、それぞれの御立場でいろいろな相談先、あるいはどういうことができるかというお話をしていただきましたけれども、ちょっと前のスライド(『人間関係の社会化と第三者の支援』)に戻りますが、先ほども言いましたように他人事ではございませんで、いつ、どこで自分にそういう犯罪被害というものが降ってくるかわからないわけでありますね。

 そうしますと、例えば、この辺、例えば友達関係、人間関係みたいな問題があったときも、やはりそういう当事者同士あるいは二者で解決できない場合がある。そうすると家庭や学校からどこに相談するのか、というところですね。今の2例の中にも出てきていましたけれども、まず学校であれば担任の先生あるいは生活指導の先生に相談をしていただく。そうすると、それが一つの解決の糸口になる。学校の中とかでおさまらないときはどうなるかというと、先ほども出ていましたけれども、スクールカウンセラーとかスクールソーシャルワーカーとか、あるいは保健室の先生とか学校医さんとか、その辺のところから弁護士さんにつながっていったり、いろいろな医療機関につながっていったりということが起こってくるというところでありますね。

 それから、今度は「自傷と他害」ですね。本当に事が起こってしまう、事件・事故が起こってしまって、そういうときにどうなるかといいますと、今度は外部のいろいろな機関がございますけれども、病院ですとか警察ですとか、それからここには書いておりませんけれども、もちろん弁護士さんも入ってくるわけですけれども、事件・事故の直後から警察がずっと関わっていただいておりますので、警察を一つの核としまして、いろいろなところとのつなぎ役みたいなものを警察も今やってもらっておりますので、どういうふうにつながっていくのか、あるいはどういうところにつなげていけばいいのかというところ、これ、先ほどお話ししました条例のところにも関係してくるかも分かりません。

 そして、本当はあまりあってはいけないし、考えたくない部分ではありませんけれども、本当に「被害・加害」ということになりますと、これは法律の問題にもなってまいりますし、弁護士の先生達の力をやはりお借りせないかんことになってくるわけですけれども、どういうふうにつなげていくのか。

 先ほどお話がありました。法テラスの問題でありますとかスクールロイヤーの問題ですとかありましたけれども、どういうふうにどこからつなげていくかというところですけれども、その端緒といいますか、まずやっていただきたいところというのが、とにかく誰かに相談をしていただきたい。被害に遭いましたら、自分で黙って我慢するのではなくて、解決をするために誰かに相談をしていだたきたいというところであります。問題を誰かに相談、そしてその相談がいろいろな専門機関ですとか、いろいろな役割、そういうところにつながりまして、そこから解決の糸口が見つかってくるということは非常に大事であります。

 相談先、この周知というのは非常に大事なところではありますけれども、これも身の回りのいろいろな社会資源ってけっこうあるのですけれども、皆様、なかなか御存じないと思いますけれども、いろいろな広報とかそういうものに付いております。それから、下に出ておりますけれども、長崎県の犯罪被害者条例、ごく一部だけ持ってきておりますけれども、こういうものが呼び水となりましたので佐世保市さん、それから長崎県が県全体でこういうのをつくられて、あとは各市・町が次々とこういう条例をつくっていただいております。

 犯罪被害の支援のいろいろな気持ちというのが今高まりつつあるところでありますので、ぜひ、この機会に皆さんも相談ができるのだ、ということをよくイメージしていただいて生活をしていただきたいなと思っております。この条例自体は今日は詳しく説明する時間はございませんけれども、こういうふうにしまして、被害者に関していろいろと支援ができる、味方がいるということであります。

 あっと言う間に時間が来てしまいまして、もうそろそろ終わりなので、もう一巡というわけにはいかないのですけれども、とにかく冒頭申しましたように、世の中のどこかに犯罪被害者という特別な人たちがいるわけではないのですね。人間関係の中から、それがこじれたり、社会化したりしまして、我慢と自己主張というものが自傷と他害、そして更には加害、被害というふうになってしまう場合も少なくはない。他人事ではないというのがまず一つ、繰り返しになりますが、それともう一つは相談をしていただきたい。相談をすることで、いろいろな解決の糸口が見つかる場合がございますので、ぜひ、今からはその条例も絡めまして、各行政機関等にもきちんとお話を聞いて、いろいろな機関につなげていただくような、そういうシステムができつつございますので、ぜひ御活用いただきたいというふうに思っております。

 何も結論の出るシンポジウムではございませんけれども、今日は4人のパネラーの方、特に前川さん、中村さんは前段の基調講演からお付き合いをいただきましてどうもありがとうございました。

 パネルディスカッションはこれで閉じさせていただきたいと思います。御清聴、どうもありがとうございました。

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