佐賀大会:パネルディスカッション

「私たちにできる犯罪被害者支援」

コーディネーター:
髙尾 兼利(西九州大学子ども学部子ども学科長教授、佐賀県臨床心理士会会長)

パネリスト:
姫野 敦秀(京都府警察本部交通部交通規制課長、元京都府府民生活部安心・安全まちづくり推進課長)
大岡 由佳(武庫川女子大学文学部心理・社会福祉学科准教授)
白濵 洋子(佐賀女子短期大学地域みらい学科准教授)

髙尾: 会場の皆様、こんにちは。ただ今より「私たちにできる犯罪被害者支援」ということをテーマに、パネルディスカッションを始めさせていただきます。

 まず、私が5分間くらい、今回のパネルディスカッションの趣旨、概要について御案内いたします。その後、パネラーの姫野様、大岡様、白濵様に5分間ずつ、それぞれの実践、研究、そこから出てくるこのテーマに関係する内容をお話しいただきます。一つ一つの発表に対して、私が幾つかの質問をさせていただいて、もう少し深めたりします。

 お三方の発表が終わりましたら、40 分間くらい、4人で今日の「私たちにできる犯罪被害者支援」について理解を深めるためのディスカッションをしますので、もし皆様方の方から御意見があれば、適宜、お聞きしながら議論を深めてまいりたいと思います。それでは、よろしくお願いいたします。

 最初の御挨拶にもありましたように、4月に、県の「犯罪被害者等支援条例」ができました。10 月には、誇るべき佐賀県全体の市町に同支援条例が施行されました。このようなことで、一応、制度ができ上がりましたが、そこに実効性のある支援、実際に非常につらい思いをされている、苦労されている、先ほどの本郷様のお話では、人間性を破壊されて、非常に苦しい生き方を強いられておられる方々への実効性のある支援をするためには、どのようなことができるだろうかという段階に即移っていかなければいけないという目標があります。

 すなわち、「実効性のある支援」というものがキーワードです。そのためには、具体的な細やかな支援はどうあるべきかということがテーマになってきます。その「実効性のある支援」のためには、まず、犯罪被害者の方が支援として何を求めておられるのかということについての理解をしっかりと、明確に、かつ、深める必要があります。そのためのパネルディスカッションでありたいと考えます。

 今日は姫野様においでいただいておりますが、京都府の中核となって市町へのいろいろな情報提供、などをお示しいただいて、その内容を御紹介いただきたいと思います。

 その次に、大岡先生です。この方は大学の先生でもあり、国の被害者支援についての制度的なことの企画にも携わっておられていまして、そこでの実効性のある犯罪被害者支援ということがどのようなものであるか、実態はどのようなものになっているのか、問題点は何か等々について、皆さんに御説明があると思います。

 最後に、白濵先生です。この先生は、先ほどの本郷様からの御講演にもありましたが、学校において命を大切にする教育ということで、まず保健室での、家族の中での被害に遭われた子供たち、社会の中で性的な被害に遭われた子供たち、また家族が犯罪の被害に遭われた、その子供たちの支援の中から、命の教育ということが大切であると、その中身について御案内いただきます。

 かつ、私たちができる犯罪被害者支援の究極のところは、犯罪被害者支援ということが、よりよい社会をつくることにどうすれば結びつくのかというところまで議論が深まれば、今日のパネルディスカッションは成功裏に終えるのではないかと思います。どうか皆様、よろしくお付き合いいただければと思います。有意義な時間にしていきたいと思います。

 それでは、姫野様、5分間よろしくお願いします。

姫野: 先ほど御紹介いただきました京都府警察本部交通部交通規制課長をしております姫野と申します。よろしくお願いいたします。私は今年の春まで京都府の知事部局におきまして、安心・安全まちづくり推進課長ということで、防犯・交通安全対策、被害者支援施策の仕事を知事部局の立場から2年間、経験させていただきました。

 本日は、昨年9月に、東京で開催されました「全国犯罪被害者支援フォーラム」のパネルディスカッションに、京都府から御意見をということで、パネラーとして出演させていただいたご縁で、そのときの話を是非ともということで、お招きいただきました。現在は、直接、被害者支援を所掌する職場ではありませんので、その当時の経験等を踏まえてという制約はありますが、この辺りを皆さんに御披露させていただければと思っています。限られた時間の中ですから、かいつまんでの説明になりますが、お手元に配布の資料は、こちらのパワーポイントの資料と全く同じものですので、随時御覧いただきながら、お話をお聞きいただければと思います。

 【スライド1】京都府では、おかげさまで被害者支援に関心・理解をお持ちの首長、あるいは警察を始め関係機関、団体の皆様の御努力のおかげで、かなり早い段階から条例の制定が進みまして、平成26年4月には、府内26 市区町村に条例が制定され、その全てに窓口も設置されました。

 その一方で、被害者や御遺族の方が市町村の窓口を訪れるケースは、まだ非常に少ない状態です。京都の被害者支援団体であります被害者支援センターに窓口業務を委託されている京都市を除きますと、28 年度は、窓口の相談件数が7市の22 件のみ、面接相談に限りますと6市の12 件のみという状況です。

 それゆえ、せっかく窓口が設定されても、担当者の方自身にはそういった窓口での対応の経験は全くないという方がほとんどです。せっかく窓口ができた、配置になったと意気込んでおられても、だんだんと役所内での認識率も下がってくる、担当者の意識も低下してくるということで、実際に相談があったところ、ないところの温度差が、残念ながら生じてきている状況です。

 【スライド2】こうした中で、京都府が施策展開しています被害者支援の仕組みが、今、お手元にも御案内している「京都府犯罪被害者サポートチーム」です。サポートチームは、平成20 年1月に京都府の知事部局内に立ち上げ、間もなく10 周年を迎えます。これは、それ自体が京都府における総合的対応窓口という位置付けです。

 犯罪被害者と支援機能を有する様々な機関、団体と適切に結ぶための緩やかなネットワークシステムであると御理解いただければと思います。事務局を安心・安全まちづくり推進課に置き、府はもちろんのこと市町村、国の機関を始め民間の被害者支援団体や法律・医療等の専門機関等と常に連携しながら、総合的な支援を実施していこうというものです。こういった関係される団体の方々全体を「サポートチーム」と呼んでいます。

