中央イベント:パネルディスカッション

「途切れることのない支援のために~犯罪被害者に対する中長期的支援の在り方を考える~」

コーディネーター:
伊藤 冨士江(上智大学総合人間科学部社会福祉学科教授)

パネリスト:
武 るり子(少年犯罪被害当事者の会代表)
佐藤 真奈美(公益社団法人被害者支援都民センター犯罪被害相談員)
木本 克己(横浜市市民局人権課専任職(社会福祉業務担当))

高野 彰人(上智大学伊藤ゼミ代表)

芳賀 千夏(上智大学伊藤ゼミ代表)

伊藤: 御紹介ありがとうございます。上智大学の伊藤と申します。今日はコーディネーター役を務めさせていただきます。

 大学では社会福祉学科でソーシャルワークを専門に教えております。東京に赴任してから十数年たつのですが、犯罪被害者支援について研究及びいろいろな実践のお手伝いをさせていただいております。

 今日はこのテーマでパネルディスカッションを行います。先ほど武さんから大変感動的なお話を頂きました。その中で、事件に遭われた21 年前は非常に制度が整っていなくて、御苦労も多かったというお話がありました。そのときから現状を見ますと、犯罪被害者等基本法が制定され、それをきっかけにいろいろ整備されてきているようにも見えます。しかし、まだまだ犯罪被害に遭われた方が被害直後から実際に地域で生活を立て直すためには、様々なニーズも生まれてきますし、時間も掛かるということで、現在、中長期支援の在り方が大きなテーマになっています。ここでもそれをテーマに取り上げまして、皆さんとともに一緒に考えていく時間にしたいと思っております。

 ここにおられる方はほとんど御存じかもしれませんが、早期援助団体として指定された民間被害者支援団体は全国47 都道府県に1 か所ずつあって、地方公共団体においても犯罪被害者に対応するための相談窓口が整備されてきているという状況です。

 市区町村における総合的対応窓口は、平成29 年4月現在、その設置率は98.6 パーセントということで、ほとんどの市区町村に被害者に対応する相談窓口ができているということです。

 ところが、その実態について、専門性の発揮された対応ができているかを見ると、まだまだのところもあるようです。その辺の被害者のニーズに応じたきめ細かな支援を行っていくにはどういうことが必要か。今申し上げたような民間被害者支援団体の力、それから行政の力が大事になってくると思います。その辺の取組を今日お話しいただいて、どういうことが現在課題になっているのか一緒に考えていきたいと思っております。

 内容としましては、地方公共団体、民間被害者支援団体の取組の紹介、それから被害者の方の生活全般にわたる中期的支援の在り方、私たちは途切れることのない支援と表現していますが、また市民が犯罪被害者支援を担うことの必要性や、具体的にどういうことをしていったらいいかということも含めて話していきたいと思っております。

 時間は16 時45 分までが目安になっておりますが、パネリストの方々は今日のために準備を重ねてまいりました。どうぞお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

 先ほどパネリストについては御紹介いただきましたので、早速、中身に入っていきたいと思います。現在の取組の紹介ということで、今回は大学の学生をパネリストに加えましょうとお声掛けを頂きまして、上智大学の私のゼミの学生が参加させていただくことになりました。

 恐縮ですが、最初に私どものゼミがどういうことを大学で学んでいるか、それからゼミ内容の紹介について、がらっと話が変わるかもしれませんが、被害者支援を中心に活動しておりますので、その辺のお話をさせていただこうと思っています。今年度、私のゼミには13 人おりまして、4年生の高野彰人さんと芳賀千夏さんが代表としてここで発表させていただきます。

 では、ゼミ内容の紹介から、ちょっとリラックスして、「ああ、大学生はこんなことをやっているんだな」と見ていただけたらと思います。では、お願いします。

高野: ただいま御紹介にあずかりました伊藤ゼミの高野です。これから伊藤ゼミの紹介をさせていただきたいと思います。

 伊藤ゼミの主な研究内容としましては、司法福祉分野をベースとして研究を行っています。司法福祉というのは少し耳なじみがないかもしれませんが、司法を通して福祉課題の解決の道を探る学問となっています。事故や事件などで生まれた被害者、加害者の両方に寄り添って、それぞれの課題解決やこれからの生活について福祉的知見を持って考えていきます。

 具体的に説明しますと、例えばある事件が起きたとします。その事件については刑事裁判などによる法的解決がまず行われますが、その行為や結果にのみ目を向けるだけでは不十分だと思います。どういう背景があってその行為や結果につながっていってしまったのか。それを明らかにすることが、再犯が起きないためには必要だと考えています。その視点を欠いたまま処分が行われても、本当の意味で事件の解決にはつながらないと思います。その視点での学びが司法福祉ともいえます。

 ゼミ内容としましては、基本的なゼミのサイクルとして、文献をもとにしたプレゼン、ディスカッション、フィールドワーク。順番は前後しますが、この3本構成で基本的に活動しております。大体半期毎にテーマを決めておりまして、今期は対話を一つテーマに置いて、身近なところから社会全体に至るまで、自分たちの中で対話にどのような価値があって、その必要性がどういうところにあるのかを考えてきました。

 フィールドワークでは、今年、暗闇の中の対話を学ぶイベント、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」に参加しました。そのほかには、不定期ではありますが年に1回程度、刑務所や少年院などの参観をさせていただき、加害者側の社会復帰や処遇について考察を深めています。

 ほかにもイベントがあります。自分たちは一応学生ですので、余り硬いことばかりやっていても頭が痛くなってしまいます。そこで、たまに伊藤先生にお願いして、春にはお花見に行くなど、勉学を離れて息抜きもしています。

 今までのゼミの内容としては、先ほど挙げたほかに、主に被害者側の立場を中心に様々な機会を頂いて学びを深めております。以上になります。

伊藤: いかがでしたでしょうか。こういう形で大学のゼミでは学んでおります。被害者支援を取り上げている大学のゼミは全国的にみて多くはないと思います。上智大学では犯罪の問題、被害者支援を取り上げて、熱心に参加している学生もいるということで紹介させていただきました。

 本題に入ってまいります。今日の武るり子さんの講演を聴いて、まず大学生から感想を述べさせていただきます。では、お願いします。

高野: 先ほどの基調講演を聴きまして、全体的な感想を挙げさせていただきます。率直に自分たちが感じたのは、やはりやるせない気持ちがとても大きいです。

 次に、お話にもありましたが、遺族としてどん底の気持ちのときに、自分たちだけでこれから先、未来へ、前へ向くための努力をしなければならないというのは、素人意見ですが、本当に理不尽だなと心から感じました。

 またこれを受けまして、つらい思いをしている被害者の方の気持ちを考えると、犯罪のない社会に本当に、真になってほしいなと自分たちはすごく強く思っています。こういう問題意識、犯罪を減らしていく、なくすには何が必要かという問題意識も、今回のお話を聞いて改めて生まれました。

 当時の被害者側から見た制度の課題や感想もまた個別的に生まれてきまして、まずは被害者やその家族の立場では加害者の情報を知ることができないと。つまり、当事者への情報開示性が圧倒的に少なかったことに対して率直に驚きました。マスコミ報道が過熱し、被害者側にとって本当に必要な情報が得られない可能性があり、被害からの立ち直りにとって必要不可欠なはずである情報が得られないという課題がすごく強く残っているなと感じました。

 次に、武さんもお話しされていましたが、これには少年犯罪ならではの問題点、情報開示や加害者少年の更生中心の制度などもあることが読み取れました。また、武さんが事件に遭われた当事は、特に当事者の方を支援する被害者支援制度が未熟だった面が多く、そのため当事者自身が立ち直る努力をしなければならなかったというところで大きな課題があったといえます。

 最後に、被害者やその家族の方は報道被害のみならず、日常生活に困難が出てくる場合がほとんどなのではないかと考えました。以上になります。

伊藤: このような感想と課題を述べさせていただきました。引き続き、疑問ということで最初に一つ挙げたいと思います。

高野: 疑問としましては、被害者側にも何か問題や落ち度があるのではないかという疑問が最初にあったのですが、先ほど武さんから、情報に対する見る目、考える力を持つことが重要だというお話を頂きましたので、こういった考える力を持つためにはどういったことが大切なのかということをお伺いしたいと思います。

伊藤: 本当に武さんの講演の中で、既にこの点については十分に触れていただいたのですが、もう少し具体的にお話が頂けたらと思います。よろしくお願いいたします。

武: やはり被害者の置かれている現状を知ってもらいたいということです。被害者支援という言葉がいろいろなところで使われるようになりましたが、一般の方たちはまだまだ知らないのです。ある日突然事件に遭った人は地域では一家族なわけです。その周りには被害に遭う人たちがどういう思いをするのかを知らない人たちばかりがいることになるので、もっともっと現状を知ってもらいたいなと思います。

