埼玉大会:基調講演

「性犯罪被害にあうということ」

小林 美佳 (「性犯罪被害にあうということ」著者)

■被害に遭ったこと

・2000年8月、帰宅途中に、車に乗った男2人から道を聞かれ教えてあげようと近づいたところ、車に引き込まれた。
・車の中で、タオルで顔を覆われ、手を押さえつけられたまま、耳元でカタカタとカッターの刃を出す音を聞かされ、恐怖のあまり、叫ぶことも暴れることもできず、強姦された。
・車を降りた瞬間から、自分が汚い、みっともない、恥ずかしいものに思えた。そして、どうしたらいいのかわからず、誰かに助けてもらおうと思うが、家族にも友達にも言えない。最後に浮かんだのが、当時、別れたばかりの彼氏だった。

■警察での対応

・彼と考え、私が抱えているショックをどうにかしてくれる、楽にしてくれる、助けてくれるに違いないと思い警察に行った。
・警察で最初にされたのは写真撮影。何のためなのかわからないまま写真を撮られた。
・その後、事情聴取。女性刑事さんからたくさん質問されたが、思い出したくない、人に知られたくない気持ちが先行し、数時間前に起きたことを説明することができなかった。
・一番困ったのは「犯人に何を入れられましたか」と聞かれたとき。答えるのが嫌で困っていると「性器ではなかったのですか」と聞いてくれた。私が「絶対に違います。」と言い張ったのは、私は汚れてなんかいないと相手に伝える唯一の方法だった。
・後日、現場検証。同行の男性刑事さんが、「自己紹介してなかったね。」と、警察手帳を見せてくれた。顔の部分には、舘ひろしさんの写真が貼ってあり、それを見てプッと笑ってしまった。被害から10年後、その警察官のその行動に救われていたことに気づいた。

■心身の不調と生活への支障

・性犯罪被害の話を聞いたときに、事件のことを想像するかもしれないが、性犯罪の被害者には、その後の生活がもっと大きな問題となって表れてくる。私自身の生活も大きく変わってしまった。
・事件後の生活では、これまでになかったようなことが起こるようになった。現場を通るのが怖い、自分の体を見るのが嫌、お風呂に入るのが嫌、足が震える、自転車に乗れない、人が怖い、倒れる、眠れない、暗い場所が怖い、遅い時間帯が怖い、目をつぶると犯人に襲われている気がして大暴れし警察や救急車を呼ばれた。
・人間関係も一変した。友人には事件のことは言えない一方で遊びや食事のお誘いがある。でも、楽しめない、夜が怖いため断り続け、結局「感じが悪い。」と思われて友達をなくした。性犯罪に遭ったことを母に打ち明けたが、口外しないように言われたとき、性暴力の被害は「家族にとってみっともないもの、社会にとっても恥ずかしくて、言ってはいけないもの。」と強く感じ、一人で解決するしかないと思い至った。
・人並みに幸せになりたいと思い結婚。うまくいかず、いろんな症状が再発、結局、離婚した。

■同じ性犯罪被害者との出会い

・その後、倒れたり、吐いたり自分をコントロールできなくなり、ほかの性犯罪の被害者たちはどうやって克服しているのか、助けを求めたのがインターネットの世界だった。
・ネット上にある自助グループや掲示板では、いろんな体の症状を抱えている人たちがいること、ほとんどの人が誰にも言えないでいることを知った。
・同じ被害に遭った女の子たちと出会い、話をする時間は、とても楽で、安心でき、隠し事もしなくてよくて、皆同じ思いを抱いている。そう思える友人と空間を与えてもらえたことで前に進めるきっかけになった。

■「性犯罪被害にあうということ」の出版

・一方、なぜ性暴力の被害者は、被害に遭ったことを話したり、悩みを相談できないまま生活しなくてはならないのか。それを知りたくて、あるシンポジウムで性犯罪被害者として発言した。一人の記者と出会い、書き留めておいた手記をもとに「性犯罪被害にあうということ」を出版することになった。
・出版後、毎年1,000人ぐらいの性犯罪の被害経験を持った人たちが自分の経験を話してくれた。半数以上は、知人からの性暴力であるために話ができないでいた。

■性犯罪被害者の支援
・「自分の近くにもそういう思いをしている人がいるかもしれない。」そう想像してくださった皆さんが、次に、「一体どうしたらいいのだろうか。」と考えてくださっているのではないかと思っている。私自身が「こうして欲しい」となかなか言えずにいたので、1,000人の被害者に「みんなが求めているものは一体、なんですか。」と尋ねたところ、8割以上の被害者が「理解してくれる人」「理解してもらえていると感じられる空間」など、「理解」という言葉を使って返事をしてくれた。
・性犯罪被害者が求めている「言えない壁」を取り払うための「理解」とは、自分と向き合ってくれる人たちとの関係の中で表現される気持ちや思いをぶつけてくれることだと思う。
・皆さんには、人として目の前の被害者に対して何を感じるか、何を思っているか、どうしてあげたいのかを表現してもらえたら、目の前の被害者は少し希望を持って何か感じるものがあって、その後の時間を過ごしていけるのではないかと思う。

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