 サポートチームそのものは、被害者と支援機能を有する様々な機関、団体とを結ぶと申し上げましたが、日頃は緩やかなネットワークですので、コアとなるチームは、安心・安全まちづくり推進課の中に専従職員が1名、非常勤嘱託の専門職3名の合計4名で構成しています。窓口対応は、専従職員が1名、専用受付電話を配置いたしまして、執務時間を中心に全件対応しているところです。

 サポートチームの最大の特徴は、専門職を非常勤嘱託として配置しているところです。第3次基本計画では、被害者の生活支援を効果的に行うための社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士等の専門職の活用がうたわれているところですが、京都府ではサポートチームを設立した平成20 年から、この専門職3名を非常勤嘱託で配置し、現在は、概ね月1回のサポートチームの協議における相談案件の確認、検証、相談者との個別面接、イベントや研修会への対応等に従事していただいているところです。社会福祉士の方については、被害者の御遺族でもありますので、広報・啓発・理解促進のための活動にも日々御活躍いただいています。

 【スライド3】このサポートチームの具体的な仕組みにつきましては、お手元の資料2枚目に具体的な仕組みを示していますので、御参照いただければと思います。

 京都府では、目指すべきところは、府内のどこで被害にあっても、品質が高いレベルの必要な支援を受けられる体制を構築することであると考えています。これがサポートチームの大きな使命であると考えています。サポートというのは、被害者をサポートすることはもちろんですが、被害者支援に当たる市町村の担当者のサポートも務めであると考えています。

 そのため、例えば年2回、市町村の担当者を集めて研修会を開催していますし、講演、事例紹介のほか、窓口における様々な課題、これは先ほど申し上げましたが、実際に相談に訪れる方がおられない中で、経験値がなく、また認識率も低くなってくる状況の中での対応を念頭に置きまして、グループ単位におけるケース検討なども積極的に行って、少しでも体感していただければということで取り組んでいます。

 【スライド4】また、日常的には、市町村の担当者の方が相談等に適切に対応できるよう、とりあえず、担当者として相談できる先として市町村担当者をサポートするチーム、市町村の担当者の方が尻込みせずに、困ったときに頼りになるサポートチームを目指して、顔の見える信頼関係の構築に腐心しているところです。

 府内の担当者の皆さんは、被害者を支援することについては非常に前向きに取り組んでいただいておりますが、いざ自分がそれに携わるとなると、やはり被害者の方との関わり方、あるいは接し方がよく分からないということで身構えたり、あるいは尻込みをされるといった場面があると思います。そのため、サポートチームは設置当初から市町村における支援機能、窓口機能の強化に関わってきたところですが、10 年たった今もそこが大きな課題になっているということは、ほとんど変わっていない状況です。

 昨年度は、課長であった私と担当副課長とで手分けして、京都犯罪被害者支援センターの方も伴って府内すべての市町村に足を運び、窓口担当者とその上司の課長あるいは部長と面談して、窓口機能の強化、あるいは住民に対しての周知のための広報の取組、サポートチームとの関係の構築等について説明をさせていただいて、意思の疎通を図るきっかけとさせていただいたところです。

 冒頭で申し上げましたが、条例も整い、窓口も設置されたとはいえ、このような地道な活動でもって一歩一歩進めているというのが、京都府における現状です。

髙尾: ありがとうございました。どうしても、情熱的になって時間が超過しますが、その辺は御免除いただいて。一つ質問したいことは、今日は市町の担当の皆さんが来られているとお聞きしております。その方へのサポートで、広報や犯罪被害に遭われた方が、相談に来やすい体制づくりについて、具体的なことを少しだけ触れていただけますか。

姫野: 何をおいても大切なのは広報、啓発、理解の促進ということですが、これそのものについては、これをすれば確実に広まるという特効薬のようなものはないと思います。いろいろな形でのアプローチがある中で、全国フォーラムでも申し上げましたが、本日のこのような大会や会議に御参加いただいて理解を深めることも非常に大事なことですが、全く被害者支援に関心のない方がたまたま目に触れる機会でもって、この被害者支援という取り組みを知ってもらう活動が、実は非常に大事なのかなと思います。

 名古屋で活動されている「犯罪被害当事者の会 緒あしす(オアシス)」さんがあります。そこの取り組みの中で、昨年、「アフタヌーンコンサート」と銘打ったコンサートが開かれました。被害者支援に関係あると聞いたので、私も足を運びました。そのコンサートは、地元で活動されている音楽家、合唱団の方がたくさん集われて、演奏されるのですが、その演奏自体に被害者支援の要素はほとんどありません。演奏の合間合間の休憩時間に、併設されている展示パネルなどで被害者支援の取組が紹介されて、コンサートに来られた方に見ていただき、知っていただくという取組でした。

 本来は、被害者支援に向かって足を運ばれた方ではないけれども、そのような機会に触れていただき、知っていただくという場を、地道ではありますが、数多くやっていくことが、結果的には多くにつながり、理解を高めていくのではないかと考えているところです。

髙尾: 少し具体例を出していただきました。私たちを広げていこうというか、全く犯罪被害者支援ということをお知りでない方を含めて、このような取組がありますということを広めていった例です。

 それでは大岡先生、よろしくお願いします。

大岡: 私の方も、パワーポイントを使いながらということで、5分という短い時間ですけれども、少し情報提供等をさせていただきたいと思います。

 【スライド1】私は、2002 年からソーシャルワーカーという専門職として、病院のソーシャルワーカーをしながら、当初は福岡の犯罪被害者支援センターといわれるところで、直接支援員にも従事し、今に至っております。今は関西に拠点を移しまして、大阪被害者支援アドボカシーセンターのほうにも関与しながら、研究者として、犯罪被害支援に取り組んでおります。

 今、犯罪被害者週間ということで、このような、本当にすばらしい企画になっていることをお慶び申し上げます。そもそも、この犯罪被害者支援が始まる前、この週間をどうするかということで、犯罪被害者の週間なのか、それとも犯罪被害者支援の週間なのかということが議論されていたことを今更ながら思い出します。

 今日は、犯罪被害者となる本郷様のお話を私たちが皆でお聞きかせいただき、そこから学び、今、どうするかということを同じスタートラインに立って考えさせていただく貴重な機会を、有り難くかみしめながら、犯罪被害者週間の1日を共に過ごさせていただきたいと思っているところです。