 それには身近な市町村がもっと啓発に力を入れてほしいです。被害者の人たちはこういう現状なんだということをもっともっと知らせるということが必要かなと思います。

伊藤: ありがとうございます。皆様、いかがでしょうか。ともすると私たちはこういった偏見、思い込みに惑わされていることが多いのではないかなと思います。今、武さんが御指摘してくださったように、こういったことを地域の住民としてきちんと考えていくことが大事だと思います。ありがとうございました。

 では、もう一つですね。疑問ということでゼミから挙げさせていただきます。

高野: 二つ目の疑問に関しましては、被害者を支援する機会や窓口は実際どういうところにあるのだろうかと、一般市民の目線としては感じました。

伊藤: では、この辺で現在の取組ということで、パネリストとして今日お座りいただいているお二人に話を移していきたいと思います。

 まず、被害者支援都民センターで犯罪被害者相談員と臨床心理士をなさっている佐藤真奈美さんから、よろしくお願いいたします。

佐藤: よろしくお願いいたします。今御紹介いただきましたとおり、私は公益社団法人被害者支援都民センターで支援を行っています。

【スライド1】民間被害者支援団体の取組ということで、本日は私ども被害者支援都民センターで行っております支援についてお話をさせていただきたいと思います。

 このセンターについては、御存じの方も、余り御存じない方もいらっしゃるかと思います。一通り今日は御紹介をさせていただきたいと思います。

 【スライド2】この公益社団法人被害者支援都民センターは、犯罪の被害に遭われた方や、その御家族への支援活動、また広報啓発によって、被害を軽減し、回復に資することを目的に設立された民間の団体です。主たる支援対象といたしましては、殺人、強盗、暴行傷害、交通犯罪、性犯罪等の生命・身体犯による被害者御本人、それから御遺族、御家族ということになります。

 支援体制といたしましては、東京都の公安委員会から認定を受けた犯罪被害相談員、直接支援員、臨床心理士など約20 名で支援に当たっております。電話、面接、相談、それから付添いなどの直接的支援、犯罪によって御家族を亡くされた御遺族のための自助グループの支援、広報啓発、調査研究などを行っております。

 【スライド3】簡単に都民センターの歩みを見ていきたいと思います。1991 年に犯罪被害給付制度発足10 周年の記念シンポジウムが開催された際に、欧米のような支援体制が日本に必要なのかどうかということが話し合われ、一般の傍聴人として参加されていた御遺族が声を上げたことが契機となって、翌年、東京医科歯科大学内に犯罪被害者相談室として開設されました。現在、47 都道府県に48 団体のこういった民間支援団体があります。日本で最初に発足した支援団体の一つということになります。

 当初は傾聴による電話相談が中心の支援を行っていたのですが、当事者のニーズを聞いていく中で、刑事手続への支援や、付添いなどのアウトリーチといったことが支援の柱になっていく形になってまいりました。2000 年には被害者支援都民センターに改組されました。

 2002 年には東京都公安委員会から犯罪被害者等早期援助団体の指定を受けまして、これによって警察が被害者の了解を得た場合、その情報をセンターに直接お寄せいただけることになり、警察との連携が強化されました。2008 年には東京都との共働事業が開始いたしまして、東京都の総合相談窓口の役割も担うようになりました。これによって、各市区町村との連携も強化してきました。

【スライド4】昨年度の罪種別相談受理件数は6,000 件超でして、その半数近くが性被害を占めている状況です。

【スライド5】このように刑事手続支援と心理的ケアが、二大柱として、今、都民センターで行っている大きな支援の中心になっております。この都民センターの支援の特色ですが、各都道府県にはいろいろな特色をもった民間の支援センターがありますので、これは都民センターのみの特色といえるかと思います。被害に遭われたあとに、刑事手続に関わらざるを得ないということが犯罪被害の特徴といえますが、心理的な負担が大きい中で、被害者はその手続に関わらざるを得ないということになります。二次的被害が非常に起きやすい状況の中で、更にその刑事手続きにいかに取り組んだかということがその後の回復に影響するというところがあります。

 この犯罪被害相談員が行う刑事手続支援、付添い支援、情報提供ですが、刑事訴訟法が改正されたり、被害者参加制度ができたり、裁判員裁判が始まったりといったことで、司法関係からの要請も増加しているという状況があります。

 それから心理的ケアについて、東京都との協働事業が始まったことによって、臨床心理士などが配置されるようになりました。これもまた犯罪被害の特徴といえるかと思いますが、犯罪被害に遭ったことでトラウマ症状が起こってきたり、中にはPTSDと診断を受けることが多くあるわけです。それに特化した専門的なプログラムを行える臨床心理士が配置されています。

 この犯罪被害相談員と臨床心理士という二つの専門職がセンターの中で協働することによって、刑事手続への影響を考慮した心理的プログラムの導入がスムーズに行えるというのが都民センターの特色といえます。

 【スライド6】支援の流れですが、基本的には警察や他機関から、若しくは御本人・御家族から電話で情報を寄せていただいて、センターで支援ができるかどうか、支援計画を立てていくことになります。それに応じて面接相談、付添いなどの直接的支援を行います。必要に応じて、時期に応じて、臨床心理士による専門的な心理面接を導入する、あるいは御遺族であれば自助グループの案内をするということになります。

 【スライド7】センター支援の柱の一つである刑事手続支援は、ここで何をしているのかというのが非常に見えにくい部分があります。簡単に御説明をさせていただきますと、被害に遭われた方は非常に精神的に不安定な中で刑事手続に関わらざるを得ないわけです。下に図がありますが、オレンジの線が被害者の精神状態となっております。事件に遭った時点で通常の精神状態からかなり落ちた状態となっている中で、刑事手続に関わる度毎に更に落ちるというぎりぎりの状態で、刑事手続に取り組んでいかなければならないという状況があります。

 ここを精神的に支えて、何とか刑事手続を乗り切っていただくということをしています。この手続の中で出会う関係機関の方々に、適切に理解が求められるように支援者が配慮してつなげていくという役割も担っております。

 【スライド8】もう一つの柱である心理的ケアについては、世界各国の研究で効果が認められているトラウマに焦点を当てた認知行動療法を行っております。

 【スライド9】犯罪被害者が抱える問題は様々です。被害に遭った後で現場の近くを通れなかったり、あるいはフラッシュバックのような症状が起こってしまって、あたかもその事件の時に戻ってしまったような状態になったりといった精神症状や、あるいは常に体に力が入っている、御飯が食べられない、眠れないといった身体症状、また刑事手続に関わらざるを得ない、それから仕事や学業が続けられなくなってしまう、そのために生活も立ち行かなくなってしまうという日常生活、社会生活の問題。刑事手続については終了の時期があるわけですが、そこで一段落つくこともあるのですが、多くの場合はその後も様々な問題が長く続いて行くことになります。

 【スライド10】都民センターが関われる支援の部分ですが、中長期、主に関わっているところは刑事手続終了までということになるわけですが、その後も刑事手続の終わったことでかえって精神症状や、あるいは日常生活の問題がクローズアップされてくるということもあります。また、刑事手続においても加害者の仮釈放の申請が出ているとか、釈放の時期が近づいてきたということで、いろいろ不安に思われることがあるわけです。そのときに応じて細く、長くずっとつながっていく支援と同時に、いろいろな機関とつながっていく、つなげていく支援を行っているというのが現状のセンターの取組です。

伊藤: ありがとうございます。皆さん、いかがでしたでしょうか。民間支援団体のことはよく知っていますという方もおられるかもしれませんが、東京都の取組ということで被害者支援都民センターの取組について詳しくお話を頂きました。今お話にあったように、刑事手続の支援と心理的ケアを大きな柱として取り組んでおられます。専門職の方が中心になって、このようなきめ細やかな支援を行っているということです。

 では、横浜市の取組についてお話ししていただくことにいたします。今日は行政の窓口ということで、横浜市市民局人権課から、臨床心理士と精神保健福祉士の資格をお持ちで御活躍なさっている木本克己さんにお話を頂きます。では、お願いいたします。

木本: 横浜市から参りました木本と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

 【スライド1】私は市民局人権課で行政の人間として働いているのですが、今日、この場に呼んでいただいたのは、恐らく横浜市で対人援助の専門職を窓口に置いているという特徴があるというのが一つと、それから国と協働して連携支援体制の整備促進に向けた取組を行ってきたので、これについてお話しするという役割だと思っております。これから少し御説明したいと思います。

 【スライド2】被害者やその御家族、御遺族は、ここでは被害者等という言葉を使わせていただきますが、被害後に様々な生活上の変化や困難に遭遇します。先ほど佐藤さんのお話にもあったとおり、ここでは改めて代表的なものを五つ挙げてみました。

 まず、心身の不調。これに関しては、例えばPTSDとか、うつとかが考えられるのですが、主に医療機関や心理士等が対応していると思います。さらに、周囲の人の言動による傷つき。これは予防策ということで啓発活動が該当すると思います。そして3番、4番。こういったことに関しては、警察の被害者支援室や弁護士など司法関係機関がこれまで熱心に取り組んできた歴史があろうかと思います。一方、ここにあります赤い点線の括弧内のような生活上の問題については、主に市町村等の基礎自治体が対応できるものが多いのではないかと思われます。

 【スライド3】本来、被害者であろうとなかろうと、生活上の問題については基礎自治体が対応することが多いと思います。これはもう御存じだと思いますが、国の立てた犯罪被害者等基本計画がありまして、市町村に総合的対応窓口の設置が求められたのが平成13 年の第二次基本計画のときでした。さらに、昨年改定された第三次基本計画で生活支援という視点が重要課題とされまして、対人援助の専門職の活用が言及されております。

 【スライド4】神奈川県と横浜市の支援体制を簡単に御説明します。横浜市の窓口設置に先行して、神奈川県では、県庁と県警察、それと民間の支援センターの3機関が一体となったかながわ犯罪被害者サポートステーションが相談支援に当たっており、主に被害直後のカウンセリングや法律相談、生活資金の貸付け、警察署や裁判所への付添い支援などを行っております。これに加えて、横浜市は、市民に身近な窓口として、生活上の問題について、主に中長期的な支援という視点で支援を行っております。

 【スライド5】横浜市の窓口は、横浜市犯罪被害者相談室という名称で平成24 年に設置されまして、私を含めて社会福祉職の常勤職員2名が配置されております。支援事業はこの枠内の主に四つですが、本日は時間の都合上、個別の支援と先ほど申し上げた体制整備の取組について御説明したいと思います。

 【スライド6】個別相談支援ですが、横浜市内在住、在学、在勤の方を対象に、電話、メール、面接による相談に加えて、高齢者とか小さなお子さんのいる方、あるいは心身の不調で外出が困難な場合などには自宅への訪問も行っております。さらに、医療機関や裁判所等への付添いのほか、被害後の様々な手続、例えばお亡くなりなった場合は遺族年金の申請だったり、健康保険のことだったり、障害を負ってしまった場合、PTSDなどで症状が長期化すると障害者手帳の対象になることもありますので、こういった行政窓口の手続に関して書類の作成のお手伝いをしたり、一緒に窓口に行ったりといったことを行っております。

 【スライド7】こちらが相談室を開設してからの支援件数の推移です。2本あるうちの左側が実件数で、右側が延べ件数です。年々増加しておりまして、ここには28 年度までの数字しかないのですが、29年度は9月末、つまり上半期までで、既に400 件を超えているという状況でございます。

 ただ、横浜市の人口は370 万を超える人口ですので、実はこの数字でも、まだまだ私たちの相談室の存在が、支援を必要としている被害者等の方々に届いていないというところはあるのかなと思っております。

 【スライド8】こちらが個々の相談に含まれる相談者のお困り事とか、御希望、ここではニーズという言葉を使いますが、それを分類したグラフです。多い方から、上から順に精神的ケア、裁判・損害賠償等、家族関係に関すること等々となっていますが、この中には自治体のサービスにつながる内容も少なくないと思います。

 スライドは今日、御用意していないのですが、いわゆる犯罪の種別によるものですと、やはり多いのが殺人事件の方の遺族の御支援、それから交通事件の被害者。あとこれは多分行政窓口の特徴だと思いますが、詐欺事件の被害の方も結構多いです。いわゆる振り込め詐欺とか、消費契約トラブルでお困りの方からの御相談も多く寄せられています。

 【スライド9】今、御紹介いたしましたとおり、市相談室では相当数の支援は行っているのですが、開設当初は市相談室が何をするところなのか、市民はもとより関係機関の職員にも十分認知されておらず、また私たち自身も各関係機関の役割分担をきちんと把握できていなかったという点があって、その結果、単発の電話相談等はあっても、なかなか連携支援に至る事例が最初は多くなかったということがございました。

 さらに、市内の被害者等支援の関係機関同士であっても、必ずしも各機関の機能について十分な相互理解ができていない場合もあって、また被害者等の生活上のニーズへの着目も十分ではないのではないかと考えて、支援体制整備の必要を感じておりました。

 【スライド10】そこで、当時、犯罪被害者等支援の国の所管であった内閣府の地方自治体向けの事業にエントリーをいたしまして、内閣府との共催として、「横浜市における犯罪被害者等支援体制の整備促進事業~途切れない支援のために関係機関の連携を「見える化」する事業」に取り組むことになりました。

 内容はここにもあるのですが、市内関係機関に参加を呼び掛けて、各機関の相談事業の長の出席による会議を事業の最初と最後に行い、その間に実際に実務に携わっている方たちによる仮想事例検討会を行うことで、各機関の機能の相互理解とか、連携支援への課題とか、そういったものの抽出を目指しました。

 【スライド11】事業の実施に際しては、事業全体のスーパーバイザーとして帝京平成大学の大塚教授の御協力を仰ぐとともに、被害者遺族、御家族に助言者として御参加いただき、どうしても専門家だと見落としてしまうような、そういった大事な視点から本当に大切な御助言を頂くことができたと思います。

 【スライド12】これが参加協力機関の一覧です。青い点線で囲ったところが、先ほど御説明しました県の被害者支援の中核機関であるかながわサポートステーション。それから、黄色い線で囲ったところが、いわゆる司法関連機関。それから、この緑の部分がその他の相談機関や医療機関。赤色が横浜市の関係区局となっております。恐らくこのような幅広い関係者が、特に実務者レベルで一堂に会することは、余りなかったのではないかなと思っております。

 【スライド13】ごく一部ですが、仮想事例検討会の様子を御覧いただければと思います。ジェノグラムとかエコマップという、福祉分野の手法を用いて連携支援の在り方を検討しました。特に被害直後と被害後しばらくたった後での支援の比較も行いました。

 【スライド14】27 年度事業の成果です。関係機関の役割や特性等の相互理解が進んだこと。生活上のニーズ把握の大切さと、多様なニーズへの支援に当たっては全体を調整するコーディネーターの役割が重要であることなどを共通認識することができ、連携支援の意義や課題をある程度可視化することができたと思っております。

 【スライド15】こちらが事業の成果を検証するために、事業開始前と終了後に各機関にお願いしたアンケートの結果の一部です。ちょっと分かりにくい図で恐縮ですが、開始時点での連携支援の達成度が赤の点線グラフ。事業終了後に今後連携支援がどの程度できそうかという見込みをお聞きしたのが青の実線で表しています。前後の回答の尺度が同じものではないのですが、連携への意欲が高まっていることが示唆されていると思います。

 【スライド16】そして、継続的な事業として、28 年度に所管が移った警察庁との共同事業として、「途切れない支援のための共通支援ツールの検討事業」を実施いたしました。内容は長による合同会議と、実務者レベルのグループ検討ということで、構造的には前年度と一緒ですが、目的はこの矢印のところにありますように、被害者等の多様なニーズをアセスメントできるツールの開発ということになっております。

 【スライド17】もう少し詳しく御説明いたします。ツール開発の狙いといたしましては、関係機関が同じ形式のアセスメント用のツールを持つということで、情報の共有が容易になって、被害者等が同じ話を違う場所で何度もしなくても済むという負担減につながると考えました。また、弁護士とか医療機関のような専門性の高い機関ほど、相談に行く被害者も受ける支援者もその専門性というところにどうしても着目してしまうので、その他のニーズが後回しになってしまうのではないかというところから、多様なニーズへの気付きのきっかけとしてツールが有効ではないかと考えました。

 【スライド18】そして、28 年度の事業の成果として共通支援ツールが作成されました。そのこと自体、今後の支援展開に有効だとは思うのですが、それ以上に共通支援ツールを関係者が共同して作ったことに大きな意義があると考えております。そのことで、実務者レベルでの、いわゆる顔の見える関係が進んだと感じております。また、気を付けなければいけない点として、こういったツールを使おうとしても、どうしてもそれ自体が目的化してしまうといった危険性がありますので、飽くまで被害者等の心情を第一に考えるといった点も検討によって共有することができました。

 【スライド19】29 年度も作成したツールを実際に使用してみて、その検証と課題を検討し、ツールの改定にも取り組んでいく予定になっております。

 【スライド20】これが市相談室の支援実績から多少事業の効果を示しているかなと思うグラフです。個別支援における関係機関のやり取りの数を示しているのですが、事業を開始した27 年度、この赤の点線から右側以降増加しているのがお分かりいただけると思います。この一番右側の29 年度は上半期の数字なので、実際には年度を通すとこの倍ぐらいはいくのではないかと思っております。

 関係機関との連携を非常に重視してきた余り、庁内の連携がまだ少し不十分なところがあって、青色の棒グラフが庁内のやり取りの数ですが、こちらがまだ不十分というところが今一つ課題かなと思っております。私が用意したスライドでもう一つ、まとめというのがあるのですが、これはまた後のディスカッション用にとっておこうと思いますので、一応、私の取組の発表はここまでにさせていただきます。