 実は、私どもは社会福祉専門職として犯罪被害者支援に関わり続けてきているわけですが、まだまだそれが社会として広がっておりません。また、犯罪被害者等基本法施行によって、いろいろな制度が拡充してきましたが、そういったものに対して、実際に犯罪被害者の方たちが、どれくらい保健福祉の制度を活用できているかというと、利用しましたという声が聞こえてこないのです。制度・サービスが整ってきても、実は、まだまだ支援は届いていないのではないかということを、仲間と考え、そのきっかけになるべく作成したものが「犯罪被害者等暮らし・支援検討会(くらしえん)」という有志の団体になりまして、今日はその団体の紹介という意味で、こちらに呼ばれたと考えています。上記団体は、犯罪被害者である一市民が、あるときを境にいろいろな問題を持ってしまうということを、どのように支援していけるのか、一緒に考えていけるのかということを考える団体です。

 皆様のお手元に、補足資料として、データなどをまとめたものを御用意していますので、もしお手元にあればそれも見ていただきながら、状況を一緒に共有できればと思います。

 被害者が置かれている状況は、先ほど本郷様のお話にもありましたけれども、一度失われた命は、御遺族にとっては言葉にできないくらいの悲しみと絶望と苦しみを与え、それがずっと続いていくということは、先ほどのお話からも、私たちがかみしめたところではないかと思います。

 例えば、中には、心身の不調、体の不調を来す方もいらっしゃいますし、生活上の問題を持つ方も多くいらっしゃいます。周囲の人の言動により傷つき、これは二次被害と呼んでいるものですが、そんな気はなくても、ちょっとした言葉で被害者も非常に傷ついてしまうということがあることは、よく知られているかと思います。

 加害者からの更なる被害に始まり、最近ではインターネットでのひぼう中傷などもあります。そして、捜査、裁判に伴う様々な問題とありますが、司法改革が行われる中で、被害者参加制度などもでき、被害者が証拠ではない、被害者もちゃんと司法に関わっていく仕組みができつつありますけれども、しかし、そこに伴ういろいろな被害者の御負担は、並々ならぬものがあるかと思います。

 こういった大変な被害者の状況に対し、市民を助けるという意味でも、市町村などがやっていけることは多分にあるかと思います。先ほども少しお話ししましたが、実際に被害者にお聞きすると、ほとんど行政の支援制度・サービスを知らなかったり、市町村の窓口すら聞いたことがない、行ったことがないという方が非常に多くいらっしゃいました。

 例えば、どんな声が上がっているかというと、地方公共団体の窓口によっては、相談に行っても待たされたり、担当がいませんと返されたりとかしているようです。提供できる情報が何かということを市町村に行っても、ちゃんと担当者が分かっていなくて支援に続いていかなかったという御意見などがございました。しかし、被害者としては相談に言った際には相談事を受け止めて解決策を一緒に考えてほしいと思われていますし、自分から相談に行く前に来てほしいというニーズも実はたくさんあります。

 【スライド2】そこで、私ども「くらしえん」という団体で、地方公共団体の総合的対応窓口の全国実態調査をいたしました。この犯罪被害者等総合的対応窓口については、補足資料に差し込ませていますし、また、このフロアの外の警察庁の展示で拝見できるかと思いますが、今、この総合的対応窓口というものが、平成29 年度4 月の時点で、全国では98.6%となっており、適切な情報提供等を行う窓口としてはできている状況です。その意味では、近年始まった窓口というところなので、これから充実していくと思うわけですが、現時点での結果としては、窓口はできたけれども、そこで相談を受けた窓口は1年間で2割しかなかったというような結果でした。すべての都道府県・市町にアンケートをしたものですので、どこかの県というだけではないのですが、このようなお粗末な状況でした。

 【スライド3】これを踏まえて、これからもっと市民に近い市町村で、どのように声を聞いて、支援をしていけるかということの参考になればと思いつくったものが、スライドで示したマニュアルです。今、皆様のお手元へ配れるほどの在庫がないのでお配りできないのですが、ホームページからダウンロードできるようにしていますので、もしも関心をお持ちいただけるようであれば、一度開いていただきたいと思います。

 ここに、どのようなことに注意してやっていかなければいけないかということや、どのような支援をしていないと、被害者がいらっしゃったときに相談に乗れないのかなど、いろいろな視点を盛り込んでいます。また、幾つか被害者の声も入れたり、実際の事例を多分に盛り込んで、いろいろな被害者に市町村が対応できることを目指しているものです。

 1年半前に、各県市にはすべて配布していますので、もしかすると、担当者の方でお持ちの方がいらっしゃるかもしれませんけれども、このようなものも参考資料としていただいて、1件でも多く、支援が、被害者相談というものが進んでいけばいいなと考えている次第です。

 被害者は、いろいろな機関にかかわっていくわけですが、それでも生活は毎日続いています。この生活をどのように支えるかという視点が非常に重要であると考えています。そのためには、いろいろな機関が手を取り合って連携という名の下に、一丸となって、被害者にワンストップでサービスをしていくことが欠かせないのではないかと思います。それにより、少しでもそういった面からのサポートがあることで、社会と一緒にコミットしていくことがかなうのであればと考えている次第です。ありがとうございました。

髙尾: ありがとうございました。いろいろな調査を通じて、現実の犯罪被害者支援の実態の一部分が垣間見れたかと思います。大岡先生に御質問が二つあります。市町の相談で、1年間のうちに実際に相談を受けたものは、5件以上受けたところが2割ということではなく、1件以上ということですね。大岡先生、こういった調査をされる立場から、この2割にとどまっている関連要因というか、そのことについて何かお考えがあれば、お聞かせいただきたいと思います。

大岡: ありがとうございます。2割にとどまっている理由は、窓口ができても、その普及啓発がこれからだということを現していると考えています。もう一つは、この窓口が、そもそも犯罪被害者支援が内閣府が音頭を取ってやっておられた経緯もあり、どこに犯罪被害者支援の部局を置くかということで、各地方自治体では悩まれたかと思いますが、結局いろいろな部局に分散しています。例えば「人権」のようなところに入っているところから、「交通安全」や「暮らし安全」のところに入っているところから、「秘書課」に犯罪被害者支援を置かれるなど、様々なところに犯罪被害者支援の窓口が置かれている実情があります。それが悪いと言っているわけではありませんが、生活の支援をしていくときに、「保健」や「福祉」といった部局と遠いと、連携がうまくいかないところも中に出てくるのではないかということです。