伊藤: どうもありがとうございました。横浜市の取組について御紹介していただきました。横浜市では先駆的な取組をなさっており、私も関心を持っていたのですが、今日、こうした形で詳しくお聞きすることができて、私も勉強になりました。グラフなどでこういう成果が上がっているということで、分かりやすく示していただけたと思います。

また、横浜市の場合は、平成27 年、28 年度、29 年度と、被害者支援の体制整備促進事業に積極的に取り組まれて、その成果についても御発表いただきました。

現在の取組について、民間支援団体として被害者支援都民センターから、それから行政の窓口として先駆的な横浜市からお話しいただきました。この辺でまた振ってしまって恐縮ですが、武さん、いかがでしょうか。何か感想がありましたらお願いいたします。

武: 本当に随分変わったなとは思っています。横浜市の例などを聞いても、本当にきめ細やかなことをされているんだなと、とてもうれしくなりました。けれども、ほかのところはどうなのかなというと差があると思います。だから、どれだけ市町村で自分たちがするべきことだという意識を持ってもらえるか。自分たちが頑張って犯罪被害者の支援をとにかく充実させるようにするんだという心意気をどうやったら持ってもらえるのかなと悩んでしまいます。場所で温度差があるような気がします。だから、もっともっと横浜市の方に頑張っていただいて、どんどん講演して広めていただきたいと思います。

 たくさんの遺族がいまして、地方にいると民間支援団体に行くのがとても大変な場合があります。距離的に遠かったりするものですから、相談に行きたくても行けないということがあります。やはり近くの市町村に頑張っていただきたいです。そして、しっかり旗を振っていただきたいです。私たちはここにいますよ、こんなことをやっていますよ、ここは大丈夫で安心な場所ですよということを、自信を持ってしっかりと旗を振って、目印がちゃんと分かるようにしていただきたいです。遺族にはそこに行きつくまでに時間の掛かる人がいます。必要なときにそこに行ければいいのですが、時間が過ぎていてそこに行きついたときには、心に傷を負っていて、体を悪くしていたりする人も結構います。だから、必要なときに必要な場所に早く行きつけるように、しっかり旗を、目印を振っていただきたいです。ありがとうございます。

伊藤: ありがとうございます。本当に被害に遭われた方の実感だと思います。旗を立ててほしいということです。横浜市の方では、最初から福祉の専門職を配置されていたということですが、何かその辺について、どういういきさつでそういうことができたのか、もし公表していただけるようでしたらお願いします。

木本: 横浜市の場合はもともと社会福祉職の採用が随分前からございました。例えば、いわゆる生活保護のケースワーカーなども自治体によっては一般の事務職の方がやっているところが多いのですが、横浜市は最初から社会福祉職が担当しているというところで、もともとそういった社会福祉職の活動できる場があったということが一番大きな点かなというのがあります。聞いたところでは、窓口を作るときにどんな窓口を作るかという検討会があって、被害に遭った方の大変な思いを受け止めて、きちんと支援をするためには、それなりの専門の人を置く必要があるだろうというやり取りがあったと聞いております。

伊藤: ありがとうございます。頼もしいですね。こういう地方自治体が増えるといいと思っております。生活上の問題を考えたときは、本当に行政の窓口が身近になると思います。そして、被害者支援に特化した形で支援が行えるのは正に民間団体であるからです。佐藤さんの方から何か現状の取組について付け加えることがあったらお願いいたします。

佐藤: 現状の取組ではないのですが、今、武さんのお話をお聞きして、やはり警察であれ、行政であれ、民間であれ、最初につながったところからいかに情報共有して、その先にどうつなげていくかというところが非常に重要だなと思っています。

 民間支援団体の場合、本当に支援することのみを使命として仕事をしている団体ということになりますので、つながった場合には被害者の方のその時々に揺れ動くお気持ちに寄り添いながら、必要に応じて情報提供をしたり、必要な機関につなげていったりしているわけです。その中で被害者支援に携わる支援員も被害者の心理状態や、そういった関係機関とか、刑事手続についてもそうですが、精通した専門家になることが求められていると考えて精進をしていかなければいけないと思っています。それと同時に、先ほどの武さんのお話をお聞きして、何ができるかは分からないけれども、何かお手伝いできることがあったらさせていただきますといった情熱みたいなものですか。もともと民間の団体の歴史としましては、当事者が声を上げて、そういった人たちが集まってできてきたという流れがありますので、その両方を持っていかなければいけないと改めて今考えているところです。

伊藤: ありがとうございます。民間支援団体のよさも今お話しいただいたかと思います。最初はみんな手弁当で始めていった民間団体も多く、全国的に見た場合、まだまだ小さい規模でやっていて、財政的にも恵まれないところもありますが、何とか被害者に寄り添おうということで情熱的にやっておられる。また一方で、民間の団体についても体制整備が必要ということで、今日お集まりの皆さん方にも関心を持っていただきたいと思います。

 では、今現状についてということでお話を頂きましたので、次のテーマに移っていきたいと思います。また話のきっかけということで、ゼミ生からの質問をお願いしたいと思います。

芳賀: 先ほどのお二方からのお話から、被害者に対するいろいろな支援が今はあると理解したのですが、実際にもし自分が犯罪被害に遭ったときに、まずどのように機関や窓口につながることができるのか。先ほど佐藤さんは警察との連携もあるとおっしゃっていたのですが、武さんのお話にあったように、旗という、まずどういうところに行きつくのかというのを教えていただけますか。

佐藤: 先ほど少ししゃべってしまったような気もするのですが、犯罪の被害に遭われたあとで最初に接する機関といいますと、やはり警察。それから現在、性犯罪であればワンストップセンターなどに御相談される方が多いかと思います。

 そこからいかにつなげてもらうか、つないでもらうかというところと、あとは民間支援団体の場合は、周知自体がされていない面がありまして、やはり被害に遭われて初めてこういうところがあることを知ったとおっしゃる方が多くいますので、それこそ行政の窓口とか、いろいろなところと連携をしていって、まずこの民間支援団体の支援についても知ってもらう。そして、つなげてもらう。その知ってもらうというところで旗を振っていかなければいけないのかなと今は思っています。以上です。

伊藤: ありがとうございます。では、引き続いて木本さんの方からお願いいたします。

木本: 今、佐藤さんがおっしゃったように、実際に被害に遭って、最初に事件を把握するのは警察なので、警察からの連絡ということでいうと、被害者支援センターが、東京でいうと都民センターが把握するのだと思います。ただ、先ほど中長期的な支援といった中で、行政の窓口が果たす役割があるので、その点でいうと、例えば警察だったり、弁護士の先生だったり、いろいろな犯罪被害に関わる機関に、行政の対応窓口がどんなことをやっているのかということをきちんと知っておいていただくことが行政の役割としてすごく重要だと思っています。

 24 年に私どもの窓口ができた最初の頃、後になって神奈川県の被害者支援センターの所長さんから言われたのですが、実は市の窓口ができたとき、何をやってくれるところなのかよく分からなかったよと。今はすごく連携がとれていて、よくやってくれているとおっしゃってくださるのですが、最初はそんな感じでした。やはり窓口が何をやっているのかを市民に対しても当然ですが、関係機関に何をしているのかをきちんとPRしていくことがすごく大事かなというのが一つあります。

 もう一つは、例えば警察に被害届を出していないという被害者の方もいらっしゃいますし、それから被害に遭って何年かたってもまだ被害の影響で苦しんでいるという方もいらっしゃいます。そういった方の場合には、市民の皆様に対して行政の窓口をPRしていく必要があるので、当然そちらも大事なことだと思います。先ほどの旗を振ってというのもそうだったし、それは多分各自治体がいろいろな工夫をやっているところだと思います。ただ、これはなかなか幾らやっても十分といえないところがあります。

 横浜市の場合ですと、大体2年に1回ぐらいですが、1万5,000 とか2万枚ぐらいのチラシを作って、 いろいろな機関とか、公の図書館とか、区役所とか、そういったところで配布していただくとか、それ から今はちょうど被害者週間ですので交通広告によるPRがあります。地下鉄のドア上の電光掲示板の ところに相談室の電話番号とかを載せたり、私鉄の中刷り広告に啓発用のポスターを貼ったりして、い ろいろやっていますが、それでも不十分なところはあります。

 そうはいっても行政にはいろいろな啓発のツールがあって、例えば横浜市の場合だと「広報よこはま」という全戸配布のいわゆる広報紙があります。これに、市相談室の窓口のことを載せることも1年に1回はさせていただいているので、そういった形で少しでも相談室の存在が市民の方の目に届くようにということは、これからも続けてやっていかなければいけないと思っております。

伊藤: ありがとうございます。このように、まず支援の窓口を周知するというところから今も努力されているということがよく分かったかなと思います。では、武さんの方から。武さんの場合は今も犯罪被害に遭われた方をいろいろな形で支援なさっていると思います。具体的にどのように機関とか窓口につながっていることが多いのかを、御経験から少しお話しいただけますでしょうか。

武: その前にいいでしょうか。

伊藤: どうぞ。

武: いろいろなところでパンフレットができていて渡すようになっていると思います。突然事件に遭った人はパンフレットをもらってもなかなか理解できません。そして、パンフレットをもらっても、まず不信感から入ったりすることがあります。ここは、自分が電話をしても本当に大丈夫な所だろうかと思ってしまうのです。いろいろな所でパンフレットを渡されると思うのですが、ほんの少しでいいから説明を加えていただきたいのです。

 何枚かのパンフレットを渡されても本当に分かりにくいです。せっかく使えるものがあるのに、使えないという人が結構います。だから、パンフレットを渡す、何々に載せるというだけでは足りないのです。いろいろな場所での説明をしていただきたいです。

 そして、遺族の人、被害者の人には遠慮してしまう人がいます。自分がそこに行って相談をしてもいいのだろうかという人も結構います。だから、本当に相談しても大丈夫です、ここは、そういう場所なんです、どうぞ遠慮なく来てくださいというメッセージも付けていただきたいのです。そうでないと、なかなか一歩が踏み出せません。踏み出すまでに時間が掛かるというのはすごくもったいないことだと思います。事件直後からそういう窓口につながるというのが私はすごく大事なことだと思います。精神的な面もそうですし、法律的なこともそうです。例えば刑事裁判がどう進んでいくのか自分たちに何ができるのか等、分からないことばかりです。色々なことを理解しながら、自分がどう関われたかが、その後、生きていく上でとても大事なことなのです。

 それと精神的なことでこんなことがあります。例えば刑事裁判が終わり、民事裁判が終わってしまうとそれまでいた支援の人たちがそれらが終わった途端に役割が終わったと離れてしまうことがあると思います。でも、私たちはそれで終わりではないのです。刑事裁判が終わって、民事裁判が終わった途端に体を崩す人もいます。だからこそ長い支援が必要なのです。必ず何かのときにはここは何回来ても大丈夫ですよ、遠慮なく来てくださいねということを必ず声をかけていただきたいと思います。

 近所の人たちは「もう十数年たっているから大丈夫でしょう」と思うことが多いです。でも、本当は心の中にまだ悲しい苦しい思いが残っているのに事件のことや殺された人のことが話しにくくなります。言いたいことがあるのに我慢をしているものですから、身体を悪くすることが出てくるのです。だから、せめて窓口の人は、必ずひと声付ける、説明を付ける、ここは大丈夫だと言い続けることはすごく大事だと私は思います。

 私は、現在35 家族ぐらいいる仲間のうち、もう7人の人を見送りました。寿命からいって、本当に若いと思います。だから、そのことを思ったときに、全てが事件のせいではないですが、その中には地域で言いたくても言えなかった人もいます。なぜなら、事件に遭った人にきょうだいがいたりすると、声を上げたらそのきょうだいに何か影響があるのではないかということで我慢したりします。その人が気を遣わずに愚痴をこぼせる所がもっと近くにあったら違ったのではないかとか、いろいろなことを思ってしまいます。本当に寿命も縮めているような気がします。もちろん事件だけのせいではないと思いますが、大きな原因の一つではあると思います。本当に近くに遠慮なく行ける場所、そういう所があってほしいと思います。

 それから被害者支援ということは見えないものが多いのです。だから、支援する側も「これで被害者支援になっているのかな」とものすごく不安を抱えられると思います。ちゃんと目に見えていることで一緒に動くとか、意見を一緒に言うとか、裁判所に行って何かをするとか、分かりやすいものであればいいのですが、見えないことが多いのです。

 一つ例を挙げていいですか。私は民事裁判しか経験していないのですが、刑事裁判も同じだと思います。民事裁判は大変でした。加害者は好き勝手言うんです。うちの息子の人格まで変えるし骨格まで変えるのです。不良だったように言うし、逃げなかった方が悪いと言うし、けんかだと言うし、すごく腹が立ってすごく傷つくわけです。民事裁判に行くたびにズタズタになるわけです。

 そういうときに、私は今も忘れないです。当時、傍聴の人がたくさん来てくださいました。幸い、会の代表もしていましたので恵まれていたと思っています。学生さん、私の近所の人、そして全く知らない人も傍聴に来てくださっていて、いつも傍聴席が埋まっていました。私は加害者が勝手なことを言うたびに、頭の先からつま先まで怒りが走るんです。傍聴席ではなく中に入れてもらっていましたので、そこですごい思いを抱えながら座っていたのです。

 そうしたら加害者が何か言ったときに、また勝手なことを言ってるなと私が思う前に、傍聴席の人がため息をついたんです。「はあ」と聞こえたんです。「また、加害者は勝手なことを言っている」と私には聞こえたんです。ため息一つです。あの空気です。あの空気を感じられたときに私は、救われたのです。「ああ、この場所に私たち夫婦と同じような思いを持って、一緒に闘ってくれている人達がいる」と私は感じられて救われたのでした。

 帰り際に主人と話しました。民事裁判というのは家族だけで闘うことが多いから、夫婦だけであの場所にいたなら、帰りはどうやって帰ってただろうかと。でも、傍聴の人たちがいたから、一緒に怒ってくれるというか、腹を立ててくれるというか、そういう空気に救われたねと。

 だから、支援というのは本当に目に見えないものが多いのです。けれども、すごく大事です。私はそういうことを一つひとつしてもらっていたから、民事裁判もすごくいい形で闘えました。決して判決が全ていいものではなかったけれども、終わったときにはすっきりしていました。そういう見えないもの、一緒に怒るとか、一緒に悲しむとか、一緒の場所を共有するとか、それだけで違うのです。だから、「ああ、こんなことでいいのかな」と悩むこともあると思いますが、現在、被害者に関わっている人たちはどうぞ頑張っていただきたいし、これからも続けていただきたいと思います。ありがとうございます。ちょっと質問と違ったかもしれません。

伊藤: ありがとうございます。本当に被害当事者にならなければ分からない心情だと思います。どういう支援が役に立ったかとか、その思いを支えてもらったかとか、なかなか当事者の方でないと実感できないことを今お話ししていただいたと思います。中長期にわたる支援はなかなか端々で難しい点があるわけですが、武さんのお話では決して難しいこととは考えずにという点もありました。

 どういうふうに支援がつながっていくのか。パンフレットを渡したから知っているはずだとつい思いがちですが、なかなかそれだけでは駄目だと。一つメッセージがあったり、安心だよ、大丈夫な組織だよということも一緒に伝えたりすることによって、初めてその情報も生きてくるのかなと思いました。

 私事ですが、今年の4月にTBSラジオに出てほしいと言われました。被害者支援のことを取り上げるというから珍しいなと思って、御存じの方もいるかもしれません。「荻上チキのSession-22」という夜の番組があって、私もふだんよく聞いていたのですが、それに突然出てほしいという依頼でした。被害者支援を取り上げるなら手伝わないわけにはいかないと思いまして、さんざん迷ったのですが、いいですよと。電話で済むことだと思ったら、「いや、スタジオに来てください」と言われました。犯罪被害者等給付金制度の変更があった時期で、被害者問題の特集番組でした。

 私としてもどういうことを聞かれるのかなという興味もありましたが、荻上さんは最初に「犯罪被害に遭うと、どうやって窓口とか相談機関につながることができるんですか」と聞かれたのです。それは私たち被害者支援に携わっている者にしてみたら、すごく当たり前のことだと意識していたのですが、「ああ、リスナーの方とか、一般の方たちはそこから分からないんだな」というのがとてもよく分かって、どうしたら支援につながるのかということから説明しなければいけないんだなと思いました。

 今まで挙げていただいたように、都民センターでも、横浜市でも様々な努力をされているのですが、なかなかそれが一般的な周知まで至っていないという現状もまだあるのだと思います。最初の取っ掛かりです。それを私も実感させてもらいました。

 引き続き、そういった直後の話からさらに進めて、またゼミ生から質問をお願いします。

芳賀: 先ほど私たちも課題として挙げさせていただいたのですが、犯罪被害に遭った直後と、しばらくしてからというのは必要な支援が異なってくると思います。先ほど武さんからも、最初は御飯など、その日その日の生活を送るための支援が有り難かったというお話もありましたし、裁判のときのお話もありました。

 犯罪被害に遭われると完全に元の生活に戻るということはないと思います。残された家族など、犯罪被害に遭った人たちがそれぞれの人生を再び歩めるようにするための、中長期にわたる支援や連携について、もし佐藤さんや木本さんが行われているものを具体的に御説明していただけたらしていただきたいし、武さんからもどういったものが必要なのかというのがありましたら教えていただきたいです。