 例えば、京都のように専門職を配置していくことができれば、多部局をまたいできれいな連携ができるのだと思いますが、対人援助のノウハウが蓄積されていない部局だとそうはいきません。人材の問題は、それぞれの地方自治体の事情があるものです。ただ、もしかしたら、そのような対人援助職不在の窓口という点でうまく回っていけないところもあるのではないかと、私どもでは推測しています。

髙尾: ありがとうございます。やはり、総合相談窓口をどういった部署に置くかということからも、市町では迷われたりしているのが現状なので、うまくやっている市町をモデルにしていただくことが考えられるかと思います。

 もう一つは、犯罪被害者支援の方のいずれの給付も受けていないのが68.4%ということで、どのような支援が受けられるのかということの一つがカウンセリングです。私は臨床心理士会ですが、そういったことは一般的に我々市民には分かりにくいかもしれませんが、被害者になられた方にも届きにくいのかなと、この辺について少しお知らせいただけますか。

大岡: カウンセリングについては、補足資料が全員に行き届いてないので恐縮ですが、その補足資料の裏面に、警察におけるカウンセリング等費用の状況がありますので、そちらも参考にしていただきたいと思います。この被害者のカウンセリング制度については、随分と昔から議論がされてきています。被害者になり、精神的にカウンセリングが必要になった方に、どうしてそういったものがただで提供できないのかということが、ずっと議論されてきました。2年前、犯罪被害者等基本計画の第3次計画の中で、警察の方で公費負担制度を全国展開する方向が決まりました。各警察の方で運用を決めていくことになり、今進んでいる状態と聞いています。

 しかし実際は、これが使える制度かといわれると、今の状況では、まずは一般身体犯、性犯罪の方を中心に、より急性期の方に適用できるものになっています。しかも、大体の県が1年などの期限を設けている状況でもありまして、今後の課題なのかなとも思います。御遺族のカウンセリングは適用外の地域も多く、その辺も、当事者からの意見を聞いて検討していく必要があると思っています。

 ただ公費負担制度だけではなく、他にも警察の中のカウンセリング制度も充実してきていると聞いています。また、民間の被害者支援団体によっては、無料で何回まではただで提供できるということもありますので、いろいろな形でカウンセリングを利用していただけるように、まずは情報提供ができるような機関が増えることが非常に重要なところであると思います。

髙尾: ありがとうございます。今日、御参加いただいている皆さんにも、改めて、このような費用の支給というか、助成があるということをお知りいただいて、よりよく広げていただければと思います。

 それでは、白濵先生、よろしくお願いします。

白濵: 私は、この3月31 日まで公立中学校の保健室、養護教諭をしておりました。39 年間の小学校勤務と中学校勤務を終えて、いま現在、御紹介いただいた佐賀女子短期大学地域みらい学科で、私の後輩となるべく養護教諭養成に携わっているところです。

 【スライド1】今日は、私が39 年間保健室の養護教諭として仕事をしてきた中で、学校における子供たちが、どのようなことで保健室を利用してきたのか、またその中には、犯罪被害に直接遭った子供もいます。御家族がそういう事件に巻き込まれて、そういう生活の中で学校に登校してきた子供たちもいます。子供たちを取り巻く環境等について、短い時間ですが、少し御紹介させていただきます。

 【スライド2】学校というところは、先ほどの本郷様の御講演の中にもありましたように、本来ならば、子供たちが安全で、育み育てられる場所です。そこで、私のような教育者は子供たちを育み育てる側であるということで、何よりも安心・安全の場で子供たちを教え育てるという大きな責務を担っているところです。

 先ほどの御講演の中に、学校安全、学校の危機管理について御指摘を頂きましたが、私の39 年間をふり返ってみて、本当に学校というところは、犯罪を犯そうと思う人にとっては、いろいろな隙間があるところだなということを改めて反省させられました。学校では、保健室には、被害に直接あった子供が、愛情不良を理由に、でも本当は「先生、親には心配かけるから言えないけど、聞いて」ということで、たくさんの子供たちがやってきます。

 その中で、性犯罪にかかわる事件がありました。本人が被害者であるという意識は全くありませんでした。「私はその人といるときが一番幸せだった。その人といるときに、私は一番必要とされていた。先生、先生は被害者というけど、私は被害者じゃない。その瞬間が私にとって幸せな時間だった」ということを話したときに、まず、私は目頭を熱くするしかありませんでした。

 学校というところは、社会的な対応をしていただくところですが、学校というところは、そういう子供たちの話をどこにつなげよう。どこにつなげたらこの子は救われるだろうか。どこにこの子の支えを求めたら、この子は生涯安心して幸せに暮らしていけるだろうかということを考えたときに、今御紹介していただいたような啓発的な資料が、ほとんど学校現場には届いていないような現状です。実際、事務室には届いているかもしれませんが、教室にいる担任や保健室にいる養護教諭の手元には、直接的な広報活動が、いろいろなお知らせが届かないところにあります。

 その中で、佐賀県では、性暴力の被害者に対して、医療的サポートや精神的サポートなどを行う「性暴力救援センター・さが(さがmirai)」というところがあります。その「さがmirai」の制度を使って数名の子供さんを支援することができました。社会的な支援はどういうところで、どんな支援がなされているかを知ることにより、具体的に学校側で専門的なところへつなげることができたのかなと思っているところです。

 【スライド3】学校というところは、本当に閉ざされた見られ方もされますが、子供たちの実態がなかなか見えない現状ではあります。これが保健室から見た子供たちの姿です。実際の感情、友達関係の不安、大人からの裏切りにも何回も遭っています。寂しさを我慢しながら待つこと、許すことの心の余裕はない子供たちが大変多くなっています。

 SNS でのトラブルも多くあり、その中で、子供たちが助けを求める場所がないということが、今の子供たちの現状ではないかと思います。助ける場所がない。自分の気持ちを語ることができないという子供たちの現状があります。