伊藤: 他機関連携も含めてということでお願いいたします。では、佐藤さんからお願いできますか。

佐藤: 民間の支援団体、都民センターの話になってしまいますが、中長期と言いましても、主に深く支援として関わるというのは刑事手続終了の少しあとまでになります。事案によってもそれが中期だったり、長期にわたったりすることもあるわけですが、それまでの間で、刑事手続支援においてはいろいろな機関と連携して支援を行っていくことが多く行われています。

 先ほどの武さんのお話は民事のお話でしたが、そこで感じられたことをまさしく私たちは、できているか、できていないかはさておいて、目指しているところではあると感じています。犯罪の被害に遭うこと自体が他人に主体性を奪われる経験といえるかと思います。刑事手続に関わらざるを得ない中で、精神的には大変な状態であっても、適切なサポートを受けながら、必要な配慮を受けながら、御自分が主体性を持ってできるだけのことをやったという感覚を得られたときに、回復につながっていくというところは感じています。

 今は裁判の支援についても、東京では東京地方検察庁に被害者支援室ができていたり、そこの担当者がセンターに研修に来てくださったりして、チームとして連携して支援が非常にしやすくなってきたという印象はあります。ただ、チームとして機能するために、誰がそのチームをコーディネートしていくかという点で、まだ各機関それぞれ共通の認識ができていないところがあって、どういうふうにしていくかが今後の課題だと思います。

 第3次の基本計画では、民間の支援員が支援全体をマネジメントしていくコーディネーターの役割を期待されています。先ほども申し上げましたが、いろいろな関係機関にいろいろな役割がある中で、唯一被害者を支援することのみを使命としている支援者が、更に被害者の心情や状態に精通して、どういうところで、どういう支援が受けられるかといったことも含めて研さんを積み、コーディネーターの役割を担えるようになっていくのが本来目指すべき姿なのかなと、私個人の考えとして思っているところです。

 それと、先ほど武さんに被害者支援の何が支援なのかが見えにくいとおっしゃっていただきました。本当にそれはそのとおりで、被害を受けて精神的に不安定になってしまったり、トラウマの症状があったりするのでカウンセリングをお願いしますというのは、非常に分かりやすいし、見えやすいのです。ただ、裁判や刑事手続の支援での付添いについては、付き添っていって何をしているのかというのが非常に見えにくい。

 例えば、裁判で証人として出廷をしなければいけないことが決まっているので、付添いをお願いしますという要請がありますが、そのときだけ誰でもいいから隣に人がいればいいわけではないのです。やはりその方の裁判に対する不安とか、加害者に対する気持ちとか、そういったものを共有して、その方がどういったところで非常にしんどくて、つらくなるのかとか、そういったことが判断できて、初めてその場での臨機応変な対応が可能になるかと思います。そういったこれまでの支援の積み重ねや、一つひとつの付添いでやっていることなどを、連携していく上で各機関に知っていただくように、私たちもこれから働き掛けていかなければいけないし、研さんを積んでいかなければいけないと思っています。

伊藤: ありがとうございます。では、引き続いて木本さんからお願いします。

木本: 中長期的な支援というと確かに分かりにくいと思います。実際に私や私の同僚が関わった事例で、もちろんそのままはお話しできないので、いろいろぼやかして話をします。例えば、殺人事件の御遺族の方で小さいお子さんがいらっしゃったとすると、もちろん事件直後は捜査への協力や裁判のことなどがあって、親御さんが警察や検察庁、裁判所に行くときに、その小さいお子さんを誰がみるのかといった保育の問題などがまずあります。

 そういった最初の問題があって、少し時間がたって、そういったことが終わったときに、今度は残されたお子さんたちが大きくなっていくわけです。やはり事件の影響があって、学校で少し不適応を起こしたりすることがあります。そうすると、今度は学校の適応をどうするのかという問題が出てくるわけです。この場合は、学校の例えばスクールカウンセラーだったり、担任の先生だったり、児童相談所だったり、そういったところと連携して、そのお子さんたちのケアのための支援が行われていくわけです。

 また更にいくと、一番上のお兄ちゃんが今度大学に行くことになったと。だけど、事件があって経済的にも余裕がない場合に、大学に行く資金をどうするのかとなったときに、今度は犯罪被害に遭われた方が受けられる奨学金制度があるので、そういった制度を使いましょうと紹介していくわけです。

 何が一番お困りなのか、どういった希望があるのかというのは、時間とともにどんどん変わっていくものだと思いますので、その都度その都度、適切な情報提供だったり、調整や仲介だったり、そういったことをしていくのが行政の窓口の役割の一つかなと思っています。

 先ほどの武さんのお話で私が非常に「そうだよな」と思ったのは、そういった目に見えるお手伝いのほかに、そういったいろいろな困り事に望ましくは同じ人がずっと寄り添ってほしいと。行政の窓口はどうしても異動があるので人が変わってしまうのですが、それにしても窓口の人がずっと寄り添って、そういった支援をしていくことが、目に見えない支援の一つになるのかなという気はしています。

 ただ、その反面非常に難しいと思うのは、一般的な行政職員、行政窓口で対応する職員には、目に見えない支援は分かりにくいということです。市民の方が窓口に来て、例えば健康保険についてこういうことを申請します、年金のことをこうします、税金のこういうことをお願いしますといったときは、目的がはっきりしているわけですから、窓口の職員はやることがはっきりしているからできるのです。自分が何をやっていいのか、何に役に立つのかが分からないという状況で、ただただ相談に来られた方の話を聞き続けるというのは、残念ながら大変難しいことなのかなと。これはある勉強会で、私の先輩に当たるような行政の支援者の方が教えてくださったことです。恐らく本当にそういうことはあると思います。

 まず、行政職員が窓口の対応で、ある程度被害者支援をちゃんとやろうとすると、そういったことを引き受けるという覚悟が必要だと思います。ただ、覚悟だけでは難しいと思うので、これも同じ勉強会の中で話題になったことですが、一つのやり方としては、各市町村に私とか佐藤さんみたいな専門職を置くというのは難しいと思うので、都道府県に少なくとも一人とか二人、常勤でも嘱託でも構わないので、そういう専門職員である程度長く続けられる人を置くことができれば、市町村の窓口に被害者や被害者御家族が来て、御相談にのって対応に困ったときに、その方に御相談することができます。その方からアドバイスを受けたり、場合によってはその人に来てもらって窓口で一緒に対応したりとか、そういうことも可能になると思います。これは各都道府県がやることなので、一介の市職員の私が言うのは大変おこがましいのですが、例えばそういったことをこれから考えていく必要があるのではないかなとも思いました。

伊藤: ありがとうございます。具体的にお話しいただいて、いろいろ参考になる点があったと思います。では、武さんからこのポイントについて何かございますか。

武: 今おっしゃったように、一人専門職を置くというのはとても大事だと思います。被害者の人が窓口に来たときに分からないことがあれば、その人に相談するというのはとても大事だと思います。先ほども言いましたように目に見えない、答えがすぐ出ないようなものも多いと思うので、窓口の人が自信を持って対応するためにこれからはそうなってほしいと思います。

 更に言えば、地域には民生委員の方もおられるので、そういう方も巻き込みながらというのもいいのではないかと思います。といいいますのは、私たちは遺族の集まりで1年に1回集まるのですが、そのときは同じ思いの人が集まるからいいけれども、みんな翌日には地域に戻るのです。そうすると、地域に戻ると一人なんですね。一家族なんです。私は帰ったときに、身近な誰か地域の人で「大丈夫ですか」と声を掛けてくれるような人がどれだけいるかというのは大きいと思います。

 私もそうでしたが遺族の勝手で、とても嫌なときもありました。何も触れられたくないという感じのときもあったのですが、それがしばらくすると、本当に孤独になって怖くなるのです。誰にも関わってもらえないという怖さがありました。だから、「大丈夫ですか」と言われて嫌な思いをする人は余りいないと思うので、何かのたびに地域の誰かが「大丈夫ですか」「困っていないですか」と声をかけることは必要なことだと思います。それを誰がするのかは分かりませんが、民生委員の方とか身近な人たちを巻き込みながら、そういう声掛けだけでもしてほしいと思います。

 特に私たち、少年犯罪には特徴がありまして、被害者は一人なんですが、地域に加害者がたくさんいることが多いのです。なぜかというと集団暴行が多いからです。被害者の家族は一家族でその親戚もいたりはしますが、それに比べて加害者側はどうかと言いますと、集団暴行で8人ぐらいいると、その周りにその親戚がいるんです。そうなると、ものすごい人数の人がいることになります。そうなると、被害者はとても孤独になります。