 【スライド4】そういう中で、2003 年から、私はいのちを見つめる、生と死を考える授業に取り組みました。

 【スライド5~8】その目的は、命の有限性、命の連続性、命の偶然性を伝えることで自分を見つめる、自己肯定感を高めるような取り組みをしてきたところです。学校職員で共通理解をするために、このような教育目標が、どの学年で、どんなことを教えるのかということを明記して、全職員で共通理解して取組ました。これは文部科学省で生徒指導の問題行動等対策重点プログラムというもので、平成16年に出されているところです。

 【スライド9】子供たちといのちの授業をしている中で見えてきたことは、人の脳の発達を図式化していますが、食欲と睡眠、生殖欲の基本的な脳の発達から、更には学校を卒業していく前に、教育という現場である以上、子供たちに言語や思いやりの心を育てるような、脳の発達を目指した取組をしていく必要があるのではないかと思っているところです。

 【スライド10】実際、学校現場でできる犯罪被害者支援とは何かと、私が個人的に考えたところでは、私が思う支援というものは、保健室にやってくる子供たち、学校現場にいる子供たちの心に寄り添う、子供たちの言動に、限界にあるその言動を大切にするようなことが、寄り添うということではないかと思います。

 いろいろな事件があるたびに、自分が関わった生徒がその事件の犯罪者になるということを聞くと、本当に学校でかかわっている、教育をしている私たちは心を痛めます。何であの子がこんなことを起こしたのだろう。何であの子がという思いで、被害者になられた方への思いも、寄り添うことももちろんですが、その当事者となるかつての教え子が、その事件を起こしたりするということが、教育をする者にとっては心痛めることでもあります。

 二度と繰り返さない教育をしていく、子供たちに関わる教育をしていくということが、学校現場、教育の現場に携わる者の仕事なのかなと思っているところです。

 最後に一つだけ。生と死を考える命の授業をしてくる中で、中学2年生の女子が感想文を書いたものを読ませていただきます。授業が終わった後の感想文です。

 改めて、人の死の意味の深さ、悲しさ、つらさを感じました。最近、テレビでは毎日毎日○○さんが殺されたとか、事故で何人死亡という話を聞きます。余りにも毎日のように人が亡くなってしまっているので、こんなこともあるさ、どうせうちには関係ないんだし、で済まされている感じがします。確かに、知らない人が亡くなっても悲しみに暮れることはありません。でも、人が亡くなっている。しかも他人から命を奪われているとなれば、幾ら関係はないとしても、少しは命について考えるべきだと思います。この世に、殺人とか戦争などといった言葉がなくなる日が来るのでしょうか。

 こういう感想文を中学生が書いてくれています。これで、私の発表は終わらせていただきます。

髙尾: ありがとうございました。教育現場から、いろいろな体験、意見、命の教育を白濵先生は実践されてきました。最後の、その命の教育を受けた生徒さんの作文を、ある意味、我々が知ったわけですが、こういった生徒さんが大人になっていく。そういうことと、今日のテーマの犯罪被害者支援と関係がある、結びつくように思うのです。

 命の教育というものと、命についてのいろいろなことを考える。自分の命ではなくてという、白濵先生、その辺のつながりについての思いをお聞かせいただけますか。

白濵: この授業をしていく中で、子供たちの気持ちの中に、自分は一人では生きていない。誰かに支えられて生きている。それは、この命を頂いたことに感謝しなければいけない。自分の命を、こんなに自分を大切に思うならば、周りの人の命も大切にしなければいけないと思うような子供たちが増えてきたということは、犯罪被害に遭われた方々への思いやり、同級生、友達への気持ちに寄り添うことにつながってくるのかなと思います。

髙尾: 私も同感です。もう一つ、先生の御紹介の中に、命について、命の連続性、命の有限性、命の偶然性ということを教えられていて、語られていていかがですか。分かっったとなるのか、幾ら考えても答えが出ないことを皆で一緒に考えていくということにこそ、意味があるのかなと思ったのですけれども。

白濵: これは教科の授業ではない授業ですが、その授業のときには、教師も担任も生徒と一緒の価値観になって、命について考える授業をしているのです。子供たちの中から、親に感謝とか、今、こうして自分を支えてくれている友達に感謝とか、今、自分もここにいるということは、次の命へバトンタッチをする大きな責任が自分にはあるのだと、そのような発言をしてくれたり、感想を書いてくれたりしていますので、子供たちは命の連続性ということについても、しっかり考えることができていると思います。

髙尾: ありがとうございました。以上で、パネラーの方の発表と私の質問の時間は終了します。それでは、我々4人でディスカッションをしましょう。今日、「私たちにできる」とありますが、さて、この「私たち」というのは誰のことだろう。どのようにとらえたらいいのだろうということについて、皆さんの実践や研究などから思い浮かべられることをおっしゃっていただけますか。

姫野: 「私たち」ということですが、非常に難しい質問だと思います。素直に捉えるとすれば、被害者支援というのは、例えば、それがどんな形の支援であっても関わり合うすべての人が、その時々のその立場によってできることをやるということであろうと思います。ですから、その時々の立場によって内容も変わってくると思います。

 例えば、私個人のことで申し上げますと、今は交通規制課というところで直接支援には関係しておりませんが、過去2年間はどっぷりつかりまして、行政の立場からどうあるべきかということを考えて、そのために力を尽くしたつもりです。立場が急に変わって、今回このような場でお話しする機会を頂きましたけれども、現在は仕事を通じてどういうことをしているのかというと、直接的には何もない。ただ、犯罪被害者支援センターの存在というものをこの2年間、本当にこれほどすばらしいものはないと感じましたので、現在は正会員として関与させていただくということでもって、引き続き関わっています。

 また、今の職場の中でも犯罪被害者支援のイベントについての案内を、課の中で、課員に対して伝える、たとえばホンデリングという取組への協力を呼びかけたりというようなことは、今の立場でできることですから。そういう意味で「関わり得る人すべて」と私は考えているところです。以上です。

髙尾: 非常に優等生のお答えを頂き、ありがとうございました。関わり合うすべての人。関わり合うのは深さというか密度というか、それはいろいろな立場によって違ってくるだろうといえます。そこで共通して関わり合う人に、濃い人でも薄い人でも、深い人でも浅い人でも、「私たち」ということを考えたときに、どんな人にでも共通していなければいけないものとは何だろうと。そういうことをまた次の段階で少しお尋ねしますので、お答えいただければと思います。大岡先生、いかがでしょうか。

大岡: ひと言で、私が考える「私たち」というのは「市民」ではないかと思います。犯罪被害者ももちろん市民ですし、私たちも明日遭うかもしれない立場なわけですが、市民と考えたときに、今この犯罪被害者支援を考えたときに何が足りないかというと、絶対的に、市民として制度を使えるような仕組みになっていないということなのです。

 例えば、皆様、御高齢の御親族をお持ちの方もいらっしゃると思いますが、介護保険という制度が2000年からできていますが、介護保険法により、心身の不調により生活に困れば、家に掃除に来てくださったり、介護していただいたり、病院の付添いが必要であれば同行支援というものがあります。障がい者になっても一緒です。障がい者になれば、今は障がい者総合支援法というものがありますので、介護保険と同じような仕組みの中で、それを調整してくれる人(ケアマネージャー)がいて、サービスを調整していただいて自分に必要なサービスが使えるということが、市民として保障されているのです。一律1 割負担ですが所得によって支払いも減免されたりします。

 では、犯罪被害者支援はどうか。明日から子供を保育に送り迎えができない。明日から食事ができない。家に引きこもってしまって、病院に行く人も、付いていく人もいないときに、誰がサービスを調整して、また実際のサービスに入ってくれるのかといったときに、そのような公的なサービスはないのです。若干ですが、地方公共団体によりつくられているところもできてきてはいるものの、まだまだだと思います。

 例えば、北欧では、犯罪被害者のための制度という形であるというよりも、市民のサービスの一つとして、犯罪被害者も困ったら利用できる福祉サービスとして当たり前のように存在していると、よく言われます。日本も、私たちが市民である以上、当然の権利としていろいろな市民サービスが使えるよう、そういう権利意識をもった市民に私たち皆がなっていきたいと思います。

髙尾: 先ほど出ました、この制度を当然の権利として使える。そういう社会になってこそ、ここでいう「私たち」になり得るということで、特殊な、特別な何か恩恵を受けているような感覚ではなく、市民としての当然の権利として犯罪被害者支援があるのだと。それを皆が認識する、少しでも広く認識し合う、そういう私たちでありたいという「私たち」ですね。ありがとうございます。白濵先生、いかがでしょうか。

白濵: 私は「私たち」と考えるときに、学校現場にいるものですから、子供たちが安心して学べる場づくりをする「教師集団」というものが、まず第一に挙げられると思います。子供たちが「先生、あのね」と、「先生」と寄り添ってくれるような、そういう教師としての力量を高める教師集団であるということ。もう一つは、教師だけでなく、今は大学で学生と関わっているのですが、学生たちもそれなりにいろいろなものを抱えて過ごしています。学生同士が支え合うというピアカウンセリングのようなところを、学生の力、子供たちの力として育てていくことが、私たちにできる知恵なのではないかと思います。

髙尾: 正に、学校現場というところで働いておられたので、その子供たちはいずれ、子供がいつまでも子供のままではありませんので、10 年、20 年たって大人になったときの犯罪被害者支援の支援者になり得る。そういう「私たち」を学校でつくる。そういう意識を、学校の先生がお持ちいただければいいかなと思います。

白濵: 実際にあったことは、学校の教室に体育の授業から戻ってきたら、机の上に「お前死ね」と書かれている事件がありました。そのときに、担任の先生は書かれていたその座席の生徒に、大丈夫だ、大丈夫だと関わっていましたが、その子が後で保健室の私に手紙をくれました。その中に書いてあったことは、担任の先生の言葉掛けもうれしかったけれども、こんなことを書かれても明日も学校に行くぞという一番のエネルギーになったのは、友達から「お前のことはおれたちが守るからな」と言ってもらったそのひと言で、明日も休まずに学校へ行こうと思ったという手紙をもらったことがあります。

 ですから大人の声掛けも大事ですが、子供たち同士、友達同士の支えというものが大きな力になっていくのかなと思いますので、大人になったときも、被害に遭われた方々、困っている人たちの心に寄り添える大人になっていくであろうという目標の下に、関わってきました。

髙尾: ありがとうございます。総じて私が思うことは、私は私ですが、人間の成長というか、私が「私たち」になっていく。「私のこと」だけだったのが「私たちのこと」にならなければいけない。そのような感覚になれてこそ社会が成り立つというか、私だけのことではないと、私たちのことなのだと。

 今日、本郷様がお話しいただいたのは、自分のことを話されたのではなくて、私たちは日本国民というか世界人類という視点から話されて、私が私たちになっていくという、そこの認識の転換というか、そこが今日の「私たちにできる」という、出発点は私だけれどもと、私は勝手に思ったのですけれど、いかがでしょうか。先ほど3人の方にお話をお伺いして、もう一つ、深めるような御意見はありませんか。どなたでも結構です。これはこの辺でいいですか。先ほど、僕は姫野さんにもう一つ質問したいと言いましたよね。お答えいただけますか。

姫野: 答えになるか分かりませんが、前段では、広報啓発や理解の促進が、関わりのなかった人にも知ってほしいというように、広げていくことが大事になってくるのではないかと申し上げました。被害に遭うということについて、まずは知ってもらう。それから次に関心を持ってもらう。理解をしてもらって、更にできることがあれば実践してもらうという段階を踏んでいかなければ、いきなり実践というのは多分できないだろうと思います。

 その意味では、私たちは、置かれた状況によって、できることから始めていくことが大事なので、今まで何の関心もなく、他人事だと思っている多くの人に対しては、まずは知ってもらうところから始めていく。そうすることで、私たちというのは、すべての人ということになるのではないかと考えています。

髙尾: このことばかり話すわけにいきませんので。今日の基調講演とパネルディスカッションを企画した人がいます。今日の基調講演の本郷様のお話は、子供の安全を守るというテーマでお話しいただきました。子供の安全を守るということが、犯罪被害者支援とどう結び付くのか。それを我々は考えることが必要であると、私たち3人は思っています。その結び付きを、本郷様からお答えをいただければ一番いいのですが、我々自身がどう考えたかということを、皆さんもお考えください。

 犯罪被害者になって、どのように御自分が立ち直られたかという話ではありません。とても大変な目に遭われた本郷様が、子供の安全を守るというテーマで話された。これが犯罪被害者支援とどう結び付くのかということを、お一人お一人お答えいただければと思います。よろしくお願いします。どなたからでも結構です。