 今も孤立している人がいます。心細い人がいます。だから、そういうときに「大丈夫ですか」「心配していますよ」という人がいかに周りにいるかで、随分救われるのではないかと思います。本当は私たち自身が生きていくために頑張らないといけないのです。自分で頑張らないといけないとみんな分かっています。頑張りたいです。けれども、弱いんです。だから、その弱さにそういう声掛けが少しあると頑張れるんです。私はそうやって頑張ってきました。だから、地域がそのようになってほしいと思ってしまいます。

伊藤: ありがとうございます。いかがでしょうか。地域における声掛けの大切さと、また少年犯罪の厳しさというか、特殊性もお話しいただきました。地域でいろいろな機関が連携する必要性ということも話していただきました。

 先ほど横浜市の事業について、支援体制の整備促進事業の中でのいろいろな関係機関の連携を御紹介いただいたのですが、もう少しその辺を詳しくお話しいただけますでしょうか。関係機関の連携を見える化するということで、いろいろな事業を試みられたわけですが、何か更に追加することとか強調したいことがあったらお願いいたします。

木本: 例えば、今現在もいろいろな市町村の被害者支援協議会という、名前は違うかもしれませんが、各機関の長が集まって情報交換をする場があって、これはこれですごく大事なことだと思いますが、やはり実務者レベルで顔の見える関係ができていかないと、実際の事件の被害者や御家族、御遺族の方た ちへの連携支援にはつながっていかないのかなという気がします。

 そういう意味では、私どもが行った体制整備事業というのは、まず事業の最初にその長の方に来ていただいて、事業の趣旨等を御理解いただいて、こういうふうに進めていきますということで認識していただいた上で、実務者の方に集まっていただき、各機関から2名とか3名、少ないところは1名のところもありますが、参加者で幾つかのグループを作って、この事例をどういうふうに支援していこうかというディスカッションをしていきます。そうすると、こういう事件だと、例えば刑事裁判のときはこういう手続が必要で、こういう支援が必要だよねとか、小さいお子さんがいるからこういうニーズがあるんじゃないかとか、それから経済的にこの人は困窮する可能性があるから行政のこういったところにつながないといけないよねとか、そのニーズを多面的にその場でみんなで理解することができます。

 これも先ほど申し上げたことと重なるのですが、どうしても被害者等支援という、ある意味専門的と思われるようなやり取りだと、困っていることだけに目が行ってしまうということがあると思います。実際には表面化しているお困り事だけではなく、背景にはいろいろな問題があるということをいろいろな機関が認識することがすごく大事なのかなと。

 先ほど武さんもおっしゃっていましたが、それこそ体制整備事業で助言をしていただいた方もよくおっしゃっていたのですが、本当に被害に遭って混乱している最中では、自分が何に困っているのかすらよく分かっていないということですから、「こういうことで困っているから、こういうお手伝いをしてください」と言われて、「はい、分かりました」とやっているだけだと、連携は途切れてしまうと思います。「それについてはこうです。でも、こういったことでお困りの方も被害者の方にはよくいらっしゃると思うのですが、あなたの場合はどうですか」と一歩踏み込んで聞いていただくことで、新たなニーズが出てくると思います。そうすると、「このニーズだったら、こういう機関があるので、電話をしますから、これから行ってください」とか、「一緒に行きましょう」とか、そういう連携支援につながっていくのかなと思っています。そうした形が取れるように目指したのが体制整備事業かと思っています。

 ただ、シミュレーションでやったことと実際の事件の支援とはまた違いますので、まだまだこれから課題はいっぱいあると思います。もしここに来ていらっしゃる自治体の方や支援者の方で横浜市の整備事業に御関心のある方は、横浜市に御連絡いただければ、手元にまだ報告書がありますので、お送りいたしますので、是非御覧いただければと思います。二百何ページもあるすごく厚い本ですが、読んでいただく価値はあると思っております。

伊藤: ありがとうございます。先ほどスライドでも御説明いただきましたが、今また詳しく話していただきました。他機関連携とよく言われますが、具体的にどうやったらうまく運ぶのかというノウハウというか、具体的なことを横浜市では整備促進事業として試みてくださったのだと思います。とても参考になりました。

 ともすると「連携しましょう」「会議しましょう」と、1年に1回ぐらい長だけ集まって、私どもではこういうことをやっておりますという紹介だけで、「うちは連携のためのこういう協議会をやっていますよ」で終わってしまいがちで、中身がなかなか伴いません。今、横浜市からお話ししていただいたのは、長の会議から、実践している現場の人たちが集まってじっくり検討する会議へという二段構造があり、それで推し進めていったという例でした。正にその辺が必要で、他機関連携が本当に実のあるものになっていくのではないかなと思います。

 児童虐待の例でいいますと、こうした体制整備はできているわけですが、被害者支援の場合、他機関連携はまだ形だけで言われていて、中身が伴わないことも見られると思いますので、こういった横浜市の例を参考にしていただけたらと思います。

 では、三つ目のポイントに入っていきたいと思います。私たちが被害者支援を担うことの必要性と、どうしたら具体的にそういう支援を担っていけるのかというポイントについて話していきたいと思います。既にいろいろ話は出ておりますが、最初に伊藤ゼミから考えてきたことを発表させていただこうと思っています。よろしくお願いします。

芳賀: 私からは一般市民が被害者支援を担うことの必要性と、被害者支援を担うにはどのようなことが必要なのかについて、私たち伊藤ゼミで考えたことを発表させていただきたいと思います。

 まず一つ目は、いつ、誰でも被害者になりうるという意識を育てて、被害に遭った場合に手厚い支援が受けられるような体制を築くように働きかけていくことが大切であると考えました。私たちは今まで様々な犯罪の被害に遭われた方のお話を伺う機会を設けてもらって、お話を伺ってきたのですが、皆さん共通しておっしゃっていたのが、「どうして私なのか」「どうして自分の家族だったのか」ということでした。でも、「どうして私なのか」ではなくて、日本だけではなくこの世界に生きていたら、いつ、誰でも犯罪の被害者になりうるという意識が人々の中にないのかなと思ったので、他人事と捉えずに、いつ、誰でもなりうるんだという意識を持って体制を築くように、全く無関係だと思っている人たちにも働き掛けることが重要ではないかなと考えました。

 また、私たちは今22 歳ですが、中学2年生のときに裁判員制度が始まりました。それによって、被害者や加害者などの当事者以外でも日常から犯罪について考える機会が増えたのではないかと感じています。犯罪被害や加害の問題について我が事として捉えて、身近に関わる必要があると感じました。

 そして、三つ目です。私たちは社会福祉を学んでいるからということもありますが、地域社会、コミュニティで困っている人を支え合う意識が必要なのではないかなということです。先ほどの武さんの講演でもあったように、「今、うち、大変やねん」と自分から言える人はとても少ないのではないかと思っています。そういった場合に周囲の人が「大変だ」と言わずとも「大丈夫ですか」と手を差しのべることが重要ではないかなと考えました。

 それでは、私たち一般市民が被害者支援を担うために実際にどういうことが必要なのかについても考えました。まず一つ目は、地域で起きた犯罪被害について理解を深めることです。先ほど武さんも現状を知ることが重要であるとおっしゃっていたのですが、理解を深めていないといろいろな支援にはつながらないのかなと思いました。

 二つ目が被害者支援の情報を誰もが共有できる環境をつくることです。私は東京に住んでいるのですが、地域とのつながりは余りないと感じております。犯罪被害に遭ったときにどんな支援を受けることができるのかについての情報を誰もが共有できるような、例えば回覧板や地域のSNSといった環境を整備することが重要なのではないかと考えました。

 そして、一番大切だなとゼミで結論が出たのが、私たち一般市民が誤った、すなわち被害者側を非難するようなうわさの発信者にならないことです。先ほどの武さんのお話にも、まるで自分の息子さんが不良だったかのように間違った認識をされ、そういったことを言われてとても深く傷ついたというお話があったと思います。そういった誤った情報を発信しないことが重要なのではないかと考えました。

 そして、中長期的な面で私たちができる目で見る被害者支援とはどういうことなのかと考えました。まず、身近な隣人としてという視点が大切ではないかという意見が出ました。隣人というのはお隣さんという意味ではなく、共に暮らす者、同じ社会を生きる者という意味合いがあると思います。被害者や家族のニーズに合った手伝いをすることです。ここで出た意見としては、買物だったり、ほかにお子さんがいる場合は子供の遊び相手や世話をすることだったり、あと高齢者がいた場合は高齢者の見守りなどをすることです。

 あとは、日常生活の情報です。例えば地域に御飯を届ける人がいない場合は配食サービスを使ったり、これは大学生の意見ですが、本を読んでいるときは嫌なことを忘れられるんじゃないかという意見があったので、図書館の本を届けてくれるようなサービスがあったらなとか、あとは地域のこういった所に相談すればいいんだよという情報を得て提供することもできるのではないかと考えました。