姫野: まだ考えがうまくまとまっておりませんが、本郷さんの話をお伺いして、キーワード的にとらえたことは、命の大切さを次の時代につなげていくということや、あるいは、命を守る心、命を大切にする心を育むということです。

 正にそのとおりで、子供たちの安全を守るというところから、更にそこまで発展されたのだな、展開されたのだなと、まずこの言葉を伺って思いました。先ほど、命を考えることについての取り組みをされているお話もありましたけれども、命の大切さを伝えることは、結果的には、加害者も被害者も生まない社会づくり、これは本郷様の講演の後に司会の方から御説明があったかと思います。そういった社会づくりを目指すことが、犯罪被害者支援の施策の究極の目的であろうと思いますので、そういったところが犯罪被害者支援と本郷さんのお話とがつながってくるのかなと感じたところです。

大岡: 子供の安全を守るということと、犯罪被害者支援の結び付きということですが、三つあります。一つ目が、「命の重要性」です。「生命(いのち)のメッセージ展」が外にもあるかと思いますが、そういうところから私たちが学んでいく部分は非常に大きいのかなと思います。それらを見ることで、私たちは変わっていくと信じたいし、そうあるべきであると思います。それにより、子供の安全が守れるように、そういったことが起こらないようにしていくことにもなると思います。

 二つ目として、万が一、不幸にも、学校で何らかの被害が起こってしまった場合に、「ケアできる仕組み」が必要だと思います。たとえば、大阪教育大学では、附属池田小学校の事件の後、学校危機メンタルサポートセンターができて、学校安全やPTSDなどの研究も進んで、今取り組まれているかと思います。ただ、それは、どこまで全国の学校に普及しているかというと、まだ十分ではないようにも思いますので、もっとこのノウハウを広めていく必要があると思います。

 また、犯罪被害者等基本計画の第3次に、今まで忘れられていた潜在的な被害者、子供、きょうだいのことにもちゃんと目を向けるべきであるということが盛り込まれました。被害に遭った方がいらっしゃるときに、そのきょうだいやお友達というのは意外と忘れられがちで、ケアがほとんど行われてきませんでした。例えば、小学校の事件にあって、何らかの被害に巻き込まれたきょうだいが中学校、高校と上がるときに、連続性を持ってきちんとケアされればいいのですが、ほとんど引継ぎなどがない中で、非常に苦しんでおられるきょうだいの存在が近年浮かび上がってきています。きちんとケアされる仕組みがあるということは重要なところなのかなと思っています。

 最後ですが、今回、本郷様に貴重なお話を頂いて、私たちはまた心を新たにしたところですが、お亡くなりになった方を含めた被害者中心で「犯罪被害者支援が回っていかなければいけない」と思います。「ヴィクティム・センタード」という言い方を時にします。時に、被害者不在で支援だけが進んでしまう。また制度だけが進んでしまうということがありがちです。

 市町の中でも窓口はできたけれども、まず、学ぶべきことは当事者からなのです。そういうところの視点を持ちながら、被害者支援を進めていくことが、最終的には子供の安全を守る、大人の安全を守るということにも、市民の安全を守ることにもつながっていくのかなと考えています。

白濵: 私が思うことは、命を大切にしましょうということは、保育園生、小学校でも、子供たちにきちんと生きるし、その命を大切にするという言葉は、よく使われることです。私が生と死を考える授業の中で取り組んだことは、命もですが、生きること、自分を大切にする自尊感情を育てるというところで、大きく関わってきました。

 自尊感情というものは、自分はここにいていいのだ、自分も一人として認められているのだという気持ちを、子供たちの心の中に育てることで、人との関わりということが、自分一人ではないのだ、誰かと一緒に生きているのだという思いをすることで、それが犯罪被害者の方々への寄り添う心につながっていくのかなという気がしています。

 子供たちの安全を守るということは、将来に向けた子供たちが自分の命、また他者の命を大切にする心を育てることが、子供たちの安全を守る、安全を考える仕事になっていくのかなと、教育の現場ではそのように思っているところです。

髙尾: 抽象的な話になっていまして、私に責任があると思います。先ほどの白濵先生の自尊感情。自分は守られていなければいけないですよね。安全でないところで学ぶのは、自分の本意ではない。やはり自尊感情として、自分は守られたところで学ぶのだという、人間は守られた上で学習ができるのだというところまで高まればということですね。

 もう一つ、私が思ったことは、子供の安全を守るという市町の窓口の方も犯罪被害者支援につながっているのだと。地域の安全を守るという取組一つ一つが、実は、犯罪被害者支援というところに、どこかでつながっているのだという、どうつながるかは一人一人のつなげ方だと思いますが、そういった認識を持つことが、犯罪被害に遭う方を一人でも減らそうと、そのことが犯罪被害者支援の一つでもあるというような認識が、私は大切かなと思うのですが、その意見に対して何かございますか。

白濵: 先ほどのところで少し付け加えていいですか。学校というところは、市町の管理下のもとで、設置者の下で学校教育がなされていますが、指導要領にのっとった教育をすることは大切なことですが、指導要領以外の独特な取組をなされる学校教育についても、市町のところで支援していただければ、犯罪被害者支援等についても学ぶ場が増えてくると思います。

髙尾: 最後に、今日、県の方にお聞きしますと、市町の担当者が結構来られているそうです。今までは一般論としてお話ししましたが、3人のパネラーの方に、市町の担当として、このような留意点や、こういった方法論、こういった認識などはいかがでしょうかと、やや具体的に御案内いただければと思いますので、よろしくお願いします。

姫野: 具体的にということですが、自治体の方の取り組みについては、私が直接的に関わってきたので、そこの部分を私に期待されていることと思います。京都府においては、市町村の条例の制定に大きく尽力した警察官がおります。被害者支援に長く携わってきた同僚で、現在も親しくしていますが、その人の言葉をそのまま御披露させていただきます。

 「制度を動かすのは職員だ。立派な制度が整っても、職員が動かなければ機能しない。動かせるかどうかは職員の気持ち次第。人が人を支えるということは、今も昔も変わらない」。

 被害者支援の、正に支援をされる方の真髄をついているこのことを、いろいろな場面でおっしゃってきたと聞きました。その担当となられた方にとっては、今までにない事務が新たに加わったということになりますので、そこのところは、そこと直接今まで関わってきた警察本部、警察署、条例の制定に向けて中核となって動かれた知事部局の方、あるいは支援センター、佐賀VOISSさんのような方々との、日頃からの緊密な連携、形式的なものではなくて、顔が見える、何でも相談できる関係をしっかりと築いていただくことから始めていくことが、今後の発展に大きな力となるのではないかと考えています。

髙尾: その県の担当者の方が、年に1回くらい研修会を開いて、市町の担当者の方が来られて、私が担当ですよと、お互いに横のつながりで情報交換をすることから始めればということですね。VOISSもありますので、そこにVOISSの方も顔を出していただいてということが、スタートとなるのかな。せっかく県・全市町において条例が制定されたので、そういうことはなされているかもしれませんが、そういったことも考えてはどうかということですね。大岡先生、何かございますか。

大岡: 佐賀におきましては、全市町に条例ができたということで、全国的には4分の1くらいまで条例ができているのですが、その意味では、先駆的に関係者はじめ御尽力なさったのだなと思いますし、非常に私自身期待を寄せているところです。

 具体的な話をということですが、調査の結果から少し一緒に考えられたらと思います。実際に、先ほど市町等で、昨年度の段階で2割しか相談を受けていないということがありました。その2割受けたところに10 件以上相談があったところと、10 件以内の相談があったところで比較をしますと、違いがありました。

 どういうところに違いがあったかといいますと、10 件以内の市町等の窓口は、課題として、例えばほとんど事例が来ない、ケースが来ない。そして、そんなケースも来ないから県でやってくれたらいいのだと。一つでどこかで集中してくれたらいいというような意見や、兼務で忙しいからこれだけでできないのだ、人が足りないのだというような意見が多く見られました。

 一方で、10 件以上相談が来るような窓口になっていきますと、少し課題が変わってきます。スーパービジョンがあるような態勢が欲しい、ちゃんと関係機関の連携ができるようなケース検討の機会が欲しい、専門職を配置してほしい、女性の支援員を入れてほしいというような具体的な、前向きな意見が多く目立つようになりました。

 つまり、窓口は開設したけれども、ケースも来ないし、事例も来ないし、何か不安だな、どうしよう、どこから取り組もうかといったようにお考えの市町等が多いのではないかと思います。しかし、どこからでもいいので、始める、とにかく相談を受けていくことが明日の被害者支援窓口の充実につながっていくのではないかと思います。

 例えば、大阪府内のS市は本当に頑張っているので紹介しますが、平成28 年度で70 件近く相談がありました。そこにきている相談で一番多いのは、住民基本台帳の閲覧制限がかかる添え書きであったり、詐欺被害に関する相談や、親族間のトラブルにかかる相談というように、意外と軽微な犯罪とは言えませんが、まだ相談に乗りやすいような相談が、市民の声としては上がってくるということが、S市からは見えてきたりします。

 とにかく構えないで相談を受けてほしい。また、是非広報・啓発をしてほしいということ。そして、もしも新聞に載るような大きい事件がありましたら、ある区の職員の方は新聞を見たら、すぐに自分の行政の窓口の案内を持って、近くまで走っていって置いてくるそうです。そうやって顔と顔が見える関係で市町の方は動いていらっしゃると思うので、それを強みに、是非一緒に頑張っていけるといいのではないかと思った次第です。

白濵: 先ほど教育のことではお話しさせていただきましたが、子供たち、被害に遭うのは大人だけではなくて、子供たちもたくさんいろいろな被害に遭っています。子供たち自身が、市の窓口へ駆け込むとか専門機関へ自分からつないでいくことは、なかなかできません。佐賀県は、全市町にこの条例ができたということですので、是非、それぞれの担当地区にある、校区の中にある学校へもそういう制度の連絡をしていただければ、職員が何らかの形で子供たちの被害をつないで、助けることができるのかなと思いますので、是非、学校への周知、広報もよろしくお願いしたいと思います。

髙尾: いろいろ私も感銘を受けるような、ためになる情報が提供されたかと思います。もう少し議論を深めたいところですが、時間もまいりました。最後に私の方からまとめというか、一言申し上げたいと思います。

 今日は本郷様からお話をお伺いして、感銘を受けたというのはおこがましいですが、とても勉強になりました。それを受けて、私は3人のパネラーの方とのディスカッションをやりました。その中で、キーワードとしては「命」という言葉が出てきました。命は命全部という、すなわち、心も体も生活も生き様もすべてを含んでいきいきと生きるという意味での命だと思います。

 そこを、一人の人間として非常に大切なのだと思えるところが非常に大事である。原点であると思いました。それを、私の命だけではなく、私たちの命にしなければいけない。人間だからこそ、私たちは一人で生きているわけではございません。私たちで生きているわけですが、つい、私たちは私に戻ってしまいます。常に、私たちというところに開かれていないといけないのです。そのような態度こそが、私たちができる犯罪被害者支援につながるのではないかと学んだ次第です。

 2点目は、犯罪被害に遭われた方、その願いを聞くということが原点であると、つくづく今日も思いました。その方々が何を望み、何を期待し、どういう社会を求められているのかということを、私たちは真摯に理解するように努めなければならないのです。そのために、今日本郷さんが話されたことに、いろいろイマジネーションを働かせて、実は、犯罪被害者の方はこのように感じているのではないか、このように困っているのではないか、このような支援を求めているのではないか、このような社会になっていくことを願っているのではないかという、私たちの想像力をしっかり働かせなければいけない。

 機会ある毎に、例えば、何か社会的な事件が起きたとき、私たちは犯罪被害者に遭われた方はかなり大変だろうなと、どんなお苦しみをお持ちなのだろうかと、この人たちに一つでも支える何かがないだろうかと、そのように我々が考えることができれば、よりよい社会が実現されるのではないかと、今日はここのパネルディスカッションのコーディネーターを務めさせていただいて、そういう意識が私の中に生まれました。独りよがりかもしれませんが、御参考までにお聞きいただければと思います。

 これで時間がまいりましたので、今日の私たちにできる犯罪被害者支援というパネルディスカッションは終わります。パネラーの姫野様、大岡先生、白濵先生に、皆様、拍手をよろしくお願いします。

 つたないコーディネーターにお付き合いいただきまして、ありがとうございます。これでパネルディスカッションを閉じます。御清聴ありがとうございました。

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