 あと、これも大学生らしい意見だなと個人的には思っているのですが、気分転換や心身面の健康のためにヨガやランニングなど体を動かすことで少し気分が晴れるのではないかという意見があったので、そういうことに対する情報を提供したり、誘ってみたりするのも一案ではないかと考えました。しかし、これらは飽くまで被害者側の心情に配慮しつつ行うことが重要であると思っています。

伊藤: いかがでしたでしょうか。十分ではないところもあったかもしれませんが、ゼミ生たちがみんなでまとめたものを発表させていただきました。

 被害者支援を担うための被害者支援の情報をということです。被害者支援に関する情報を誰もが共有できる環境づくりということで挙げさせていただいています。ゼミ生に「自由に考えてね」と言っていたら、誰かが「ヨガ、ヨガ」とか言い出しました。私が「ヨガだけじゃね」と言ったのですが、若い人のアイデアということで自由に出してもらい、そういう中で心身の健康のためにという観点から挙げさせていただいています。

 いかがでしたでしょうか。これは学生が思い付くままにまとめたものですが、武さんから何かご感想等がありましたらお願いいたします。

武: 難しいなと思うこともあるのですが、私はこうやって若い学生さん達が被害者支援のことで、こうじゃないか、ああじゃないかと考える時間を持っているというのがうれしいです。これからは若い人に任せていきたいなと思うぐらい、とてもそれがうれしいです。犯罪被害者といっても一人一人みんな違うので、この人にはできて、この人にはできないということがあります。いろいろな方法というか、選択肢が沢山ある方がいいと思います。

 それから最後に一つ私が言いたかったのは、被害者支援は本当に難しいと思います。でも余り難しく考えないでほしいというのが私の気持ちです。なぜなら、余り難しく考えてしまうと関わらないでおこうと思うからです。それが一番悲しいのです。

 難しいこともあるけれども、言いましたようにできることがあります。私は支援センターなどのボランティアの養成講座にも出かけていくことがあります。そのときに「武さん、遺族同士でないとその気持ちは分からないですよね」とよく言われます。分かります。本当に遺族同士でないと分からないこともあります。でも、遺族であってもみんな違うのです。だから、遺族であっても、私たちであれば少年犯罪で子供を殺されたところだけが共通なのです。親の気持ちが似ていたり、法律が関わるその不備が似ていたり、それは共通です。でも、ほかはみんな違います。住んでいる地域が違う。性格が違う。もちろん事件の内容も違う。加害者が違う。みんな違います。一点だけ一緒でも違うところがたくさんあるので、意見はまとめられないのです。本当に一点だけを大事にしながら会を続けています。

 反対に言えば、事件に遭っていない人には分からないこともあると思いますが、分かり合えることもあるのです。私は自分を振り返ると、私の周りの人はみんな事件に遭っていない人達でした。でも、分かり合えたんです。だから、事件に遭っている人だけが分かり合えるわけではなく、傷つけ合うこともあるのです。反対に言えば、事件に遭っていない人にできることはありますし、分かり合えることもあるということです。

 だから、余り怖がらずに、できる限り関わっていただきたいのです。そして、一緒にこういう問題をまたいろいろなところで考えていただきたいのです。よりよい方法を、知恵を頂きたいので、逃げないというか、難しいからやめようと思われるのが一番悲しいのです。できることは必ずありますし、本当に分かり合えることも絶対あります。ありがとうございました。

伊藤: ありがとうございます。木本さんのスライドが最後に1枚残っていました。これをもとにということになりますか。お願いいたします。

木本: これについては、先ほどもう私がお話ししてしまったので大丈夫だと思います。でも、一ついいですか。

 武さんの話を聞いて思ったのは、関わらないでおこうというのは、先ほど申し上げたように、行政の職員は4月1日の異動で、「じゃあ、あなたは今日からこの窓口だから、頑張ってね」みたいな形で行く例は、事務職の方は少なくないと思います。そういう方のところに急に被害者や被害者の御家族が行ってとうとうと話を訴えても、圧倒されてしまうと思います。ただ、そういう専門職でないとできないのかというと、それはそんなことはないと思っています。ちゃんときちんと一定程度の被害者等支援に関するいろいろな研修を受けたり、それから関係機関につなぐための情報収集をしたりして、例えば「こういうことでお困りのときはここにつなげばいい」といった内部向けでいいので、ガイドブックみたいなものを手元に用意して、きちんとお話を聞くには覚悟が必要だと先ほど申し上げましたが、その上であればきちんと対応できることはいっぱいあるかなとは思っています。

 ただ、一方で先ほど都道府県に専門職を置いたらと提案させていただいたのですが、そういった中で社会福祉士を始め専門職の果たす役割は大きいと思います。社会福祉の人間が今後被害者支援に関わっていくという点で、その辺はどういうふうにお考えなのかを伊藤先生にお尋ねしたいのですが。

伊藤: 社会福祉士が今後被害者支援にどう関わっていけるか。社会福祉士という国家資格ができて大分たちます。実は現在、社会福祉分野においては加害者の更生支援に目が向きがちな状況にあるのですが、犯罪という現象を捉えた場合被害者がいることがほとんどですから、被害者支援ということにも是非力を入れてほしいと思って、今、社会福祉士会にも働きかけております。

 社会福祉士は生活支援の視点を持っており、正に個人のみならず環境にも働きかけるという視点を持つ専門職です。まだ力は弱いのですが、どんどん発信して、社会福祉の中における被害者支援の重要性や、社会福祉の専門職がいかに活用できるかということを広めていきたいと思っております。

木本: もう一つ、地域の中で住民がどういう支援ができるかということも、本当に先ほどからのお話にあるように、きっとちょっとしたことなんですよね。寄り添ってお話を聞くとか、家で作ったものを持っていくとか、お買物に行くとか、そういったことは本当に地域でできることだろうと思います。そういった必要性とか、それらを行うに当たっては、何よりきちんと被害者や被害者御家族、御遺族を傷つけないというのが大前提としてある以上は、そういった心情の理解についての啓発は非常に重要だろうと思います。自治体はそういう啓発のルートは結構豊富に持っているはずですので、それをきちんと活用するというのが恐らく役割だろうと思います。

 あと、もう一つ申し上げておきたいのは、これは私ども横浜市もまだ全然できていないことなので口幅ったいのですが、武さんの御講演の中に、子供たちに見る目と考える力を持ってほしいというお話がありました。こういったことをきちんと捉えて向き合っていくためには啓発も大事ですが、教育はすごく大事なのかなという気がしています。やはり取り上げ方は私もよく分からないし難しいことかもしれませんが、被害者等やその支援などに関して、教育の場面で、どの時点からがいいのかも分かりませんが、取り上げていくことも今後役割としては大事なことなのかなと、私自身の課題としても感じております。

伊藤: ありがとうございます。では、最後になりますが、佐藤さんから何かございましたらお願いいたします。

佐藤: いつ、誰でも被害者になりうるというのは、本当にこの支援をしている中で心の底から実感しています。自分のこととして考えるというのは、言葉では何となく分かったように思うのですが、実際に本当に自分だったらというふうに、心とか、頭とか、情報とか、いろいろなものを使って考えるのはなかなかできていないところがあります。

 先ほど社会の側の思い込みや偏見という話もありましたが、私たちは、こんな理不尽なことがあるのかということで、自分が受け止められないようなことをどうしても自分から遠ざけてしまいたいというような心理的な面があるかと思います。それで何となく自分から近寄れなかったりすることがあるのではないでしょうか。そういったことが起こりうることも含めて、被害者の置かれている状況とか、心情とか、そういったものをより多くの人に知っていただいて、考えていただくことが本当に必要だと思っています。

伊藤: ありがとうございます。ちょうど終了時刻になったかと思います。今日はコーディネーターとして不手際もあったと思いますが、長時間にわたり皆様にお付き合いいただきまして御礼を申し上げます。

 こうした場にゼミ生と出るのは初めてのことで、心なしか緊張していたと思います。熱心にお聞きいただきましてありがとうございます。

 ゼミの発表では海外の被害者支援について少し触れると、最初にお渡ししている資料にはあったかと思います。少し不十分な点もあって今回は省きましたが、例えばイギリスとかニュージーランドだと、ビクティムサポートといって、要は被害者支援という団体が何をやっているかというのを、ほとんどの市民の方が知っているのです。ビクティムサポートと言っただけで、みんな安心して、そこと連絡が取れるようになっているので、日本もそういう状況を目指して進んでいくことができたらと思っております。

 今日は犯罪被害者週間の中央イベントということで、警察庁のご担当者は本当に御準備等大変だったかと思います。警察庁を始め関係諸機関にも大変お世話になりまして、パネリストの方たちとこうしてディスカッションを無事に終えることができました。途切れることのない被害者のための中長期支援について、今日の話の内容の一つでも二つでも、持ち帰っていただけるものがあれば幸いです。

 今日は本当にありがとうございました。これにて終了といたします。

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